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第七章
禁書庫に隠された七年前の記憶 (1)
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スリグリンの罰則を受けてから一週間。
マクレイン先生の孤児院で早起きに慣れていたアレフたちは、特に苦にすることなく罰則を終えた。
今思えば、よく悪さしたランディが罰を受けて、朝方に玄関前の掃除をやらされていたのは、これが元の罰なのかもしれない、とアレフは階段の隅にあるゴミをほうきで払いながら考えていた。
「簡単な罰ね」
エトナはまくっていた袖を下ろしてゴミ袋を固く締めていた。
「これだったら、多少悪さしても問題なさそうだ」
アレフはニヤつきながら、ほうきを階段下のロッカーへと閉まった。
アレフがロッカーを占めたと同時に階段から剣柄を持ったリィンが降りてきた。
「おはよう、アレフとエトナ。仲つつましい光景で、眼福、眼福」
「おはようリィン。元はと言えば君を助けるためだぞ」
「そんなことは分かっているヨ。おかげさまで、助かりましタ」
リィンはへらへらと頭を下げた。
「それって、どういう意味?」
「どういう意味って、どういう意味だヨ」
「その頭を下にする動作のこと」
アレフの視界にはリィンが頭のつむじを見せつけていて、感謝の言葉を述べているようにしか見えなかった。
「あー、なるほど。お辞儀は伝わらないんだっケ」
「お辞儀?」
「お礼の作法サ。極東では、頭を下げて感謝したり、挨拶するのサ」
リィンはもう一度頭を下げては、つむじを見せつけてきた。
「へぇ、不思議な文化」
「そう? 俺からしたら、ここの文化も不思議なものサ」
リィンは微笑みながら、赤の寮の玄関まで歩いて行く。
「リィン。どっか行くの? 講堂で朝食するなら一緒に行こうぜ」
朝食までまだ少し時間は早い。
剣柄を持って、いったいどこへ向かうのだろうか。
アレフはリィンの姿を見て不思議に思っていると、リィンから答えをくれた。
「ああ、俺って決闘騎士の試験を途中で抜けちゃっただロ? その埋め合わせをリーフ先生がしてくれるらしいんダ」
そう言ってリィンは赤の寮の玄関から消えていった。
確かに、リィンは途中で呪いのせいで保健室に行ってしまった。
決闘騎士の試験をあの場で一番楽しみにしていたのは、間違いなくリィンだったに違いない。
きっと、さっきみたいにお辞儀をして、リーフ先生にお願いをしたのだろう。
「受かるといいね」
「そうだね」
エトナがアレフに近づくと、リィンが出ていった玄関を見ながら、さも当然のようにアレフの手にゴミ袋を渡した。
ゴミ袋を手渡されたアレフはハッと思い出す。
「俺、まだ試験の合否知らない」
「そう。じゃ、ゴミよろしく」
エトナは女子寮の階段を登っていった。
アレフはそんなエトナを目で追いかけながら、ため息をついた。
掃除を終え、しばらくして朝食を食べにアレフたちは講堂に向かっていた。
廊下の赤い絨毯に、歩くと一歩先にあるランタンに明かりが点くこと、キンブレーよろしく、甲冑を着込んだ幽霊たちが生徒たちに挨拶する風景。
アレフは最初こそ驚いていたが、今ではすっかり慣れてしまい、しまいには、よく生徒に挨拶している幽霊たちの名前まで覚えてしまった。
「おはよう、ウィル。それにジョージ」
アレフが宙に浮いている甲冑の幽霊たちに挨拶をした。
「おはよう、アレフ。君の名前は実に覚えやすい。子供が生まれたときに、真っ先に思いつきそうな名前だ」
「やあ、アレフ。今日もゴミ掃除ご苦労さん。キンブレーから聞いているよ、今日で最後だってね。せっかくだ、もう一度寮の脱獄を図りなよ。僕は応援するよ」
アレフは手を振り、ウィルとジョージの言葉に答えた。
「すっかり人気ものね、アレフ」
マーガレットがやれやれ、という風に笑った。
「そう? そうだとしたら嬉しいな」
