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暇な探偵には事件を
知り合いの老夫婦
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さて、こんな暇を持て余した探偵だが、一応弟子がいる(弟子本人は助手を希望しているが)。
ちょうど今、ソファで先程と変わらずにだらだらとしている酒井に呆れてながら事務所に入ってきた一人の若者がそうである。彼は、中倉英二という、酒井の甥っ子で、歳は酒井よりも十歳ほど若い青二才だ。家庭の事情で、おじである酒井の探偵事務所で住み込みで働いている。しかし、最近仕事がほとんど無いため、バイトもこなしている。
英二は、朝の日雇いの新聞配達のバイトから帰ってきたところだった。そんな時に、おじのイチゴパジャマ姿なんてみたら気分はブルーになる。
「あぁ、もうだらしないなぁ酒井さんは・・・うわっ、オッサンがイチゴ柄のパジャマとかダサい」
「いいだろう別に、特売で売っていたのを買ったんだから」
「そんな格好で人前に出られると恥ずかしいんで、はやく着替えてくださいッ!」
「わかったよ。着替えればいいんだろ?着替えれば」
いそいそと自室に戻る酒井を英二は呆れながらも見送った。
さて、俺もだらだらするかな・・・と、酒井がごろごろしていたソファに今度は、英二がごろごろし始めた。どっちみち、この事務所は人様には見せられないほどひどい有り様である。
そんな時に限ってお客さんが訪れる。事務所のドアのベルがカランと愛敬良く鳴り響くのに対し、英二はダランと愛敬最悪な姿である。
やべぇッ・・・と、英二は素早く座り直して改めてお客さんを見やった。入り口に立っているのは、ニコニコした愛想のいいお婆さんとかなり無愛想で仏頂面なお爺さん。見たところ夫婦だろう。お婆さんは『ごめんください』と挨拶をしたが、お爺さんは無言で辺りを見回している。お婆さんもキョロキョロして何かを探しているらしい。
「あらあら、見たこと無い子ねぇ。・・・突然なんだけど、酒井さんはご在宅かしら?依頼をしたいのだけれど」
「ぅえーっと、酒井さんなら奥で着替えてます」
「そう、ならここに座って待っていてもいいかしら?」
「どどど、どうぞ・・・」
英二のおどおどしく、見ていて呆れるほどの接客が終わると、ドタバタと奥から物音が聞こえてくる。相当急いで来たのだろう・・・服にまだタグが着いている。
「お、お待たせしましたぁ・・・ってチエ子さん、泰彦さん!いらしてたんですか」
「酒井さん、ご無沙汰してます~」
「・・・」
「ほらほらあなた、そんな仏頂面で構えてたら酒井さん怯えちゃうでしょう?また」
どうやら、酒井と老夫婦は知り合いのようだ。・・・また?この人、二度もビビってるのか。
「ケッ!少し睨んだだけで腰を抜かす、そいつが悪いじゃろうが!」
「いや、だって、眉間にシワをよせると泰彦さんは鬼のように・・・」
「・・・」
「なんでもありません。ごめんなさい」
・・・もしかして、俺って蚊帳の外?・・・仕事だし、依頼人の事は知っておかないとダメだよな。仕事だし。うん、仕事だし。
要は寂しいだけの英二だったが、誰にするわけでもない言い訳を見つけたところで、会話に入ることにした。
「酒井さん、この人達は?」
「あぁ、英二君はまだ知らなかったね。この人達はウチのお得意さんの小嶋夫妻だよ。チエ子さんと泰彦さん」
「よろしくお願いします」
「あらぁ、ご丁寧にどうも」
「・・・」
なるほど、一応この探偵事務所にも『お得意さん』は居たのだ。事務所がツブれないで続けられているのは、お得意さんのお陰なのかもしれない。一週間前のネコ探しの仕事も小嶋夫妻からの依頼だったらしい。そういえば、俺はまだ自己紹介してなかったな、きっとすぐ聞かれるだろう。・・・どうせなら、インパクトの強い方がいいかな?俺は忘れられやすいし。よーし、『オッス!オラ英二!いっちょやってみっかぁ!』・・・はい、ボツ。後は・・・
そんな事を考えている間に、先に口を開いたのはチエ子さんだった。
「そちらの若い子は?」
「あぁ、僕の甥っ子の英二君です」
「・・・えッ、あ、どうも・・・」
英二の自己紹介はあっさりと終わってしまったため、考えている自己紹介は披露することなく幕を閉じた。結果的に英二は恥をかくことが無くなったのだ。
「ところでチエ子さん、どのようなご依頼を?」
「これから、大掃除しようと思うのだけど、老人二人じゃ大変なのよねぇ。だから、酒井さんに助っ人をお願いしたくて」
「喜んで引き受けましょう」
・・・要するに雑用じゃねぇかッ!
