4 / 7
人気者はどっち?トリフィールドを使って処刑場跡地を探索
しおりを挟む「どうもー。牛の首チャンネルのモーと、相棒のワンさんです。ご覧いただきありがとうございます」
不安しか残らない前回動画から一転、いつも通りの挨拶で次の動画は始まった。
モーの抑揚のないしゃべりに安心感を覚える時がくるなど思ってもみなかった。
片手に持たれたワンさんは、今はおとなしいぬいぐるみとなっていた。
「前回の心スポはとっても怖かったですね。僕、めちゃくちゃ全力で逃げたので最後の映像はブレまくっててすみませんでした。まだ見てない方は概要欄にURLを載せておきますので、ぜひ見てください」
あ、それと。
頭を下げかけたモーは思い出して話を続けた。
「心霊写真は随時募集していますので、お持ちの方はコメント欄かDMで教えてください。少しずつ集まっています。まだまだよろしくお願いしまーす」
改めて頭を下げて、モーは話題を切り替えた。
ちょっとしたカットの編集がないのが勿体無く感じた。
「今回やってきたのは、処刑場跡地です。僕の住むところから車で三時間くらいですかね。後ろを見てもらうとわかる通りですが、これからこの道を登っていきます」
映された背景には明かりひとつない生い茂った山道があった。
映像を見ると明るく見えるが、それはモーを照らしたライトのものだ。それが消えれば、たちまちにモーの姿など見えなくなってしまうだろう。
その道を背に、モーは相変わらず淡々と話を進めていく。
「で、新兵器を導入したのでこちらを試したいと思います。これ、わかる人いるかな。トリフィールドっていいます」
カメラに見せられたそれは、手のひらより少し大きな測定器のようなものだった。
「電磁波測定器です。幽霊っていうのは電磁波を発したり、電磁エネルギーで出来ていると言われています。なのでそれを感知して居場所がわかる、ということらしいです」
早速スイッチを入れると、トリフィールドはデジタル数値を表示してジィィィーッと高く音を鳴らした。
数値は1000を超していた。
「今、電気や電波のないこの場所での数値は0なはずなんです。この数値はもう普通じゃないんですよ。じゃあ、理由は何かと言いますと」
モーは反対の手に持ったワンさんを近づけた。
トリフィールドの数値はさらに大きくなった。
「幽霊は電磁波を発する、もしくは電磁エネルギーで出来ている。嘘じゃないかもしれませんね」
ジィィィーッと不気味に音を鳴らし続けるトリフィールドのスイッチを切ると、モーはめずらしく目を細めて笑顔になった。
もちろん、マスクの下でだが。
「というわけで、トリフィールドで幽霊を探しに行ってきます。ワンさんを連れていくとトリフィールドが使えなくなっちゃうので、今回はここでお留守番してもらおうと思います」
カメラの前でワンさんのスイッチが入れられる。その上にテープが貼られ、簡単にスイッチが動かないように固定されていた。
いつも勝手に切られてしまうからだろう。
山道の入り口の手前にワンさんは置かれた。
「お留守番といっても、ちゃんと仕事はしてもらいます。ワンさんの前にもカメラを置いていくので、今日は二台体制です。僕とワンさん、どっちの方が幽霊に好かれるでしょう?」
映像が一度ワンさんのカメラに切り替わり、ワンさんの後ろで自撮り棒を持ったモーが手を振った。
そしてモーのカメラに切り替わると、暗視カメラ特有の緑がかった映像にモーが映し出された。
光源のない山道を懐中電灯ひとつで歩きだしていた。
「ワンさんから離れたので、もう一度トリフィールドを起動します。今の数値は0ですね」
カメラに向けられたトリフィールドは確かに0と表示されており、先ほどのような高い音も発していなかった。
ただ小さく、ジッジッジッジッと繰り返していた。それが電磁反応のない正常音らしい。
「処刑場跡地まで、反応があるまで黙って歩きますね。ちゃんと整備された道なんですけど、あの、僕、運動不足で……」
傾斜がどれくらいなのかはわからないが、歩きだしてすぐにモーは息切れを起こしている。
カメラに入るトリフィールドの音はずっと規則的で、数分の間、運動不足なモーの山登り映像が流れた。
やっと口を開いた時には、顔が見えない程度にマスクを引っ張って酸素を取り込んでいた。
「着き、ました……。ワンさんの所からそんなに距離はないんですけど、結構な勾配でした……」
モーの持つライトが辺りを照らし、カメラの映像がそれを追う。
山の中の拓けた空間。処刑場跡地という仰々しい名前ではあるが、跡地というだけでそこにあるのは慰霊碑くらいだ。
モーはトリフィールドの数値を見ながら、慰霊碑のまわりを回った。
「特に反応はないですね。周辺もちょっと歩いてみましょうか」
そう言うと、整備された道とは闇の深さの違う、木々の間を縫って歩き始めた。
慰霊碑を目印にしているとはいえ、少し気を抜けば山の中に迷い込んでしまいそうな危うさがある。
そんな所に平然と入っていけるモーの肝の太さを改めてすごいなと思った。
「おっ、道がある」
モーがライトで照らすと、整備はされていないが確かに小道が続いていた。始まりは慰霊碑のある拓けた空間から、緩やかな下り坂になって。
その先に向けたトリフィールドがわずかに反応を示した。
「ワンさん以外に初めて反応しました。下りてみます」
長年踏み続けられ、草の生えなくなった小道をモーが下るとトリフィールドはさらに数値を大きくした。それに伴い、またジィィィーッと高い音が周囲に響き渡る。
一分も経たないうちにちょろちょろと水音が聞こえ始め、小道の先には小さな川が現れた。
「トリフィールドの反応がやばいですね。ここにいるんでしょうか」
小さな川は水の流れは穏やかだが、規則的な水音を鳴らし続ける。
その水音が錯覚させるのか、モーの声に被せてたまに声が聞こえるような気がした。
「処刑場の近くの川といったら、首を洗う所です。水場ということもありますし、溜まりやすいのかもしれませんね」
「うん」とか「うぅ」とか。
モーの話に相槌をうつような声があれば、ただ低く苦しげに唸ってるような声も聞こえる。
その場にいるモー本人には聞こえていないようなので、本当にただの聞き間違いかもしれない。
ある程度トリフィールドの反応を見たモーは、小道を引き返して慰霊碑の場所へと戻った。
そこでまたトリフィールドが反応しないか確認し、ワンさんを残した最初の場所へと山道を下り始めた。
途中、聞き慣れた叫び声がマイクに入り込んだ。
「ワンさんが騒いでますね。……あ、僕に怒ってるようです。何かあったのかな。この後にワンさんカメラの映像を入れますので、最後までぜひご覧ください。では、切り替えますねー」
モーの映像はそこでぷつりと切られた。
それから切り替わったワンさん視点の映像では、ワンさんが暗闇の中でずっと叫んでいた。
『あいつはどこに行ったあああああ』
『俺を置いていくなあああああ』
『来るな来るな来るなあああああ』
『俺も連れていけえええええ』
『どこに行ったんだあああああ』
『見てるぞおおおおお』
鮮明に入る足音に、聞き取れない話し声。
もちろんモーの出した音ではない。モーが出すには、一人では出しきれない複数の音だった。
くすくすと、女性の笑い声がカメラの横で聞こえる。
勢いづいた足音がカメラに駆け寄ってくる。
ワンさんの反応を楽しむように、現象は収まることなく大胆だった。
『やめてくれえええええ』
モーがワンさんの元へ戻る前に、フル充電だったカメラはひとりでに電源を落としていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
二談怪
三塚 章
ホラー
「怖い話を教えてくれませんか」
動画配信者を名乗る青年は、出会う者にネタとなりそうな怖い話をねだる。
ねだられた者は、乞われるままに自身の奇妙な体験を語る。
同世界観の短編連作。
「僕」と「彼女」の、夏休み~おんぼろアパートの隣人妖怪たちによるよくある日常~
石河 翠
ホラー
夏休み中につき、おんぼろアパートでのんびり過ごす主人公。このアパートに住む隣人たちはみな現代に生きる妖(あやかし)だが、主人公から見た日常はまさに平和そのものである。
主人公の恋人である雪女はバイトに明け暮れているし、金髪褐色ギャルの河童は海辺で逆ナンばかりしている。猫又はのんびり町内を散歩し、アパートの管理人さんはいつも笑顔だ。
ところが雪女には何やら心配事があるようで、主人公に内緒でいろいろと画策しているらしい。実は主人公には彼自身が気がついていない秘密があって……。
ごくごく普通の「僕」と雪女によるラブストーリー。
「僕」と妖怪たちの視点が交互にきます。「僕」視点ではほのぼの日常、妖怪視点では残酷な要素ありの物語です。ホラーが苦手な方は、「僕」視点のみでどうぞ。
扉絵は、遥彼方様に描いて頂きました。ありがとうございます。
この作品は、小説家になろうにも投稿しております。
また、小説家になろうで投稿しております短編集「『あい』を失った女」より「『おばけ』なんていない」(2018年7月3日投稿)、「『ほね』までとろける熱帯夜」(2018年8月14日投稿) 、「『こまりました』とは言えなくて」(2019年5月20日投稿)をもとに構成しております。
機織姫
ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
厄師
ドヴニール
ホラー
1990年代にインターネットが台頭してから幾許かの時が流れ、SNSが普及し始めた。
そこから人々は様々な情報に触れやすくなっていった訳だが、その中でもとりわけ、根も葉もない様なゴシップやら噂やらは瞬く間に、まるでヒレを得た魚のようにネットの大海に拡散されていくのがお決まりとなりつつあった。
◯◯みたいだよ
◯◯らしい
人はどう進化しようが噂好きというものは無くならないようだ。
そんな"しょうもない噂"に紛れて一つ、最近どこから流れ出たか、囁かれ出したものがあった。
「金を払えば相手に厄(わざわい)を降り掛からせる事ができる"らしい"」
「厄師(やくし)なんて怪異がある"みたい"」
そんな噂が、静かに広がっている。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる