探偵はじめました。

砂糖有機

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ヘビを使った殺人は可能か?

真実へと続く道

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チラチラっと朝の日差しが眩しく感じる。酒井は起きて背伸びをするとボケーッとした。あぁ、朝か。
顔を洗ってYシャツ姿に着替えると、時計を見た。9時くらいか・・・
酒井はガラケーを使っている。パカパカするアレだ。酒井はガラケーをポケットから取り出すと、英二のケータイに電話して、準備ができしだい来るようにと伝えた。
そして、もう活動しているであろう岡橋警部を探すべく、部屋を出た。

現場である200号室へ向かうと、案外あっさりと岡橋警部に会うことができた。当たり前だが、勤務中のようだ。
「警部さーん、おはようございまーす」
朝から、ムカつく探偵の顔をみて、あからさまに不機嫌になる岡橋警部。
「・・・おまえか、何のようだこんな朝っぱらから」
『こんな朝っぱら』というほど、朝っぱらではないのだが、まぁそれが岡橋警部の体内時計なのだろう。
「調べて頂けましたか?アレ」
「アレ?あ・・あー、アレね。よし、駒木!アレを持ってこい!」
「了解です、警部」
そう言って駒木警部が持ってきたのは、色とりどりな、でこぼこした粒がたくさん入っている袋だった。その袋を駒木刑事から受けとると、酒井に差し出した。
「ほら、やるよ。持ってけ」
酒井は黙って中を確認する。何か腐ったような臭いがする。
「あられじゃねーよ分かるだろぉッ!しかも、これ賞味期限きれてんだろ!」
「おおー、よくわかったな。えーっと、確か去年の夏くらいだったかな、賞味期限」
「ゴミ押し付けただけじゃねーかッ!どっから持ってきたんだよそんな物!」
「パトカーのなかに入れっぱなしになってたやつだ。お前なんぞにゴミ以外与えるかバカもの」
酒井は昨日岡橋警部に渡した、ヘビの調べた結果が気になって聞いたのだが、どうやらはめられたようだ。ったく、性格悪ぃなこの警部。
「・・・さて、このゴミは引き取りますから教えて下さい。昨日調べて頂いたヘビの件で話をしたいんですけど。おふざけ無しで」
「わかった、ただしおふざけ無しはお前もだからな。駒木!あられじゃなくて、アレを持ってこい!」
「了解です。あのヘビについて書いてあったアレですね」
そう言うと、駒木刑事は何やら資料のような物を持ってきて岡橋警部に渡した。受けとると、目を細めて、レンズのピントを合わせるように紙を前に後ろに動かしている。どうやら老眼のようだ。
「うーむ・・・あのヘビの毒には、えーと・・・ブンガロトキシン?が、何パーセントだろう・・・ああッ!クソッ!読みにくいッ!」
「貸して下さい警部さん、もう僕が見ます」
酒井は、老眼の岡橋警部から資料をむんずと取り上げると、見始めた。しかし、書いてあることは分かっても内容はさっぱりだ。そのため、このヘビの毒について調べた専門家に聞いてみた。簡単にまとめると、こんな話だった。
成分には、ヘビの麻痺毒の主な成分が書いてあった。やはり、麻痺毒で間違いはないらしい。ただ、少し変わったことがあった。それは、麻痺毒の成分は入っているものの、微量のため、致死量に達するまでかなりの時間を必用とすること。それと、体全体にまわりやすく、即効性だが、すぐに薄められて、徐々にその効果を無くしてしまうらしい。当然と言っちゃなんだが、効果が無くなるまでの時間には個人差がある。
「・・・やっぱり麻痺毒だったのか。あれ?確か・・・そうだよ!このヘビは!・・・だったら・・・そうか、そういうことだったのか!」
酒井は腕を組んで、歩きまわりながらぶつぶつと何かを言っている。
「そういうこと?どういうことだ?」
岡橋警部は何がなんだか分からないようだ。
「分かりましたよ。この事件、分かったかもしれません」
「なッ!き、聞かせろ!突拍子もないことだったら・・・」
「突拍子もないことだったらどうします?突拍子もないことだから、あなた方警察は分からなかったのではないのですか?」
酒井は自分の推理が上手くいきそうで上機嫌だ。
「まぁ、後で教えて差し上げますよ。・・・もう10時ですか。ちょうどいい、あと少ししたら僕の弟子がこっちに来るかもしれません。1時です、昼の1時にエントランスへ来てください、容疑者の方々を連れてきた上で。ついでに駒木刑事もいいですよ」
何か、約束事のようなことを言われて、訳がわからなくなっていたが、聞いていると大体予想がついてくる。
「お前、まさか・・・」
「はい!某ミステリー小説とかでやってるやつですよ!いやぁ、一度やってみたかったんだよねぇ、コレ!」
岡橋警部は大きなため息をついて、頭を抱え込んだ。そうだ、こいつはこういう人間だった。
「はぁ・・・そんなことだろうと思ったよ。で、何でこの時間なんだ?」
「何って?決まってるでしょう!『腹が減っては戦はできぬ』っていうじゃないですか警部さん」
もといた部屋の方向へ歩いていく酒井。
「お前、まさか・・・」
くるっと、振り返ると、さも当然といった具合に言葉を返した。
「そう、昼飯です」

さて、英二と再会して、昼飯を終えた酒井は約束の1時より10分前にエントランスに来た。
すると、すでに一人来ていたらしい。岡橋警部だ。
「おや、警部さんじゃないですか。早いですねぇ。容疑者の皆さんはどちらに?」
「呼びかけておいた。もうじき来るだろう。おや、そっちの若いのが、お弟子さんか?」
岡橋警部は英二をまじまじと見ている。マトモじゃない探偵を師匠としている弟子なのだから、弟子もマトモではないと考えているらしい。
「は、はじめまして、中倉英二といいます」
岡橋警部は挨拶をした英二に、目を見開いて驚く。
「おッ!これは驚いた、弟子の方がマトモだとはね」
何故挨拶をしただけでこれほど驚かれるのか、英二にはさっぱりだった。
「ところで警部さん、ひとつお願いが。僕が持ってきたヘビを持ってきてもらえませんか?あ、ケースに入れて下さいね」
「何故だ?」
またまたお願いされて、岡橋警部は怪訝な顔をした。
「このあと、あのヘビをちょっと使うんですよ。サプライズだね」
「絶対に必用なことか?それは」
「はい、絶対に必用なことです。必用なことでなかったら、後で英二君をひっぱたいて貰っても構いません」
「はぁ!?なんで俺が!?嫌ですよ絶対」
いきなり、自分を出されてめちゃくちゃ嫌な顔をした。
「・・・ようし、では、お前をひっぱたくことで、手を打とう」
「うーん、まぁいいか。では、お願いしますね」

