風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

五十一話

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姫川は昼休み、校庭裏で1人昼食を摂っていた。一気に色んなことがあり過ぎて、逆に何も考えることが出来なくなり、姫川はボーッとしながらご飯を食べ進めた。
あれから正木はなかなか姫川を離そうとしなかった。体を弄ったり、手を這わしたりしながら自分の反応を嬉しそうに見る正木に只々翻弄された。
まさかこの学校で自分を好きになる奴が現れるとは思っていなかった姫川は予想外の出来事に頭がパンク寸前だ。しかも相手はあの正木だ。数ヶ月前の自分が聞いたら卒倒するだろう。
姫川は朝からグルグルとずっと同じことを考え、授業でも珍しく上の空だった。流石にこのままじゃまずいと姫川自身も感じ、首を左右に振って、意識を浮上させようと試みる。その時、
「先輩?」
後ろから控えめに声を掛けられた。人気のない場所でいきなり話しかけられた事に驚いた姫川が後ろを振り返るとそこには、瀬戸田が立っていた。
「瀬戸田か。」
姫川が言うと、瀬戸田が首を傾げる。
「先輩、首が痛いんですか?」
どうやら、首を左右に振っている所を見られたようだった。
「いや、痛くない。軽く運動してただけだ。」
意味の分からない言い訳を姫川がすると瀬戸田がフワッと笑った。
「何の運動ですか?それ。」
瀬戸田の邪気のない笑いに姫川は心が軽くなるのを感じた。
「昼食はまだか?」
姫川が聞くと瀬戸田はコクっと頷いた。
「よかったら一緒に食べないか?」
姫川の提案に瀬戸田がパァっと顔を明るくした。
「いいんですか?やったー。本当に一緒に昼食が食べれるとは思っていませんでした。」
先輩と一緒に食べるのは気を遣うかもしれないと思ったが、姫川のその考えは杞憂に終わった。
「花壇は相変わらず綺麗だな。」
それを聞いて瀬戸田が目を輝かせる。
「ありがとうございます。奥にサルビアとペチュニアを植えたんです。横には日々草。そして、最前列には向日葵です。未だ開花してないですが、夏休みが来る頃には花が開いて、一斉に太陽を向く姿は圧巻ですよ!」
興奮したように花の説明をする瀬戸田を目を細めて姫川が見る。その横顔はキラキラ輝いて見えた。
「あっ・・・ごめんなさい。勝手にペラペラと。」
「いや、構わない。むしろ色々な花の名前が知れて楽しい。あまり詳しくないからな。」
優しく微笑む姫川に瀬戸田もはにかんだ笑顔で返す。
「葵くんも褒めてくれるんです。僕の植えた花が綺麗だって。」
柏木の名前が出てきたことに、姫川はピクッと反応した。
「あいつはお前には優しいのか?」
姫川の質問の意図が分からず瀬戸田は首を傾げながら答える。
「えっ?優しいですよ。面白いですし、一緒に居ると楽しいです。まぁ賑やかすぎることもありますが。あれで、学年1位の成績なんて本当に驚きました。それを全く鼻にかけず、皆に同じように接する葵くんと友達でいられて、僕は幸せ者だと思います。」
次から次へと出てくる柏木への賛辞に姫川は顔を顰めた。柏木が素の態度を表すのは、極一部の人間のようだった。その中に自分が入っていることが姫川を嫌な気分にさせた。正木とのことですっかり忘れていたが、そういえばこの場所で柏木と対峙した事を思い出した。あの時舐められた首筋の感覚を思い出して姫川はゾクっと体を震わす。
「どうしたんですか?なんか顔色が悪くないですか?」
瀬戸田の問いかけに姫川がハッとした。
「いや、大丈夫だ。只、やり残した仕事がある事に気づいた。すまないが、また今度一緒にゆっくり食べよう。」
姫川は無意識に首筋を拭いながら、逃げるようにその場を後にした。
1人残った瀬戸田はポカンと口を開けそんな姫川の姿を見送った。
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