風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

新入生歓迎会③

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正木達と別れて暫くすると、姫川は校庭へと戻った。2人との別れ際、こちらを見ていた正木の目が気になって、気づけば思ったより時間が経っていた。
あいつ怒った顔してたような•••
姫川はそう考えて首を横に振る。確かに柏木に抱きつかれたりはしたが、それで怒られる謂れはない。少し心に引っかかりを覚えながらも姫川は佐々木のいる校庭に向かった。三田が出場していたドッジボールは終了したようで、競技はサッカーに変わっていた。
ドッジボールの時とは違い、サッカーには物凄い人が集まっていた。その群衆の中に三田の姿を見つけ、姫川は声を掛けた。
「ドッジボールの結果はどうだった?」
その声に三田が振り返る。
「あぁ、姫川お疲れ~。いやぁ、良いとこまでいったけどね、負けちゃったよ。」
三田が後ろ頭を掻き、笑いながら言う。2人が話す姿を三田のチーム仲間が見て顔を引き攣らせ、強張った視線を向けてくる。
「ってかムカつくよ。俺たちの時、こんなに観客いなかったのに、サッカーになった途端こうだもんな!」
三田がそんな視線にも気づかず毒づく。
「なんでこんなに盛り上がってるんだ?」
姫川が聞くと三田が信じられないといった様子で姫川を見つめ返す。
「姫川知らないのかよ。佐々木だよ。あいつ生徒達から密かにメチャクチャ人気あるんだから。」
そんな事実は知らなくて姫川は目を丸くする。大体風紀のメンバーとしっかり関わるようになったのは3年生に上がってからだ。姫川自身も付き合ってまだ日が浅い。
「そうか。風紀は生徒からの嫌われ者だと思っていたが。」
「佐々木は別。まぁ俺たちもそこまで嫌われる訳じゃないと思うけど。主に姫川なんじゃない?嫌われたり、怖がられたりしてるの。」
姫川が只無言で三田を見つめる。その視線に三田がギクっと体を震わす。
「いやいや、まぁ、俺たちも生徒指導とか服装チェックとかしてるし。嫌がられてるとは思うけどね。はははっ。」
三田が冷や汗を流しながら、必死に弁解する。それを周りのチーム仲間が気の毒そうな顔で見ていた。その時、
きゃー!
うぉぉぉ!
男子校とは思えないくらい甲高い声と、男子校ならではの低い声が同時に姫川の耳に届く。
そちらの方へ目線を向けると、佐々木がボールを受け取ってゴールへ運んでいる所だった。
佐々木は正木に不服を言っていたとは思えない程、生き生きと躍動していた。足で自在にボールを操る姿は姫川を驚かせるには十分だった。
佐々木の動きから目が離せなくなる。周りの観客も息を呑んで佐々木の姿を見守っていた。
ドリブルをしていた佐々木がパスを出すと、味方チームの男がそれを受け取り、華麗にゴールを決める。
きゃー!
うぉぉぉ!
また同じような歓声が沸き起こった。仲間と戯れあいながら、ゴールを喜ぶ姿に生徒達の頬が赤くなる。それを見た三田が面白くなさそうに呟く。
「はぁ、腹立つな。あいつマジでモテるんだよな。この前も告白されてたし。」
その言葉に姫川が少し驚いたように、
「あいつが?そんな話は聞いた事がないな。」
と言った。すると、三田はなんでも無い事のように答える。
「いや、佐々木がモテるのは多分風紀のメンバー皆知ってるよ。知らないの、姫川くらいなんじゃない?」
姫川はそういえば正木も同じような事を言っていたなと思い出した。正木でも知っている事を身近な自分が知らないことに少し寂しさを覚える。確かに委員の活動中もたまに私語はあっても、圧倒的に仕事に向き合う時間の方が長かった。少しの寂しさを覚えながらも、姫川は風紀委員のメンバーの新たな一面が見られて良かったと素直に感じるのだった。

姫川が時計を見ると、そろそろ自分も会場に行く時間になっていたことに気づいた。姫川は校庭を後にすると第2体育館に向かった。第2体育館では全部で3種目行われる。その最後の競技がバドミントンだ。
姫川が体育館に向かって歩いていると、ボランティアの子達が一生懸命生徒達を誘導している所だった。姫川はそこに近づくと、ボランティアの子に声をかける。
「今日は参加してくれてありがとう。」
「いえ、僕は、あの、はい。」
姫川に話しかけられた事でパニックになったのか切れ切れに言葉を返す。そんな態度に動じる事なく、姫川がその子の肩をポンと叩く。
「もう少しよろしく頼むな。」
「ひっ!」
姫川に触れられた事で体を震わせるその子を見て姫川はやれやれと思う。身から出た錆とは言え、こんなに怖がられているとはと改めて感じる。
姫川は朝から何度かボランティアの子達に声を掛けているが、睨まれるか怖がられるかのどちらかの反応しか見ていない。姫川はふぅと溜息を吐くと、そのまま第2体育館へと歩みを進めた。





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