風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

生徒会と転校生に接触

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「親衛隊の動きか活発化してきているな。何度か交渉してみたけど、もう押さえが効きそうにないぞ。」
転校生が来てから5日が過ぎた。佐々木の報告を受けていた姫川は眉間に皺を浮かべながらその話を聞いた。
「面倒だな。生徒会の連中は何やってんだ。転校生の世話を引き受けるってことは、こういうことが起こる可能性があることはあいつらも承知の筈だろう。」
「生徒会の奴ら、たった5日でもう転校生の言いなりだよ。最近では、生徒会の活動も疎かになり始めてる。このままじゃ、学校の運営自体に影響が出るぞ。この辺で釘を打っといた方がいいんじゃないか?」
「はぁ、面倒くさい。俺はあいつらとできるだけ関わりを持ちたくないと言うのに。」
姫川の本音に佐々木が苦笑を漏らす。他の3名も仕事をしながらチラチラと2人の様子を窺っている。
生徒会の面々は何故か風紀を敵対視している。会えば嫌味ばかり言ってくる相手を姫川自身も快く思っていない。ライバルと言う爽やかな関係とは程遠い状態だ。
「まあね。姫川の言い分も分かるけど、一応俺たちのトップなんだし、そこはちゃんと責任もって対応してね。」
佐々木の言葉に姫川がふぅと溜息を吐く。
「わかってる。ちょっと行って話をしてくる。今何処にいるかわかるか?」
「親衛隊の話では最近は食堂のテラスで転校生と一緒にいることが多いらしいよ。俺も付いて行こうか⁇」
佐々木の申し出に一度考える仕草を見せた姫川は小さく首を横に振る。
「いや、いい。お前はもう一度親衛隊の所に行って、あと2日だけ猶予を貰え。俺はあいつらを説得してくる。」
「了解。」
佐々木はうんざりしたように返事をした。ここ数日は親衛隊を宥めるのに佐々木も苦労しているのだろう。そんな佐々木を一瞥すると、姫川は委員室を後にした。

姫川は食堂に着くと、すぐにテラス席へと足を向けた。食堂内より少しお洒落な机と椅子が並んだその空間に、姫川のお目当ての人物達は座っていた。
転校生の柏木を取り囲むように4人が楽しそうに会話している。その、和やかな空気に斬り込むように姫川が会話に割って入る。
「随分と楽しそうだな。自分たちの仕事も放り出してお前ら何してるんだ?」
柏木を含む5人全員が一斉に姫川に顔を向けた。
「なんだ姫川か。こんな所まで来て何の用だ?まさかお前も仲間に入れて欲しいのか?」
正木が馬鹿にしたような顔で姫川に問う。
「馬鹿言うな。生憎俺はお前たちみたいに暇じゃないんでな。」
「へぇー、そのお忙しい風紀委員長様が僕たちに何の様ですか?」
今度は流が嫌味たっぷりに姫川に言う。すると空気を読めない柏木が喋り出した。
「お前ら、姫ちゃんにそんな口聞くな。なぁ、俺いいぜ。姫ちゃんと話しても。こっち来いよ。」
そう言って姫川に近づいてくる。その馴れ馴れしさに姫川が顔を歪める。
「お前はそれ以上俺に近づくな。あと、お前に用はない。勝手に話しかけてくるな。」
グッと眉間に皺を寄せて睨むように言い返せば、柏木はその場でピタッと歩みを止めた。
「ちょっとー、俺たちの葵にその凶悪な顔を向けないでよ。」
「そうだよ。葵はそういう顔に免疫がないんだから。」
次に姫川に噛み付いたのは生徒会書記の津田と戸田だ。特に血のつながりはないのに、背格好から顔つきまでよく似ており、髪型も同じなので双子に間違われる事も多い。一見人懐こそうな見た目だが、口は悪い。
「別にお前らが何しようが俺の知ったことではないが、自分たちの役割だけはきちんと果たせ。余計な仕事を増やして俺たちに迷惑をかけるな。」
姫川のその言葉を聞いて、柏木がまた口を挟む。
「こいつらは悪くない。俺が言ったんだ。仕事ばっかりじゃなくて、たまには息抜きが必要だって。だってこんなのおかしいだろ!放課後も全部生徒会で仕事なんて。」
姫川はそれを聞いて頭が痛くなってきた。ここは普通の学園とは違う。役員になった生徒は特に将来会社を担っていく立場になる事が多い。生徒会や風紀委員は謂わば自分たちで学校を運営し、その資質を高めていくという側面も大きい。だから一般の学校と比較して役員の仕事量も多いし、教師がそれらに介入してくることも殆どない。そんな事は正木達だって百も承知の筈だ。姫川はここで転校生の言うことを真に受けて、仕事をさぼる男達にイライラが募った。
「部外者は黙ってろ。俺はこいつらに話してるんだ。お前は関係ない。いいか、2日だけ待ってやる。それまでに親衛隊の鎮静化と新入生歓迎会の概要を纏めて提出しろ。」
「おい、何でお前が俺たちに指示をする?」
正木が暗い瞳で姫川を睨みつける。
その視線を正面から受け止め、感情のない顔で正木を見下ろす。
「俺に指示されたくないなら、仕事をしろ。お前たちも分かるだろ?親衛隊が動いて一番に傷つくのはそこの転校生だ。そいつが大事なら、きちんと自分たちでそいつを守れよ。歓迎会もお前たちが企画を出さなきゃ俺たちも動けない。生徒会役員である以上責任は果たせ。」
姫川が介入するまでの和やかな雰囲気が嘘のように、冷たい空気が辺りに張り詰める。
「話はそれだけだ。」
姫川は正木達に言いたい事を言うとすぐに踵を返した。姫川にとっても居心地の悪いこの場に長く留まっていたくなかった。
「何あれ?」
「本当に嫌味な奴だ。」
姫川の背中に向かって正木達が非難の声を上げる。しかし、姫川が振り返ることはなくそのままその場を後にした。


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