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嵐のような怒涛の1学期
三十九話
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正木が寝入ったのを確認した姫川はそのままソッと繋いでいた手を離して部屋を後にしようとしたが、予想以上に手を握り込まれていて、なかなか手を離せずにいた。やっと寝ついた様子の正木を起こすのも偲びなく姫川は、はぁと溜息を吐いた。
どうしたものかと暫し考えていたが、姫川は学校に戻ることを諦めることにした。
学校に連絡を入れ、正木の状態と自分も側にいて様子を見ることを伝え、午後は休みを貰うことにした。
殆ど風邪など引かない姫川は3年間で初めて、授業を休んだ。しかし不思議なことに罪悪感などはなかった。
姫川はふと正木の顔を見る。いつもは、自信満々で余裕を見せる正木もこうして目を瞑っていると少し幼く見えた。
正木が手を離してくれないため、食事も碌に取れない状況で姫川は直ぐに手持ち無沙汰になった。
姫川は正木の寝顔を見ているうちに、段々とウトウトしてきた。そしてそのまま俯いて目を閉じた。
それからどれくらい時間が経ったのか。サワサワと頭に優しい刺激を感じて、姫川は目を開ける。俯いて寝たはずだったが、気づけば正木のベッドに横になって眠ってしまったようだ。横で姫川の頭を撫でながら優しい顔で見つめてくる正木と目が合う。
姫川はバッと飛び起きた。
「悪い。俺も寝てしまった。」
自分の寝顔をまじまじと正木に見られていたことに、姫川は恥ずかしさを覚える。
「いや、別に構わない。姫川の寝顔が見られて、逆に新鮮だった。でも、気をつけた方がいいぞ。そんな無防備な姿を晒していると、襲われても仕方ないからな。」
正木の言葉にこれ以上情けない姿を見られない様、顔を背けながら答える。
「誰が俺なんかを襲うっていうんだよ。」
「俺だ。」
姫川の言葉に正木が即答する。
「今日は俺の体調が悪くて残念だな。元気な時だったらこの機会を逃さなかったのに。」
少し意地の悪い顔でそう言う正木に、姫川の顔が赤くなる。
「それだけ無駄口叩けるなら、もう大丈夫だな。俺は学校に戻る。」
気づけば、授業の終わる時間になっていたが、今から学校に行けば、風紀委員会の活動には間に合うはずだった。
「そういえば、なんか電話が何度も鳴ってたぞ。」
その言葉に姫川が顔を顰める。
「それを早く言えよ。」
「いや、言ったらお前行っちまうかなと思って。」
恥ずかしい言葉を堂々と言う正木にどこまでが本気なのかと疑いたくなってしまう。
正木を一睨みしてから、姫川は直ぐに携帯を確認する。
不在着信が5件。全て佐々木からだった。姫川は嫌な予感がした。佐々木がこんなに立て続けに連絡をしてくることは滅多にない。
「悪い。ここで直ぐに掛け直してもいいか?」
一応正木に確認を取ると、正木も真剣な顔で頷く。姫川の様子で、正木も何か只事ではない事が起こっているのを感じ取ったようだ。
姫川は佐々木に折り返し連絡をする。2コールもせずに佐々木が電話に出た。
「あぁ、よかった。やっと連絡がついて。」
佐々木の声からは焦りが滲み出ていた。
「直ぐに出られなくてすまない。何かあったのか?」
緊迫した空気が姫川の周りに漂っていた。
「少し面倒くさいことになった。どうやら、昨日の正木の怪我が一部で流の仕業だという噂が流れたみたいだ。」
「何?そんなわけないだろう。あれは事故だ。どこからそんな情報が・・・」
流があの怪我に関与したことは正木と姫川の2人しか知らないはずだ。それなのにこんなにも早く流の噂が出回るなんて普通は考えられなかった。
「俺もどうしてそんな噂が立ったのかは分からない。流も今日は休んでいたし、真相を確かめようがなかった。」
