風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

四十六話

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正木は早速流の部屋を訪れた。考えた事もなかったが、流の部屋に自ら赴くのはこれが初めての事だった。あれだけ生徒会では一緒に居ても、プライベートでは殆ど関わることがない事に今更ながら気づいたのだ。
正木は珍しく緊張した面持ちで軽くドアをノックする。手にはしっとりと汗もかいていた。
「どなたですか?」
直ぐに返事が返ってきたが、その声は弱々しかった。
「正木だ。ここを開けてくれ。」
「帰ってください。貴方と話すことは何もありません。」
相手が正木だとわかると、流は直ぐに帰れと言った。
「断る。お前が開けるまで、ずっとここにいるからな。」
「どうして•••」
正木の言葉に流が苦しそうな声を挙げる。
「俺はお前に一方的に攻撃されて、逃げられた。そして、今度は俺の話も聞かず、拒否して今の地位も諦めようとしている。なぁ、そうする前に一度でもいいから俺の話を聞け。それでもお前が辞めたいと思うならもう止めないから。」
「•••。」
ドア越しに訴える正木の言葉に流は無言で返す。正木は流からの返答を待ったが、そのまま言葉が返される事はなかった。正木が諦めてその場にしゃがみ込もうとした時、カチャっとドアの開く音がした。正木はハッとしてそちらを振り返ると、目の周りを真っ赤にした流が恨めしそうに正木を見ていた。
「そんなところにずっと居られては迷惑ですよ。取り敢えず中に入ってください。」
その言葉に正木はパァと明るい笑顔を見せた。流は正木の顔を直視できないのか目線を逸らしながら、入るよう促した。
「泣いてたのか?」
目の周りが赤くなっている事を気にして正木が声をかける。
「•••。」
流は特に何も言う事なくその場に立ち尽くしていた。そのまま、お互い黙っていてもしょうがないと思い、正木が口を開く。
「単刀直入に言うが、俺はお前に副委員長を続けてほしい。お前は信じないかもしれないが、俺はお前が有能だと思っているし、信頼もしている。たった一度のミス如きであっさり切り捨てられる程安い人材じゃないんだよ。」
正木の言葉を聞いて、流は目を見開く。そして首を左右に振った。
「嘘だ。僕は貴方に一度も勝てた事がない。勉学でも運動でも、勿論生徒会の仕事だってそうです。そんな僕が貴方に必要とされる訳がないでしょう。」
「だったら、何でリコールの話が出た時にあんなに怒ったんだ?必要とされてないと思ってるならあんなに怒る訳ないだろ?」
正木の言葉に流が顔を真っ赤にした。
「僕は貴方を信頼していたんです!僕自身に自信なんてなかったけど、貴方の手腕と才能は認めてた。いや、憧れてたのかもしれません。だから貴方に必要ないとはっきり言われた気がして気がついたらあんな事を•••」
最後の方は聞き取れない程小さな声になっていた。その言葉の中には正木を襲ってしまった後悔がハッキリと滲み出ていた。
「俺だって、お前の事は認めてるよ。だからあの時だって、優木の言葉じゃなくて、ちゃんと俺の言葉を信じて欲しかった。テスト前だって、お前がずっと焦ってる事に気づいてた。だから声も掛けたし、ギリギリの精神で追い詰められていくお前が心配だったんだよ。頼むから、1人でこれ以上抱え込まないでくれ。何か辛いことがあれば俺たちだっていつでも話を聞くから。」
正木の言葉に流の目からボロボロ涙が溢れる。
「でも僕は、貴方にとんでもない事をしてしまった。こんな僕じゃもう貴方の側には居られないでしょう?」
両手で顔を覆って泣く流は子どものように見えた。ここ数日は本当に辛い日々を送っていたんだと正木は思った。
「お前はどうしたい?お前の本当の気持ちが知りたいんだ。」
正木は穏やかに、出来る限り優しい声音で流に話しかけた。
「僕は•••僕は、出来る事なら•••生徒会に居たいです。」
その言葉を聞いて正木が流をフワッと抱きしめた。
「ちょっと、何ですか?」
流が、慌てたような声を出す。
「よかった•••やっとお前の気持ちが聞けた。」
心底安心したような正木の言葉に流は抵抗を止めた。
「僕は貴方にとんでもなく酷い事をしてしまいました。本当にすみません。」
静かに流が正木の腕の中で謝った。
「もういい。大袈裟に見えるが本当に大した傷じゃないんだ。」
それが嘘だと流は直ぐに気づいたが、正木の優しさを黙って受け入れることにした。
「でも、覚悟しろよ。これからは今まで以上にコキ使ってやるからな。」
正木が意地悪な声を出すと、流がクスクスと笑った。
「えぇ、何でも仰ってください。どんな悪辣な要望でも応えてみせますから。」
「いや、冗談だったんだけど。」
流の言葉に正木が頭を掻きながら答えた。
その後はここ最近なかった和やかな雰囲気で2人は他愛のない話を一時楽しんだ。
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