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嵐のような怒涛の1学期
瀬戸田史人という男
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「今日はよろしくお願いします。姫川先輩は有名で皆知ってるけど、僕の事は知らないですよね?僕は瀬戸田史人といいます。」
姫川はスポーツ大会のあった週の日曜日、抽選会で自分を指名した瀬戸田という男と会っていた。
丁寧な自己紹介の後、はにかんだように笑う瀬戸田は、抽選会の時に見た印象のままで姫川はホッと胸を撫で下ろした。
最近は正木や柏木みたいに急に距離を詰めてくる奴もおり、警戒心を強めていたがそれは杞憂に終わったようだった。
「外出許可は取ってないんだが、どうする?許可をもらって外へ行くか?」
抽選に当たった人がこの日のために外出許可を提出していることを知っていた姫川が尋ねる。
「いえ、今日はゆっくりお話が出来たらと思っていたので外出許可は取らなくても大丈夫です。よかったら飲み物でも買って、少し校庭の裏の方で話をしませんか?」
瀬戸田が伺うように姫川を見て言う。
「俺はそれで構わないが、逆にそんなんでいいのか?」
姫川が聞くと、瀬戸田は嬉しそうに首を縦に振った。
2人は早速食堂の自販機で適当に飲み物を買い、校庭の裏庭を目指した。そこは姫川がお気に入りの場所であると同時に、この前柏木に抱きつかれた場所でもあった。姫川はその事を思い出し、密かに眉を顰める。
校庭裏に行く道中はお互いに何を話していいか分からず沈黙が続いた。
目的の場所に着くと、屋根付きのベンチに2人で腰を下ろす。姫川が瀬戸田に目を遣ると、特に口を開く訳でもなく俯いているだけだった。
ふぅ、と姫川は少し息を吐くと、瀬戸田がビクッと体を動かす。
「やっぱり楽しくないですよね。僕と居ても。ごめんなさい。何か話題を見つけれたらいいんですけど、僕口下手で•••」
瀬戸田の言葉に姫川は首を横に振る。
「いや、悪い。そういうつもりはなかったんだが、俺は愛想も良くないし、そんなに好かれてもない事は分かってるからなんで指名されたのかと思っただけだ。」
姫川は特に表情を変えることもなく淡々と言う。
「いや、あの、僕も怖いと思ってたんですけど、この前のスポーツ大会でバドミントンしてる姿を見て、印象が変わりました。あと、葵くんも姫川先輩にすごく懐いているので、単純に本当はどんな人か知ってみたかったんです。」
突然、葵という名前が出た事に姫川は顔を顰めた。
「瀬戸田は柏木と知り合いなのか?」
思わず、姫川が聞き返すと瀬戸田は何でもないことのように答える。
「はい。僕は葵くんと寮で同室なんですよ。」
ここに来てまた柏木の名前が出てきた事に姫川はげんなりする。何の縁か。自分からは絶対に関わらないようにしているのに、何故か柏木が原因で色々なトラブルに巻き込まれている自分に姫川が自嘲的な笑みを漏らす。
その顔を見て瀬戸田が
「姫川先輩はもしかして、葵くんの事嫌いなんですか?」
と率直に聞いてきた。そんな瀬戸田に姫川もどう返そうか悩んだが、結局素直な思いを伝える事にした。
「まぁ、嫌いというよりは苦手だな。あいつは人との距離感がおかしいだろう?俺は一定の距離を持って人と接していたいから、あのグイグイくる感じは苦手だな。」
姫川の嫌そうな顔を見て、瀬戸田がクスクスと笑い声を漏らした。
「確かに。まさか先輩にまであの距離感で迫っていると知った時は僕も卒倒しそうになりましたよ。でもそれは葵くんの魅力でもあるから。」
優しく微笑む顔を見て、瀬戸田は柏木の事を慕っている事を知った。生徒会といい、同室者といい、皆柏木の事を好いている事が姫川には不可解でしかたなかった。
姫川が柏木について考えていると、突然瀬戸田が話しかけてきた。それは今日見た中で1番生き生きとした笑顔だった。
「ところで姫川先輩はお花は好きですか?」
急に話が変わった事に少し面食らいながら、姫川が答える。
