せっかく異世界から帰ってきたのに、これじゃあ意味がない

乙藤 詩

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番外編

黒の執着18

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暫くするとクロノが部屋から大きな袋を抱えて出てきた。
「いや、あの、これ。」
意味のある言葉を発せないままクロノがその大きな袋を栄に差し出す。
「何だこれは?」
栄は怪しむような顔で聞き返すと、少しムッとした顔でクロノが答えた。
「だから!プレゼントだろ!」
栄はそれを聞いて目を見開いた。その間もクロノは
「思ってたのと反応が違うんだけど・・・」
とブツブツ文句を言っている。しかしまさかクロノがこんなものを自分に用意していたなど想像もしていなかった栄は固まったままだ。
「嬉しくないのかよ。」
栄の淡白な反応に痺れを切らしたクロノがグイッと顔を近づけてきた。そこで初めて栄は自分が驚きのあまり固まっていた事を認識した。
「あぁ、悪い。余りに突然だったから驚いただけだ。何でまた急にプレゼントなんか・・・」
栄がそう言いながら袋を受け取ると満足そうにクロノが言った。
「店の子がさ、客からプレゼントを貰って嬉しそうにしてたんだよ。だから何がそんなに嬉しいのかって聞いたら・・・」
勿体ぶるように一度言葉を切ってから、クロノはまた話し始めた。
「自分の為に時間を割いて、一生懸命選んでくれた姿を想像するとすごく嬉しいって言ったんだ。だから俺も栄さんがそんな気持ちになってくれたらいいなと思って。」
少し恥ずかしそうにそう言うクロノを見て栄は唖然とする。
こいつは誰だ?
自信家で欲望に忠実で、不遜な態度のガキという印象だったクロノがここに来て新たな一面を見せ始めた事に栄は動揺を隠しきれなかった。
「早く開けてみろよ。」
そう言うクロノに少し気恥ずかしさを感じながらも栄は
「あぁ。」
と答えた。
かなり大きい袋には一体何が入っているのかと考えながら栄は袋の上の紐を解いていった。
そして中身を見てそのまま言葉を失った。
「どう?いいだろ?」
「これを俺に?店の子と間違えてるんじゃ無いのか?」
余りにも自分の印象とかけ離れたプレゼントに栄はそう言わずにはいられなかった。
「そんなわけねぇだろ。ちゃんとあんたに買ってきたんだよ。」
栄はその大きなものを袋から取り出しながらマジマジと見つめる。
「栄さんの部屋って何もなくて寂しいから、店の子に言ったらこういうのがいいって教えてくれたんだ。」
栄が喜ばない事に不満を感じながらクロノがそう言った。
「ちゃんとプレゼントを送る相手がおっさんだって言ったのか?」
栄が聞くと
「あっ・・・」
と言ってクロノが固まった。
「ったく、こんなでかいのどうするんだよ。」
栄は脱力しながら眉間の辺りを指で揉んだ。
クロノが栄に贈ったもの。それは巨大なテディベアのぬいぐるみだった。
「30過ぎたおっさんのプレゼントがクマのぬいぐるみなんて笑えない。」
疲れたように栄が呟くとそれを振り払うようにクロノが声を上げた。
「そんな事ないだろ。この部屋本当に何も無いし、こういうのが一個あった方がいいんだって!」
やけになっているのか、クロノは栄のダイニングのカウンターに置いてある使ってない椅子を引っ張り出してくると、それを部屋の端に置きその上にテディベアを座らせた。
「ほらっ、これで少しは温かみのある部屋になっただろ?」
栄は項垂れていた顔をあげるとクマの方へ目線を向けた。そこには愛嬌のあるつぶらな瞳のクマと、必死の顔で栄の反応を窺うつぶらな瞳のクロノがいた。
クックックッ・・・ハハッ
それを見た途端栄は込み上げてくる笑いを抑えきれなかった。普段滅多に声を上げて笑わない栄が腹を抱えて笑っていた。それはいつもの皮肉を込めた笑い方と違い、心の底からの笑顔のようだった。そんな栄の姿を驚いたようにクロノが見る。
栄は額に手を置いて下を向きながらずっと肩を震わせている。
初めて見る栄の本気の笑顔にクロノは暫し見惚れていた。
そして強い衝動に駆られ、そのまま栄に近づくとその体を強く抱きしめた。
「ククッ・・・何だよ急に。」
栄の笑う吐息を耳に受けながらクロノは自分の体が熱く火照っていくのを感じた。
このまま栄さんをどこかに閉じ込めて永遠に自分だけが見ていたい。自分だけを見てほしい。
クロノは本気でそう思った。それは今まで感じたことのないほどの強烈な感情だったがそれが何を意味しているのかクロノ自身にも分かっていなかった。

そのままもつれ合う様に2人はベッドに雪崩れ込んだ。いつもより興奮しているクロノを栄は余裕の表情で受け止めると、
「どうした?クマに見られて興奮してるのか?」
と揶揄うように言った。
クロノはそれを咎めるように、貪るような勢いで栄の唇に齧り付く。
クロノは魔術を使っていなかったが、それにも気付かず、2人は深く深く体を繋げていくのだった。
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