14 / 80
十三話(中編)
しおりを挟む
あの一件から、ラティーヌは冬馬を自分のものにしたくて堪らなくなっていた。
そして、注意深く冬馬を観察しその機会を窺った。
何日か冬馬の行動を観察しているうちに、ラティーヌはあることに気づいた。
長い遠征中は、風呂やシャワーもないため、近くの川で体を清める。皆、同じように体を洗うのに、冬馬は皆の前では頑として水浴びをしなかった。おそらく自分が男たちからどういう目で見られているのか知っていたからだろう。しかし冬馬の衣服や体はそれなりに清潔で、いつどこで体を清めているのかラティーヌは疑問に思った。
そんなある日、深夜ラティーヌが眠りについていると、人の動く気配を感じた。静かに野営用のテントから出て様子を見ると、冬馬がどこかへ行くのが見えた。ラティーヌは冬馬の動向が気になり、そっと後をつけることにした。
冬馬は森を抜け、辺りを気にしながら、日中皆で水浴びをしていた場所に来ていた。
そこでおもむろに衣服を脱ぐと、静かに水浴びを始めた。星明かりに照らされた冬馬の裸体は、美しいの一言では表現できないほどの妖艶さを湛えていた。
ラティーヌは自分しか知らない冬馬の行動を知って悦びに震えた。そして、冬馬を抱くならこの機会を逃さない手はないと感じた。
ジャリッ
ラティーヌは敢えて音を立てて冬馬の方に近寄った。
「誰だ!?」
一瞬で冬馬が振り返り警戒心を滲ませる。
しかしその声に答えることはなく、ラティーヌはそのまま歩みを進める。
ジャリっジャリっ
ピリピリと張り詰めた空気がお互いの間を流れる。
ラティーヌが星明かりの下に来た頃、冬馬の警戒心が宿った目とぶつかった。
ラティーヌを認識した冬馬は安心したようにふっと息を吐く。
「何だ・・・ラティーヌか。どうした?お前も水浴びに来たのか?」
ラティーヌは人に興味を示すことが無いため、冬馬はまさか自分が目的でここまで来たとはつゆ程も考えていない。
何も答えないラティーヌに首を傾げながら、何の疑いもなく近寄ってくる。
「俺はちょうど上がるところだから、まぁゆっくりしていけよ。」
軽い口調でそういうとラティーヌの横を通り過ぎようとする。
その手をラティーヌがガシッと掴んだ。
「!?」
冬馬は驚いた顔でラティーヌを見返す。
「水浴びなんかじゃありませんよ。貴方をつけてきました。」
その言葉に冬馬が目を瞠る。
「なっなんか用でもあったのか?」
本当はラティーヌの言葉の意味に薄々気づいている筈なのに冬馬は信じたくないとばかりに言葉を詰まらせながら尋ねてくる。
「はっきり言わないとわかりませんか?貴方を抱きにきたんですよ。」
その瞬間ものすごい力で掴んでいた腕を振り払われた。
「てめぇ何のつもりだ?」
さっきまでの冬馬は鳴りを潜め、触れたら怪我をしそうな鋭い目で見つめ返してくる。
あの夜洞穴で男たちを見つめるその目を思い出しラティーヌは興奮を抑えきれない。
「意外ですか?私が貴方を抱きたいと言うのは。」
ラティーヌは自分の興奮を冬馬に悟られないよう、冷静を装って話しかける。
「あぁ、笑えない冗談だ。」
話している間にもラティーヌはジリジリと、間合いを詰める。
冬馬は左右に目を配りながら次の行動を思案しているようだった。
「貴方が私に勝てますか?言っておきますが私は強いですよ。」
「自分で強いって言ってりゃ、ざまぁねぇな。」
あくまで強気の冬馬にラティーヌは目を細める。
ジリジリ詰め寄っていたラティーヌが、冬馬の間合いに入った。冬馬はこれ以上詰められないよう一歩下がる。
「それ以上近寄ったら容赦しねぇ。」
静かに、しかし怒気を孕んでラティーヌを睨む。
その視線を平然と躱して、ラティーヌがまた一歩前に出た。
その途端、冬馬がラティーヌ目掛けて飛び出し、一気に間合いを詰めると足下に回し蹴りを繰り出した。しかし、ラティーヌも負けじとその蹴りを飛んでヒラリと躱わすと冬馬の足を掴みに掛かる。すぐに体勢を立て直した冬馬が横に飛び退きそれを避ける。
ビリビリとするような緊張感の中また、2人が対峙する。
「流石、素早い動きですねぇ。これは一筋縄ではいかなそうだ。」
ラティーヌが微笑みながらそう言うと、
「当然だろ。タダでこの体触らせてたまるかよ。」
と、特に表情も無い冬馬が吐き捨てるように返す。
「そう言われると、無性に触りたくなります。」
「この変態がっ。」
両者譲らず睨み合いが続く。次に先手を打ったのはラティーヌだった。
足元の小石を拾い上げると、それを冬馬に向かって投げつけた。それを躱そうと冬馬が体を傾ける。その隙に一気に間合いを詰めて下からアッパーのように拳を鳩尾に向かって突き出した。
冬馬は石を躱した後、両手でその拳を受け止める。しかし体全体の力で繰り出されたその拳は重く、上手く受け止めきれず体のバランスを崩してしまう。
そこを狙うかのように、ラティーヌは冬馬の足下を掬うようにキックをする。
冬馬はすんでのところでそのキックを避けようとジャンプした。
ところがラティーヌは途中でキックをやめるとジャンプした冬馬の髪を持って地面に叩きつけた。
「ぐぅっ!」
背中を浅瀬の地面に打ちつけて冬馬が呻く。
ラティーヌのフェイントに引っかかった冬馬は痛みから中々起き上がる事が出来ない。
「くそっ!」
「だから言ったでしょう?私は強いですよって。」
言いながらラティーヌは未だ立ち上がれない冬馬の体を抱き抱えようとする。
「ぐぅ、くそっ離せ。」
痛みでろくな抵抗もできなくなっていたが、それでもラティーヌに触られまいと手足をばたつかせ抵抗する。その手が偶然にも、ラティーヌの顎にヒットした。思わぬ反撃にラティーヌが一瞬怯む。
その隙に痛む体を奮い立たせ冬馬が駆け出した。
「くそッ」
せっかく捕まえかけた獲物が逃げ出したことにラティーヌが苛立つ。すぐに追いかけ逃げるのに必死な冬馬の首元に手刀を落とした。
「う“っ!」
冬馬は呻き声を上げるとその場に倒れ込んだ。ラティーヌはその姿を見下ろしながら、微笑んだ。
星明かりが照らすラティーヌの顔は口元に笑みだけ浮かべ、目をギラギラさせたゾッとするような顔だった。
そして、注意深く冬馬を観察しその機会を窺った。
何日か冬馬の行動を観察しているうちに、ラティーヌはあることに気づいた。
長い遠征中は、風呂やシャワーもないため、近くの川で体を清める。皆、同じように体を洗うのに、冬馬は皆の前では頑として水浴びをしなかった。おそらく自分が男たちからどういう目で見られているのか知っていたからだろう。しかし冬馬の衣服や体はそれなりに清潔で、いつどこで体を清めているのかラティーヌは疑問に思った。
そんなある日、深夜ラティーヌが眠りについていると、人の動く気配を感じた。静かに野営用のテントから出て様子を見ると、冬馬がどこかへ行くのが見えた。ラティーヌは冬馬の動向が気になり、そっと後をつけることにした。
冬馬は森を抜け、辺りを気にしながら、日中皆で水浴びをしていた場所に来ていた。
そこでおもむろに衣服を脱ぐと、静かに水浴びを始めた。星明かりに照らされた冬馬の裸体は、美しいの一言では表現できないほどの妖艶さを湛えていた。
ラティーヌは自分しか知らない冬馬の行動を知って悦びに震えた。そして、冬馬を抱くならこの機会を逃さない手はないと感じた。
ジャリッ
ラティーヌは敢えて音を立てて冬馬の方に近寄った。
「誰だ!?」
一瞬で冬馬が振り返り警戒心を滲ませる。
しかしその声に答えることはなく、ラティーヌはそのまま歩みを進める。
ジャリっジャリっ
ピリピリと張り詰めた空気がお互いの間を流れる。
ラティーヌが星明かりの下に来た頃、冬馬の警戒心が宿った目とぶつかった。
ラティーヌを認識した冬馬は安心したようにふっと息を吐く。
「何だ・・・ラティーヌか。どうした?お前も水浴びに来たのか?」
ラティーヌは人に興味を示すことが無いため、冬馬はまさか自分が目的でここまで来たとはつゆ程も考えていない。
何も答えないラティーヌに首を傾げながら、何の疑いもなく近寄ってくる。
「俺はちょうど上がるところだから、まぁゆっくりしていけよ。」
軽い口調でそういうとラティーヌの横を通り過ぎようとする。
その手をラティーヌがガシッと掴んだ。
「!?」
冬馬は驚いた顔でラティーヌを見返す。
「水浴びなんかじゃありませんよ。貴方をつけてきました。」
その言葉に冬馬が目を瞠る。
「なっなんか用でもあったのか?」
本当はラティーヌの言葉の意味に薄々気づいている筈なのに冬馬は信じたくないとばかりに言葉を詰まらせながら尋ねてくる。
「はっきり言わないとわかりませんか?貴方を抱きにきたんですよ。」
その瞬間ものすごい力で掴んでいた腕を振り払われた。
「てめぇ何のつもりだ?」
さっきまでの冬馬は鳴りを潜め、触れたら怪我をしそうな鋭い目で見つめ返してくる。
あの夜洞穴で男たちを見つめるその目を思い出しラティーヌは興奮を抑えきれない。
「意外ですか?私が貴方を抱きたいと言うのは。」
ラティーヌは自分の興奮を冬馬に悟られないよう、冷静を装って話しかける。
「あぁ、笑えない冗談だ。」
話している間にもラティーヌはジリジリと、間合いを詰める。
冬馬は左右に目を配りながら次の行動を思案しているようだった。
「貴方が私に勝てますか?言っておきますが私は強いですよ。」
「自分で強いって言ってりゃ、ざまぁねぇな。」
あくまで強気の冬馬にラティーヌは目を細める。
ジリジリ詰め寄っていたラティーヌが、冬馬の間合いに入った。冬馬はこれ以上詰められないよう一歩下がる。
「それ以上近寄ったら容赦しねぇ。」
静かに、しかし怒気を孕んでラティーヌを睨む。
その視線を平然と躱して、ラティーヌがまた一歩前に出た。
その途端、冬馬がラティーヌ目掛けて飛び出し、一気に間合いを詰めると足下に回し蹴りを繰り出した。しかし、ラティーヌも負けじとその蹴りを飛んでヒラリと躱わすと冬馬の足を掴みに掛かる。すぐに体勢を立て直した冬馬が横に飛び退きそれを避ける。
ビリビリとするような緊張感の中また、2人が対峙する。
「流石、素早い動きですねぇ。これは一筋縄ではいかなそうだ。」
ラティーヌが微笑みながらそう言うと、
「当然だろ。タダでこの体触らせてたまるかよ。」
と、特に表情も無い冬馬が吐き捨てるように返す。
「そう言われると、無性に触りたくなります。」
「この変態がっ。」
両者譲らず睨み合いが続く。次に先手を打ったのはラティーヌだった。
足元の小石を拾い上げると、それを冬馬に向かって投げつけた。それを躱そうと冬馬が体を傾ける。その隙に一気に間合いを詰めて下からアッパーのように拳を鳩尾に向かって突き出した。
冬馬は石を躱した後、両手でその拳を受け止める。しかし体全体の力で繰り出されたその拳は重く、上手く受け止めきれず体のバランスを崩してしまう。
そこを狙うかのように、ラティーヌは冬馬の足下を掬うようにキックをする。
冬馬はすんでのところでそのキックを避けようとジャンプした。
ところがラティーヌは途中でキックをやめるとジャンプした冬馬の髪を持って地面に叩きつけた。
「ぐぅっ!」
背中を浅瀬の地面に打ちつけて冬馬が呻く。
ラティーヌのフェイントに引っかかった冬馬は痛みから中々起き上がる事が出来ない。
「くそっ!」
「だから言ったでしょう?私は強いですよって。」
言いながらラティーヌは未だ立ち上がれない冬馬の体を抱き抱えようとする。
「ぐぅ、くそっ離せ。」
痛みでろくな抵抗もできなくなっていたが、それでもラティーヌに触られまいと手足をばたつかせ抵抗する。その手が偶然にも、ラティーヌの顎にヒットした。思わぬ反撃にラティーヌが一瞬怯む。
その隙に痛む体を奮い立たせ冬馬が駆け出した。
「くそッ」
せっかく捕まえかけた獲物が逃げ出したことにラティーヌが苛立つ。すぐに追いかけ逃げるのに必死な冬馬の首元に手刀を落とした。
「う“っ!」
冬馬は呻き声を上げるとその場に倒れ込んだ。ラティーヌはその姿を見下ろしながら、微笑んだ。
星明かりが照らすラティーヌの顔は口元に笑みだけ浮かべ、目をギラギラさせたゾッとするような顔だった。
22
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる