風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

新歓の前日

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生徒会も風紀もバタバタ過ごすうちにどんどんと日にちが経っていき、気づけば新入生歓迎会が明日に迫っていた。
正木と一緒に参加したボランティアの説明会も無事に終わり、姫川はホッとしていた。正木の言った通り例年とは比べものにならないくらいボランティアの参加人数が多かった。姫川は複雑な気持ちになりながらも、改めて生徒会の人気ぶりを知った。そして、正木が参加してくれてよかったとも姫川は感じていた。自分だけだとどうしても、威圧的且つ業務的になってしまう。そんな時に正木が要所要所で皆を和ませてくれたので、始終穏やかな雰囲気で説明会を進めることができた。
姫川達もスポーツ大会に参加する事で、今年はボランティアにかける負担も大きいがあの調子ならきっと大丈夫だろうと、姫川も胸を撫で下ろした。

新入生歓迎会を、明日に控えて、姫川は自室で久々に沙羅に電話を掛けていた。
「あれっ?この前より元気そうじゃん。転校生と仲良くなったとか?」
沙羅が姫川に聞いてくる。
「あいつの話はするな。俺たちに迷惑しか掛けない。」
心底嫌そうに言うと、沙羅がケラケラ笑う。その笑顔を見るだけで姫川は心が温かくなった。
「あぁ、でも仲良くなったと言えば、生徒会の連中とは少し話すようになったな。」
その姫川の言葉に沙羅が目を見開く。
「うそっ!あんなに嫌ってたのに何があったの?あの感じは絶対普通には仲良くなれないでしょ。」
沙羅の鋭い指摘に姫川が言葉を詰まらす。いや、伊東との事はすんなり話せるが、正木とのことは沙羅にはとても言いにくかった。
「ちょっと!何その顔。まさか私に隠し事する気?」
沙羅が姫川を睨む。その顔に姫川の顔が固まる。いつも周りから怖がれている姫川だが、沙羅にはとことん弱かった。
「いや、あの、」
「はっきりしないなぁ!もう観念して一から全部話しなさい。」
沙羅の有無を言わさぬ圧に、姫川が伊東と正木との事をポツリポツリと話始めた。沙羅は静かにそれを聞く。しかし、正木の事を話し始めると段々と目が輝き始めた。話終わる頃には、はぁぁぁと溜息まで吐いている。
「私の言った通りじゃん。」
全て聞き終わった沙羅が開口一番に姫川に言った言葉がこれだった。
「どういう意味だ?」
姫川が問うと、
「この前の電話の時、歩の体質がばれたら興味持たれちゃうって言ったでしょ。正に生徒会長に興味持たれまくってるじゃん。」
と沙羅が自信あり気に言う。
「あいつのはそんないいもんじゃないだろ。只、面白がってるだけだ。」
姫川のその言葉に沙羅が大きな溜息を吐く。
「男相手に幾ら面白いからって、耳に息吹き掛けたり、抱きついたりしないって。あんたに興味があるのよ。その正木って人。いつか歩、そいつに食われちゃうかもね。まぁ十分気をつけなよ。」
沙羅の恐ろしい言葉に姫川の顔がみるみる引き攣る。これ以上、沙羅に追い詰められたくない姫川は強引に会話を逸らす。
「もう、さっきから俺の話ばっかだろ。沙羅は?最近なんかあったか。」
姫川が聞くと、
「あぁ、彼氏ができたかな。」
と、沙羅が普通のことのように答える。
「はっ?彼氏?」
「そうそう。最近告白されて、まぁ付き合ってみるのもいいかなぁってね。」
「その話の方が俺の話より大事じゃないか?」
姫川が至って真剣に言うが、沙羅は首を横に振る。
「歩の学園って特殊だから、話聞くだけでもすっごい面白いんだよね。」
心底楽しそうに言う沙羅を睨みながら姫川は話を続ける。
「沙羅の彼氏ってどんな人?」
睨みながらも沙羅の恋愛事情を聞き出そうとする姫川に沙羅は苦笑する。
「夏休みはこっちに帰ってくるんでしょう?その時に紹介するわ。」
「あぁ、終業式が終わったら速攻でばあちゃん家に帰るわ。」
姫川が当然のように答える。長期休みだけ、家に帰れるのは姫川にとってかけがえのない時間だった。
「じゃあその時に紹介するね。歩、その時までにその怖い顔、少しは穏やかにしてきてよ。段々そっちの方が普通になってきてるんだから。」
沙羅が自分の眉間をトントンと叩きながら、姫川の仏頂面を否定する。姫川に似せた沙羅の顔真似に自然と笑いが込み上げる。暫く2人して笑い合った。
「じゃあそろそろ切るね。明日、新入生歓迎会頑張ってね。」
いつもは毒舌が多い沙羅もこういう時はさりげなく姫川を気遣ってくれる。
「ありがとう。じゃあまた。」
姫川が優しく微笑みながら電話を切る。大事な行事を明日に控えた姫川だが、沙羅と話した事で少し鋭気を養うことができた。





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