上 下
11 / 79

十一話

しおりを挟む
その警察署は思った以上に立派な建物だった。街に点在する交番とは違い、少し建物の作りもお洒落な気がする。しかし、駐車場には一般車の他に、パトカーや白バイも多く停まっているので、嫌でもここが警察署だと言うことがわかる。署内に入ると早速受付のような所で名前を名乗る。あまり、警察署に足を踏み入れたことのない冬馬は何も悪いことはしていないのに、何故か少しドキドキした。
あまり待つこともなく、受付の人とは別の警察官が冬馬を案内する。
会いたくない・・・
あんな事をされた後に、どんな顔であえばいいのか、まだ自分の怒りも収まっていない。
冬馬はそうは思いながらも、警察官に促され後ろについていく。すると見たことのある白銀の髪の男が椅子に座っている姿が見えた。
昨日の不遜な態度とは打って変わって、まるで小動物のように小さくなっている。
余程怒られたのか・・・
「電話した彼、来てくれましたよ。」
案内していた警察官が、ラティーヌの側にいる別の署員に声を掛ける。
すると、その署員とラティーヌが両方ばっと顔を上げた。
冬馬は一度強くラティーヌを睨むと、側の署員に軽く頭を下げた。
「いやいや、お越し頂きありがとうございます。この方言ってることがちんぷんかんぷんで、こちらとしてもどう対処すればよいか考えあぐねていた所です。」
「あのー、こいつ何かしましたか⁇」
冬馬が署員に聞くと、
「スーパーで食べ物を取って帰ろうとしましてね。店員が声を掛けたところ、金だと言ってこれを渡したんですよ。」
そう言って机に置いてある物を署員は指差す。それはガラス細工のような、所謂おはじきのような物だった。
はぁぁぁぁ
また、深いため息が冬馬から漏れる。
このおはじきのような物はオンブレーヤードでお金として流通しており、商品の対価としてそれを渡す。このお金は色によって価値が違う。透き通ったガラスの中央に赤や青や緑の色が映える。とても綺麗な見た目ではあるが、これがお金だと説明しても、この世界では通用しないに決まっている。
「すみません・・・」
冬馬がそれしか言えずにいると、
「この方、どこか別の国から来たの?こっちの常識が通用しなくて本当に困ってたんですよ。今どき携帯も持ってないし、貴方に連絡を取りたいと行っても、連絡用の鳥がいないとかなんとか・・・全く参りましたよ。あぁ、あと女性に対してやたらと恐縮して・・・膝をついたまま頭を上げようとしないんですよ。わたしがその女性と話すと、無礼だと怒り始めるし。まさか、タイムスリップしてきたとかじゃないよね?格好も奇抜だし!ははっまさかね。」
確かにそう疑ってしまう程、ラティーヌはこっちの世界では無知だ。文明もオンブレーヤードはこの世界ほど発展していなかったので、携帯はもちろんなく、連絡手段はステラークと言う尾の長い賢い鳥だった。
また、この国では女性がたくさんいるけれどオンブレーヤードでは女性は極端に少なく崇める対象なので、ラティーヌがそのような行動に出たのは致し方ない。
冬馬は怒りに任せてラティーヌを追い出したことを後悔し始めていた。こんなことなら直ぐに国に帰るよう言えばよかったと。
「いや、本当に迷惑をおかけしました。元々箱入り息子で、外国暮らしのボンボンなんです。常識も何もないもので、社会経験として俺が面倒を見ていたんです。今日は大人しく家に居る約束だったんですが、どうやら勝手に出てきたみたいで・・・すみません。」
苦し紛れの言い訳に内心ドキドキしながら冬馬が言う。
「・・・。まぁ、それなら仕方ないけどねぇ。こっちも暇ではないので、これからはお願いしますよ。」
署員の言葉に冬馬はペコペコと頭を下げる。それを恨めしそうにラティーヌが見ていた。
「では、今日はこのままお引き取り頂いて結構です。あと、彼の身分を証明できる物がありますか?」
もう帰れると安心したのも束の間、身分証明という言葉を聞いて冬馬は身を固くした。
ラティーヌは異世界から来たのだから、もちろん戸籍も身分を証明できる物もある訳ない。冬馬は焦っているのを悟られないよう、落ち着いた雰囲気を装おって署員に答えた。
「多分着の身着のままで出てきてしまったと思うので、本人の身分証は僕の家にあります。今日のところは僕の身分証明書しかないんですけど・・・」
上目遣いに署員を見て、祈る気持ちで答えを待つ。
「そうですか・・・では今日の所はそれで大丈夫です。しかし、また後日ご連絡するかもしれないので、連絡先をお伺いしてもいいですか?」
なんとか今日は切り抜けれそうだと、内心ホッとしながら、冬馬は渡された紙に連絡先を書いた。
「本当にご迷惑お掛けしました。」
深々と頭を下げ、冬馬は座っていたラティーヌの頭を軽く小突くと、顎で付いてくるよう促した。
ラティーヌは
「痛い・・・」
と小さい声で呟きながら、冬馬の後を追いかけるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...