「どのくらい噂は広まってる?ほんの一部ならまだ取り返しがつくかもしれない。」
姫川が状況を詳しく把握しようと、佐々木に詳細を聞く。
「いや、本当に一部の生徒の間だけで殆どの生徒はまだこの事を知らないようだ。」
佐々木の言葉に姫川は少しホッとした。しかし次の佐々木の言葉で姫川は目を瞠った。
「でも、その一部の生徒が問題なんだ。最悪な事に正木の親衛隊がいち早くこの情報を掴んでしまったみたいだ。」
姫川は思いっきり頭を抱えたくなった。正木の親衛隊と言えば、1番に思い浮かぶのは柊木梓だ。正木の親衛隊隊長で、その見た目の可愛さに反して、一度怒ると何をするかわからない。
「それで、今正木の親衛隊はどうしてる?」
姫川は直ぐに親衛隊の動向を探る。
「それが最悪なことに、流を多目的教室に呼び出したみたいだ。制裁を加えるとか何とかで。俺も止めようとしたが、とても聞く耳を持つような状態じゃなかった。」
梓の怒り狂った様子が目に浮かぶようで、姫川の背中に冷たい汗が伝う。
「それで流は?」
「流も学校を休んでるし、勿論最初は、梓たちからの連絡も無視してたみたいなんだけど・・・」
そこまで言って、佐々木は一旦言葉を切った。その言葉の続きが碌でもない事なのは、姫川にも簡単に想像できた。
「柏木を同じ目に遭わせてやるって脅したみたいで。それで流石に流も無視できなくなったみたいだな。そこから流は優木に連絡して、優木が俺たちに相談したってわけ。もう、正木の親衛隊は過激なやつが多いから俺も出来ればあまり関わりたくはないな。」
佐々木は心底嫌そうな声で姫川に言う。姫川だって、出来れば正木の親衛隊にも流の親衛隊にも関わりたくない。でも、相手が過激なだけに、流の事が心配だった。
「わかった。俺も直ぐ多目的教室に向かう。佐々木も今から向かってくれ。教室の前で合流しよう。呉々も1人で行動を起こそうとするなよ。」
姫川が念を押すと、佐々木は呆れたような声を出す。
「お願いされても、絶対1人で行動を起こしたくはないね。なるべく早めに来いよ。もう一刻を争うぞ。」
姫川は
「わかった。」
と一言だけ返すと、電話を切った。
どうしたものかと暫し考えていたが、姫川は学校に戻ることを諦めることにした。
学校に連絡を入れ、正木の状態と自分も側にいて様子を見ることを伝え、午後は休みを貰うことにした。
殆ど風邪など引かない姫川は3年間で初めて、授業を休んだ。しかし不思議なことに罪悪感などはなかった。
姫川はふと正木の顔を見る。いつもは、自信満々で余裕を見せる正木もこうして目を瞑っていると少し幼く見えた。
正木が手を離してくれないため、食事も碌に取れない状況で姫川は直ぐに手持ち無沙汰になった。
姫川は正木の寝顔を見ているうちに、段々とウトウトしてきた。そしてそのまま俯いて目を閉じた。
それからどれくらい時間が経ったのか。サワサワと頭に優しい刺激を感じて、姫川は目を開ける。俯いて寝たはずだったが、気づけば正木のベッドに横になって眠ってしまったようだ。横で姫川の頭を撫でながら優しい顔で見つめてくる正木と目が合う。
姫川はバッと飛び起きた。
「悪い。俺も寝てしまった。」
自分の寝顔をまじまじと正木に見られていたことに、姫川は恥ずかしさを覚える。
「いや、別に構わない。姫川の寝顔が見られて、逆に新鮮だった。でも、気をつけた方がいいぞ。そんな無防備な姿を晒していると、襲われても仕方ないからな。」
正木の言葉にこれ以上情けない姿を見られない様、顔を背けながら答える。
「誰が俺なんかを襲うっていうんだよ。」
「俺だ。」
姫川の言葉に正木が即答する。
「今日は俺の体調が悪くて残念だな。元気な時だったらこの機会を逃さなかったのに。」
少し意地の悪い顔でそう言う正木に、姫川の顔が赤くなる。
「それだけ無駄口叩けるなら、もう大丈夫だな。俺は学校に戻る。」
