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嵐のような怒涛の1学期
三十八話
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姫川が正木を連れて歩いているとそれを見た教師が慌てて駆け寄ってきた。そして、正木が経緯を簡単に説明すると、直ぐに病院へと向かう事になった。
放課後で生徒の数は減っていたとはいえ、その光景を見た生徒にとっては血を流す正木の姿は衝撃的だったようだ。1日足らずで、正木が怪我をしたという噂は一気に校内に広がった。
正木はあれから暫くすると、病院から帰って来た。
頭に包帯をグルグル巻いている姿は仰々しいが、聞けば4針ほど縫ったようだ。本人は、
「痛みも殆ど無いし、大したことはない。」
と話していた。そんな正木の様子を見て、姫川は表情や態度には出さないものの、密かにホッとした。
次の日姫川が学校へ行くと、そこかしこで視線を感じた。チラチラと姫川を見るもの、コソコソと話すものがそこら辺中に居るので、姫川はうんざりした。
教室へ行ってもそれは変わらず、授業中も休み時間も姫川は好奇の目に晒された。
正木の怪我が学校中の噂になったことで、必然的に隣にいた姫川もその影響を多大に受けていた。
尾びれをつけて広まった噂の真相が知りたくて、ウズウズしたり、友だちと一緒にその時の経緯を楽しそうに推測したりしていた。
あまり人の視線を気にしない姫川も、昼休みを迎える頃にはすっかりげっそりしていた。
とても、食堂や教室で昼を摂る気にはなれない。校庭裏に行くか、風紀委員室に行くか悩んだ姫川は、ふと寮に一度戻ってみようと考えた。
正木は大事をとって今日は欠席している。
正木に簡単な食べ物でも持っていくかな。
そう考えると、姫川は昼休みになると同時に教室を出て、学校の売店に向かった。そこでも生徒達に好奇の目で見られ、気分を害したが、気にしないフリをして、軽食と飲み物を2人分購入した。
そしてその足ですぐに寮に向かった。昼休みに寮に帰る生徒は殆どいない上、役員棟となればこの時間は静まり返っていた。姫川はやっと一息つくと、正木の部屋を目指した。
正木の部屋の前で軽く扉をノックする。少し待つと直ぐにドアが開いた。少し緊張した表情の正木だったが、姫川の顔を見ると目を見開き驚いている様子だった。しかし直ぐホッとした表情に変わる。どうやら尋ねて来た人物が流ではなくてホッとしている様だった。
「怪我の具合はどうだ?少し軽食を持って来たから良かったら食べてくれ。」
そう言いながら、先ほど買ったものを1セット正木に差し出した。
「あぁ、問題ない。少し体が怠いけどな。」
そう言いながら正木は姫川の差し入れを受け取る。その様子を姫川は見ると、少し顔色が悪い様に見えた。昨日病院から帰った時にはヘラヘラしていたが、今は呼吸も少し早く側から見てもしんどそうだった。
「体調悪そうだな。」
そう言うと姫川はいきなり正木のおでこに手を当てた。
「おい、」
正木が抗議しようとした所で姫川は直ぐに声を上げた。
「あつっ、お前熱があるだろ。何が問題ないだ。格好つけてる場合か。」
「うるさい奴だな。少し傷口が炎症してるだけだ。痛み止め飲んで大人しくしとけば治る。」
「じゃあ早く寝ろ。俺も部屋でご飯を食べてくる。」
正木の言い分に心配した自分が馬鹿だったと言うように踵を返すと、その腕を正木が取った。
「何だ?」
姫川が驚いて振り返ると俯いたまま正木が言った。
「まだ来たばかりだろ?そんなに直ぐ去らなくてもいいだろ。少しだけ、此処に居てくれないか?」
弱々しいその正木の言葉に困惑し、姫川は直ぐに返事を返せない。すると腕を握る正木の力がギュッと強まった。
昨日あんな事があったんだ。正木も密かに不安を感じているのかもしれない。
姫川はそう考えると、
「わかった。」
と一言だけ返した。
正木に連れられて、部屋に足を踏み入れる。
出来れば此処には来たくなかったんだがな。
姫川は出来るだけ、正木の部屋を見渡さない様意識する。少しでも気を抜くとこの前此処で正木にキスされた事を思い出しそうだった。
正木は姫川の腕を握ったまま、フラフラと自室のベッドまで歩いて行った。そして倒れ込む様にベッドに横になる。
姫川はそんな正木の様子を心配そうに見下ろす。そして体勢を直し、布団を掛けた。
「飲み物でも用意するか?」
姫川が尋ねると、正木が弱々しく首を横に振る。
「いや、いい。少し側に居てくれ。」
姫川は少し戸惑いながらも、ベッドの端にそっと腰掛けて座る。何となく居心地が悪く、所在なさげに姫川は視線を動かす。少しの間、正木の部屋は静寂に包まれる。
「なぁ、手を握ってもいいか?」
「えっ?」
突然、正木の言った言葉に驚き、姫川は思わず聞き返す。しかし、直ぐに少し照れながらも手を差し出した。
寮で1人、生徒会長という立場上、他に弱音を吐ける相手もいない正木の事を姫川が不憫に思ったからだった。
