風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

三十七話

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「流、お前何やってんだ!」
姫川はそう叫びながら、正木の側に駆け寄る。見ると正木は頭から血を流し、気を失っていた。姫川は動揺しながらも正木の様子を観察する。頭以外に特に怪我はないようだ。呼吸もある。
姫川は一度正木から目線を外すと、流を鋭い視線で睨む。
「どういうつもりだ?」
いつもより低い声で姫川が流に問う。
「その人が悪いんですよ。僕をリコールなんてしようとするから。」
流は正気を失っているようだった。只、暗い目をして姫川の前に立っている。
「リコール?何の話だ?そんな事は正木から聞いた事ないぞ。」
「嘘を吐くな!確かにリコールの噂があった筈です!貴方もシラを切る気ですか?」
先ほどより激しい口調で流が言う。
「誰からの情報か知らないが、お前は正木の言うことよりそんな噂を信じるのか?真意を確かめもしないでこんな事をするなんて、お前らしくもない。」
流をこれ以上刺激しないように、努めて冷静に姫川が返す。
「うるさい!優木が僕に嘘をつくわけないでしょう!」
優木と言う名前を聞いて姫川は難しい顔をした。流の親衛隊長である優木は、デマを流すような奴ではない。
「優木にはその情報の出所をきちんと確認したのか?」
その一言に流がグッと奥歯を噛んだ。
「何も確認せずに正木を襲ったのか?」
姫川の畳み掛けるような質問に流が下を向く。流は確認を怠るほど、優木の情報を信じていた。
「言っておくが、正木はお前を心配して今日は此処まで来たんだ。ここ最近は、落ち込んだお前にどう声を掛けるか悩んでばかりいた。お前が思う以上に正木はお前を信頼していたと思うぞ。」
姫川のその言葉を聞いて流の瞳が初めて揺らいだ。
「まさか・・・そんな事ある筈ない・・・」
信じられないというように流が小さく呟く。
「いや、本当だ。なぁ、よく考えろ。本当に正木がたった一度成績が落ちたからってお前をリコールすると思うのか?お前も此処数ヶ月、正木を近くで見てきたんだろ?」
「僕は・・・」
そう言ったきり流は口を噤んだ。先程の流とは違い、自分のしてしまったことにやっと気づいたようで真っ青な顔になっていた。
その様子を確認した姫川は、取り敢えずこれ以上流が自分たちを襲う事はないと判断し、もう一度正木に目を向ける。
「おい、正木。」
体を極力揺らさないように、優しく声を掛ける。
「うぅ・・・」
姫川の呼びかけに反応するように、正木の口から呻き声が聞こえ、眉を顰めている。
「大丈夫か?」
姫川はそう言いながら、ポケットからハンカチを取り出し、これ以上血が出ないよう傷口を押さえた。
「痛てぇ・・・」
小さい声で正木が答えた事に少し安堵する。
一方流は正木の声を聞いて、ビクッと体を震わせた。
「姫川・・・何でここに?流は?」
正木は色々と混乱しているようで質問を重ねる。
「流ならあそこに・・・」
姫川が流の方を振り返りながら言うと、流がダッと背を向けて走り出した。
「流!」
姫川が大声を出すが、流は振り返ることなくその場を去って行った。姫川はもう一度正木の方を見ると
「悪い、走って行ってしまった。」
と謝った。
「いや、いい。大丈夫だ。くそっ流の奴、無茶苦茶な事しやがって。」
忌々しそうに正木が呟く。大分意識がはっきりしてきたようだ。
「どうする?俺1人じゃお前を運べないし、誰か呼ぶか?どっちにしても病院で一度診てもらったほうがいい。」
姫川が正木に言うと、正木は軽く首を横に振った。
「ダメだ。この事がバレたらそれこそ流はもう終わりだ。少し肩を貸せ。保健室まで歩いていく。」
その言葉に姫川は声を荒げた。
「人の心配している場合か!お前、今自分がどんな状況かわかってるのか?」
「わかってる。俺の体なんだから。派手に血は出てるが、傷はそんなに深くない筈だ。」
姫川の言葉にも動じる事なく、淡々と正木が答える。正木の意思は固そうだった。
「はぁ、馬鹿なのか?お前は。」
姫川は呆れたように言うと、渋々正木に協力することにした。
「お前がどれだけ傷が浅いと言っても、これは一度病院で診てもらった方がいい。でももしお前が流を守りたいと言うのなら、俺も流の名前は一切出さない。それでどうだ?」
姫川の提案に正木がフッと笑う。
「あぁ、それなら文句ない。」
正木が提案に乗ってきたことに姫川は少し安堵した。
「立てるか?」
そして、正木の体を支えると、歩き出した。横から正木が姫川に声を掛ける。
「いいか?これは事故だ。俺が転んで柵で頭を打ったことにする。だからお前は何も言うなよ。」
念を押すような正木の言葉に姫川は眉を顰めつつ、
「わかった。怪我もしてるし、少し黙ってろ。」
とぶっきらぼうに返すのだった。
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