アレフたちは駄弁りながら講堂へと歩いて行った。
講堂の一年生の円卓には、すでにリィンがパンを齧っていた。
リィンはぞろぞろと入ってくる生徒の中から、アレフたちを見つけると、パンを咥えながら手を振った。
アレフたちはリィンの傍に席を取り、円卓に備え付けられているボタンを押し、目の前に現れた食事にありついた。
「試験は、どうだったんだ?」
「分からン。合否ってその場じゃ言われないんだナ」
リィンは手についたケチャップを舐めた。
「ねぇねぇ、試験ってどんなことしたの?」
マーガレットが興味津々にアレフたちに聞いてくる。
「一対一の試合形式だった」
「俺はリグルスニー先生と試合した。まあ、負けちゃったけド」
お手上げといった感じでリィンは、軽く両手を広げた。
「無理だ、あの先生。容赦なく木剣振るってくるんだもン。素人相手にも手加減なしってかんジ」
「まぁ、先生相手なら仕方ないね」
「ちょっと見てみたかったかも」
エトナがぼそりと呟く。
その言葉にアレフ、リィン、マーガレットは思わず耳を疑った。
「エトナ……。決闘騎士の話をすると、あんだけ不機嫌だったのに」
「俺の戦いは見世物じゃないゾ」
「あなた、あれだけ部屋の中でしょんぼりしていたのに。もう立ち直ったのね」
おのおのがエトナの言動に驚きを示していた。
周りの反応にエトナは戸惑いを隠せなかった。
「そ、そんなに驚かないでよ。ローレンス学院長から貰ったのよ。私が使えるアーティファクトを」
「良かったじゃないカ」
「いつの間に」
普段から一緒にいるわけではないが、エトナが知らない所で他の人といることに、アレフは少しばかり疎外感を覚えた。
それが顔に出ていたのか、アレフの暗い顔にリィンは「腹が痛いのカ?」と見当違いな言葉をかけてきた。
「そういえば、今日は剣術の授業があるんですってね。楽しみだわ」
「剣術の授業って、そう言えば誰がやるんだ」
アレフは疑問を呈した。
剣術の授業があることは知っていたが、どこの誰が担当になるのか、カリキュラムには記載されていなかった。
「多分、リーフ先生とかだろうナ。皇帝のアーティファクト持ってるシ」
「確かに。リーフ先生なら教えてそう」
アレフたちが談笑している時、授業開始十分前の予鈴が鳴った。
どこかにスピーカーがあるわけでもない、学院中響き渡る鐘の音は、アレフたちの食事を加速させた。
教壇の上でスリグリンが教科書を開き、歴史の授業を始めていた。
アレフたちは机に着席し、指定されたページを開いていた。
「千年前、この学院エルトナムは、アインとセフィラの二つの世界を分かつ戦い、双世界戦争が始める直前に作られた寄せ集めの騎士団でした。皆さんの知っている学院の名前の由来ともなる騎士エルトナムという人物が有志を集め、反抗勢力である四大悪騎士と戦いました。結果として、エルトナムは死に、相打ちとなる形で、悪騎士たちを倒すことに成功しました」
スリグリンは生徒たちが座っている机と机の間を通りながら語っていた。
「ラインフォルトさん」
「はい」
スリグリンがマーガレットを名指しした。
「四大悪騎士の一人。名前を言えますか?」
「はい。パイモン・メイザース。四大悪騎士のうち、唯一名前が判明している悪騎士です」
「その通りです。さすがラインフォルトさん」
マーガレットは席から立ち上がり、はっきりと発言した。
スリグリンから褒められたマーガレットは嬉しそうに着席をした。
それを見ていたリィンはアレフに耳打ちをした。
「マーガレットって頭良いよな。さすが四大貴族の一人だ」
「あんまり関係ないだろ。お前はちゃんと教科書を読み込め」
アレフは広げた教科書を指さしてリィンに言った。
指をさした所には悪騎士パイモン・メイザースと書かれており、リィンは「ほう」と腕を組んで教科書を覗いた。
「エルトナムの遺志を受け継ぎ、彼の遺書に書かれている教育の普及、それを受け継いだ騎士団こそ、我々エルトナム騎士団となるわけです」