午後1時。容疑者である、梅川、原井、丸尾、高原が。岡橋警部と駒木刑事、あと暇潰しで来た複数の警官に加え、酒井と英二がエントランスに集まった。
「・・・さて、皆さん集まりましたね」
すると、原井は他の容疑者も聞きたいであろうことを口にした。
「探偵さん、分かったって本当かい?犯人も」
「ええ、そうです・・・と、言いたいところですけどその前にひとつ確認を」
「?」
酒井は何を確認するのか分からない彼らの前にに、ドーンとあのバカでかいケースをおいた。そして、フタを空けて皆に見せた。
「うわっ、ヘビだ!」「気色悪いぜ」「いやぁぁあ!気持ち悪いッ!」
原井、丸尾、梅川の順で個々それぞれに感じた事を話した。だが、高原はなにやら震えている。
「ま、ま、ま・・・」
周りが『えっ?』となっている中、酒井は無言で見守っている。
「ま、マチコぉぉぉおおッ!」
聞いていた人は何がなんだかちんぷんかんぷんだった。高原が、この不気味なヘビを、『マチコ』と呼んでいる。それも、かなり興奮しているようだ。
「さ、酒井さん、これって一体・・・」
英二は声を震わせながら酒井に聞いた。
「僕らが『マチコ』と呼んで探していた物の正体はね、このガラガラヘビだったんだよ。依頼を受けた時、写真を見ながら話していただろ?僕らがメインだと思っていたのはあのヒトだった。けれど、高原さんのメインはあのヘビだったわけさ。つまり、あの時からずっと僕らの話は食い違っていたんだよ。・・・皆さん、このヘビは高原さんのペットです!」
「ええぇッ!」
英二は、驚きが隠せなかった。自分が探していたのはあの一千万円のヘビだったとは!
「高原さん、僕の弟子がこのヘビを見つけ、捕らえてくれました。その時に噛まれましたが・・・」
「えっ!大丈夫かい?もう痺れはとれたかい?そこまでして捕まえてくれたなんて、本当にありがとうッ!」
ただ呆然としている英二に、高原は興奮して両手を握り、ブンブン降り始める。
「とまぁ、ここで本題に入りましょう。殺害方法について・・・の前に、まず何故今回の事件が殺人事件であるかを説明しましょう」
高原が落ち着きを取り戻し、周りが静かになったところで本題に入っていく。
「権藤さんの死因は脳出血でした。これは、もともと権藤さんが肥満体型だったことに加え、事件現場にいたあのヤマカガシという、ここにいるヘビとは別のヘビの毒によって引き起こされたものです。権藤さんの腕には噛まれた穴がふたつ空いていました。一噛みです。ここで、これは権藤さんが寝ている間に噛まれて毒がまわって死亡した、これは事故であるという意見がありました。しかし、彼の遺体が横たわっていた布団はキレイに敷かれていました。シワ一つないくらいに。脳出血には頭痛が生じます。それはそれは、権藤さんは苦しかったでしょうね。頭を抱えてひどく暴れるか、悶絶していたでしょう。ここで、ひとつおかしな点が生まれます。では、何故布団はキレイだったのでしょうか?そもそも、ヤマカガシはヘビの中でも臆病でおとなしい性格なので、寝ている権藤さんに自分から噛みつく可能性は極めて低いです。その上、毒牙が他のヘビと違い、口の奥にあるため、皮膚に毒牙が届く可能性も低いんです。この三つの理由がから、事故である可能性は無いといってもいいですよね。と、なると?つまりこれは人為的に行われた殺人だったとなります」
なるほどねと頷いたり、考え込んだり、周りの反応は様々だった。しかし、警部はここは聞いたな、と呟いていた。
「さて、次は殺害された場所はどこかを話しましょう。権藤さんの遺体が発見された200号室です。理由は、あの巨体を運べるとは思えないし、運べても、誰かに見つかるか監視カメラに映ってしまう可能性が高いから。よって、あの200号室で犯人がヤマカガシの毒を使って権藤さんを殺したのです」
「あれ?ちょっと待ってくれ!」
そこで、抗議の声をあげたのは原井だった。
「つまり、そのヤマカガシっていうのは噛ませられにくいってことだな?普通、命が狙われたなら、音をドンドンとたてたり、外に逃げたり、力いっぱい抵抗したりするだろう?となると、探偵さんの言ってることは色々と問題があるんじゃないか?」
それを聞いて、待ってましたと言わんばかりに酒井は笑みを浮かべた。
「そう、ここで鍵になるのが、あのケースの中にいるヘビです!」
皆は固唾を呑んで、話を聞いている。その様子に満足したのか、少し上機嫌気味に話を続けた。
「あれはガラガラヘビというヘビでして、一時的に体全体を麻痺させる毒を持っています。もう皆さん、大体言いたいことが分かってきたかもしれませんね」
「ま、まさか・・・」「え?なんだよ、全然わかんない・・・」「私も分かりませんわ」
先ほどと同じ順で思ったことを口にしている。
「さて、ここで皆さんお待ちかね、殺害方法です。犯人が、権藤さんを訪ね、200号室の中に入ります。この際、誰も入れないように鍵を閉めます。そして、二人きりになり、このガラガラヘビを権藤さんに噛ませて、全身を麻痺させます。そして、動かなくなったことを確認し、噛んで空いた穴にヤマカガシの毒を流し込む。そして、後は部屋にヤマカガシを放ち、自分は200号室から出て、権藤を放置します。これで殺害の完了です」
「おいおい、簡単に言っているけどヤマカガシとかガラガラヘビとか用意するのは無理だろ。それにどうやって権藤の部屋に入るんだよ!怪しまれるだろ!」
次に抗議の声をあげたのは丸尾だった。
「・・・まず、権藤の部屋に難なく入ることができるのは、梅川さんと高原さんだ。梅川さんは色目を使って、高原さんはあの大事なペットを譲ると言ってね」
それを聞いて、梅川と高原は顔を真っ赤にした。
