風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

三十三話

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流は屋上で1人項垂れていた。柏木を独り占めできたこの数週間は流にとって幸せな時間ではあったが、心の何処かで焦りは常に感じていた。
幼少期からとにかく優秀で周りからは勿論期待された。その期待に応える為なら流は努力を惜しまなかった。努力することで誰よりも優秀になれると信じていたからだ。しかし、この学校に入学して、上には上がいることを知った。どんなに努力しても正木や姫川には勝つことができない。その事実が流を打ちのめした。皆の前では気丈ぶって平静を装うも、心の中はいつもコンプレックスの塊だった。でも、その中でもこの3年間、順位だけは落とさずに頑張ってきた。生徒会の仕事もこなしながら、時間のある時は勉強に明け暮れた。そんな生活を続けた為か、いつしか流は本気で笑えることがなくなっていた。
そんな時柏木に出会った。最初は空気の読めない迷惑な奴という認識しかなかったが、あの見た目なのに、誰に対しても臆することなく接している柏木に興味を持った。
転校早々、柏木に校内を案内した時、
「何でいつもそんなつまらなそうな顔してるんだよ。お前、綺麗な顔してるのに勿体無い。俺がお前の友だちになってやるよ。それでいっぱい笑わせてやる。」
と言われた。自分ではこんな毎日が日常になりつつあったし、ここで友情だの思い出だの出来るとは思っていなかった。上から目線で腹は立ったが、柏木のあの言葉に流は確かに救われた気分だった。
「何言ってるんですか?私に迷惑しかかけてないくせに。」
そう言って流が笑うと、柏木は嬉しそうに流の手を取った。
「やっぱり!流はツンツンしてるより、そういう顔の方がいいよ。俺と友だちになってそういう顔をいっぱい見せてくれよ。」
そう言われて初めて、流は自分が笑っている事に気づいた。いつもの貼り付けた笑顔ではなく、本当の笑顔だ。
不思議な奴だな。
握られた手の温かさを感じながら流はそう思った。
「なぁ、じゃあ累って呼んでいい?」
「いきなり名前を呼び捨てなんて、図々しいですね。」
累などと呼ばれるのは久しぶりで、何だか少し照れくさかった。それを皮肉で返すと、
「そういう恥ずかしがり方もいいな!」
と柏木が笑った。あの日から流は柏木がとても大切な存在になった。そして、無理に笑うことを辞めた。流は何をするにも柏木と一緒で、柏木の隣にいると安心できた。しかし、それはどうやら流だけではなかったようだった。戸田や津田や正木までもが柏木に執着し始めた。流は焦りを感じた。柏木が自分以外の奴と仲良くしている姿を見るのは無性に腹が立った。
正木や戸田や津田といる時にも意地でも柏木の隣にいるようにした。
そうしていると、正木はいつの間にか姫川といる事が増え、ライバルが1人減った。しかし、津田と戸田はいつまでも柏木の側にいる。だからこの試験前を流は利用した。戸田や津田でも流石にその期間は柏木の元に現れず、勉強を優先しているようだった。柏木は、連む相手が少なくなった事で、流との時間を大事にしてくれた。それが流には幸せで堪らなかった。しかし同時に押し潰されそうな程の焦燥感にも襲われた。
勉強しなければ勉強しなければ勉強しなければ
頭の中でその言葉がグルグル回った。しかし、柏木との時間も捨てきれず、気づけば碌に勉強もできないまま、試験当日を迎えてしまった。
勿論結果は散々だった。なんとか30位以内に食い込んだものの、これじゃあ親に会わす顔もない。皆にコソコソ噂されるのも嫌で、流は屋上に逃げ込んだ。そして自分の不甲斐無さに只々落ち込んだ。

「累・・・。」
流が長い時間そこで落ち込んでいると、背後で柏木の声がした。
流は今の自分の情けない姿を見られたくなくて、自然に顔を下に向けた。
「どうしたんですか?こんな所まで追ってきて。」
いつもより素っ気ない態度で柏木に接する。柏木は自分とずっと一緒に居たのに、2年生で1位の成績を納めていたことを流は知っていた。そしてそのことに少し嫉妬している自分が醜くて許せなかった。
「今はそっとしといてもらえますか?とても貴方と話す気分にはなれません。」
「こんな状態のお前を置いていけるかよ。」
柏木がいつもより真剣な口調で流に声を掛ける。
「ふふっ、同情ですか?それとも、貴方の成績に、足元にも及ばなかった私を笑いに来たのですか?」
流はそう言うとグッと奥歯を噛んだ。こんな事を柏木に言いたいわけではないのに、自分の感情を上手くコントロールできない。
「すみません。こんなこと言うつもりはなかったんです。でも今はそっとしといて貰えますか?これ以上葵をを傷つける言葉を言いたくないんです。」
流がそう言った時、フワッと体が温かさに包まれた。流は直ぐに状況を掴めずにいたが、どうやら柏木に抱きつかれているようだった。
「ごめん!俺、自分の気持ちしか考えず累を連れ回して。俺を傷つけてもいいよ。それで累の気が治るなら、累が元気になるならいくらでも俺を利用してよ。」
流は目を見開いた。流だって、自分で選んでずっと柏木と居たのだ。それなのに、こんな八つ当たりにも似た感情を無条件に受け止めてくれる柏木に胸が苦しくなる。
「何を言ってるんですか?私が自分で決めてした事です。貴方には何の責任もありません。」
「でも累が辛い時に側にいるのが友達だろ?お前が落ち着くまで俺は側にいるよ。」
誰も自分を見てくれなくても、葵が側に居てくれる。
流はそう思うと、心が少し軽くなったように感じた。
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