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十一話
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その警察署は思った以上に立派な建物だった。街に点在する交番とは違い、少し建物の作りもお洒落な気がする。しかし、駐車場には一般車の他に、パトカーや白バイも多く停まっているので、嫌でもここが警察署だと言うことがわかる。署内に入ると早速受付のような所で名前を名乗る。あまり、警察署に足を踏み入れたことのない冬馬は何も悪いことはしていないのに、何故か少しドキドキした。
あまり待つこともなく、受付の人とは別の警察官が冬馬を案内する。
会いたくない・・・
あんな事をされた後に、どんな顔であえばいいのか、まだ自分の怒りも収まっていない。
冬馬はそうは思いながらも、警察官に促され後ろについていく。すると見たことのある白銀の髪の男が椅子に座っている姿が見えた。
昨日の不遜な態度とは打って変わって、まるで小動物のように小さくなっている。
余程怒られたのか・・・
「電話した彼、来てくれましたよ。」
案内していた警察官が、ラティーヌの側にいる別の署員に声を掛ける。
すると、その署員とラティーヌが両方ばっと顔を上げた。
冬馬は一度強くラティーヌを睨むと、側の署員に軽く頭を下げた。
「いやいや、お越し頂きありがとうございます。この方言ってることがちんぷんかんぷんで、こちらとしてもどう対処すればよいか考えあぐねていた所です。」
「あのー、こいつ何かしましたか⁇」
冬馬が署員に聞くと、
「スーパーで食べ物を取って帰ろうとしましてね。店員が声を掛けたところ、金だと言ってこれを渡したんですよ。」
そう言って机に置いてある物を署員は指差す。それはガラス細工のような、所謂おはじきのような物だった。
はぁぁぁぁ
また、深いため息が冬馬から漏れる。
このおはじきのような物はオンブレーヤードでお金として流通しており、商品の対価としてそれを渡す。このお金は色によって価値が違う。透き通ったガラスの中央に赤や青や緑の色が映える。とても綺麗な見た目ではあるが、これがお金だと説明しても、この世界では通用しないに決まっている。
「すみません・・・」
冬馬がそれしか言えずにいると、
「この方、どこか別の国から来たの?こっちの常識が通用しなくて本当に困ってたんですよ。今どき携帯も持ってないし、貴方に連絡を取りたいと行っても、連絡用の鳥がいないとかなんとか・・・全く参りましたよ。あぁ、あと女性に対してやたらと恐縮して・・・膝をついたまま頭を上げようとしないんですよ。わたしがその女性と話すと、無礼だと怒り始めるし。まさか、タイムスリップしてきたとかじゃないよね?格好も奇抜だし!ははっまさかね。」
確かにそう疑ってしまう程、ラティーヌはこっちの世界では無知だ。文明もオンブレーヤードはこの世界ほど発展していなかったので、携帯はもちろんなく、連絡手段はステラークと言う尾の長い賢い鳥だった。
また、この国では女性がたくさんいるけれどオンブレーヤードでは女性は極端に少なく崇める対象なので、ラティーヌがそのような行動に出たのは致し方ない。
冬馬は怒りに任せてラティーヌを追い出したことを後悔し始めていた。こんなことなら直ぐに国に帰るよう言えばよかったと。
「いや、本当に迷惑をおかけしました。元々箱入り息子で、外国暮らしのボンボンなんです。常識も何もないもので、社会経験として俺が面倒を見ていたんです。今日は大人しく家に居る約束だったんですが、どうやら勝手に出てきたみたいで・・・すみません。」
苦し紛れの言い訳に内心ドキドキしながら冬馬が言う。
「・・・。まぁ、それなら仕方ないけどねぇ。こっちも暇ではないので、これからはお願いしますよ。」
署員の言葉に冬馬はペコペコと頭を下げる。それを恨めしそうにラティーヌが見ていた。
「では、今日はこのままお引き取り頂いて結構です。あと、彼の身分を証明できる物がありますか?」
もう帰れると安心したのも束の間、身分証明という言葉を聞いて冬馬は身を固くした。
ラティーヌは異世界から来たのだから、もちろん戸籍も身分を証明できる物もある訳ない。冬馬は焦っているのを悟られないよう、落ち着いた雰囲気を装おって署員に答えた。
「多分着の身着のままで出てきてしまったと思うので、本人の身分証は僕の家にあります。今日のところは僕の身分証明書しかないんですけど・・・」
上目遣いに署員を見て、祈る気持ちで答えを待つ。
「そうですか・・・では今日の所はそれで大丈夫です。しかし、また後日ご連絡するかもしれないので、連絡先をお伺いしてもいいですか?」
なんとか今日は切り抜けれそうだと、内心ホッとしながら、冬馬は渡された紙に連絡先を書いた。
「本当にご迷惑お掛けしました。」
深々と頭を下げ、冬馬は座っていたラティーヌの頭を軽く小突くと、顎で付いてくるよう促した。
ラティーヌは
「痛い・・・」
と小さい声で呟きながら、冬馬の後を追いかけるのだった。
あまり待つこともなく、受付の人とは別の警察官が冬馬を案内する。
会いたくない・・・
あんな事をされた後に、どんな顔であえばいいのか、まだ自分の怒りも収まっていない。
冬馬はそうは思いながらも、警察官に促され後ろについていく。すると見たことのある白銀の髪の男が椅子に座っている姿が見えた。
昨日の不遜な態度とは打って変わって、まるで小動物のように小さくなっている。
余程怒られたのか・・・
「電話した彼、来てくれましたよ。」
案内していた警察官が、ラティーヌの側にいる別の署員に声を掛ける。
すると、その署員とラティーヌが両方ばっと顔を上げた。
冬馬は一度強くラティーヌを睨むと、側の署員に軽く頭を下げた。
「いやいや、お越し頂きありがとうございます。この方言ってることがちんぷんかんぷんで、こちらとしてもどう対処すればよいか考えあぐねていた所です。」
「あのー、こいつ何かしましたか⁇」
冬馬が署員に聞くと、
「スーパーで食べ物を取って帰ろうとしましてね。店員が声を掛けたところ、金だと言ってこれを渡したんですよ。」
そう言って机に置いてある物を署員は指差す。それはガラス細工のような、所謂おはじきのような物だった。
はぁぁぁぁ
また、深いため息が冬馬から漏れる。
このおはじきのような物はオンブレーヤードでお金として流通しており、商品の対価としてそれを渡す。このお金は色によって価値が違う。透き通ったガラスの中央に赤や青や緑の色が映える。とても綺麗な見た目ではあるが、これがお金だと説明しても、この世界では通用しないに決まっている。
「すみません・・・」
冬馬がそれしか言えずにいると、
「この方、どこか別の国から来たの?こっちの常識が通用しなくて本当に困ってたんですよ。今どき携帯も持ってないし、貴方に連絡を取りたいと行っても、連絡用の鳥がいないとかなんとか・・・全く参りましたよ。あぁ、あと女性に対してやたらと恐縮して・・・膝をついたまま頭を上げようとしないんですよ。わたしがその女性と話すと、無礼だと怒り始めるし。まさか、タイムスリップしてきたとかじゃないよね?格好も奇抜だし!ははっまさかね。」
確かにそう疑ってしまう程、ラティーヌはこっちの世界では無知だ。文明もオンブレーヤードはこの世界ほど発展していなかったので、携帯はもちろんなく、連絡手段はステラークと言う尾の長い賢い鳥だった。
また、この国では女性がたくさんいるけれどオンブレーヤードでは女性は極端に少なく崇める対象なので、ラティーヌがそのような行動に出たのは致し方ない。
冬馬は怒りに任せてラティーヌを追い出したことを後悔し始めていた。こんなことなら直ぐに国に帰るよう言えばよかったと。
「いや、本当に迷惑をおかけしました。元々箱入り息子で、外国暮らしのボンボンなんです。常識も何もないもので、社会経験として俺が面倒を見ていたんです。今日は大人しく家に居る約束だったんですが、どうやら勝手に出てきたみたいで・・・すみません。」
苦し紛れの言い訳に内心ドキドキしながら冬馬が言う。
「・・・。まぁ、それなら仕方ないけどねぇ。こっちも暇ではないので、これからはお願いしますよ。」
署員の言葉に冬馬はペコペコと頭を下げる。それを恨めしそうにラティーヌが見ていた。
「では、今日はこのままお引き取り頂いて結構です。あと、彼の身分を証明できる物がありますか?」
もう帰れると安心したのも束の間、身分証明という言葉を聞いて冬馬は身を固くした。
ラティーヌは異世界から来たのだから、もちろん戸籍も身分を証明できる物もある訳ない。冬馬は焦っているのを悟られないよう、落ち着いた雰囲気を装おって署員に答えた。
「多分着の身着のままで出てきてしまったと思うので、本人の身分証は僕の家にあります。今日のところは僕の身分証明書しかないんですけど・・・」
上目遣いに署員を見て、祈る気持ちで答えを待つ。
「そうですか・・・では今日の所はそれで大丈夫です。しかし、また後日ご連絡するかもしれないので、連絡先をお伺いしてもいいですか?」
なんとか今日は切り抜けれそうだと、内心ホッとしながら、冬馬は渡された紙に連絡先を書いた。
「本当にご迷惑お掛けしました。」
深々と頭を下げ、冬馬は座っていたラティーヌの頭を軽く小突くと、顎で付いてくるよう促した。
ラティーヌは
「痛い・・・」
と小さい声で呟きながら、冬馬の後を追いかけるのだった。
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