風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

新入生歓迎会④

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いよいよ姫川のバドミントンの競技が始まろうとしていた。
バドミントン競技のシングルは総勢20人で争われる。普通のルールとは違い、先に7点先取した方が勝ちのトーナメント方式だ。20人も居るので、競技時間を短縮するための特別ルールである。2コートあり、隣のコートではダブルスが行われている。姫川と柏木はどちらもシングルに出場する事になっていた。
柏木の一回戦は先程行われた。柏木はあのボッサボサの髪と瓶底メガネからは想像もできない軽快な動きで一気に7点を先取していた。観客も意外だったのか会場内は一瞬静まり返っていた。
姫川も同じ気持ちで驚きはした。しかしそれ以上にカツラが取れそうになるのか時々わざとらしく頭を押さえる仕草に少しイライラした。
姫川の一回戦は第5試合だった。姫川は軽くジャンプして体のコンディションを確かめる。
相手は一年生で姫川を前にして早くも顔が青ざめていた。
会場内にはまあまあの人が集まっていた。噂の転校生を見に来た者と、怖い者見たさで姫川を見に来た者と両方がいた。
いよいよ試合が始まる。観客も固唾を呑んでその様子を見守っていた。
サーブは一年生からだ。物凄く緊張した面持ちでサーブを打った。シャトルが弧を描いて姫川のコートに入る。その瞬間姫川が動いた。元々の上背を生かして一年のコートにシャトルを叩き込んだ。
パシューン!
綺麗な音と共に相手コートにシャトルが落ちる。一年生は反応する事もできずその場に立ち尽くしていた。
一瞬の静寂の後、
おおぉぉぉ!
と会場内がどよめきに包まれる。皆、姫川がバドミントンをしている姿など想像できなかったが、予想外の運動神経の良さに驚きの声が上がった。
その後はとんとん拍子に点をとり、気づけば7点連続で先取していた。
一年生は試合が始まる前と同じ青い顔のままコートから出て行く。皆憐みの顔でその一年生を見守った。
試合後、物凄い勢いで柏木が駆けつけてきた。
「姫ちゃん!お前強いんだな。」
そう言いながらまた、抱きつこうとするので、持っていたタオルを柏木の顔に押し付けそれを制止する。
「寄るな。」
「俺、姫ちゃんと絶対戦いたい!だから決勝までいってくれよ。わかった?」
姫川の話をまたも無視して、柏木が言葉をかけて来る。全然噛み合わない柏木を無視して視線を外した所で、観客席の正木と目が合う。
あいつ、見に来てたのか。
そう思って姫川は正木を見ていたが、やはり少し表情が険しく感じる。真剣な顔で目を逸らさず見つめてくる正木に姫川はなんだか落ち着かない気持ちになり、そちらからも目線を外した。
「いいから、もう俺に構うな。」
姫川は柏木を軽くあしらい、その場を離れる。柏木は頬を膨らませて不満を露わにする。その顔が本当に可愛くなくて、姫川はまたイライラした。

二回戦目も難なく勝ち進む事ができた。三回戦目からは相手も少しずつ強くなり、7点連取とはいかないまでも問題なく勝つ事ができた。
三回戦目が終わる頃には姫川の体は少し汗ばんできていた。持っていたタオルで顔の辺りを乱雑に拭う。するといつもきっちり後ろに撫で付けている姫川の髪が少しずつ崩れてきた。姫川は前髪がおりたことでいつもの目の鋭さが隠れ、柔らかい印象になった。そんな姫川の姿を見て、観客の中には顔を赤らめる者も出てきた。
一方柏木はあんなに姫川と戦おうと言っていたのに、準決勝で負けていた。どうやら姫川の決勝戦の相手はバドミントン経験者でしかも結構名の知れた者のようだった。
決勝戦が始まる。観客は先程より少し増えている気がした。
今までの相手と違い、姫川を前にしても堂々と睨み返してくる相手はやはり強者の顔つきだった。
姫川が最初にサーブを打つと、相手も難なく打ち返す。そこからは激しいラリーが始まった。流石、経験者というだけあり相手は、コートの縦横に巧みにシャトルを打ち、姫川を揺さぶった。姫川も負けじと相手に喰らいつくが、流石に少し押され気味の様子だ。観客も手に汗握る展開にジッと魅入っている。それからも点を取られたり、取ったりの一進一退が続く。互いが点を取り合うたびに、観客から歓声が上がる。気づけば姫川が4点、相手が6点で相手選手はマッチポイントだった。
サーブは相手から始まった。少し手前に落とされたシャトルを姫川が前に出て受けると、相手はすかさず今度は遠くに飛ばす。姫川も予めそれは予想できていたので、すぐに後退し打ち返す。パシッパシッとラケットから軽快な音がする。
暫くラリーが続いていたがとうとう決着がつく時が来た。姫川は相手が前に来たタイミングで、遠くにシャトルを飛ばす。しかしそれをスマッシュで鋭く返される。凄いスピードで返ってくるシャトルに何とか喰らいつくが、返したシャトルは緩く弧を描くと、ゆっくりとコートに落ちていく。そこを見逃す筈がない相手が姫川がいるのと反対のコートにシャトルを叩き込んだ。
ピピー
試合終了の笛が鳴る。それと共に相手は嬉しそうにガッツポーズをとる。観客もそれに応えるように拍手を送った。
姫川は負けてしまったが、久々に楽しくスポーツができた事で気持ちはスッキリしていた。そのまま相手コートに近づくと、彼に手を差し伸べる。
一瞬困惑したような顔をしたが、相手も素直に姫川に応じ、お互い握手を組み交わした。姫川が相手に笑顔を向ける。
「いい試合だった。お前強いな。」
まさか姫川が自分に笑いかけると思っていない相手選手は途端に顔を真っ赤にした。
周りの観客も姫川のその顔を時が止まったように魅入っていた。
ふと、急に姫川の頭にバスタオルがかかる。視界が一瞬真っ暗になった事で何事かとタオルを退けるとそこには庄司が立っていた。予想外の人物に姫川は目を丸くする。
「庄司、お前なんでー」
「その顔は目に毒。」
姫川の言葉を遮って、庄司がそれだけ言うとコートから出ていった。庄司が何を言いたいのか分からず姫川は只困惑した。
隣ではまだダブルスの試合が行われていた。あちらも決勝戦なのか、白熱した様子だった。姫川はそのまま、まだザワつく会場を庄司がかけたバスタオルを持って出ていく。何人かの生徒がその後ろ姿を赤い顔で見つめ続けていた。
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