逃げる恋でも実りますか

乙藤 詩

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和解

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バイトが終わって外に出るころには、もう明け方になっていた。翔太は伸びを一回すると少しひんやりとした空気に体を震わせた。家に帰ろうと一歩踏み出した時、
「翔太。」
また聞き慣れた声がした。その声に一瞬で体が固まった。まさか外でずっと俺のことを待っていたのか。どうして?翔太の中にはそんな思いが駆け巡った。
そんな翔太の気持ちを知ってか知らずか、拓人は目の前までくると口を開いた。
「翔太、ごめん。でも俺、どうしてもお前と話がしたくて。」
「話すことなんてない。俺とお前は、あの時終わっただろう。それにもう俺はあの時のことを思い出したくないんだよ。」
翔太は早口で言い返すと、足早に拓人の隣を通り過ぎようとした。
「待ってよ!」
いきなり横から手が伸びてきて翔太の腕を掴んだ。
「やめろ!」
触れられたことに驚いて、翔太はその手を思いっきり払いのけた。その時初めて、まじまじと拓人の顔を見た。少し大人っぽくなっていたが、あの頃と変わらない顔がそこにはあった。だが少し怒っているようにも見える。
「勝手に終わったことにするな!あのことがあって、ただでさえ混乱していたのに、あの日から急に姿を消すなんて。俺はあの日、幼馴染と親友を同時に失ったんだよ!」
拓人は声を荒げ一気に捲し立てた。気づくと肩に拓人の指がしっかりと食い込んでいた。
「痛い、離せ。」
「話をさせてくれるまでは、絶対に離さない。」
翔太は必死に肩の手を退けようとしたが、それ以上の力で掴み返してくる。
はぁぁぁぁ・・・
翔太は一度大きく息を吐くと、真剣な拓人を前に観念することにした。
「わかった。話をするから、とりあえず手を退けろ。痛え・・・」
その翔太の言葉で拓人も我に返ったのか、すぐに手を離して申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん・・・。」
「ったく、相変わらず馬鹿力だな。ちょっと行ったところに公園があるから、そこでもいいか?」
子犬のように小さくなった拓人をみて、翔太は思わずふっと笑みが漏れた。あんなに会いたくなかったのに、会ったらすぐに胸が温かくなるのを感じた。
なんとなく気まずい空気になり、公園までは2人とも黙ったままだった。公園に着くと、適当に近くのベンチに腰を下ろした。少しの沈黙の後、
「元気だった?」
拓人が伺うように話し始めた。
「あぁ・・・お前は?」
「俺はあれから必死で翔太を探したよ。ああ言われた時は驚いたけど、傷ついたお前の顔を見てすぐに後悔した。次の日家に行ったけど、お前出てきてくれないし。少し気持ちが落ち着けば会ってくれるかもしれないと思ったが、何日か経って家に行った時にはもうお前はいなかった。おばさんに居場所を聞いたけど、おばさんにも伝えずに家を出たって聞いて、もう打つ手がなくなって呆然としたよ。」
「家には時々、ちゃんと連絡とってるよ。」
「ねぇ、なんで俺の前から消えたの?どして居場所を教えてくれなかったの?おばさんには連絡してたのに、どうして俺には連絡をくれなかったんだよ!」
最初こそ穏やかな口調がどんどん激しさを増していった。本当に拓人は自分に会いたいと思ってくれていたことに、翔太は嬉しさと同時に申し訳なさを感じた。
「悪かった・・・」
翔太がポツリといった一言に拓人が顔を上げる。そのまま翔太は続ける。