スリグリンは誇らしげに語っていた。
「しかし、私たちは四大悪騎士を完全に否定することは出来ないのです。なぜだか分かりますか? リィン・マオ」
「分かりません!」
リィンが元気よく答えると、他の生徒はくすくすと笑っていた。
アレフもその一人だった。
スリグリンは呆れながらも話を続けた。
「彼らはアーティファクトを見つけた人物だからです。今の私たちには欠かせない道具です。この時代は剣と甲冑を着て戦う、相打ち覚悟の戦い方です。民を守るため命がけで戦い多くの人が亡くなっていました。ですが、アーティファクトの発見により、安全に民を守ることが出来るようになりました」
スリグリンは持っている教本を閉じた。
「ドラゴンやオーガはもちろん、人から人を守るためにも」
スリグリンの発言の後、授業終了のチャイムが鳴った。
アレフとリィンが教室から出ると、目の前にはエトナとマーガレットがアレフたちを待っていた。
「それで本当だと思う? 私は思わないんだけど」
マーガレットが赤の寮への道すがら、歴史学の話に疑問を抱いていた。
エトナは受け流すように相槌をうっていた。
「何の話?」
「四大悪騎士の部分よ。なんで一人しか名前を知っていなかったのかしら。騎士と呼ばれていたのだから、名前は他の人に知られていたはずよ」
「そりゃあ、今の時代と違うからじゃないカ? 今みたいにセフィラ安全保障省とかはないわけだシ」
「それはそうだけど……」
何が腑に落ちないのか、マーガレットは考え込むように唸った。
「スリグリン先生に聞きに行くのが一番じゃないか? 放課後ならきっと予定を開けているだろうし」
これにはマーガレットも「うーん」と返事なのか唸り声なのか、あいまいな反応を示した。
仕切り直すように、リィンが「そんなことよリ」と高らかに声を出した。
「次は待ちに待った剣術の授業だゾ。ジャージに着替えて校庭に集合だってサ」
うきうき気分にリィンは足を速めた。
アレフもリィンの気持ちが分からなくもなかった。
やっと、騎士という名に相応しい授業であると、アレフもそう考えていたからだ。
マクレイン先生の孤児院で早起きに慣れていたアレフたちは、特に苦にすることなく罰則を終えた。
今思えば、よく悪さしたランディが罰を受けて、朝方に玄関前の掃除をやらされていたのは、これが元の罰なのかもしれない、とアレフは階段の隅にあるゴミをほうきで払いながら考えていた。
「簡単な罰ね」
エトナはまくっていた袖を下ろしてゴミ袋を固く締めていた。
「これだったら、多少悪さしても問題なさそうだ」
アレフはニヤつきながら、ほうきを階段下のロッカーへと閉まった。
アレフがロッカーを占めたと同時に階段から剣柄を持ったリィンが降りてきた。
「おはよう、アレフとエトナ。仲つつましい光景で、眼福、眼福」
「おはようリィン。元はと言えば君を助けるためだぞ」
「そんなことは分かっているヨ。おかげさまで、助かりましタ」
リィンはへらへらと頭を下げた。
「それって、どういう意味?」
「どういう意味って、どういう意味だヨ」
「その頭を下にする動作のこと」
アレフの視界にはリィンが頭のつむじを見せつけていて、感謝の言葉を述べているようにしか見えなかった。
「あー、なるほど。お辞儀は伝わらないんだっケ」
「お辞儀?」
「お礼の作法サ。極東では、頭を下げて感謝したり、挨拶するのサ」
リィンはもう一度頭を下げては、つむじを見せつけてきた。
「へぇ、不思議な文化」
「そう? 俺からしたら、ここの文化も不思議なものサ」
リィンは微笑みながら、赤の寮の玄関まで歩いて行く。
「リィン。どっか行くの? 講堂で朝食するなら一緒に行こうぜ」
朝食までまだ少し時間は早い。
剣柄を持って、いったいどこへ向かうのだろうか。
アレフはリィンの姿を見て不思議に思っていると、リィンから答えをくれた。
「ああ、俺って決闘騎士の試験を途中で抜けちゃっただロ? その埋め合わせをリーフ先生がしてくれるらしいんダ」
そう言ってリィンは赤の寮の玄関から消えていった。
確かに、リィンは途中で呪いのせいで保健室に行ってしまった。
決闘騎士の試験をあの場で一番楽しみにしていたのは、間違いなくリィンだったに違いない。
きっと、さっきみたいにお辞儀をして、リーフ先生にお願いをしたのだろう。
「受かるといいね」
「そうだね」
エトナがアレフに近づくと、リィンが出ていった玄関を見ながら、さも当然のようにアレフの手にゴミ袋を渡した。
ゴミ袋を手渡されたアレフはハッと思い出す。
「俺、まだ試験の合否知らない」
「そう。じゃ、ゴミよろしく」
エトナは女子寮の階段を登っていった。
アレフはそんなエトナを目で追いかけながら、ため息をついた。
掃除を終え、しばらくして朝食を食べにアレフたちは講堂に向かっていた。
廊下の赤い絨毯に、歩くと一歩先にあるランタンに明かりが点くこと、キンブレーよろしく、甲冑を着込んだ幽霊たちが生徒たちに挨拶する風景。
アレフは最初こそ驚いていたが、今ではすっかり慣れてしまい、しまいには、よく生徒に挨拶している幽霊たちの名前まで覚えてしまった。
「おはよう、ウィル。それにジョージ」
アレフが宙に浮いている甲冑の幽霊たちに挨拶をした。
「おはよう、アレフ。君の名前は実に覚えやすい。子供が生まれたときに、真っ先に思いつきそうな名前だ」
「やあ、アレフ。今日もゴミ掃除ご苦労さん。キンブレーから聞いているよ、今日で最後だってね。せっかくだ、もう一度寮の脱獄を図りなよ。僕は応援するよ」
アレフは手を振り、ウィルとジョージの言葉に答えた。
「すっかり人気ものね、アレフ」
マーガレットがやれやれ、という風に笑った。
「そう? そうだとしたら嬉しいな」
アレフたちは駄弁りながら講堂へと歩いて行った。
講堂の一年生の円卓には、すでにリィンがパンを齧っていた。
リィンはぞろぞろと入ってくる生徒の中から、アレフたちを見つけると、パンを咥えながら手を振った。
アレフたちはリィンの傍に席を取り、円卓に備え付けられているボタンを押し、目の前に現れた食事にありついた。
「試験は、どうだったんだ?」
「分からン。合否ってその場じゃ言われないんだナ」
リィンは手についたケチャップを舐めた。
「ねぇねぇ、試験ってどんなことしたの?」
マーガレットが興味津々にアレフたちに聞いてくる。
「一対一の試合形式だった」
「俺はリグルスニー先生と試合した。まあ、負けちゃったけド」
お手上げといった感じでリィンは、軽く両手を広げた。
「無理だ、あの先生。容赦なく木剣振るってくるんだもン。素人相手にも手加減なしってかんジ」
「まぁ、先生相手なら仕方ないね」
「ちょっと見てみたかったかも」
エトナがぼそりと呟く。
その言葉にアレフ、リィン、マーガレットは思わず耳を疑った。
「エトナ……。決闘騎士の話をすると、あんだけ不機嫌だったのに」
「俺の戦いは見世物じゃないゾ」
「あなた、あれだけ部屋の中でしょんぼりしていたのに。もう立ち直ったのね」
おのおのがエトナの言動に驚きを示していた。
周りの反応にエトナは戸惑いを隠せなかった。
「そ、そんなに驚かないでよ。ローレンス学院長から貰ったのよ。私が使えるアーティファクトを」
「良かったじゃないカ」
「いつの間に」
普段から一緒にいるわけではないが、エトナが知らない所で他の人といることに、アレフは少しばかり疎外感を覚えた。
それが顔に出ていたのか、アレフの暗い顔にリィンは「腹が痛いのカ?」と見当違いな言葉をかけてきた。
「そういえば、今日は剣術の授業があるんですってね。楽しみだわ」
「剣術の授業って、そう言えば誰がやるんだ」
アレフは疑問を呈した。
剣術の授業があることは知っていたが、どこの誰が担当になるのか、カリキュラムには記載されていなかった。
「多分、リーフ先生とかだろうナ。皇帝のアーティファクト持ってるシ」
「確かに。リーフ先生なら教えてそう」
アレフたちが談笑している時、授業開始十分前の予鈴が鳴った。
どこかにスピーカーがあるわけでもない、学院中響き渡る鐘の音は、アレフたちの食事を加速させた。
教壇の上でスリグリンが教科書を開き、歴史の授業を始めていた。
アレフたちは机に着席し、指定されたページを開いていた。
「千年前、この学院エルトナムは、アインとセフィラの二つの世界を分かつ戦い、双世界戦争が始める直前に作られた寄せ集めの騎士団でした。皆さんの知っている学院の名前の由来ともなる騎士エルトナムという人物が有志を集め、反抗勢力である四大悪騎士と戦いました。結果として、エルトナムは死に、相打ちとなる形で、悪騎士たちを倒すことに成功しました」
スリグリンは生徒たちが座っている机と机の間を通りながら語っていた。
「ラインフォルトさん」
「はい」
スリグリンがマーガレットを名指しした。
「四大悪騎士の一人。名前を言えますか?」
「はい。パイモン・メイザース。四大悪騎士のうち、唯一名前が判明している悪騎士です」
「その通りです。さすがラインフォルトさん」
マーガレットは席から立ち上がり、はっきりと発言した。
スリグリンから褒められたマーガレットは嬉しそうに着席をした。
それを見ていたリィンはアレフに耳打ちをした。
「マーガレットって頭良いよな。さすが四大貴族の一人だ」
「あんまり関係ないだろ。お前はちゃんと教科書を読み込め」
アレフは広げた教科書を指さしてリィンに言った。
指をさした所には悪騎士パイモン・メイザースと書かれており、リィンは「ほう」と腕を組んで教科書を覗いた。
「エルトナムの遺志を受け継ぎ、彼の遺書に書かれている教育の普及、それを受け継いだ騎士団こそ、我々エルトナム騎士団となるわけです」
スリグリンは誇らしげに語っていた。
「しかし、私たちは四大悪騎士を完全に否定することは出来ないのです。なぜだか分かりますか? リィン・マオ」
「分かりません!」
リィンが元気よく答えると、他の生徒はくすくすと笑っていた。
アレフもその一人だった。
スリグリンは呆れながらも話を続けた。
「彼らはアーティファクトを見つけた人物だからです。今の私たちには欠かせない道具です。この時代は剣と甲冑を着て戦う、相打ち覚悟の戦い方です。民を守るため命がけで戦い多くの人が亡くなっていました。ですが、アーティファクトの発見により、安全に民を守ることが出来るようになりました」
スリグリンは持っている教本を閉じた。
「ドラゴンやオーガはもちろん、人から人を守るためにも」
スリグリンの発言の後、授業終了のチャイムが鳴った。
アレフとリィンが教室から出ると、目の前にはエトナとマーガレットがアレフたちを待っていた。
「それで本当だと思う? 私は思わないんだけど」
マーガレットが赤の寮への道すがら、歴史学の話に疑問を抱いていた。
エトナは受け流すように相槌をうっていた。
「何の話?」
「四大悪騎士の部分よ。なんで一人しか名前を知っていなかったのかしら。騎士と呼ばれていたのだから、名前は他の人に知られていたはずよ」
「そりゃあ、今の時代と違うからじゃないカ? 今みたいにセフィラ安全保障省とかはないわけだシ」
「それはそうだけど……」
何が腑に落ちないのか、マーガレットは考え込むように唸った。
「スリグリン先生に聞きに行くのが一番じゃないか? 放課後ならきっと予定を開けているだろうし」
これにはマーガレットも「うーん」と返事なのか唸り声なのか、あいまいな反応を示した。
仕切り直すように、リィンが「そんなことよリ」と高らかに声を出した。
「次は待ちに待った剣術の授業だゾ。ジャージに着替えて校庭に集合だってサ」
うきうき気分にリィンは足を速めた。
アレフもリィンの気持ちが分からなくもなかった。
やっと、騎士という名に相応しい授業であると、アレフもそう考えていたからだ。
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