風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

三十四話

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それから数日後、柏木のお陰で、流は何とか立ち直ることが出来ていた。3年生の大事な時期に成績を大きく落としてしまったことは痛かったが、それでも30位以内に食い込んだことで、首の皮一枚で繋がることが出来た。
あの一件以来、柏木は流を誰よりも優先してくれるようになった。そのことも流の気持ちを穏やかにさせた。
「あの、少しお話しいいですか?」
そんな時、流に話しかけてきたのは、流の親衛隊の1人だった。
「なんですか?」
最近は柏木といることも増えているのでそのことを咎められるのかと、少し警戒心を抱く。
「いや、少し優木さんが流さんに話があるらしくて。これから多目的教室まで一緒に来て貰えますか?」
優木さんとは流の親衛隊の隊長を務めている優木宙の事だ。優木は正木の親衛隊の隊長と比べるとかなり温厚で、こんな風に流を呼び出して話をする事はあまりなかった。
葵との関係にそんなに腹を立てているのか?
流との交友関係にも殆ど口を挟むことのなかった優木だが、柏木との関係はこの3年間の中でも特別なので、それをよく思っていないのだと流は思った。親衛隊は生徒会にとって煩わしい面もあるが、それ以上に頼りになる存在でもある。下手に抵抗しない方がいいと感じた流は、呼びにきた親衛隊の後ろに付いて、多目的教室に向かった。
多目的教室には、流の親衛隊が集まっていた。てっきり優木だけだと思っていたので、万が一何かあっても逃げることは出来ないと流も腹を括る。
「話とは何ですか?」
いつものように無表情で親衛隊長でもある優木に話しかける。
「葵との仲について言うつもりなら、私は聞く耳を持ちませんよ。」
最初に流の方から釘をさす。しかし、肝心の優木はその言葉に反応を示す事はなく、淡々と話を始める。
「別に柏木さんとの関係を咎めるために呼んだのではありません。」
優木の言葉に流がピクッと眉を動かす。
じゃあ何の為に?という疑問が流の中に浮上する。その疑問に応えるように優木が静かに話し始める。
「実は風の噂で、流さんにリコールの話が出ていると聞いたんです。私も生徒会役員がリコールされたという話はこの学園で聞いた事がないので、定かであるかは分かりませんが、一応お耳に入れておこうと思いまして。」
それを聞いた瞬間流は頭を殴られたような衝撃を受けた。確かに成績は落ちたが、こんな一回のテストでまさかリコールの話が持ち上がるなんて思ってもみなかった。
「正木がそう言ったのか?」
流は俯いたまま、震えそうになる体を何とか堪えて言葉を絞り出す。
「いや、僕が聞いたのもあくまで噂なのでそれは分かりませんが•••」
優木はそう言うが、リコールが出来る権限を持つのは正木くらいしかいない。
どんなに自分が努力しても勝てなかった相手。一緒に生徒会の活動をする事で、少しは認めてもらえたと思っていたが、まさかリコールを考えているとはな。
流は自嘲的に笑う。そしてそれと同時に沸々とした怒りが湧き上がってきた。今まで出来る限りの努力をしてきたのに、たった一回の過ちで自分を切り捨てる正木にどうしようとなく腹が立ち、頭が沸騰しそうになる。
「分かりました。忠告ありがとうございます。後は自分で何とかします。」
出来るだけ冷静に答えたつもりだったが、優木が心配そうに流を見る。それが同情のように感じて流は思わず舌打ちしそうになる。
「流さんがそう言うなら、僕たちもこれ以上口出ししませんが、何か困ったことがあればいつでも相談して下さい。」
優木の言葉に適当に相槌を打って流は多目的教室を後にする。その目は正木への恨みで黒く淀んでいた。

「流が生徒会に顔を出さない。」
久々に風紀委員室にやって来た正木が姫川の顔を見るなりそう口にした。
やはり流も簡単には吹っ切れないか。
姫川はふぅと溜息を吐く。正木の顔を見ると心なしか元気がないように見える。
「そうか•••まぁ、あいつも冷静になる時間が必要だろ。少しそっとしといてやったらいいんじゃないか?」
「クソっ!たった一回の失敗で挫けやがって。」
正木が悔しそうに唇を噛む。
「あいつもプライドが高そうだからな。何だ。お前と一緒じゃないか。」
姫川が意地悪く正木を見る。その顔を見て正木は、そういえばここ最近は流の事ばかりで姫川の顔をあまり見ていなかった事に気づく。
艶やかな黒の髪を後ろで纏めて、切長の目を意地悪く細めている顔は正木にとって何とも魅力的だった。つい、ボーッと見惚れていると、
「おい、まさか傷ついたのか?いや、冗談のつもりだったんだが•••すまない。流石に不謹慎だったか。」
と勝手に自分の言った言葉に姫川は後悔していた。
その姿を見て正木がフッと表情を緩める。
「お前に冗談は似合わないな。センスも無ければ面白味もない。」
姫川と話したことで少し元気が出た正木は、姫川に皮肉を返す。
「そうか。それは悪かったな。それだけの皮肉が言えればお前も大丈夫だろ。」
フイっとそっぽを向きながら姫川が答える。その反応が可愛らしく正木はくくっと声を出して笑った。
そんな様子を見てはいけないものを見たような、何とも恥ずかしい気持ちで他の4人が見ているのだった。
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