風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

新入生歓迎会②

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バドミントンの試合が始まるまで、まだ時間があるので、姫川は折角だから、他の風紀委員の様子を見に行くことにした。
「まずは、バレーと卓球だな。」
姫川は最初に庄司と牧瀬を見に行くことにした。普段あまり見ることのない姿を見れる事に、姫川は少しだけワクワクしていた。
第一体育館でバレー、第二体育館で卓球。短い渡り廊下で繋がった体育館は第二の方が少し小さめな造りになっていた。
姫川がどちらから見学しようか迷っていると、第一体育館の方で盛大な歓声が上がっていた。姫川はそちらが気になり自然と歩みを進めた。2階の観客席につこうとするが見学者が結構な人数いて座れそうにない。仕方がないので壁にもたれ掛かってバレーの様子を見守った。すると、
「庄司先輩!頑張ってー!」
と可愛い男の子達の声がした。その子達が見ている方向に目を向けると、庄司が汗を流しながら丁度アタックを打つ所だった。
バシィ!
こちらにまで届くアタックの音がボールの威力を物語っていた。姫川はそんな庄司の姿を見て目を丸くする。普段大人しくて言葉数の少ない庄司がこんなにスポーツに長けていることを今の今まで知らなかったからだ。同じチームの仲間とハイタッチしながら笑顔を見せる庄司が何故か凄く輝いて見えた。それは姫川だけではないようで、会場のあちこちで庄司を応援する声が聞こえた。
すごい人気だな。
姫川はそう思いながら、第2体育館に向かった。

第2体育館では牧瀬が卓球をしている筈だ。姫川はそう思って足を踏み入れると、そこには試合を眺める流の姿があった。最近は特に柏木といる時以外は殆ど笑顔を見せない流は、相変わらず無表情で何を考えているのか分からなかった。
「牧瀬くんなら負けましたよ。」
流の言葉に姫川が反応する。
「そうか、残念だな。牧瀬の卓球する姿も見ておきたかったんだが。」
「一瞬で負けてましたよ。というより、自らのミスが原因で負けてました。あの人、卓球したことないんじゃないですか?」
余りの容赦ない流の言いっぷりに姫川が苦笑する。
すると後ろから強烈な視線を感じて、姫川が振り返る。そこには、顔を真っ赤にしてジッとこっちを見る牧瀬の姿があった。
「姫川くん、今笑ったでしょ?自慢じゃないけどね。僕はスポーツが苦手なんだ。スポーツができなくて悪いかい?運動が出来なくても、僕は立派な大人になってみせるよ。」
普段、温厚な牧瀬の意外な姿に姫川はまた驚いた。しかし、何だかそんな牧瀬が可愛らしく、姫川は牧瀬の肩を軽く叩きながら微笑む。
「あぁ、スポーツが出来なくても、牧瀬が優秀な事は俺が良く知っている。」
それを聞いて、牧瀬が違う意味で顔を赤くする。そんな様子を流が冷めた目で一瞥した。

次に姫川は校庭を訪れる。ここではドッジボールの競技が行われていた。姫川がコートに目を遣ると、直ぐに目的の人物を見つけることが出来た。
三田は風紀での姿そのままで、ドッジボールのチームにおいてもムードメーカーの様だった。
持ち前の明るさでチームのメンバーとおちゃらけながら楽しそうにプレイしていた。ふと三田が姫川の方を向く。するとブンブンと手が千切れるのではないかと思うくらい手を振っている。姫川が手をふり返すと、三田の周りに居たチームのメンバーが目を丸くするのがわかる。自分が手を振り返したのが意外だったのか、体操服姿が意外だったのか判断がつかず姫川は複雑な気持ちになった。

姫川はドッジボールを見た後、少し校庭の裏で休んでいた。あまり人が居ないここは、姫川にとって落ち着く場所だった。腕の時計を確認しながら佐々木の競技まで少し時間があるのでどうしようかと悩んでいると、突然腰元に衝撃を感じた。
「うわっ!」
びっくりして思わず声が出た姫川が腰元を見ると、そこには柏木が張り付いていた。
「おい、離せ。」
姫川が冷めた口調で言うと、柏木が上目遣いに姫川を見てくる。
「姫ちゃん、まだ試合まで時間あるだろ?俺と一緒に回ろうぜ。」
柏木の言葉に姫川が冷たく返す。
「断る。」
すると柏木の腕の力が強くなった。
「嫌だ。良いって言ってくれるまで、このままでいるからな。」
何を言っても話が通じない相手に姫川がこれ見よがしに舌打ちをする。しかし、それをも気に留めず腰にしがみついてくる。
「おい、離せって言ってるだろう。」
こんな姿をあまり人に見られたくないが、幸い辺りに人の姿は見えなかった。
なんでこいつは俺のいる場所がわかったんだ。そんな事を考えていると、不意に腰にしがみついていた柏木の手が段々下に降りていくのがわかった。そして太もも辺りまでくると今度は内股の部分にしがみついてくる。いつもは制服を着ているが今日は体操服で、しかも短パンである。足を直に触られる感覚にゾワッと鳥肌が立つ。
「おっ、おい何やってんだ。」
「姫ちゃんがいつまで経っても良いって言ってくれないからだろ。ほら、どうすんの?俺と一緒に行くでしょ。」
強引すぎる柏木に姫川の顔が引き攣る。そして何よりも内股に食い込んだ柏木の指が、意思を持ったようにウネウネ動き、それがくすぐったいような、変な感覚に襲われて頭が混乱してくる。
「ちょっと、足から離れろ!」
必死に指を外そうとするがその度に食い込む指に動揺が隠せなくなる。
「マジで、やめろって。柏木!」
姫川は必死で赤くなりそうな顔を冷静に保とうとする。それをジッと見つめる柏木に焦りが募る。その時、
「おい、姫川には触れるなって言っただろう。」
正木が2人を鋭い視線で見ていた。
「あっ恭治!姫ちゃんひどいんだよ。俺と一緒に回ろうって言ってるのに付き合い悪いんだから。」
柏木はさっきまでが嘘の様にあっさり姫川から腕を離すと、正木の方へ駆け寄って行った。そんな柏木の様子に正木が少し安心した様に表情を緩める。姫川も緊張が少しずつ解けていくのがわかる。
「姫川はお前が誘っても無理だって今朝も言ったろう。俺が回ってやるから、一緒に行こう。」
そう言うと、一瞬だけ姫川に視線を寄越した正木が柏木と一緒に歩き出す。その表情は何か言いたげだったが姫川にはそれが何なのか分からなかった。
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