風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

二十九話

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姫川と正木はあれからなんだかんだと一緒に勉強をする事が増えた。意外にも真面目に試験勉強に取り組む正木と、時には互いに解答を教えないながら過ごす時間は姫川にとってもそれなりに充実していた。加えて姫川を揶揄ったり、手を出してくる事も無くなったので安心したというのもある。
今日も姫川の部屋でお互い無言で問題に向き合う。
すると、思い出した様に正木が呟いた。
「流の奴、大丈夫かな。」
言ったことの意味が分からず、姫川は正木の方を見る。
「最近ずっと柏木と連んでて、多分碌にテスト勉強出来てないぞあれは。」
正木の言葉に最近の2人の様子を思い出し、姫川も納得した。戸田や津田もこの時期ばかりは柏木に構うことなく、必死に努力しているのに流は柏木と連んでよくフラフラしている様子を見かけていた。親衛隊も今だけは試験に向けて必死なので、柏木は特にお咎めを受ける事もなく悠々自適に流と過ごしていた。
この前も流の姿を見かけたが、かなり遅い時間に寮に帰ってきていた。柏木にいい様に振り回されている流がなんだか気の毒になってくる。
「あいつは元々、そんなに器用じゃない。努力してここまで頑張ってきたタイプなんだ。とてもじゃないけど、今の状態で成績をキープ出来るとは思えない。」
そう言う正木の顔は真剣に流を心配している様に見えた。
「流と話してみたのか?」
姫川の問いに、正木が首を横に振る。
「何度か声は掛けたが、あいつ聞き耳も持たない。」
そして、ふぅと諦めたように溜息を吐く。
確かに姫川から見ても、流の柏木への執着は相当なものだと感じていた。姫川にとっては正木にしても、流や戸田や津田にしても何故そこまで柏木が好きなのか全く理解できなかった。
「まぁこれはあいつの問題だからな。自分なりに考えてなんとかするだろ。」
正木はそれ以上考える事を辞め、勉強を再開する。姫川もそんな正木の姿が気になりつつまた机に視線を戻した。
この時の2人はまだこの事が大きな問題に発展するとは考えもしていなかった。

次の日の放課後、姫川が廊下を歩いていると、見知った顔が前から歩いてくるのが見え、露骨に顔を歪めた。
この時期の3年生は非常にピリピリしていて、常に空気が張り詰めているのにそんなことはものともせず、飄々と廊下を歩く柏木の姿に、姫川は心の中で舌打ちをする。
「姫ちゃん、何だよそのすっげえ嫌そうな顔は!俺メッチャ傷ついたからね。」
そんな様子は微塵も感じない柏木が姫川に話しかけてくる。
「嫌そうなのが分かるなら話しかけてくるなよ。」
空気の読めない柏木に姫川は溜息を吐きながら聞く。 
「ところで、何で柏木がここに居るんだ?お前は2年生だろ。ここは3年の棟だぞ。」
「いくら俺が転校生だからって流石にそれくらい分かってるよ。今日は累を迎えに来たんだ。」
柏木の言葉を聞いて、姫川は昨日の正木の言葉を思い出した。相変わらず流を振り回そうとする柏木に姫川は釘をさす。
「お前、流を連れ回すのも大概にしろよ。3年生のこの時期はあいつにとってもかなり大切な時期なんだからな。」
「別に無理やり連れ回してる訳じゃないし。累は優しいから誘ったら来てくれるんだ。なんか知らないけどさ、他の奴誘っても最近全然遊んでくれないし。」
柏木の自分勝手な言い分に姫川は段々と腹が立ってくる。
「流の優しさを利用するな。大体こんな時期に遊びに誘うやつがあるか。皆少しでもいい成績を残そうと必死で勉強してるんだよ。」
「そこまでにしてもらいましょうか。」
姫川が柏木に話していると突然後ろから冷たい声が掛かる。姫川が振り向くとそこには少し怒りを含んだ表情で流が立っていた。
「何を偉そうに葵に説教してるんですか?私は好きで葵と一緒に居るんです。貴方が口を挟む事でもないでしょう。」
無表情だが、その瞳は確かに怒気を孕んでいた。
「別に流がそれでいいなら構わないが、お前も今回のテストがどれだけ大切か分からない訳はないだろう。もう少し考えて行動しろよ。」
「うるさい!」
流が廊下に響くくらいの大声を出した。姫川もそんな流は今まで見たことがなく目を丸くする。
「何様のつもりですか?貴方は。葵や私に最もらしく説教垂れて。優越感にでも浸っているんですか?」
余りの流の言い分に姫川は返す言葉も見つからなかった。正木が言っていた聞く耳を持たないとは正にこの事だと姫川は感じた。
「はぁ、気分が悪い。葵、行きましょう。」
そう言うと、流は柏木の腕を掴んで歩き出した。その後ろ姿に姫川が声を掛ける。
「正木も心配してたぞ。」
その言葉に流が反応し、一瞬動きを止めるがすぐにまた歩き出す。そして、柏木と共に廊下の奥へと去っていった。
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