「誰があんなやつに色目使いますか、誰がッ!」「誰があんなやつに大事なペット譲りますか、誰がッ!」
しまった・・・と、酒井が冷や汗をかく。
「あ、いえ、その、あくまで仮定ですから、か・て・い」
ふぅ、と息を整えてから話を再開する。
「ヤマカガシは日本全土に生息しているので探せば捕まえることはできます。が、このガラガラヘビは外国産なので用意できるのは一人・・・このガラガラヘビを飼育していて、この容疑者の中で一番詳しく、権藤の部屋に何の不自然さも無く入ることのできた人物、それは高原さんだ」
周りの目が、一斉に高原の方へ向いた。
「いや、違う!僕じゃない!そうだ、何もヘビについては僕以外にも皆知ることが出来るじゃないか!ネットとか図鑑で調べて・・・」
「いいや、あなたしかあり得ない。何故なら、その理由はあなたも考えれば分かるはずですよ」
「そ、そんなわけ・・・あッ!」
高原は何かに気づいたようだが、その他に聞いていた人にはわからなかった。
「ど、どういうことだ?」「うーむ、分からん」「見当がつかないわ」
皆は首をかしげて、理解出来ないと示す。いてもたってもいられなくなった英二は酒井に聞いてみたが、その答えは以外なものだった。
「ねぇ酒井さん、もったいぶらないで教えて下さいよ!」
「英二君、君にも考えれば分かるはずなんだけどね」
今度は英二に一斉に目が向いた。
「えぇ!考えても分からないから聞いているんじゃないですか!ってか、それって犯人である可能性が、俺にもあるってことですか!?」
酒井は思いっきり、わざとらしく大きなため息を吐いた。
「ハァー・・・バカか君は。容疑者じゃないし、そもそもあの場にいないだろう」
「あ、そうでした。うっかりしてましたー。すんませーん。てへ(棒)」
全く緊張感のない英二の発言に罵声が飛びかう。
「何が『てへ』だ!」「お前がやっても可愛げがねーんだよ!」「それに、(棒)ってなによ(棒)って!」
先ほどまでの緊張感はどこへやら、場が騒がしくなってきた。
「そそそ、そんな事よりも、ほら、皆さんも気になりません?酒井さん、答えはなんですか?」
あたふたしながら酒井に聞いたものの、急に静かになって皆が酒井の回答に耳を傾けた。
「さて、静かになったところで。少し専門的な話になりますね。先ほどからこのヘビを『ガラガラヘビ』とよんでいますが、ガラガラヘビといっても色々います。ここにいる、事件に使われたヘビは、『サザンパシフィックガラガラヘビ』という種類で、南アメリカ全土に生息しています。南アメリカといっても気候や環境は様々で、同じ『サザンパシフィックガラガラヘビ』でも地域や育った環境で毒性は変わってくる、という珍しい種類なのです。つまり、この時点で毒によってどういう効果が得られるか等はネットや図鑑では調べる事はでないため、知るよしもなかった原井さん、丸尾さん、梅川さんは犯人から除外される。
しかし、マチコ・・・彼女の飼い主であり、このヘビについてよく知っていて、麻痺毒であることもわかっていた。ほら、あなたはさっき英二君に言いました。もう痺れはとれたかい、と。僕は噛まれたとしか言っていなかった。つまり、高原さん、あなたしかあり得ないのです」
酒井の言葉を聞き、だんまりして考えこんだり、なるほどと頷くなど、反応は様々だった。が、言葉を発する者はいなく、シーンとしていた。
その沈黙を破るように、高原は乾いた笑い声を挙げた。
「は、はは、わははははッ!ねぇ、探偵さん?要約すると、この容疑者の中で僕しか、マチコのことを詳しく知らなかったから犯人は僕だ、というわけですよね。なら、探偵さん、あんたが犯人である可能性もあるだろうッ!あんたとお弟子さんは僕と、あと殺された権藤から依頼をうけたんだったね。だったら!マチコのことを権藤から詳しく聞いていたんじゃないのかッ!だからさっきの説明だって、細かく説明していたんじゃないのか?・・・と、なると犯人の候補にあんたとお弟子さんも挙がる。が、お弟子さんはそもそもいなかったため除外、となると、探偵さん、あんたにも充分に可能性はあるんだよ。きっとあんたは僕がマチコと暮らしていたということを利用して、犯人に仕立てあげようとしているんだッ!」
周りはぎょっとして、視線は酒井の方へ。最も驚いていたのは英二だった。
「えええッ!酒井さん、何てことを!」
この反応に酒井は顔に青筋を立てはじめる。
「あのねッ!さっきもそうだけど、君は少しでも考えれば・・・いや、考えなくても分かるだろうッ!」
「ど、どういうことですか?」
酒井は大きなため息を・・・なんか今日はため息を吐いてばかりいる気がする。
「はぁ・・・まぁ、ついでに皆さんも聞いてください。これはね、ただ詳しく知っているだけではダメなんです」
「何がダメなんだ?インチキ探偵」
高原があからさまに挑発するが、珍しいことに酒井は挑発に乗らなかった。
「それはね、犯行が行われる以前から、マチコの毒性について知っていることが重要なんです。僕や英二君が初めて知ることができたのは昨日の夕方、もう犯行が行われた後だ。この事件を計画することは出来ない。第一、僕には動機がないし、依頼主なんで逆に死なれちゃ困る人なんだよ。犯人は高原さん、あなただ!」
高原は、立ち尽くした後、舌打ちをすると、逃げようと試みたのか、ドアへ走り始めた。
しかし、岡橋警部は余裕な表情だ。
「容疑を認めたな。無駄なことを・・・」
高原がドアにたどり着く前に、一人の警官が高原の手首を素早くつかみ、取り押さえた。岡橋警部はその警官に賞賛の言葉をかけた。
「ご苦労、駒木刑事」
「いえいえ、大したこと無いです」
駒木刑事は明るく言葉を返した。
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