風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

三十話

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「こんな所に立って何やってんだ?」
流が去った後、暫くその場にじっとしていた姫川に正木が声を掛けた。
「いや、柏木と話していたんだが、途中で流が来て・・・」
「聞く耳持たなかっただろ?」
まだ全部言い終わらないうちに、正木が姫川の言葉を奪う。
「ああ。でも流の見たことないくらいの剣幕に少し驚いた。あいつ自身もこの状況に焦ってるんじゃないのか?顔色も余り良くなかったな。」
先程の流の様子を思い出しながら姫川が言う。
「俺も気にはなっているんだけど、あの様子じゃ、何を言っても無駄だろうな。」
正木が諦めたように溜息を吐いた。
「しかしあんなになるまで流を連れ回して、柏木は何を考えているんだか。」
姫川が呆れたように言うと、
「あいつは何も考えてないだろ。まぁそこがあいつの長所であり短所でもあるな。」
と正木が答える。
何も考えていない。正木のその言葉に姫川は引っ掛かりを覚える。時々自分に向ける何を考えているのか分からないあの眼鏡の奥の目が姫川には何故か不気味に感じられた。
2人が流のことを話していると背後に気配を感じた。2人が振り向くとそこには、牧瀬と伊東が立っていた。
「あれ?姫川くんと正木くん。何か不思議な組み合わせだね。こんなところで何してるの?」
牧瀬が不思議そうに姫川に尋ねる。
「いや、別に。」
「別にってことはないだろ。最近は毎日お前の部屋で勉強してるんだから。」
「!?」
「!?」
当たり障りのない答えを返そうとした姫川を他所に正木が何でもないことのように素直に答える。すると牧瀬も伊東も目を見開いて、言葉にならないくらい驚いた。
「2人とも面白い顔して何だよ。俺と姫川が一緒にいるのがそんなに可笑しいか?」
正木の問いに伊東が困惑したように答える。
「いや、そりゃそうだよ。ついこの間まで凄く仲が悪かったじゃないか。少しはマシになったのは知ってたけど、どうやったら急にそんな関係になるんだよ。しかも、姫川の部屋って・・・」
そう言うと、何故か伊東は顔を赤くする。
「おい、変な想像するな。」
姫川が何か良からぬ想像をする伊東に突っ込みを入れる。
「姫川くんって誰でも部屋に上げるの?」
牧瀬までも疑いの目を姫川に向ける。そんな伊東と牧瀬に姫川は額を抑えた。
「牧瀬、俺を尻軽みたいに言うな。こいつが強引に部屋に上がってきてるんだ。」
「いや、最近は合意だろ。」
姫川の言葉に正木がすぐに返す。
「本当に仲良くなったんだね。」
そんな2人を見て、伊東が感慨深げに言った。
「ねぇ、だったらさぁ、これから一緒に勉強しない?僕たちもこれから2人で勉強するんだよ。」
予想外の提案に姫川がどうしようかと考えていると、
「あぁ、いいよ。」
と、正木があっさりと答える。
「何で勝手に決めてんだよ。」
姫川が正木を睨みながら言うと、
「えっ?もしかして俺と2人っきりがよかった?」
と嬉しそうに正木が聞いてくる。そんな2人のやり取りを、牧瀬と伊東も楽しそうに見ている。姫川は何だか急に恥ずかしくなって、
「いや、じゃあ4人で勉強しよう。」
と小さな声で返した。その答えに正木も牧瀬も伊東も満足そうに頷くのだった。

4人で勉強となると、姫川の部屋は狭すぎるので、急遽生徒会室で勉強をする事になった。
部屋の中央にある大きな机を4人で取り囲んで早速勉学に励む。4人で居るが、特に会話らしい会話もなく黙々と目の前の問題を解いていく。
たまに難しい問題や苦手な問題があった時には、互いに聞きあったり、解き方を一緒に考えたりした。そうして1時間近く経った頃、伊東がグーっと背伸びをした。
「少し、休憩でもしようかな。」
そしてそのまま立ち上がると、生徒会奥の給湯室でお湯を沸かし始める。暫くすると4つのカップを手に伊東が戻ってきた。
「お疲れ様、紅茶を用意したから皆も少し休まないか?」
伊東の提案に3人は一息つくことにする。
茶菓子と紅茶を口に含むと、頭の疲労が少し緩和されるような感覚を味わった。糖分が体に沁みて、少し元気が出る。
「はぁ、上手いな。」
姫川がポツリと呟く。
「美味しいよね。この紅茶は流のお気に入りでよく皆に入れてくれるんだ。少しフルーツの香りがして美味しいよね。」
伊東が嬉しそうに話す。姫川と正木は流の名前が出てきた事で、複雑そうな顔をした。その顔を見て、伊東が首を傾げる。
「どうしたの?そんな難しい顔して。流がどうかしたの?」
伊東は勘が良いだけあって質問も鋭い。
正木は最近の流の様子を掻い摘んで伊東と牧瀬に話した。その話を聞いて伊東も複雑そうに口を開く。
「確かに、流の柏木への入れ込みようはすごいよね。まるで柏木に操られてるみたい。」
柏木の悪口とも取れる言い分に正木が嫌な顔をする。
「あいつがそんなことする訳ないだろ。葵はバカがつくほど単純で、純粋な奴なんだから。」
正木が庇うと伊東がやれやれと言ったように言い返す。
「正木って、隙がなさそうに見えて、あんがい騙されやすいんだな。」
「はぁ?葵が俺を騙してるとでというのか?」
正木の顔が険しくなる。
「いや、それは僕にも分からないけど、考えなくやっているとは思わない。何かしらの計算があって流を連れ回していると僕は思うよ。」
2人の話を聞いて、姫川は伊東が柏木の事を良く思ってない事を思い出した。少なくとも伊東は柏木の行動を怪しく感じている。しかし、正木はどうしてもその伊東の意見を聞き入れる事が出来なかった。
「あいつはそんな器用じゃない。あいつの事よく知りもしないで、軽々しくそういうこと言うんじゃねえ。」
正木の怒気を孕んだ口調にも伊東は特に表情を変えることはなかった。
「まぁ柏木に抱く印象なんて人それぞれだから。そんなに怒らないでよ。只、正木も姫川も用心に越した事はないと思うよ。」
伊東の釘をさすような言い方に正木がチッと舌を鳴らす。休憩前の雰囲気が一転、重苦しい空気が部屋を満たす。
姫川は伊東の言葉が頭から離れない。今の柏木の様子を見て、正木のようにすぐさま庇う気にはどうしてもなれなかった。
4人は重い雰囲気の中、勉強を再開する。再開後は互いに質問しあったり、教えあったりすることも無くなった。
牧瀬だけが、チラチラと3人を伺いながら、険悪な雰囲気に只オロオロしているのだった。




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