47 / 177
嵐のような怒涛の1学期
四十六話
しおりを挟む
正木は早速流の部屋を訪れた。考えた事もなかったが、流の部屋に自ら赴くのはこれが初めての事だった。あれだけ生徒会では一緒に居ても、プライベートでは殆ど関わることがない事に今更ながら気づいたのだ。
正木は珍しく緊張した面持ちで軽くドアをノックする。手にはしっとりと汗もかいていた。
「どなたですか?」
直ぐに返事が返ってきたが、その声は弱々しかった。
「正木だ。ここを開けてくれ。」
「帰ってください。貴方と話すことは何もありません。」
相手が正木だとわかると、流は直ぐに帰れと言った。
「断る。お前が開けるまで、ずっとここにいるからな。」
「どうして•••」
正木の言葉に流が苦しそうな声を挙げる。
「俺はお前に一方的に攻撃されて、逃げられた。そして、今度は俺の話も聞かず、拒否して今の地位も諦めようとしている。なぁ、そうする前に一度でもいいから俺の話を聞け。それでもお前が辞めたいと思うならもう止めないから。」
「•••。」
ドア越しに訴える正木の言葉に流は無言で返す。正木は流からの返答を待ったが、そのまま言葉が返される事はなかった。正木が諦めてその場にしゃがみ込もうとした時、カチャっとドアの開く音がした。正木はハッとしてそちらを振り返ると、目の周りを真っ赤にした流が恨めしそうに正木を見ていた。
「そんなところにずっと居られては迷惑ですよ。取り敢えず中に入ってください。」
その言葉に正木はパァと明るい笑顔を見せた。流は正木の顔を直視できないのか目線を逸らしながら、入るよう促した。
「泣いてたのか?」
目の周りが赤くなっている事を気にして正木が声をかける。
「•••。」
流は特に何も言う事なくその場に立ち尽くしていた。そのまま、お互い黙っていてもしょうがないと思い、正木が口を開く。
「単刀直入に言うが、俺はお前に副委員長を続けてほしい。お前は信じないかもしれないが、俺はお前が有能だと思っているし、信頼もしている。たった一度のミス如きであっさり切り捨てられる程安い人材じゃないんだよ。」
正木の言葉を聞いて、流は目を見開く。そして首を左右に振った。
「嘘だ。僕は貴方に一度も勝てた事がない。勉学でも運動でも、勿論生徒会の仕事だってそうです。そんな僕が貴方に必要とされる訳がないでしょう。」
「だったら、何でリコールの話が出た時にあんなに怒ったんだ?必要とされてないと思ってるならあんなに怒る訳ないだろ?」
正木の言葉に流が顔を真っ赤にした。
「僕は貴方を信頼していたんです!僕自身に自信なんてなかったけど、貴方の手腕と才能は認めてた。いや、憧れてたのかもしれません。だから貴方に必要ないとはっきり言われた気がして気がついたらあんな事を•••」
最後の方は聞き取れない程小さな声になっていた。その言葉の中には正木を襲ってしまった後悔がハッキリと滲み出ていた。
「俺だって、お前の事は認めてるよ。だからあの時だって、優木の言葉じゃなくて、ちゃんと俺の言葉を信じて欲しかった。テスト前だって、お前がずっと焦ってる事に気づいてた。だから声も掛けたし、ギリギリの精神で追い詰められていくお前が心配だったんだよ。頼むから、1人でこれ以上抱え込まないでくれ。何か辛いことがあれば俺たちだっていつでも話を聞くから。」
正木の言葉に流の目からボロボロ涙が溢れる。
「でも僕は、貴方にとんでもない事をしてしまった。こんな僕じゃもう貴方の側には居られないでしょう?」
両手で顔を覆って泣く流は子どものように見えた。ここ数日は本当に辛い日々を送っていたんだと正木は思った。
「お前はどうしたい?お前の本当の気持ちが知りたいんだ。」
正木は穏やかに、出来る限り優しい声音で流に話しかけた。
「僕は•••僕は、出来る事なら•••生徒会に居たいです。」
その言葉を聞いて正木が流をフワッと抱きしめた。
「ちょっと、何ですか?」
流が、慌てたような声を出す。
「よかった•••やっとお前の気持ちが聞けた。」
心底安心したような正木の言葉に流は抵抗を止めた。
「僕は貴方にとんでもなく酷い事をしてしまいました。本当にすみません。」
静かに流が正木の腕の中で謝った。
「もういい。大袈裟に見えるが本当に大した傷じゃないんだ。」
それが嘘だと流は直ぐに気づいたが、正木の優しさを黙って受け入れることにした。
「でも、覚悟しろよ。これからは今まで以上にコキ使ってやるからな。」
正木が意地悪な声を出すと、流がクスクスと笑った。
「えぇ、何でも仰ってください。どんな悪辣な要望でも応えてみせますから。」
「いや、冗談だったんだけど。」
流の言葉に正木が頭を掻きながら答えた。
その後はここ最近なかった和やかな雰囲気で2人は他愛のない話を一時楽しんだ。
正木は珍しく緊張した面持ちで軽くドアをノックする。手にはしっとりと汗もかいていた。
「どなたですか?」