どうやら探偵兼万屋らしいな、この事務所。
「へっ、こちとらカネ払っとるんじゃからな。・・・いいかげんな仕事したらただじゃおかんぞ」
「はぃぃいッ!肝に命じておきます!」
ものすごい剣幕で睨まれると、ビクッとして面白いように怯む酒井。見ている分にはわざとらしいコントを見ているような安っぽさがある。ただ、それ以前に気になることが・・・
「・・・ところで、酒井さん」
「え、なんだい英二君」
「怯えるのはいいんですけど、その服のタグ早く取った方がいいですよ。ヒラヒラしてみっともないです」
「・・・あ」
ちょうど今、ソファで先程と変わらずにだらだらとしている酒井に呆れてながら事務所に入ってきた一人の若者がそうである。彼は、中倉英二という、酒井の甥っ子で、歳は酒井よりも十歳ほど若い青二才だ。家庭の事情で、おじである酒井の探偵事務所で住み込みで働いている。しかし、最近仕事がほとんど無いため、バイトもこなしている。
英二は、朝の日雇いの新聞配達のバイトから帰ってきたところだった。そんな時に、おじのイチゴパジャマ姿なんてみたら気分はブルーになる。
「あぁ、もうだらしないなぁ酒井さんは・・・うわっ、オッサンがイチゴ柄のパジャマとかダサい」
「いいだろう別に、特売で売っていたのを買ったんだから」
「そんな格好で人前に出られると恥ずかしいんで、はやく着替えてくださいッ!」
「わかったよ。着替えればいいんだろ?着替えれば」
いそいそと自室に戻る酒井を英二は呆れながらも見送った。
さて、俺もだらだらするかな・・・と、酒井がごろごろしていたソファに今度は、英二がごろごろし始めた。どっちみち、この事務所は人様には見せられないほどひどい有り様である。
そんな時に限ってお客さんが訪れる。事務所のドアのベルがカランと愛敬良く鳴り響くのに対し、英二はダランと愛敬最悪な姿である。
やべぇッ・・・と、英二は素早く座り直して改めてお客さんを見やった。入り口に立っているのは、ニコニコした愛想のいいお婆さんとかなり無愛想で仏頂面なお爺さん。見たところ夫婦だろう。お婆さんは『ごめんください』と挨拶をしたが、お爺さんは無言で辺りを見回している。お婆さんもキョロキョロして何かを探しているらしい。
「あらあら、見たこと無い子ねぇ。・・・突然なんだけど、酒井さんはご在宅かしら?依頼をしたいのだけれど」
「ぅえーっと、酒井さんなら奥で着替えてます」
「そう、ならここに座って待っていてもいいかしら?」
「どどど、どうぞ・・・」
英二のおどおどしく、見ていて呆れるほどの接客が終わると、ドタバタと奥から物音が聞こえてくる。相当急いで来たのだろう・・・服にまだタグが着いている。
「お、お待たせしましたぁ・・・ってチエ子さん、泰彦さん!いらしてたんですか」
「酒井さん、ご無沙汰してます~」
「・・・」
「ほらほらあなた、そんな仏頂面で構えてたら酒井さん怯えちゃうでしょう?また」
どうやら、酒井と老夫婦は知り合いのようだ。・・・また?この人、二度もビビってるのか。
「ケッ!少し睨んだだけで腰を抜かす、そいつが悪いじゃろうが!」
「いや、だって、眉間にシワをよせると泰彦さんは鬼のように・・・」
「・・・」
「なんでもありません。ごめんなさい」
・・・もしかして、俺って蚊帳の外?・・・仕事だし、依頼人の事は知っておかないとダメだよな。仕事だし。うん、仕事だし。
要は寂しいだけの英二だったが、誰にするわけでもない言い訳を見つけたところで、会話に入ることにした。
「酒井さん、この人達は?」
「あぁ、英二君はまだ知らなかったね。この人達はウチのお得意さんの小嶋夫妻だよ。チエ子さんと泰彦さん」
「よろしくお願いします」
「あらぁ、ご丁寧にどうも」
「・・・」
なるほど、一応この探偵事務所にも『お得意さん』は居たのだ。事務所がツブれないで続けられているのは、お得意さんのお陰なのかもしれない。一週間前のネコ探しの仕事も小嶋夫妻からの依頼だったらしい。そういえば、俺はまだ自己紹介してなかったな、きっとすぐ聞かれるだろう。・・・どうせなら、インパクトの強い方がいいかな?俺は忘れられやすいし。よーし、『オッス!オラ英二!いっちょやってみっかぁ!』・・・はい、ボツ。後は・・・
そんな事を考えている間に、先に口を開いたのはチエ子さんだった。
「そちらの若い子は?」
「あぁ、僕の甥っ子の英二君です」
「・・・えッ、あ、どうも・・・」
英二の自己紹介はあっさりと終わってしまったため、考えている自己紹介は披露することなく幕を閉じた。結果的に英二は恥をかくことが無くなったのだ。
「ところでチエ子さん、どのようなご依頼を?」
「これから、大掃除しようと思うのだけど、老人二人じゃ大変なのよねぇ。だから、酒井さんに助っ人をお願いしたくて」
「喜んで引き受けましょう」
・・・要するに雑用じゃねぇかッ!
どうやら探偵兼万屋らしいな、この事務所。
「へっ、こちとらカネ払っとるんじゃからな。・・・いいかげんな仕事したらただじゃおかんぞ」
「はぃぃいッ!肝に命じておきます!」
ものすごい剣幕で睨まれると、ビクッとして面白いように怯む酒井。見ている分にはわざとらしいコントを見ているような安っぽさがある。ただ、それ以前に気になることが・・・
「・・・ところで、酒井さん」
「え、なんだい英二君」
「怯えるのはいいんですけど、その服のタグ早く取った方がいいですよ。ヒラヒラしてみっともないです」
「・・・あ」
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