風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

四十話

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「おい、何があった?」
電話を切った姫川に正木が鋭い視線で問いかける。
正木も電話の内容から、大体話の予想はついている筈だ。
「流がお前の親衛隊に呼び出された。どうやらお前の怪我は流がやったという噂を耳にしたようだ。これから様子を見てくる。」
姫川は正直に正木に電話での内容を伝えた。電話での話を聞かれた以上、隠しておくのは無理だと判断したからだ。
姫川はそう言うと、直ぐに踵を返して部屋から出ようとした。しかし、正木が姫川の腕を握った。
「待て!俺も行く。」
正木の言葉に腕を掴まれた姫川は眉を顰める。
「何言ってんだ?お前はまだ熱があるだろ?傷だって完全に治ってないのに、行かせられる訳ないだろ。ここは俺たちに任せてお前は休んでろ。」
正木の気持ちは分かるが、少し寝た事で顔色はマシになったものの、明らかにまだ本調子ではなさそうだ。
「そう言われて、俺が引き下がると思うか?」
いつもより声を低くした正木が、鋭い視線を向けてくる。
「その気持ちは分かるがー」
「分かるなら行かせろ!これは俺の問題だ。もし、お前がそれでも行かせないと言うなら殴ってでもここに縛りつけてでも行ってやる!」
姫川が言い終わらない内に、正木が言葉を奪って捲し立てる。今にも姫川に掴みかかりそうな勢いの正木を見て、姫川は目の辺りを指で揉んだ。
「はぁぁぁ、くそっ!本当に頑固な奴だな。言っとくが、お前が言い出した事だ。これ以上は体調が悪化しても知らないからな。」
「あぁ、分かってる。」
正木は苦しそうな顔でニヤっと笑って見せた。我慢しているが、熱もまだありそうだし、おそらく頭の傷も痛んでいる筈だった。
姫川は正木の体調を気に掛けながらも、渋々一緒に多目的教室を目指す事にした。

「俺は先に行くから、正木は後から来い。」
走り出そうとした姫川は、ヨタヨタ歩く正木を気にして声を掛ける。
正木も流石に全力で走るのは無理だと判断したのか、姫川の言葉に
「わかった。」
と一言だけ返した。
その返事を聞くと、姫川は一気に走り出した。佐々木の話ではもう余り時間は無さそうだった。
姫川は全速力で多目的教室に向かいながらも、佐々木の話を思い出す。
どうして流の噂が漏れたのかが姫川にはどうしても分からなかったからだ。流のことは正木と姫川しか知らない筈だった。自分が漏らしてないとなると、可能性があるのは正木だが、元々流を守りたがっていたのは正木だ。
他にこの事を知っている奴がいるのか?そもそも流のリコールの話はどこから出てきたんだ?
姫川は首を傾げる。
流のリコールを仄めかした優木。2人しか知らない情報が親衛隊に知れた事実。その2つが差す意味とは?
そこまで考えた所で、前方に多目的教室が見えてきた。その側で佐々木が姫川に直ぐ気づき、こっちだと手で合図する。
「遅くなってすまない。」
姫川は佐々木の近くまで行くと、息を整えながら小声で言った。
「もう、流も優木や梓達もこの中にいるよ。」
流本人と流の親衛隊、そして正木の親衛隊が集合しているところへ自分たちがこれから飛び込んで行く事を考えると、流石に姫川も少し緊張した。
多目的教室は今のところ、そこまで激しい声や音は聞こえていない。しかし何となく不気味な雰囲気が漂っていた。
「じゃあ行くか。」
姫川が意を決したように言うと
「マジで憂鬱しかないわ。」
と隣で頭を掻きながら佐々木が本当に嫌そうな声で言う。姫川はそんな佐々木の言葉を軽く聞き流し、ドアに手を遣ると、思い切って多目的教室の扉を開いた。
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