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第六章
危険な夜の散歩 (3)
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ダァトと再会してから、アレフたちはダァトと共に森の奥へと向かっていた。
「ところでさっきの煙は何なの?」
「ん? あの煙かい? あれは気配消しさ。コトボーの能力の一つだよ」
「能力の一つ?」
アレフはダァトの言葉に疑問に思った。
「聞きたかったんだけど、コトボーもアーティファクトなの? おしゃべり出来たり、煙を吐いたり、いろんなことが出来るみたいだけど」
「んー。なんと言えばいいのかな。エトナと同じ特別な力を持っていると考えてくれればいいよ」
ダァトは地面に突いていたコトボーを持ち上げると、考えながら話した。
「私と同じ?」
「そう。アーティファクトは通常一つの事しかできないが、コトボーは色んなことが出来る。普通のアーティファクトとは違うって訳さ」
ダァトはエトナの方を見た。
「エトナも同じ、今は自がないかもしれないが、そのうち、普通の人と違うことを自覚し始めるようになる」
ダァトの言葉に、アレフとエトナは顔を見合わせた。
「それでなんだけど、実はエトナは……」
アレフが話そうとするが、エトナが遮るように話を被せた。
「私、決闘騎士用に使用するアーティファクトが使えなかったの」
「だろうね」
ダァトが当然のように言った。
知ったように話をしたダァトに、エトナは少し不機嫌そうな顔をした。
「おっと、機嫌を悪くしないで欲しい。別に隠していたわけじゃないさ。ただ、教える必要が分かっただけさ。そのうち分かることだったからね」
ダァトは申し訳なさそうにせず、エトナに話をした。
ダァトはそのことに加え、さらに話を続けた。
「それに、決闘騎士用のアーティファクトだっけ? あれ以外にも大抵のアーティファクトは使えない。コトボーとか、木剣とか、人を選ばない物は基本的には大丈夫だけど……」
「わしは人を選ぶぞ」
コトボーがぼそりと、けれどもアレフたちには聞こえるように呟いた。
「コト爺。私なら大丈夫かな?」
「この軟派モンと比べたら、喜んで使われよ」
「あらら、フラれちゃったよ」
エトナはコトボーからの返答に不機嫌そうな顔を止めて、コトボーをダァトから奪っていった。
アレフは嬉しそうにコトボーと話を始めたエトナを見つめながら、ダァトに質問を投げかけた。
「ダァト。他にもエトナには何かしらの力があるんでしょ。全部教えてよ」
「それは分からない。あくまでアーティファクトの件に関しては予測できたというだけさ。ローレンスと話した際に、結論の一つとして挙がった点さ」
「じゃあ、わかる範囲で教えてよ。もったいぶらないで」
アレフの口調は真剣だった。
けれども、アレフの真剣さがダァトに伝わることはなかった。
「それは出来ない。というか、絶対とは言い切れないからね。正しくないことを教えるのは、君にとってエトナの見方を変えることになる。エトナの見方が変われば、エトナの味方が変わることもある。そのうちの一人に、君を入れたくはないんだよ」
ダァトは淡々と話す。
アレフを見ずに、エトナを見ずに、深く被ったフードの内側をダァトは見ていた。
「なにそれ」
まるで、アレフがエトナを裏切るような物言いに、アレフはダァトの言葉に飽き飽きしていた。
そんなことあるわけないだろ、大切な家族なんだから、とアレフは思った。
すると、ダァトはコトボーがいなくなって寂しくなった右手を、アレフの頭の上に乗せた。
「君は利口な人間だ、同じ十二歳の子どもでも、ここまでしっかりしている子はそうそういない。君はよく頑張っているよ、エトナの兄として」
ダァトの手を跳ね除けるように、アレフは左手で払った。