2人だけの空間。姫川の手の温もり。先程まで目を瞑れば、流の暗い瞳とあの凶行が蘇ってきて上手く寝付く事が出来なかったが、姫川が側に居ると思うだけで、正木は安心できた。悪寒と頭痛は直ぐには消えてくれそうになかったが、それでもウトウトと直ぐに睡魔に襲われ、正木は暫し睡眠を貪った。
放課後で生徒の数は減っていたとはいえ、その光景を見た生徒にとっては血を流す正木の姿は衝撃的だったようだ。1日足らずで、正木が怪我をしたという噂は一気に校内に広がった。
正木はあれから暫くすると、病院から帰って来た。
頭に包帯をグルグル巻いている姿は仰々しいが、聞けば4針ほど縫ったようだ。本人は、
「痛みも殆ど無いし、大したことはない。」
と話していた。そんな正木の様子を見て、姫川は表情や態度には出さないものの、密かにホッとした。
次の日姫川が学校へ行くと、そこかしこで視線を感じた。チラチラと姫川を見るもの、コソコソと話すものがそこら辺中に居るので、姫川はうんざりした。
教室へ行ってもそれは変わらず、授業中も休み時間も姫川は好奇の目に晒された。
正木の怪我が学校中の噂になったことで、必然的に隣にいた姫川もその影響を多大に受けていた。
尾びれをつけて広まった噂の真相が知りたくて、ウズウズしたり、友だちと一緒にその時の経緯を楽しそうに推測したりしていた。
あまり人の視線を気にしない姫川も、昼休みを迎える頃にはすっかりげっそりしていた。
とても、食堂や教室で昼を摂る気にはなれない。校庭裏に行くか、風紀委員室に行くか悩んだ姫川は、ふと寮に一度戻ってみようと考えた。
正木は大事をとって今日は欠席している。
正木に簡単な食べ物でも持っていくかな。
そう考えると、姫川は昼休みになると同時に教室を出て、学校の売店に向かった。そこでも生徒達に好奇の目で見られ、気分を害したが、気にしないフリをして、軽食と飲み物を2人分購入した。
そしてその足ですぐに寮に向かった。昼休みに寮に帰る生徒は殆どいない上、役員棟となればこの時間は静まり返っていた。姫川はやっと一息つくと、正木の部屋を目指した。
正木の部屋の前で軽く扉をノックする。少し待つと直ぐにドアが開いた。少し緊張した表情の正木だったが、姫川の顔を見ると目を見開き驚いている様子だった。しかし直ぐホッとした表情に変わる。どうやら尋ねて来た人物が流ではなくてホッとしている様だった。
「怪我の具合はどうだ?少し軽食を持って来たから良かったら食べてくれ。」
そう言いながら、先ほど買ったものを1セット正木に差し出した。
「あぁ、問題ない。少し体が怠いけどな。」
そう言いながら正木は姫川の差し入れを受け取る。その様子を姫川は見ると、少し顔色が悪い様に見えた。昨日病院から帰った時にはヘラヘラしていたが、今は呼吸も少し早く側から見てもしんどそうだった。
「体調悪そうだな。」
そう言うと姫川はいきなり正木のおでこに手を当てた。
「おい、」
正木が抗議しようとした所で姫川は直ぐに声を上げた。
「あつっ、お前熱があるだろ。何が問題ないだ。格好つけてる場合か。」
「うるさい奴だな。少し傷口が炎症してるだけだ。痛み止め飲んで大人しくしとけば治る。」
「じゃあ早く寝ろ。俺も部屋でご飯を食べてくる。」
正木の言い分に心配した自分が馬鹿だったと言うように踵を返すと、その腕を正木が取った。
「何だ?」
姫川が驚いて振り返ると俯いたまま正木が言った。
「まだ来たばかりだろ?そんなに直ぐ去らなくてもいいだろ。少しだけ、此処に居てくれないか?」
弱々しいその正木の言葉に困惑し、姫川は直ぐに返事を返せない。すると腕を握る正木の力がギュッと強まった。
昨日あんな事があったんだ。正木も密かに不安を感じているのかもしれない。
姫川はそう考えると、
「わかった。」
と一言だけ返した。
正木に連れられて、部屋に足を踏み入れる。
出来れば此処には来たくなかったんだがな。
姫川は出来るだけ、正木の部屋を見渡さない様意識する。少しでも気を抜くとこの前此処で正木にキスされた事を思い出しそうだった。
正木は姫川の腕を握ったまま、フラフラと自室のベッドまで歩いて行った。そして倒れ込む様にベッドに横になる。
姫川はそんな正木の様子を心配そうに見下ろす。そして体勢を直し、布団を掛けた。
「飲み物でも用意するか?」
姫川が尋ねると、正木が弱々しく首を横に振る。
「いや、いい。少し側に居てくれ。」
姫川は少し戸惑いながらも、ベッドの端にそっと腰掛けて座る。何となく居心地が悪く、所在なさげに姫川は視線を動かす。少しの間、正木の部屋は静寂に包まれる。
「なぁ、手を握ってもいいか?」
「えっ?」
突然、正木の言った言葉に驚き、姫川は思わず聞き返す。しかし、直ぐに少し照れながらも手を差し出した。
寮で1人、生徒会長という立場上、他に弱音を吐ける相手もいない正木の事を姫川が不憫に思ったからだった。
2人だけの空間。姫川の手の温もり。先程まで目を瞑れば、流の暗い瞳とあの凶行が蘇ってきて上手く寝付く事が出来なかったが、姫川が側に居ると思うだけで、正木は安心できた。悪寒と頭痛は直ぐには消えてくれそうになかったが、それでもウトウトと直ぐに睡魔に襲われ、正木は暫し睡眠を貪った。
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