風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

三十二話

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テストが終わってから2日後、今日は成績順が張り出される日だった。
大体いつも昼休み辺りに、職員が各学年の成績を掲示板の所に張り出す。
その為この日は朝から、学校中何処かソワソワした空気に包まれる。
姫川は風紀の活動も再開したことで、この日も朝早く来て校門前で校則チェックや挨拶運動をしていた。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
以前は嫌そうに姫川を見る生徒も多かったが最近では少しずつ生徒の方から挨拶してくることもあった。そんな生徒に姫川が挨拶を返すと頬を染める生徒も中には居た。それは庄司や佐々木や牧瀬も一緒だった。少しずつ生徒に受け入れられている現状に4人も悪い気はしなかった。
三田だけがそんな4人の様子を頬を膨らませて見ている。
「いいよなぁ。顔のいいやつは。それだけで生徒から認められて。俺なんか取り柄といえば、まぁまぁ勉強ができることぐらいしかないよどうせ。」
ブツブツと朝から文句を垂れる三田に姫川が苦笑する。
「いや、お前は友達を作るのも上手いじゃないか。話だって面白いし。お前の良さは俺たちがちゃんと知ってるぞ。」
そう言って微笑む姫川に三田は顔を赤くする。打ち上げをしてからの姫川は態度も柔らかく、笑顔も増えた。心を許したということなのだが、まだその態度に慣れていない三田は頭を掻いてそれ以上文句も言えなくなってしまった。
「おいおい、朝から何三田を口説いてるんだ?」
声のする方に視線を向けると、正木がジトっとした目で姫川を見ていた。
「お前は目が腐ってるのか?今の会話の何処が口説いてるんだ?単純に思ったことを口にしただけだ。」
珍しく朝早く登校した正木に姫川が言い返す。
「お前にその気が無くても、今までツンツンしてたヤツが急にデレっとすれば三田だって変な気を起こすかもしれないだろ。」
そんな正木の言葉に三田が慌てて反論する。
「そんな訳ないだろ。なっ何言ってんだ。」
しかし頬を赤らめ、言葉に詰まりながら言う三田は少しも説得力がなかった。
正木はやれやれと溜息を吐く。予想以上に厄介なやつを好きになってしまったと我ながら苦笑してしまう。
「まぁ、そんな事より俺との約束は覚えているだろうな?」
正木が話題を変え、ニヤニヤしながら姫川に聞く。
「あぁ、いちいち確認しなくてもそれぐらいの事は覚えていられる。」
あの時の会話を思い出したのか、心なしか姫川は顔が赤い。そんな2人のやり取りを、他の風紀委員や通りすがりの生徒達が興味津々に見ている。
その視線も気になり、姫川は正木から目を逸らす。
「もうお前は教室に行けよ。俺は今委員の活動中だぞ。」
姫川が言うと、正木がはいはいと適当に返事をし、去っていった。
「なぁ、いつから正木とあんなに仲良くなったの?」
正木が去った後、三田が小声で姫川に尋ねる。
「別に仲良くなってない。」
最近正木との仲について聞かれる事が増えた姫川は面倒くさいとばかりに話を終わらせる。庄司や佐々木も2人の関係が気になったが、それ以上何も言う事はなかった。

昼休みになり、掲示板の辺りに人がたくさん群がっている。姫川は成績順を前にして、いつも以上に緊張していた。勿論流の事も気になるが、正木との勝負の結果もそれなりに姫川の心をざわつかせていた。そして、何よりも祖母との今後の生活が掛かっている大事な結果だった。姫川はグッと背伸びをして結果を見る。背の高い姫川は丁度1年から3年の上位3名までの名前は見る事が出来た。
3年の成績順に目を遣ると、
一位正木恭治
二位姫川歩
と書かれていた。
やはり勝てなかったか。
少し正木の本心を聞いてみたい気もしていた姫川は軽くショックを受けた。そして、自分の料理を正木に振る舞わなくてはならない事実に溜息が出そうになった。しかし、それ以上に成績が落ちていないことに安堵する。
そこでふと、2年生の成績順が目に入る。そして一位に書かれている生徒の名前を見て姫川は目を瞠った。
一位柏木葵
嘘だろ•••
姫川は一瞬思考が停止する。あんな突飛な言動や行動をする者が一位を獲れる筈がない。姫川は柏木の事を思い浮かべて、背筋が寒くなる。
しかし、すぐに掲示板を見てた生徒達がザワついている事に気がつき、姫川はそちらに意識を向ける。
「おい、流さんやばいぞ。」
「まさか流さんに限って•••」
口々に周りの生徒から流の名前を聞き、姫川は嫌な予感に襲われる。
「ちょっとそこを通してくれないか?」
いつもだったら成績順を一瞥してすぐ去る姫川だが、今回は流の順位を確認せずにはいられなかった。前の生徒に声をかけながら、少しずつ張り出された紙に近づいていく。段々と三位から下の生徒の名前も見えるようになってきた。三位は佐々木で、そこから下も殆ど顔ぶれは変わっていなかったが、何処まで見ても流の名前がない。
二十位まで来ても流の名前を姫川は見つける事が出来なかった。
もしかして見落としたのか?
そう疑いながら目線を下に下げた時、
二十九位流累
と言う文字が目に飛び込んできた。
流が29位•••
ギリギリ30位までには食い込んでいるものの、いつもの流ではあり得ない成績だった。そこへ遅れて正木も駆けつけ姫川の方へ人混みを掻き分けながらやって来た。
「やはり、俺の方が上だったな。」
「•••」
正木が笑顔で姫川に話しかけるが、姫川は険しい顔をしたまま成績順を見ている。
正木もそんな姫川が気になり、同じ方向へ目を向ける。すると先ほどまでの笑顔が嘘のように一瞬で険しい顔つきに変わった。
「あいつ•••」
生徒達が騒ぎ立てる中、2人はいつまでもその場から動き出す事が出来ずにいた。
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