「花か?うーん、嫌いではないけど、そんなに詳しくはないな。あぁでも、この校庭裏の花壇はいつも綺麗で見ていて癒されるな。」
「そうですか!?」
姫川の言葉にとびきりの笑顔で返す瀬戸田。
「実はここのお花は僕がお世話をしてるんですよ。昔から、お花が大好きでいつかそういう仕事に就けたらと思っていました。まぁ無理なんですけどね。」
生き生きと話していたのに、最後の言葉だけが沈んで聞こえた。
「そういうところで働かないのか?」
瀬戸田の口調の変化が気になって姫川が問いかけると、
「親は僕が歳明治に入って働く事を願っているんです。その為にわざわざ高いお金を払ってこの高校に入れてくれたんですから、その気持ちを無駄には出来ないです。」
と、どこか寂しそうに瀬戸田は答えた。姫川はそれを聞いて胸が痛くなる。
どこも似たような境遇だな。
親のエゴ、見栄、欲求の為この学園に入学した者も多い。例に漏れず、姫川自身も自分の意思でここにいる訳ではない。
「僕の家は4人兄弟ですけどね。その中では僕が1番頭がいいんです。その分親の期待も大きくて僕にたくさんお金を掛けたから、兄弟たちにはいっぱい我慢させたと思います。だから、僕の勝手な希望で将来を決めるわけにはいかないんです。」
姫川はそれを聞いて押し黙る。お前の人生なんだから自由に生きろと綺麗事のように軽々しく言うことが姫川にはどうしてもできなかった。姫川は慎重に言葉を選びながら話した。
「ここにいる生徒たちは多かれ少なかれ同じような悩みを抱えていると思う。多分自分で選んでここに来た者はほとんどいないだろうな。でも、瀬戸田。花に携わる仕事に就くのは難しくても、花に携わって生きていく事はできる。そういう楽しみ方でもいいんじゃないか?」
自分でも何を言っているんだろうと思うが、姫川自身も自分で好きな仕事を選ぶ事はできない。でも、大好きな人の側で暮らす事は出来る。自分の境遇と重ねて姫川なりに瀬戸田を励ます。
そんな姫川の言葉に瀬戸田は目を見開く。
「やっぱり今日、会ってみてよかったです。こうして話さないと、先輩の素敵な所がきっとわからなかったでしょうから。」
そう言って微笑む顔は、最初に会った時よりもキラキラして見えた。
姫川はスポーツ大会のあった週の日曜日、抽選会で自分を指名した瀬戸田という男と会っていた。
丁寧な自己紹介の後、はにかんだように笑う瀬戸田は、抽選会の時に見た印象のままで姫川はホッと胸を撫で下ろした。
最近は正木や柏木みたいに急に距離を詰めてくる奴もおり、警戒心を強めていたがそれは杞憂に終わったようだった。
「外出許可は取ってないんだが、どうする?許可をもらって外へ行くか?」
抽選に当たった人がこの日のために外出許可を提出していることを知っていた姫川が尋ねる。
「いえ、今日はゆっくりお話が出来たらと思っていたので外出許可は取らなくても大丈夫です。よかったら飲み物でも買って、少し校庭の裏の方で話をしませんか?」
瀬戸田が伺うように姫川を見て言う。
「俺はそれで構わないが、逆にそんなんでいいのか?」
姫川が聞くと、瀬戸田は嬉しそうに首を縦に振った。
2人は早速食堂の自販機で適当に飲み物を買い、校庭の裏庭を目指した。そこは姫川がお気に入りの場所であると同時に、この前柏木に抱きつかれた場所でもあった。姫川はその事を思い出し、密かに眉を顰める。
校庭裏に行く道中はお互いに何を話していいか分からず沈黙が続いた。
目的の場所に着くと、屋根付きのベンチに2人で腰を下ろす。姫川が瀬戸田に目を遣ると、特に口を開く訳でもなく俯いているだけだった。
ふぅ、と姫川は少し息を吐くと、瀬戸田がビクッと体を動かす。
「やっぱり楽しくないですよね。僕と居ても。ごめんなさい。何か話題を見つけれたらいいんですけど、僕口下手で•••」
瀬戸田の言葉に姫川は首を横に振る。
「いや、悪い。そういうつもりはなかったんだが、俺は愛想も良くないし、そんなに好かれてもない事は分かってるからなんで指名されたのかと思っただけだ。」
姫川は特に表情を変えることもなく淡々と言う。
