風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

真意

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午前の授業が終わると姫川はその足で風紀委員室に向かう。広大な校内の奥まった場所にあるこの部屋は、来るだけでも結構な時間を有するので、本当は貴重な休み時間に来たくはない。しかし、姫川は今朝の正木の話が気にかかっていた。
委員室のドアを開けると窓からの光を受けて、薄い茶髪をキラキラさせながら優雅にサンドイッチを食べる副委員長の佐々木彰人と目があった。
「やぁ姫川、遅かったね。」
別に来るとも言っていなかったが、佐々木には姫川がここに現れることが分かっていたらしい。
「佐々木、知ってたのか?」
「何が?ちゃんと主語を言ってくれない?」
分かっている筈なのにニヤニヤとはぐらかす佐々木に姫川は僅かに顔を顰める。
「転校生のことだろうが。」
「あぁ、知ってたよ。いや、知ったのは今朝だけど。でも、俺たちには関係がないみたいだよ。その転校生は生徒会が直々にお相手するみたいだからね。」
その話に姫川は目を見開く。
「どう言う事だ?一般の生徒と対応が掛け離れていないか?」
「そんなの俺も知らないよ。そんなに気になるんなら、自分で校長に確認したら?」
無責任な佐々木の発言に苛立ちを覚える。
「はい、そんな顔しない。情報が少ないって言ってるんだよ。姫川だって、今朝正木に教えてもらって初めて知ったんだろう?僕だって似たようなもんなんだから。」
佐々木の言葉にふぅと一息つき、姫川は言った。
「あぁ、そうだな。放課後にでも校長と話してくる。5月のこの時期に転校生なんて、異例すぎるしな。これから、新入生歓迎のスポーツ大会もあるって言うのに、頭が痛い。」
「ついてないよね。姫川も。あと、1年で卒業って所でこんな面倒事。」
「それは、お前も同じだろ。」
ふっと2人で笑みを溢す。風紀委員は生徒からは敬遠される事も多いが、姫川自身が選んだ人選という事もあり、委員内は比較的仲がいい。少なくなった休み時間を、姫川は佐々木とともに昼食を食べる事で潰した。


「転校生は、歳明治の社長の息子だから。」
放課後、校長室を訪れた姫川は早速校長を問い詰めた。
「いやぁ、姫川くんにもばれちゃったか。」
と後ろ頭を掻きながらウインクをする校長。可愛くない。
「そもそも、隠そうとしないでください。」
校長のそんな態度を無視して、話を進めると校長が
上記の事を口にした。
「はっ?」
一瞬姫川はフリーズする。なんで歳明治の社長の息子がこんな時期にこの学園に入るのか。疑問だらけで頭が追いつかない。
「実は、相当手を焼く子らしくてね。海外の学校に行かせてたみたいなんだが、一年ちょっとで問題を起こして戻ってきちゃったんだよね。」
姫川は頭が痛くなってきた。心なしか胃もキリキリする気がする。尚も校長は続ける。
「まぁ社長も歳をとってから出来た子で溺愛し過ぎたんだろうねぇ。一般の学校じゃ問題起こすと自分の首を絞めることになるって言う事で、うちに白刃の矢がたった。もともと歳明治が経営する学校だし、全寮制で問題も漏れにくいでしょ。そういう訳だから、ごめんね。私もさぁ、流石に歳明治のトップに逆らうわけにはいかないのよ。」
全然誠意のない謝罪を受けて、姫川の額に青筋が浮かぶ。その凶悪な顔に校長が慌て出す。
「あのー、大丈夫よ。転校生の事は正木達に頼んでるし、風紀の手は煩わせないからね。」
取り繕うように言う校長の言葉は全然信用できない。姫川はその後の校長の話は殆ど頭に入らなかった。
茫然自失。正に校長室を後にした姫川の状態はこの言葉がピッタリだった。
勘弁してくれ。折角あと1年なのに。あと1年で俺は、安定した平穏な生活を手に入れることが出来るのに。
姫川は自分が嫌われる事は別に構わないと思っていた。何より大事だったのは平穏無事にこの3年間を過ごし、ここを卒業した後は祖母と一緒に静かに暮らす。それだけを夢見て、ここでの生活を頑張ってきた。それなのに•••
姫川はまだ見たことのない転校生を思ってギリっと奥歯を噛んだ。


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