「何にも出来ていないよ」
アレフはダァトを置いて、とぼとぼとエトナの方へ歩いて行った。
しばらくして、アレフたちの目の前には、他の木々と比べ物にならないほど、大きな大木がそびえ立っていた。
大木は風に木の葉を揺らし、大鳥が飛んでいるのかと思うほど、葉っぱを擦り合わせて、大きな音をたてていた。
その大きな大木の足元には、色とりどりの花が咲いており、月の光を浴びて、花畑は一段と輝いていた。
その中には、アレフたちが探していた青色の葉っぱの姿もあった。
「凄い綺麗な場所!」
エトナは一面の花畑に目をキラキラさせていた。
コトボーは自慢げに「ホッホッホッ」と笑っていた。
一歩遅れて到着したダァトは「ここはまだ無事だったみたいだね」と言っていた。
アレフは花畑が目立つ中、大木の近くに一つの石造りの台座を見つけた。
「あれはなに?」
アレフが指さす方向にダァトも振り向いた。
「ああ、あれは剣の台座だよ。先人たちがここに設置したのさ」
「へぇ」
アレフは石造りの台座に近づいた。
台座に小さい文字で言葉が彫られていることにアレフは気づく。
〝——サ——こ——眠る〟
台座に綴られた文字はかなり擦れており、ほとんど読むことは出来ない状態であった。
アレフがじっと見ていたせいか、ダァトが話しをし始める。
「ここの台座に眠る人は、たくさんの人に愛され、いつしか王と呼ばれる存在になったんだ」
「王? このセフィラには王様がいたの?」
傍に寄ってきたダァトにアレフは疑問を呈した。
「そう、いたのさ。王様がね」
何処か悲し気にダァトは語った。
「君に渡した剣の柄があったろ? あれは台座に刺してあった物でね。この王様の物なんだ。死んで誰も使わないなら、いっそ誰かに使ってもらった方がいいなと思って君に上げた」
ダァトは平然と語るがアレフは驚きのあまり、台座とダァトを何度も見直した。
アレフが貰った柄はいわゆる宝物のような貴重な物で、アレフは内心、自分なんかが持ってて良い物か困惑する反面、大層な物を持っている事実に興奮していた。
「さて、さっさと青皮膚の呪いを解く薬草を摘もう。早くリィン少年に渡さないとね」
ダァトに言われて、アレフは「そうだね」と頷いた。
さっそくアレフとエトナは、地面に手を突き、青色の葉っぱを探し始めた。
探し始めると案外簡単に見つかるもので、青色でイボの付いた葉っぱという見た目は、他の花や葉っぱと比べてすぐに目についた。
「十枚程度でいいだろう。あまり摘みすぎると、繫殖出来なくなるからね」
ダァトがそう話している間にも、青皮膚の呪いを解く薬草は摘み終わっていた。
「これで、リィンの呪いが解ける」
「さっさと帰りましょ」
そう言って、アレフたちはダァトを見ては「帰り道教えて」と二人揃って言った。
「いやあ、人気者だね。私は」
エトナが地面に刺していたコトボーは、ダァトの手元に戻ると、「せっかくお前さんから離れえていたのに」とボヤいていた。
「さて、帰り道はコトボーの力を借りよう。エルトナムの近くに転移先を用意しておいた」
ダァトはコトボーの杖先を使って、地面に大きな円を作る。
すると、出来上がった円の先には、見覚えのある学院の後ろ姿が映し出されていた。
「跳び抜けフープ!」
「あそこまで便利な物じゃないさ。さあ行った行った。私は学院には入れないから、道先案内はここまでさ」
ダァトの言葉に、アレフとエトナは「ありがとう!」と笑顔で応えると、勢いよく円の中へと跳んで行った。
アレフたちは一時間前に訪れていたロストフォレストに繋がる道に立っていた。
アレフとエトナは、頭上に点在しているロストフォレストの奥地を映し出す輪っかを見上げた。
空中に浮かぶ輪っかは瞬く間に消え、セフィラの夜空が、アレフたちの目の前に映し出された。
「消えちゃった」
「早く戻ろう。きっと、グレイアロウズたちもそろそろ戻ってくる頃だ」
