風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

三十一話

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少し険悪なムードの中終わった勉強会から数日、ついにテストの当日を迎えた。ここから3日間にわたって、各教科のテストが行われる。
1日に3教科ずつテストを行い、その結果は2日後に張り出される。
1年生はこのテストでクラスでのヒエラルキーが出来、2年生は次の役員候補が決まる。そして、3年生は歳明治への入社と大学への進学に大手をかける。そのため、皆死に物狂いで勉強し今日の日を迎える。
学期に一回ずつあるテストはそれぞれの学年にとっても、大変重要な意味を持ち、更にこの3回のテストの結果の総合計が歳明治への切符にも繋がる。
姫川は特に歳明治への入社などはどうでも良かったが、自分の祖母と暮らすため10位以内に入ることは絶対条件だった。
やれることだけのことはやった。
姫川は教室の机につき、自分の気持ちを落ち着かせるためふうと息を吐く。3年生になり、終わりが見えてきたことで急に一つ一つのテストの重みを感じる。この1年で一回でも順位を大きく落とせば、あの男との約束を守れないかもしれない。そういう重圧が知らず知らずの内に姫川の中に芽生えていた。
担任がテストの用紙を配り始める。
ゆっくりと生徒から生徒に送られる用紙を、緊張した面持ちで待つ。
他のクラスの生徒達も緊張しているようで、クラス内は緊迫した空気が漂っていた。
姫川の所へテスト用紙が送られてくる。姫川は一度目を瞑ると深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「では、テストをはじめてくだい。」
担任の声を合図に今まで裏を向けていたテスト用紙を皆一斉に表に返す。姫川はパッと目を開けると、今までの成果をテスト用紙に書き連ねた。

気がつけばあっという間に3日が過ぎていた。姫川はこの3日、あまり人と接することなく過ごした。自分の将来のためにも、この数日だけは邪念を捨て、単純にテストのことだけを考えていたかった。
最後の教科が終わり、姫川はちょっとした開放感を味わった。
まあまあ出来たかな。
姫川はこのテストに僅かな手応えも感じていた。正木との勉強会は姫川にとって無駄ではなかったようだ。
今日はこのまま帰るだけだし、久々に風紀委員室に行ってみるか。
姫川はふとそう考える。テストが終われば委員の仕事が再開される。
このテストが終わると、夏休みまでのカウントダウンが始まる。厳しい試験を乗り越えた生徒達が開放感に羽目を外しやすくなる時期なので、風紀の取り締まりを強化する必要がある。
本来、風紀委員の活動が始まるのはテストが終わった翌日からだが、姫川は今後の予定や2学期の行事についても一度確認しておきたかった。何よりここ何週間か風紀委員室に行ってなかったので、久々に行っておきたい気分だった。

風紀委員室に着き、部屋のドアを開ける。鍵がかかっているかと思ったが、そのドアは何の抵抗もなく開いた。
「おう、姫川。お疲れ様。」
風紀委員室の窓際で、お菓子を食べながら佐々木が姫川に手をあげる。
「なんだ。お前も来てたのか。」
姫川はドアを閉めながら、佐々木に声をかける。
「うん。どうせお前も此処に顔を出すかなって思ってたし。」
自分の行動パターンを佐々木に完全に把握されていることに、姫川は若干の恥ずかしさを覚える。
「で、テストはどうだったの?」
佐々木が姫川に尋ねる。
「あぁ、まあ結果はどうあれ、やれるだけのことはやった。お前は?」
佐々木の呑気な様子から答えは予想できるものの、姫川は敢えて聞く。
「えっ?俺は別にいつも通りだよ。俺の予想では今回は3位くらいかな。流もあの様子じゃ今回は俺に勝つのは無理そうだしな。」
自分の事なのに特に興味なさそうに佐々木が話す。しかし、姫川はそんな佐々木の様子より、流の話が出たことに反応する。
確か、流と佐々木は同じクラスだった筈だ。
特に仲も良くない2人だがクラスは同じで流と佐々木はよく顔を合わせていた。
「あの様子じゃって流の様子がいつもと違ったのか?」
姫川が聞くと、何でもないことのように佐々木が答える。
「傍目にもわかるくらいイライラしてたな。問題が解けないことに焦ってる様な様子だった。頭を抱えたり、足を忙しなく動かしたり、まあいつもの冷静なあいつとはまるで別人の様だったよ。」
やはり正木の心配が当たってしまったなと姫川は顔を顰める。その様子に佐々木が首を傾げる。
「どうしたの?姫川が流の事を気にするなんて。何かあったの?」
確かに今までの姫川だったら、生徒会の連中のことなど気にも留めていなったが、正木の言葉と柏木の奇妙な行動に何故か胸が騒つく。
「いや、何でもない。」
「いや、全然何でもなさそうじゃないんだけど。」
姫川の言葉に佐々木が困ったような顔をする。姫川も佐々木に相談して心を落ち着かせたかったが、この漠然とした不安を佐々木に伝えるのは難しかった。何一つ確かなことがない状況で、姫川の嫌な予感だけが広がっていった。

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