乙藤のBL短編集

乙藤 詩

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痛いくらいに激しく抱いて②

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あのバーでの出会いがきっかけで明成とよく会うようになった。
初めはあのバーでだけ会って一緒に酒を飲む程度だったが、その内ご飯を食べたり、居酒屋で酒を呑んだりと、会う回数は徐々に増えていった。
会社でも、お互いの顔を認識した事で、すれ違ったりする時にはアイコンタクトを取ったりもした。
そんな中で少しずつ自分の気持ちに変化が生まれた。最初は本当に人懐っこい笑顔が可愛いという印象しかなかったのに、いつしか会うのが楽しみで仕方なくなった。
しかしそんな気持ちも虚しく、明成は自分に対して、特にそういった関係を期待しているようにも見えなかったし、純粋に先輩として慕ってくれているように見えた。
会って別れるとまたすぐ会いたくなる。次第に会って話して笑い合うだけでは満足出来なくなっている自分に気がついた。
もう会うのはやめた方がいいな。
この気持ちがより大きく膨れてしまう前に、熟考のすえ、明成と会うのをやめることに決めた。
35歳を迎え、恋愛に対してはかなり臆病になっていた。自分のこの歳と形で好いてくれる相手がそう簡単に見つけられるとは当然思っていなかった。
一夜の相手はいくらでも居た。でも1人に絞ろうと思うと途端に尻込みしてしまう。
片思いして、実らなかった時のダメージは大きすぎる。そんなリスクを、侵すほど大胆になることもできなかったし、自信もなかった。
俺は明成を呼び出し、居酒屋に誘った。明成は子犬の様な笑顔を見せて俺に付いてきた。そんな姿を見るのも今日で最後だと思うと、なんだか胸が苦しくなる。しかしそんな事お首にも出さず、目的の居酒屋へと足を進めた。
「近藤さんから誘ってくれるなんて、珍しいですね。」
席につきながら明成が言う。
「そうだったかな?」
本当はいつだって誘いたかったが、そんな思いを悟られないよう上手に惚けてみせる。
「もう、そうですよ。でも今日は誘ってもらって嬉しかったです。」
可愛い•••
思わずそう思ってしまう自分の思考を叱責する。
「あぁ、少し話があったからな。」
俺の言葉に明成が首を傾げる。
「えっ?なんですか話しって。待って、すごい気になる。」
思いのほか食い付いてきた明成に苦笑しながら、
「まぁ、取り敢えず飲もうぜ。それからゆっくり話せばいいし。」
と、適当に誤魔化した。
それからいつものように他愛ない話をしながら酒を煽った。いつもよりペースが早い気がしたが、これから、明成に話すことを考えるとどうしてもペースを抑えることができなかった。
「それで?話って何だったんですか?実はずっと気になってました。」
さっきまでしていた話が一段落ついたところで明成が話を切り出す。
とうとうきたか。
俺は覚悟を決めて、明成に話すことにした。緊張からか、酔いは少し冷めていた。
「いや、改まって言うと言いにくいんだけど•••」
少しの沈黙の後、決心が鈍らないよう一気に言葉を言い切る。
「こうやって山本くんと会うのは今日で最後にしたいんだ。」
「はっ?」
俺の言葉が予想外だったのか、明成がキョトンとした顔をする。
「だから、もうこうやって会うのは止めよう。」
はっきりとした口調でもう一度言うと、明成が顔を下げ俯いた。
「僕、近藤さんの気に障ることしましたか?」
微妙に震えたその声に少し罪悪感が芽生える。
「いや、君は悪くない。これは俺の問題なんだ。」
「納得できません!どうして急にそんな事言うんですか?せっかく仲良くなれたのに。せめて理由を、きちんと僕に説明してください。」
顔を上げキッと自分を睨むその表情に思わず溜息を吐く。本当の事なんか言いたくなかったが、それで明成が納得するのならと俺も覚悟を決めた。
「正直に言うけど、こうやって頻繁に会ってるうちに、俺は山本くんの事が好きになってしまったんだ。せっかくいい飲み友達が出来たのに、そういう目で見られてると思ったら君だって気分が良くないだろ?」
「それだったら、僕だって近藤さんの事好きですよ。」
俺の話を聞いてもそう返す明成に少し呆れる。
「いや、だから好きの意味が俺と山本くんじゃ違うから。純粋な気持ちじゃなくて、君に対して邪な気持ちがあるんだよ。」
本当は此処まで言いたくなかったが明成が自分の言葉をなかなか理解してくれないため、全てをはっきりと伝える羽目になった。しかしそれでも明成は反論をやめなかった。
「もし、近藤さんの言う邪な気持ちが性的な意味であるのなら、僕と近藤さんの気持ちは同じです。僕はいつでも貴方を抱きたいと思っていた。」
「!?」
明成の衝撃の告白に俺は二の句を告げられなかった。
「えっ?僕たちもしかして両思いなんですか?それはもう凄く嬉しいです。」
感動した様に言う明成の言葉で思考が益々混乱する。
「待て待て!山本くんもそういう意味で俺が好きってことか?一夜の相手だとか考えてんならやめといたほうがー」
「一夜の相手になんてする訳ないじゃないですか!そんな一夜の相手の為にこんなに段階踏んで口説いたりしませんよ。」
まだ言い終わらないうちから明成が矢継ぎ早に言葉を被せる。
「はっ?口説いてた?君が?俺を?」
「全てに疑問を持たないでください。そりゃそうでしょ。ゲイバーで出会って、何回もデートにお誘いしたらそれは口説いてる事になるんじゃないんですか?」
山本の言葉に一瞬固まる。まさか両思いになれるだなんて考えたこともなかった。
「そうだったのか。全然気がつかなかった。だって君からはそういう雰囲気、微塵も感じなかったぞ!」
俺だって35歳だ。恋愛の2つや3つは軽く経験している。そんな経験を持ってしても、明成にそのような素振りは感じられなかった。
「一応、近藤さんの気持ちが大事ですから、自分に脈がないうちは様子を見ようと僕も慎重になっていました。近藤さんの方こそ僕を好きな素振りなんて全くなかったですよ。」
「まぁ俺は大人だからな。男同士の恋愛なんてそう上手くいくもんじゃないし、端から思いが通じるなんて思いもしなかったから、それなりに勘づかれないよう気をつけてた。でもまぁ、そうやって気持ちを隠すのがしんどいと思うくらいには山本くんの事を好きになってしまったんだけど•••」
後ろ頭を掻きながらバツが悪そうに言うと、思わず見惚れるくらい優しい笑顔で明成が俺を見た。
「じゃあ僕たち付き合いましょうか?」
全く予想していなかった展開に面喰らったが、明成の気持ちは素直に嬉しかったので、その提案に有り難くのさせてもらった。
こうして俺たちの交際は始まったのだった。
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