アレフは急かすように言うと、アレフたちは校庭の真ん中を突っ切って、校庭と学院を繋げる入り口へと入っていった。
「ところでさっきの煙は何なの?」
「ん? あの煙かい? あれは気配消しさ。コトボーの能力の一つだよ」
「能力の一つ?」
アレフはダァトの言葉に疑問に思った。
「聞きたかったんだけど、コトボーもアーティファクトなの? おしゃべり出来たり、煙を吐いたり、いろんなことが出来るみたいだけど」
「んー。なんと言えばいいのかな。エトナと同じ特別な力を持っていると考えてくれればいいよ」
ダァトは地面に突いていたコトボーを持ち上げると、考えながら話した。
「私と同じ?」
「そう。アーティファクトは通常一つの事しかできないが、コトボーは色んなことが出来る。普通のアーティファクトとは違うって訳さ」
ダァトはエトナの方を見た。
「エトナも同じ、今は自がないかもしれないが、そのうち、普通の人と違うことを自覚し始めるようになる」
ダァトの言葉に、アレフとエトナは顔を見合わせた。
「それでなんだけど、実はエトナは……」
アレフが話そうとするが、エトナが遮るように話を被せた。
「私、決闘騎士用に使用するアーティファクトが使えなかったの」
「だろうね」
ダァトが当然のように言った。
知ったように話をしたダァトに、エトナは少し不機嫌そうな顔をした。
「おっと、機嫌を悪くしないで欲しい。別に隠していたわけじゃないさ。ただ、教える必要が分かっただけさ。そのうち分かることだったからね」
ダァトは申し訳なさそうにせず、エトナに話をした。
ダァトはそのことに加え、さらに話を続けた。
「それに、決闘騎士用のアーティファクトだっけ? あれ以外にも大抵のアーティファクトは使えない。コトボーとか、木剣とか、人を選ばない物は基本的には大丈夫だけど……」
「わしは人を選ぶぞ」
コトボーがぼそりと、けれどもアレフたちには聞こえるように呟いた。
「コト爺。私なら大丈夫かな?」
「この軟派モンと比べたら、喜んで使われよ」
「あらら、フラれちゃったよ」
エトナはコトボーからの返答に不機嫌そうな顔を止めて、コトボーをダァトから奪っていった。
アレフは嬉しそうにコトボーと話を始めたエトナを見つめながら、ダァトに質問を投げかけた。
「ダァト。他にもエトナには何かしらの力があるんでしょ。全部教えてよ」
「それは分からない。あくまでアーティファクトの件に関しては予測できたというだけさ。ローレンスと話した際に、結論の一つとして挙がった点さ」
「じゃあ、わかる範囲で教えてよ。もったいぶらないで」
アレフの口調は真剣だった。
けれども、アレフの真剣さがダァトに伝わることはなかった。
「それは出来ない。というか、絶対とは言い切れないからね。正しくないことを教えるのは、君にとってエトナの見方を変えることになる。エトナの見方が変われば、エトナの味方が変わることもある。そのうちの一人に、君を入れたくはないんだよ」
ダァトは淡々と話す。
アレフを見ずに、エトナを見ずに、深く被ったフードの内側をダァトは見ていた。
「なにそれ」
まるで、アレフがエトナを裏切るような物言いに、アレフはダァトの言葉に飽き飽きしていた。
そんなことあるわけないだろ、大切な家族なんだから、とアレフは思った。
すると、ダァトはコトボーがいなくなって寂しくなった右手を、アレフの頭の上に乗せた。
「君は利口な人間だ、同じ十二歳の子どもでも、ここまでしっかりしている子はそうそういない。君はよく頑張っているよ、エトナの兄として」
ダァトの手を跳ね除けるように、アレフは左手で払った。
「何にも出来ていないよ」
アレフはダァトを置いて、とぼとぼとエトナの方へ歩いて行った。
しばらくして、アレフたちの目の前には、他の木々と比べ物にならないほど、大きな大木がそびえ立っていた。
