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第八章
騎士アレフとウサギの友達 (2)
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時は流れ、学院対抗決闘試合の当日。
アレフは試合で使う木剣を持ち、グローブを左手に装着すると、タオルや飲み物が入ったバッグを背負い、談話室に降りていった。
談話室にはすでに、ショーやワッカ、三年生のジェイコフとエイダン、紅一点のケイが集まっていた。
他にもリィンやワットなど、補欠組も集結しており、皆、同じ赤い色をしたユニフォームを着ていた。
普段来ている制服と見た目はあまり変わらず、ズボンが茶色であることと、背中にエルトナム学院の象徴たる、剣とドラゴンのマークが刺繡されていた。
アレフも同じ制服を着て、その集団に混じった。
「さて、全員集まりましたね」
寮監のスリグリンが声を上げて玄関の前に立っていた。
声の方に振り向いたアレフはスリグリンの姿に目を真ん丸にした。
スリグリンの頬には赤い色で、剣とドラゴンを型取ったマークがペイントされていた。
その他にも、手には赤い旗を握っており、そこにも、剣とドラゴンが描かれていた。
スリグリンはまるで遊園地に行く子供のように、笑みをこぼしながら楽しそうに話し始めた。
「待ちに待った学院対抗戦の決闘試合です。長年、この学院に努めていますが、毎年見るたびに五歳ほど若返ります」
「五十年程勤めているかラ……。ツマリ?」
「リィン、あなたの学科試験はマイナス五十点から始めますか?」
「いえ、結構でス」
談話室内がクスクス笑いで溢れた。
そのおかげで、談話室では誰一人として緊張した顔つきをした生徒はいなくなった。
「さて、今年の選抜メンバーは例年と比べ特殊なメンバーです。三年が基本メンバーになるのですが、今年はなんと、一年生が選ばれています。つまり、今年の赤の寮の生徒は全員が優秀ということです」
スリグリンの滅茶苦茶な理論に、アレフは小さく笑った。
アレフの他にも笑っている生徒はちらほらといた。
「このチームが負けることはありません。是非、この赤の寮に優勝トロフィーを持って帰って来てください。そして沢山の騎士団から、スカウトを貰って来てください。私からは以上です」
スリグリンの言葉に拍手が送られた。
そして、スリグリンが談話室の玄関を開けると、決闘騎士たちはその扉を潜り抜けていった。
校舎の入り口で、黒の寮の決闘騎士たちと鉢合わせては、ショーと黒の寮の生徒が何も語らずに握手だけすると、二人は校庭へと歩き始めた。
それに続くようにアレフたちも出ていった。
アレフたちの頭上には雲一つない青空が広がっていた。
学院エルトナムの校庭には数えきれないほどの馬車が止まっており、校舎と馬車までの間には、赤の寮の生徒と黒の寮の生徒の双方が、片手サイズの応援旗を振りながら、笑顔でアレフたちを歓迎していた。
「わお、これは凄イ」
リィンの感嘆の声にアレフも驚きながら頷いた。
生徒の中にはエトナやマーガレットもおり、アレフたちを見つけては手を振っていた。アレフもそれに気づき手を振り返す。
「あとで、マースと一緒に見に行くから!」
エトナの声にアレフは手を挙げ、こくりと頷いた。
赤の寮の生徒だろうが、黒の寮の生徒だろうが、決闘騎士たちを応援する姿にアレフは生徒たちを見渡した。
大勢の生徒の中にアレフはオズボーンを発見した。
オズボーンはアレフを見つけると、つまらなそうに視線を逸らした。
アレフはその姿を見ては、応援と相まって余計に笑顔を作ってしまう。
そうして、応援する生徒たちの間を通り過ぎて、アレフは同席となったリィンとワッカ、ワットと共に馬車へ乗り込んだ。
学院対抗試合の会場はエルトナムから二時間ほどで到着するらしく、見晴らしのいい原野に建っているのだと、ワッカが教えてくれた。
赤の寮と黒の寮の生徒は他の学院と比べ、唯一別々のチームで参加することを許されており、他の学院には獣人と呼ばれる種族がいたり、人間と妖精のハーフがいたりと、エルトナムではあまり見られない種族がいるとワットが教えてくれた。
そんな雑談をしながら、アレフたちが乗っている馬車は試合となる会場の裏口へとたどり着いた。
アレフたちが馬車から降りると、黒いスーツを着た甘栗色の毛並みのウサギが二足歩行で出迎えてくれた。
ウサギの身長はアレフよりも高く、二メートル近くあるのではないだろうかと、アレフは見とれてしまう。
「ようこそ、テスタロッサへ。騎士の皆様はどうぞこちらの通路を進んでください」
二足歩行のウサギに、アレフは口をぽかんと開きながら、騎士専用通路へと案内された。
通路を進むと直ぐに円状の広間が現れた。
広間にはベンチや噴水が置かれており、天井には大きなシャンデリアが備えられていた。
「赤の寮の騎士様たちはこちらの控え室を使ってください」
ウサギに案内され、入ってきた通路から見て、西側にある青色の扉へとアレフたちは案内された。
ウサギが扉を開け、アレフたちは控え室に入っていった。
控え室にはスポーツでよく見るようなロッカーやベンチ、ホワイトボードなどが置かれていた。
その簡潔な部屋の道具に、アレフはじろじろと部屋の中を見渡しては両肩に力を入れては抜く仕草をした。
「さて、あんまり時間はないぞ。一間後には試合が待ってる」
ショーは控え室の中心まで進むと、アレフたちに振り向いた。
「各々、体を十分にほぐしておけ。開会式の後、アーティファクトを選んでからはすぐに試合になる。緊張するかもしれないが、必ず勝って、赤の寮に優勝カップを持って帰るぞ」
アレフたちの居る控え室は、今間違いなく、闘志に燃える者しかいなかった。
「さぁ! 試合が始まりました! エルトナム騎士学院からは黒の騎士たち!対して、セカード騎士学院の騎士たちが第一試合の花を飾ります! 闘技場テスタロッサの中心には、一体どのチームが最後まで立っていられるのでしょうか!」
控え室からでも、ワーワーと闘技場の観客の声が聞こえていた。
控え室に備え付けられている大型のテレビは、剣やアーティファクトで戦いあっている様子が映し出されている。
アレフは息を飲みながら、画面の向こうを見ていた。
「アレフ! アーティファクトのについて教えてくれ。何を貰った?」
テレビを見るアレフの後ろから、ショーが声をかけてきた。
アレフは少し驚いては後ろを振り返った。
「すみません。ついぼーっとして」
アレフはショーの目を見ずに話した。
「大丈夫だ。テレビを見てたって構わないさ。あの試合が終われば、次は私たちだからな」
「そうですよね。あ、アーティファクトですね。最大獲得上限まで持ってきました。えっと、鏡のアーティファクトと、土のアーティファクト、それと毒液のアーティファクトですね。……このアーティファクトは使いたくないな。気持ちが悪い」
見るからに毒々しい色をしたアーティファクトが少しばかり輝きながら、アレフの手の上に鎮座していた。
ショーは顎に手を乗せ、訝しげに毒液のアーティファクトを見た。
「毒液か。聞いたことないが、確かにそのようにアーティファクトが応えたんだな?」
「はい。持った時に頭の中で声がしましたから」
「そうか。扱えそうならそれでいい」
ショーは納得すると、控え室にいる全員に聞こえる声で話し始めた。
「みんな、さっきも聞いた思うが、ルールの形式は団体戦だ。最後に闘技場の上に立っているチームが勝者となる」
その声を聞き、それぞれが自分に合った形でくつろいでいた騎士たちがショーの方を見た。
「前にも話したが、団体戦の場合、アーティファクトの使える種類が多い者を中心とした陣形を取る。この場合はアレフだ。どんな騎士だろうと、アーティファクトは撃ってくる。必ず鏡のアーティファクトで反射させ隙を作り、攻撃を仕掛ける」
ショーが高らかと話している姿を、アレフはどこか上の空で聞いていた。
緊張のせいだろうか、アレフの思考は定まらず、顔を上げているのが精一杯な気がして、視線を足元に落とした。
「お、頑張れよ。決闘騎士サマ」
リィンがアレフの肩に腕を絡め、ウキウキした表情でアレフの顔を覗いた。
「頑張るよ」
「頑張れるって顔してないゼ。もっと元気出セ」
リィンがアレフの横腹をぐりぐりと拳を当てた。
「緊張しちゃって……。今にも吐きそうだ」
「そのぐらい冗談が言えるなら十分サ」
リィンはアレフの背中を強く叩くと笑って見せた。
痛みのせいもあってか、アレフも笑顔を作るが、誰が見てもアレフの表情は苦しそうに見えた。
アレフの気を紛らわせるために、試合開始までリィンが会話に付き合ってくれたが、アレフの気持ちが落ち着くことはなく、そのまま、リィンたちに見送られ、ショーたちと共に控え室を後にした。
アレフは試合で使う木剣を持ち、グローブを左手に装着すると、タオルや飲み物が入ったバッグを背負い、談話室に降りていった。
談話室にはすでに、ショーやワッカ、三年生のジェイコフとエイダン、紅一点のケイが集まっていた。
他にもリィンやワットなど、補欠組も集結しており、皆、同じ赤い色をしたユニフォームを着ていた。
普段来ている制服と見た目はあまり変わらず、ズボンが茶色であることと、背中にエルトナム学院の象徴たる、剣とドラゴンのマークが刺繡されていた。
アレフも同じ制服を着て、その集団に混じった。
「さて、全員集まりましたね」
寮監のスリグリンが声を上げて玄関の前に立っていた。
声の方に振り向いたアレフはスリグリンの姿に目を真ん丸にした。
スリグリンの頬には赤い色で、剣とドラゴンを型取ったマークがペイントされていた。
その他にも、手には赤い旗を握っており、そこにも、剣とドラゴンが描かれていた。
スリグリンはまるで遊園地に行く子供のように、笑みをこぼしながら楽しそうに話し始めた。
「待ちに待った学院対抗戦の決闘試合です。長年、この学院に努めていますが、毎年見るたびに五歳ほど若返ります」
「五十年程勤めているかラ……。ツマリ?」
「リィン、あなたの学科試験はマイナス五十点から始めますか?」
「いえ、結構でス」
談話室内がクスクス笑いで溢れた。
そのおかげで、談話室では誰一人として緊張した顔つきをした生徒はいなくなった。
「さて、今年の選抜メンバーは例年と比べ特殊なメンバーです。三年が基本メンバーになるのですが、今年はなんと、一年生が選ばれています。つまり、今年の赤の寮の生徒は全員が優秀ということです」
スリグリンの滅茶苦茶な理論に、アレフは小さく笑った。
アレフの他にも笑っている生徒はちらほらといた。
「このチームが負けることはありません。是非、この赤の寮に優勝トロフィーを持って帰って来てください。そして沢山の騎士団から、スカウトを貰って来てください。私からは以上です」
スリグリンの言葉に拍手が送られた。
そして、スリグリンが談話室の玄関を開けると、決闘騎士たちはその扉を潜り抜けていった。
校舎の入り口で、黒の寮の決闘騎士たちと鉢合わせては、ショーと黒の寮の生徒が何も語らずに握手だけすると、二人は校庭へと歩き始めた。
それに続くようにアレフたちも出ていった。
アレフたちの頭上には雲一つない青空が広がっていた。
学院エルトナムの校庭には数えきれないほどの馬車が止まっており、校舎と馬車までの間には、赤の寮の生徒と黒の寮の生徒の双方が、片手サイズの応援旗を振りながら、笑顔でアレフたちを歓迎していた。
「わお、これは凄イ」
リィンの感嘆の声にアレフも驚きながら頷いた。
生徒の中にはエトナやマーガレットもおり、アレフたちを見つけては手を振っていた。アレフもそれに気づき手を振り返す。
「あとで、マースと一緒に見に行くから!」
エトナの声にアレフは手を挙げ、こくりと頷いた。
赤の寮の生徒だろうが、黒の寮の生徒だろうが、決闘騎士たちを応援する姿にアレフは生徒たちを見渡した。
大勢の生徒の中にアレフはオズボーンを発見した。
オズボーンはアレフを見つけると、つまらなそうに視線を逸らした。
アレフはその姿を見ては、応援と相まって余計に笑顔を作ってしまう。
そうして、応援する生徒たちの間を通り過ぎて、アレフは同席となったリィンとワッカ、ワットと共に馬車へ乗り込んだ。
学院対抗試合の会場はエルトナムから二時間ほどで到着するらしく、見晴らしのいい原野に建っているのだと、ワッカが教えてくれた。
赤の寮と黒の寮の生徒は他の学院と比べ、唯一別々のチームで参加することを許されており、他の学院には獣人と呼ばれる種族がいたり、人間と妖精のハーフがいたりと、エルトナムではあまり見られない種族がいるとワットが教えてくれた。
そんな雑談をしながら、アレフたちが乗っている馬車は試合となる会場の裏口へとたどり着いた。
アレフたちが馬車から降りると、黒いスーツを着た甘栗色の毛並みのウサギが二足歩行で出迎えてくれた。
ウサギの身長はアレフよりも高く、二メートル近くあるのではないだろうかと、アレフは見とれてしまう。
「ようこそ、テスタロッサへ。騎士の皆様はどうぞこちらの通路を進んでください」
二足歩行のウサギに、アレフは口をぽかんと開きながら、騎士専用通路へと案内された。
通路を進むと直ぐに円状の広間が現れた。
広間にはベンチや噴水が置かれており、天井には大きなシャンデリアが備えられていた。
「赤の寮の騎士様たちはこちらの控え室を使ってください」
ウサギに案内され、入ってきた通路から見て、西側にある青色の扉へとアレフたちは案内された。
ウサギが扉を開け、アレフたちは控え室に入っていった。
控え室にはスポーツでよく見るようなロッカーやベンチ、ホワイトボードなどが置かれていた。
その簡潔な部屋の道具に、アレフはじろじろと部屋の中を見渡しては両肩に力を入れては抜く仕草をした。
「さて、あんまり時間はないぞ。一間後には試合が待ってる」
ショーは控え室の中心まで進むと、アレフたちに振り向いた。
「各々、体を十分にほぐしておけ。開会式の後、アーティファクトを選んでからはすぐに試合になる。緊張するかもしれないが、必ず勝って、赤の寮に優勝カップを持って帰るぞ」
アレフたちの居る控え室は、今間違いなく、闘志に燃える者しかいなかった。
「さぁ! 試合が始まりました! エルトナム騎士学院からは黒の騎士たち!対して、セカード騎士学院の騎士たちが第一試合の花を飾ります! 闘技場テスタロッサの中心には、一体どのチームが最後まで立っていられるのでしょうか!」
控え室からでも、ワーワーと闘技場の観客の声が聞こえていた。
控え室に備え付けられている大型のテレビは、剣やアーティファクトで戦いあっている様子が映し出されている。
アレフは息を飲みながら、画面の向こうを見ていた。
「アレフ! アーティファクトのについて教えてくれ。何を貰った?」
テレビを見るアレフの後ろから、ショーが声をかけてきた。
アレフは少し驚いては後ろを振り返った。
「すみません。ついぼーっとして」
アレフはショーの目を見ずに話した。
「大丈夫だ。テレビを見てたって構わないさ。あの試合が終われば、次は私たちだからな」
「そうですよね。あ、アーティファクトですね。最大獲得上限まで持ってきました。えっと、鏡のアーティファクトと、土のアーティファクト、それと毒液のアーティファクトですね。……このアーティファクトは使いたくないな。気持ちが悪い」
見るからに毒々しい色をしたアーティファクトが少しばかり輝きながら、アレフの手の上に鎮座していた。
ショーは顎に手を乗せ、訝しげに毒液のアーティファクトを見た。
「毒液か。聞いたことないが、確かにそのようにアーティファクトが応えたんだな?」
「はい。持った時に頭の中で声がしましたから」
「そうか。扱えそうならそれでいい」
ショーは納得すると、控え室にいる全員に聞こえる声で話し始めた。
「みんな、さっきも聞いた思うが、ルールの形式は団体戦だ。最後に闘技場の上に立っているチームが勝者となる」
その声を聞き、それぞれが自分に合った形でくつろいでいた騎士たちがショーの方を見た。
「前にも話したが、団体戦の場合、アーティファクトの使える種類が多い者を中心とした陣形を取る。この場合はアレフだ。どんな騎士だろうと、アーティファクトは撃ってくる。必ず鏡のアーティファクトで反射させ隙を作り、攻撃を仕掛ける」
ショーが高らかと話している姿を、アレフはどこか上の空で聞いていた。
緊張のせいだろうか、アレフの思考は定まらず、顔を上げているのが精一杯な気がして、視線を足元に落とした。
「お、頑張れよ。決闘騎士サマ」
リィンがアレフの肩に腕を絡め、ウキウキした表情でアレフの顔を覗いた。
「頑張るよ」
「頑張れるって顔してないゼ。もっと元気出セ」
リィンがアレフの横腹をぐりぐりと拳を当てた。
「緊張しちゃって……。今にも吐きそうだ」
「そのぐらい冗談が言えるなら十分サ」
リィンはアレフの背中を強く叩くと笑って見せた。
痛みのせいもあってか、アレフも笑顔を作るが、誰が見てもアレフの表情は苦しそうに見えた。
アレフの気を紛らわせるために、試合開始までリィンが会話に付き合ってくれたが、アレフの気持ちが落ち着くことはなく、そのまま、リィンたちに見送られ、ショーたちと共に控え室を後にした。
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