上 下
5 / 31
開店前夜編

第4話 フィリーミ王

しおりを挟む
ラインバール到着の翌朝

街は勇者シュウによる魔王討伐のニュースが駆け巡り、お祭り騒ぎとなっていた。
路上には屋台が並び、朝から飲めや歌えやの大騒ぎとなっているらしい。

あとから女将さんに聞いたのだが、前日マイルスのバカが騒いだ直後から噂が広がり、夜通しこの様な状況だそうだ。

オレはと言うと、街の喧騒など全く聞こえない部屋で半年ぶりのベッドでぐっすり休み、目が覚めた所だ。

これも女将さんに用意してもらった特等室のおかげだ。

ステータスを開き時間を確認すると、午後14時だった。

「やばい!王様を待たせてしまった!」

そう思ったオレは急いで着替えをし、宿屋のロビーへと向かった。

急いで階段を降りていると、ロビーにはオレを待っているであろう兵士が見えた。

「シュウ様!おはようございます。」

「すいません!遅くなりました!王様を待たせてしまい申し訳ありません!」

オレは頭を下げて平謝りだ。

「いえいえ。よくお休みになられたようで良かったです」

「すいません」

「謝る必要はございません。半年の旅路の後の休息ですから。国王からも好きなだけ寝させるように、お申し付けされております。」

「しかし…」

「それに王の本日の御公務はシュウ様のみですのでご心配なさらず。」

「ありがとうございます。でもこれ以上待たせるわけにはいかないので、早く行きましょう」

そう言うとオレは兵士と馬車に乗り、城の大広間へと案内された。

応接間には王様をはじめ、側近や兵士など数百名が待ち構えていた。

「おお!シュウ!旅の疲れは取れたか?」

優しい口調で王様はオレに話しかけてきた。

フィリーミ王。この世界唯一の王様はまだ20代前半のとても若い王様だ。

先代はオレがやってくる数年前に病で亡くなったらしい。

「国王。お手間をおかけして大変申し訳ありませんでした。おかげさまで旅の疲れが癒えました。ご列席の皆様にもお詫びいたします」

側近や兵士は怒っている様子はなく、皆々笑みを浮かべ、オレを歓迎してくれている。

「皆への心遣い感謝する。話はマイルスから聞いているがシュウからも詳しく聞かせてくれないか?」

俺は道中の話や魔王を討伐した事を細かく説明した。

さすがに異世界転移スキルの事は伏せておいたが。

「礼を言う。ありがとう。シュウのおかげでこの国の危機は去った。大峡谷の兵からも、この数日で魔国の兵が西へ退いた旨報告があった。これで戦前の状態へ戻ったわけだ」

この世界はとても狭く、フィリーミ王国と魔王が率いる魔国の二国家のみが存在している。

アメリカ合衆国位の大きさの大陸1つのみしか存在せず、残りは全て海なのだ。

大陸の中心には大峡谷があり、その大峡谷を挟み、フィリーミが東、魔国が西と均等に領土が分かれている。

「魔王亡き今、魔国は混乱しているでしょう。当面はこちら側に攻め込む様な事はないかと思われます。しかしいずれは、新たな魔王が選任され、力をつけた時、またこちら側に攻めてくる事でしょう」

「そうだね。今は大峡谷の守備を強化して守りを盤石にするべきだね。」

王様はうつ向き、何かを考えている。

「我々に力があれば……」

魔族は種族の多さから、強大な力を持つ。

一方人族は種族が少なく、力が弱い。

その代わりに防衛能力がずば抜けて高く、知能も高い。魔族と人族は矛と盾の関係なのだ。

かつては力と守が相殺し均衡を保っていたわけだが、長い戦いが続いた事で、種族の多い魔族の出生が増え、バランスが崩れてしまったのだ。

先代の王様が亡くなった事がきっかけで、
兵の絶対数を増やし、着々と準備をしていた魔王軍は、満を持して大峡谷を超え進軍。

魔王自らが前線を率いて、ラインバールへと足を進めていたのだ。

それが仇となってオレにやられてしまったわけ。

魔王が死んでも完全な平和が訪れる訳ではないのだ。

王様はそれを思って、色々考えているのだろう。

マイルスが王様に進言する

「国王お気持ちはわかりますが、今日は魔王を倒した事を喜びましょう」

「そうだったね。ありがとうマイルス。シュウも申し訳なかった。今日の主役は君だ」

王様は一呼吸置き、威厳ある口調でオレに話しかけた。

「勇者シュウよ!そなたのおかげでこの国は救われた!改めて感謝する!」

「身に余るお言葉です」

「して、そなたに褒美を授けたいのだが、そなたは何を望むか?」

こう来る事は予想出来ていたので、オレは考えていた事を伝えた。

「国王。出来るならば…」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。 俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。 そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。 理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。 ※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。 カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...