大木は風に木の葉を揺らし、大鳥が飛んでいるのかと思うほど、葉っぱを擦り合わせて、大きな音をたてていた。
その大きな大木の足元には、色とりどりの花が咲いており、月の光を浴びて、花畑は一段と輝いていた。
その中には、アレフたちが探していた青色の葉っぱの姿もあった。
「凄い綺麗な場所!」
エトナは一面の花畑に目をキラキラさせていた。
コトボーは自慢げに「ホッホッホッ」と笑っていた。
一歩遅れて到着したダァトは「ここはまだ無事だったみたいだね」と言っていた。
アレフは花畑が目立つ中、大木の近くに一つの石造りの台座を見つけた。
「あれはなに?」
アレフが指さす方向にダァトも振り向いた。
「ああ、あれは剣の台座だよ。先人たちがここに設置したのさ」
「へぇ」
アレフは石造りの台座に近づいた。
台座に小さい文字で言葉が彫られていることにアレフは気づく。
〝——サ——こ——眠る〟
台座に綴られた文字はかなり擦れており、ほとんど読むことは出来ない状態であった。
アレフがじっと見ていたせいか、ダァトが話しをし始める。
「ここの台座に眠る人は、たくさんの人に愛され、いつしか王と呼ばれる存在になったんだ」
「王? このセフィラには王様がいたの?」
傍に寄ってきたダァトにアレフは疑問を呈した。
「そう、いたのさ。王様がね」
何処か悲し気にダァトは語った。
「君に渡した剣の柄があったろ? あれは台座に刺してあった物でね。この王様の物なんだ。死んで誰も使わないなら、いっそ誰かに使ってもらった方がいいなと思って君に上げた」
ダァトは平然と語るがアレフは驚きのあまり、台座とダァトを何度も見直した。
アレフが貰った柄はいわゆる宝物のような貴重な物で、アレフは内心、自分なんかが持ってて良い物か困惑する反面、大層な物を持っている事実に興奮していた。
「さて、さっさと青皮膚の呪いを解く薬草を摘もう。早くリィン少年に渡さないとね」
ダァトに言われて、アレフは「そうだね」と頷いた。
さっそくアレフとエトナは、地面に手を突き、青色の葉っぱを探し始めた。
探し始めると案外簡単に見つかるもので、青色でイボの付いた葉っぱという見た目は、他の花や葉っぱと比べてすぐに目についた。
「十枚程度でいいだろう。あまり摘みすぎると、繫殖出来なくなるからね」
ダァトがそう話している間にも、青皮膚の呪いを解く薬草は摘み終わっていた。
「これで、リィンの呪いが解ける」
「さっさと帰りましょ」
そう言って、アレフたちはダァトを見ては「帰り道教えて」と二人揃って言った。
「いやあ、人気者だね。私は」
エトナが地面に刺していたコトボーは、ダァトの手元に戻ると、「せっかくお前さんから離れえていたのに」とボヤいていた。
「さて、帰り道はコトボーの力を借りよう。エルトナムの近くに転移先を用意しておいた」
ダァトはコトボーの杖先を使って、地面に大きな円を作る。
すると、出来上がった円の先には、見覚えのある学院の後ろ姿が映し出されていた。
「跳び抜けフープ!」
「あそこまで便利な物じゃないさ。さあ行った行った。私は学院には入れないから、道先案内はここまでさ」
ダァトの言葉に、アレフとエトナは「ありがとう!」と笑顔で応えると、勢いよく円の中へと跳んで行った。
アレフたちは一時間前に訪れていたロストフォレストに繋がる道に立っていた。
アレフとエトナは、頭上に点在しているロストフォレストの奥地を映し出す輪っかを見上げた。
空中に浮かぶ輪っかは瞬く間に消え、セフィラの夜空が、アレフたちの目の前に映し出された。
「消えちゃった」
「早く戻ろう。きっと、グレイアロウズたちもそろそろ戻ってくる頃だ」
アレフは急かすように言うと、アレフたちは校庭の真ん中を突っ切って、校庭と学院を繋げる入り口へと入っていった。
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