気づけば、授業の終わる時間になっていたが、今から学校に行けば、風紀委員会の活動には間に合うはずだった。
「そういえば、なんか電話が何度も鳴ってたぞ。」
その言葉に姫川が顔を顰める。
「それを早く言えよ。」
「いや、言ったらお前行っちまうかなと思って。」
恥ずかしい言葉を堂々と言う正木にどこまでが本気なのかと疑いたくなってしまう。
正木を一睨みしてから、姫川は直ぐに携帯を確認する。
不在着信が5件。全て佐々木からだった。姫川は嫌な予感がした。佐々木がこんなに立て続けに連絡をしてくることは滅多にない。
「悪い。ここで直ぐに掛け直してもいいか?」
一応正木に確認を取ると、正木も真剣な顔で頷く。姫川の様子で、正木も何か只事ではない事が起こっているのを感じ取ったようだ。
姫川は佐々木に折り返し連絡をする。2コールもせずに佐々木が電話に出た。
「あぁ、よかった。やっと連絡がついて。」
佐々木の声からは焦りが滲み出ていた。
「直ぐに出られなくてすまない。何かあったのか?」
緊迫した空気が姫川の周りに漂っていた。
「少し面倒くさいことになった。どうやら、昨日の正木の怪我が一部で流の仕業だという噂が流れたみたいだ。」
「何?そんなわけないだろう。あれは事故だ。どこからそんな情報が・・・」
流があの怪我に関与したことは正木と姫川の2人しか知らないはずだ。それなのにこんなにも早く流の噂が出回るなんて普通は考えられなかった。
「俺もどうしてそんな噂が立ったのかは分からない。流も今日は休んでいたし、真相を確かめようがなかった。」
「どのくらい噂は広まってる?ほんの一部ならまだ取り返しがつくかもしれない。」
姫川が状況を詳しく把握しようと、佐々木に詳細を聞く。
「いや、本当に一部の生徒の間だけで殆どの生徒はまだこの事を知らないようだ。」
佐々木の言葉に姫川は少しホッとした。しかし次の佐々木の言葉で姫川は目を瞠った。
「でも、その一部の生徒が問題なんだ。最悪な事に正木の親衛隊がいち早くこの情報を掴んでしまったみたいだ。」
姫川は思いっきり頭を抱えたくなった。正木の親衛隊と言えば、1番に思い浮かぶのは柊木梓だ。正木の親衛隊隊長で、その見た目の可愛さに反して、一度怒ると何をするかわからない。
「それで、今正木の親衛隊はどうしてる?」
姫川は直ぐに親衛隊の動向を探る。
「それが最悪なことに、流を多目的教室に呼び出したみたいだ。制裁を加えるとか何とかで。俺も止めようとしたが、とても聞く耳を持つような状態じゃなかった。」
梓の怒り狂った様子が目に浮かぶようで、姫川の背中に冷たい汗が伝う。
「それで流は?」
「流も学校を休んでるし、勿論最初は、梓たちからの連絡も無視してたみたいなんだけど・・・」
そこまで言って、佐々木は一旦言葉を切った。その言葉の続きが碌でもない事なのは、姫川にも簡単に想像できた。
「柏木を同じ目に遭わせてやるって脅したみたいで。それで流石に流も無視できなくなったみたいだな。そこから流は優木に連絡して、優木が俺たちに相談したってわけ。もう、正木の親衛隊は過激なやつが多いから俺も出来ればあまり関わりたくはないな。」
佐々木は心底嫌そうな声で姫川に言う。姫川だって、出来れば正木の親衛隊にも流の親衛隊にも関わりたくない。でも、相手が過激なだけに、流の事が心配だった。
「わかった。俺も直ぐ多目的教室に向かう。佐々木も今から向かってくれ。教室の前で合流しよう。呉々も1人で行動を起こそうとするなよ。」
姫川が念を押すと、佐々木は呆れたような声を出す。
「お願いされても、絶対1人で行動を起こしたくはないね。なるべく早めに来いよ。もう一刻を争うぞ。」
姫川は
「わかった。」
と一言だけ返すと、電話を切った。
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