風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

強引な誘い

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スポーツ大会が終わって暫くすると、テストが近づいて来たこともあり、学園は試験モード一色となった。
休み時間や放課後など、目の色を変えて勉学に励む生徒も多い。
歳明治学園では一学期に一回ずつしかテストがない。その3回のテストの成績で総合順位が決まる。学期に一回のテストは、範囲も広い上、どの問題が出るなど、やまも当てにくく生徒たちを苦しめる。それ故に、一夜漬けや徹夜だけで点数を稼ぐことはほぼ不可能に近く、本当の生徒の実力が試される。
そして、姫川たち3年生にとってのテストは今後の未来を決める上でも大変重要な意味を持っていた。
流石にこの時期だけは生徒会や風紀委員もその任を解かれ、勉学に集中できる。
姫川は放課後、授業が終わった教室にいた。いつもだとこのまますぐに風紀委員室に向かうが、今はテストが近い事もあり、委員の仕事もないのでいつもよりゆっくり教室に残っていた。
「なぁ、姫川ノート貸してくれよ。お前のノートでちょっとでも成績アップなーんてな。」
軽い調子で声を掛けてくる男に姫川は軽く息を吐く。
「山田、お前は調子いい奴だな。大体、いつも話しかけてこないくせに、こういう時だけ声を掛けてくるな。」
姫川に話しかけてきたこの男は山田喜月と言い、去年までの同室者だ。
2年間、一定の距離を保ち、親しくすることも無かったが、試験が近くなると姫川を頼ろうとした。
「なんだよー。いいじゃん。もともとは一緒に住んでたんだし。それぐらいしてくれてもさー。」
「住んでたんじゃない。たまたま同室だっただけだ。」
妙に間延びしたやる気のない声が姫川の癇に触る。
「相変わらず、真面目で面白くない奴~。あっ、それか俺の部屋で一緒に勉強するのはどう?ちょっとでも成績あげなきゃマジでやばいんだよねー。」
「嫌に決まってるだろ。俺を利用せず、自分の力で頑張るんだな。」
山田の提案を姫川が容赦なく断る。
「本当、俺には冷たいよなー。最近じゃ色々な奴と仲良くしてるみたいじゃーん。俺も仲間に入れてくれよー。」
この男は俺のこと嫌いな筈なのに。
姫川はそう思いながら、面倒くさそうにため息を吐いた。山田が今まで姫川と同室であることを周りに愚痴っていることを姫川は知っていた。そんな山田に敢えて関わらないようにこの2年間過ごしてきたのに。試験前など、都合がいい時だけ近寄ろうとするこの男が姫川は苦手だった。
「ねぇー、聞いてる?」
徐々に近寄ってくる山田に姫川が眉を顰める。その時、
「そいつ誰?」
教室の入り口の方から声がした。
姫川がそちらに目を向けると、冷めた表情で正木が2人を見ていた。今まで、姫川の教室に絶対に現れることのなかった正木の突然の登場に、教室に残っていた生徒がザワザワし始める。
姫川が山田に目を向けると口を開けて驚いたように固まっていた。
そんな山田の顔を威圧的に睨みながら正木が姫川の方に歩みを進める。
「姫川の知り合いなの?こいつ。」
姫川の隣にやってきた正木は嫌悪感を隠そうともせず山田を見据えた。その視線に山田はオロオロし始める。
「まぁ、気が向いたら考えといてくれよ。」
さっきの余裕な態度が一変、凄い勢いで教室から去っていった。
「なんだ?あいつ。」
正木が姫川の肩に腕を置きながら言う。
「お前こそなんだ。何しに来た?」
さり気なく正木の腕を避けながら、姫川が聞き返す。
「いや、お前の部屋で一緒に勉強しようと思って。」
きゃー!
うっとりしそうな程甘い正木の笑顔に教室の生徒が黄色い声を上げる。2人の関係に皆がドキドキしながら注目していた。
「嫌に決まってるだろう。お前と2人とか碌な事がないに決まってる。」
心底嫌そうな顔で言っているのに、正木は気にする様子もなく、
「いや、楽しいって!1人で勉強するより2人で勉強した方が絶対いいだろ。お前は友達いないから知らないかもしれないけど。」
と悪びれる様子もなく言う。
「うるさい。サラッと悪口言うな。」
正木の言葉に今度は姫川が突っ込む。なかなか首を縦に振らない姫川に正木の顔が徐々に拗ねたようになる。
「もう、いいから行くぞ。」
強引に姫川の手を引く正木。
「おい、離せって!正木!」
無理やり引っ張られ、教室から去っていく姫川を、生徒たちが凝視している。
2人が教室から去った後、残った生徒たちは一時、試験の事など忘れて、2人の関係について目を輝かせながら話すのだった。
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