「いや、あの、僕も怖いと思ってたんですけど、この前のスポーツ大会でバドミントンしてる姿を見て、印象が変わりました。あと、葵くんも姫川先輩にすごく懐いているので、単純に本当はどんな人か知ってみたかったんです。」
突然、葵という名前が出た事に姫川は顔を顰めた。
「瀬戸田は柏木と知り合いなのか?」
思わず、姫川が聞き返すと瀬戸田は何でもないことのように答える。
「はい。僕は葵くんと寮で同室なんですよ。」
ここに来てまた柏木の名前が出てきた事に姫川はげんなりする。何の縁か。自分からは絶対に関わらないようにしているのに、何故か柏木が原因で色々なトラブルに巻き込まれている自分に姫川が自嘲的な笑みを漏らす。
その顔を見て瀬戸田が
「姫川先輩はもしかして、葵くんの事嫌いなんですか?」
と率直に聞いてきた。そんな瀬戸田に姫川もどう返そうか悩んだが、結局素直な思いを伝える事にした。
「まぁ、嫌いというよりは苦手だな。あいつは人との距離感がおかしいだろう?俺は一定の距離を持って人と接していたいから、あのグイグイくる感じは苦手だな。」
姫川の嫌そうな顔を見て、瀬戸田がクスクスと笑い声を漏らした。
「確かに。まさか先輩にまであの距離感で迫っていると知った時は僕も卒倒しそうになりましたよ。でもそれは葵くんの魅力でもあるから。」
優しく微笑む顔を見て、瀬戸田は柏木の事を慕っている事を知った。生徒会といい、同室者といい、皆柏木の事を好いている事が姫川には不可解でしかたなかった。
姫川が柏木について考えていると、突然瀬戸田が話しかけてきた。それは今日見た中で1番生き生きとした笑顔だった。
「ところで姫川先輩はお花は好きですか?」
急に話が変わった事に少し面食らいながら、姫川が答える。
「花か?うーん、嫌いではないけど、そんなに詳しくはないな。あぁでも、この校庭裏の花壇はいつも綺麗で見ていて癒されるな。」
「そうですか!?」
姫川の言葉にとびきりの笑顔で返す瀬戸田。
「実はここのお花は僕がお世話をしてるんですよ。昔から、お花が大好きでいつかそういう仕事に就けたらと思っていました。まぁ無理なんですけどね。」
生き生きと話していたのに、最後の言葉だけが沈んで聞こえた。
「そういうところで働かないのか?」
瀬戸田の口調の変化が気になって姫川が問いかけると、
「親は僕が歳明治に入って働く事を願っているんです。その為にわざわざ高いお金を払ってこの高校に入れてくれたんですから、その気持ちを無駄には出来ないです。」
と、どこか寂しそうに瀬戸田は答えた。姫川はそれを聞いて胸が痛くなる。
どこも似たような境遇だな。
親のエゴ、見栄、欲求の為この学園に入学した者も多い。例に漏れず、姫川自身も自分の意思でここにいる訳ではない。
「僕の家は4人兄弟ですけどね。その中では僕が1番頭がいいんです。その分親の期待も大きくて僕にたくさんお金を掛けたから、兄弟たちにはいっぱい我慢させたと思います。だから、僕の勝手な希望で将来を決めるわけにはいかないんです。」
姫川はそれを聞いて押し黙る。お前の人生なんだから自由に生きろと綺麗事のように軽々しく言うことが姫川にはどうしてもできなかった。姫川は慎重に言葉を選びながら話した。
「ここにいる生徒たちは多かれ少なかれ同じような悩みを抱えていると思う。多分自分で選んでここに来た者はほとんどいないだろうな。でも、瀬戸田。花に携わる仕事に就くのは難しくても、花に携わって生きていく事はできる。そういう楽しみ方でもいいんじゃないか?」
自分でも何を言っているんだろうと思うが、姫川自身も自分で好きな仕事を選ぶ事はできない。でも、大好きな人の側で暮らす事は出来る。自分の境遇と重ねて姫川なりに瀬戸田を励ます。
そんな姫川の言葉に瀬戸田は目を見開く。
「やっぱり今日、会ってみてよかったです。こうして話さないと、先輩の素敵な所がきっとわからなかったでしょうから。」
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