「あの頃の俺は、大学受験にも失敗して精神的にもボロボロだった。何か縋るものが欲しかったんだと思う。確かにお前のことは好きだったが、あんな形で伝えるつもりはなかった。むしろ一生隠しておくつもりだったんだ。でもあの時無性に伝えたくなった。これでお前に受け入れてもらえたら、俺は救われるんじゃないかと思ってしまったんだ。でも実際はこの通り・・・お前との関係だけは壊したくなかったのに、あの時のお前の顔を見て自分自身でその関係を壊してしまったことに気づいた。すぐに後悔したよ。でも、時間は巻き戻せないし・・・次また会って拓人に明らかに拒絶されたら、俺はもう生きていけない。だからこれ以上自分を傷つけないために逃げた。最低だろ?でもまさか、お前が俺を探してくれていたなんて知らなかった。本当にすまない。」
自嘲気味に話す翔太だったが、今まで溜め込んでいた思いを口にできて、気持ちは軽くなっていた。翔太の話を黙って聞いていた拓人は、さっきまでの様子とは打って変わって落ち着きを取り戻していた。
「今までどうしてたの?」
「あれから俺は家を出て、知っている人がいないここで一人暮らしを始めた。でも最初は何もする気が起きなくて、ずっと引きこもってた。でもそれじゃあ生活できないから、バイトを始めた。いろんなバイトをしているうちに少しずつ考えたり、悩んだりする時間が減ったんだ。2年間はそんな生活を送ったよ。」
「今は?」
「今は親とも相談して大学に通いながら、バイトを続けてるよ。今年4年生なった。お前は?もう社会人だよな?」
「うん、っていってもそんなに大きな会社じゃないよ。中小企業の営業職さ。よく言う普通のサラリーマンだな。今年こっちに転勤になったんだ。でもまさか翔太に会えるなんて。」
お互い本音で話したことで、気持ちはすっかり落ち着いていた。それから2人は取り留めのない話で盛り上がった。夢中で話していたが、気がつくと何組かの親子が公園で遊んでいた。
「もうこんな時間か。」
翔太は腕時計に目をやると拓人に言った。
「お前、仕事行かなくていいのか?」
「今日は休みだよ。」
拓人が嬉しそうに答えた。
「ねぇ、そうだ!これから一緒に遊びにいかない?昔みたいにこの辺ぷらぷらしようよ。」
目を輝かせながら誘ってくる拓人に思わず頬を緩めてしまいそうになりながらも、翔太は答えた。
「勘弁してくれ。俺は深夜から働いてやっと家に帰るんだ。頼むから寝かせてくれ。」
「それを言ったら俺だって、仕事終わりにコンビニ行って、それからずっとお前を待ってたんだから、条件は一緒だろ。むしろ、朝から働いてた俺の方がしんどいに決まってる。」
すっかり元の調子を取り戻した拓人が意気揚々と話し始めた。こうなるともう拓人の意見を聞くしかない。いろいろな事があって体はとても疲れていたが翔太は拓人の意見を聞くことにした。
「わかったよ。でも、さすがにこれから街へ行く元気はないから、適当に飯買って、俺の家に来るのはどうだ?ここから近いんだよ。」
翔太の提案に拓人は暫し、悩む様子を見せた。そこで翔太は自分の過ちに気づいた。いくら拓人が自分を探していたからといって、好意を持っているかもしれない相手の家に進んで来たがるはずがない。翔太は少し頬を赤めながら慌てて訂正した。
「悪い・・・さすがに俺の家はあれだよな。近くのファミレスで飯でも食おうぜ。」
恥ずかしさから拓人の話も聞かず歩き出そうとすると、
「いや、いいよ。翔太の家に行こう。その方がゆっくり話せるし。」
拓人はニコッと笑って言った。
「いや、でも・・・」
それでも翔太が渋った。
「翔太の今の生活ぶりも気になるし、お前の家に行ってみたいんだ。ダメか?」
ダメも何も最初に自分の家に誘ったのは翔太なので拓人を家に招くことにした。
「お前が気にしないなら俺の家でもいいよ。じゃあ何か買っていくか。」
少しの気まずさはありつつも翔太は拓人と歩き出した。
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