直ぐに返事が返ってきたが、その声は弱々しかった。
「正木だ。ここを開けてくれ。」
「帰ってください。貴方と話すことは何もありません。」
相手が正木だとわかると、流は直ぐに帰れと言った。
「断る。お前が開けるまで、ずっとここにいるからな。」
「どうして•••」
正木の言葉に流が苦しそうな声を挙げる。
「俺はお前に一方的に攻撃されて、逃げられた。そして、今度は俺の話も聞かず、拒否して今の地位も諦めようとしている。なぁ、そうする前に一度でもいいから俺の話を聞け。それでもお前が辞めたいと思うならもう止めないから。」
「•••。」
ドア越しに訴える正木の言葉に流は無言で返す。正木は流からの返答を待ったが、そのまま言葉が返される事はなかった。正木が諦めてその場にしゃがみ込もうとした時、カチャっとドアの開く音がした。正木はハッとしてそちらを振り返ると、目の周りを真っ赤にした流が恨めしそうに正木を見ていた。
「そんなところにずっと居られては迷惑ですよ。取り敢えず中に入ってください。」
その言葉に正木はパァと明るい笑顔を見せた。流は正木の顔を直視できないのか目線を逸らしながら、入るよう促した。
「泣いてたのか?」
目の周りが赤くなっている事を気にして正木が声をかける。
「•••。」
流は特に何も言う事なくその場に立ち尽くしていた。そのまま、お互い黙っていてもしょうがないと思い、正木が口を開く。
「単刀直入に言うが、俺はお前に副委員長を続けてほしい。お前は信じないかもしれないが、俺はお前が有能だと思っているし、信頼もしている。たった一度のミス如きであっさり切り捨てられる程安い人材じゃないんだよ。」
正木の言葉を聞いて、流は目を見開く。そして首を左右に振った。
「嘘だ。僕は貴方に一度も勝てた事がない。勉学でも運動でも、勿論生徒会の仕事だってそうです。そんな僕が貴方に必要とされる訳がないでしょう。」
「だったら、何でリコールの話が出た時にあんなに怒ったんだ?必要とされてないと思ってるならあんなに怒る訳ないだろ?」
正木の言葉に流が顔を真っ赤にした。
「僕は貴方を信頼していたんです!僕自身に自信なんてなかったけど、貴方の手腕と才能は認めてた。いや、憧れてたのかもしれません。だから貴方に必要ないとはっきり言われた気がして気がついたらあんな事を•••」
最後の方は聞き取れない程小さな声になっていた。その言葉の中には正木を襲ってしまった後悔がハッキリと滲み出ていた。
「俺だって、お前の事は認めてるよ。だからあの時だって、優木の言葉じゃなくて、ちゃんと俺の言葉を信じて欲しかった。テスト前だって、お前がずっと焦ってる事に気づいてた。だから声も掛けたし、ギリギリの精神で追い詰められていくお前が心配だったんだよ。頼むから、1人でこれ以上抱え込まないでくれ。何か辛いことがあれば俺たちだっていつでも話を聞くから。」
正木の言葉に流の目からボロボロ涙が溢れる。
「でも僕は、貴方にとんでもない事をしてしまった。こんな僕じゃもう貴方の側には居られないでしょう?」
両手で顔を覆って泣く流は子どものように見えた。ここ数日は本当に辛い日々を送っていたんだと正木は思った。
「お前はどうしたい?お前の本当の気持ちが知りたいんだ。」
正木は穏やかに、出来る限り優しい声音で流に話しかけた。
「僕は•••僕は、出来る事なら•••生徒会に居たいです。」
その言葉を聞いて正木が流をフワッと抱きしめた。
「ちょっと、何ですか?」
流が、慌てたような声を出す。
「よかった•••やっとお前の気持ちが聞けた。」
心底安心したような正木の言葉に流は抵抗を止めた。
「僕は貴方にとんでもなく酷い事をしてしまいました。本当にすみません。」
静かに流が正木の腕の中で謝った。
「もういい。大袈裟に見えるが本当に大した傷じゃないんだ。」
それが嘘だと流は直ぐに気づいたが、正木の優しさを黙って受け入れることにした。
「でも、覚悟しろよ。これからは今まで以上にコキ使ってやるからな。」
正木が意地悪な声を出すと、流がクスクスと笑った。
「えぇ、何でも仰ってください。どんな悪辣な要望でも応えてみせますから。」
「いや、冗談だったんだけど。」
流の言葉に正木が頭を掻きながら答えた。
その後はここ最近なかった和やかな雰囲気で2人は他愛のない話を一時楽しんだ。
23
お気に入りに追加
366
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
全寮制男子高校生活~生徒会長の恋~
雨雪
BL
行方不明になってた族の総長が王道学園に入学してみた、の生徒会長、紫賀 庵の話。
スピンオフのようなもの。
今のところR15。
*こちらも改稿しながら投稿していきます。
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる