異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第330話:復活

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「ねぇ、そう言えばフィフリーの姿が見えないけど何処かに行ってるのかい?」

「・・・・・・・・・」

「???」

 あの後、直ぐに宿屋を決めて複数の部屋を無理矢理――げふんッ――確保して落ち着いた所で一度仲間達に招集を掛けて食事と今後の話し合いをしようと街へ繰り出した。
 宿屋は王宮に程近い、所謂一等地にあるのだが案の定料金が凄まじい。
 完全予約制で一見さんお断りな高級宿だが、勿論俺の能力を使いその辺は上手くやった。
 それによりいきなり宿を追い出された金持ちが複数居たのだが、許してくれと心の中で思う。
 因みに俺達はある程度の金はゴリアテに積んでいたが、それも馬車と共に置いて来てしまったので、現在は個人が持つお小遣い程度しか皆持ち合わせは無かった。
 なので、宿屋で部屋を確保したのち皆が荷物等を置いて一息付いている間にデス隊を伴って何時もの如く悪事を働き不当に利益を搾取している個人、企業から溜め込んでいた大量の金貨等を奪う活動を久々に行った。

 人間とはなんて愚かしい生き物なんだと改めて思う。
 どんな時代、どんな世界であろうと人間の醜い部分、汚い部分、そう言った悪と言われるものに対する考え方や行動はどこに居ようが変わらない。
 なので帝国と言う王国とは国の成り立ちから全く違うこの国でも探そうと思えばもの凄い日数を要するであろうが存在する。

 今回はあまり時間も無かったので、分かり易い裏稼業を狙った。
 人身売買などを手広く手掛ける所謂犯罪シンジケートを二つ程ターゲットとして、直接本部に乗り込んで俺とデス隊で持てるだけの金貨がパンパンに詰まった革袋を持ち出した。
 当然抵抗はあったのだが、俺の能力とデス隊――主にムネチカだが――が実力行使で排除する事で滞り無く作業自体は済んだ。

 ムネチカの奴・・・
 何処であんなセリフを覚えたんだ・・・

 その時の事を思い出し俺は眉間に皺を寄せるが、どうせアリシエーゼかと思い直した。

「お前らッ、こんな悪行を働きお天道様に顔向け出来るのか!?」とか「悪がこの世に蔓延る事は無いッ、サムライである私が居る限りはな!」とか言って暴れ回っていたのだが、サムライとは正義の味方であると完全に誤解している辺りかなり厄介だった。

 二つのシンジケートの資金を盗み出したのだが、一つ目でもう両手が塞がっていた俺達は、二つ目の盗みに入る前にそれを全てばら撒く事にした。
 デス隊に覆面を被せて変装させてそれぞれの地区の貧民街へ向かわせる。
 何も言わずに適当に困ってそうな奴らに渡せと命じたのだが、マサムネとコテツの報告では、ムネチカは「弱き者を助けるサムライ衆はお前らを見捨てない!何か困った事があったら大声で私達を呼べ!必ずや悪を成敗し助けよう!」と高笑いで金を配っていたと言っていた。

 何してくれてんの彼奴・・・

 まぁそんなサイドエピソード?的な事がありつつも潤沢な資金を短時間で用意した俺に仲間達からは盛大な賛辞―――では無く、シラケた目が向けられたのは心外だった。

「ちょっとッ、ラルファ様が聞いてるのよ!?何か言いなさいよ!」

「・・・・・・アレは、置いてきた」

「「はい??」」

 大人数が入れる食堂兼酒場を探し出し、これも無理矢理入店したのだが、最初の注文を終えてラルファが聞いてきた事に俺は沈黙を貫こうとした。
 だが、それをリルカが許さず俺に詰め寄って来た為俺は仕方無しに言葉を絞り出した。

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

 フィフリーの話になった途端、仲間達も無言になるが、モニカ辺りはとう思い出したくも無いと言った様子であった。

「ちょ、ちょっとどう言う事?置いて来たってオルファにかい?」

「そんなッ、何で!?」

 何でも糞もねぇよ・・・

 出会った当初からフィフリーと言う女エルフは同じくエルフであるモニカに付き纏った。
 最初はモニカと何か因縁でもあるのか?とか、何かモニカに文句でもあるのかな?と思っていたのだが、接している内にそうでは無い事が分かる。

「・・・・・・もうアイツの話はするなよ」

「えッ!?な、なんでそんな事言うんだい!?」

「酷いッ、貴方は本当に人間ですか!?あの子を一人街に残して来たのですか!?あの子は人見知りで――恥ずかしがり屋でッ、あの街に頼れる者など私達しか居ないんですよ!?」

「アレを恥ずかしがり屋って言葉で片付けるのはどうかと思うぞ・・・」

 俺の言葉にモニカはウンウンと激しく首を縦に振る。
 だが、そんな事お構い無しにその後もリルカへ俺達――と言うか、俺を責め立てた。

 そんな事言うなら何で俺達にアレを預けたんだよ・・・

 オルフェにある魔界から地上に戻ってすぐに連合軍と帝国軍の戦争再開のニュースが俺達の元に飛び込み、ラルファ達は直ぐに連絡その戦争に傭兵として参加すべく旅立った。
 その際、何故だかフィフリーは俺達と一緒に留まったのだ。
 こんなの押し付けるんじゃねぇよと直ぐにラルファを追い掛けたものの、フィフリーがそう望むならと俺達にアレを預けたのだ。

「あの子は今どうしてるんですか!?きっと一人寂しくて泣いてるに違いありません!」

「んな訳ねぇだろ・・・それにオルフェの屋敷に残して来たからきっとイエニエスさん達が面倒見てくれてるよ」

 俺達がオルフェを立つ際にフィフリーの事は一応、イエニエスさんに頼んでは来た。
 イエニエスさんでも手に負えないかも知れないが、そこは信じるしかない。

「なんて非道ッ、卑劣極まりない無いですよ!?」

「あんな変態をユーリーと一緒に置いておけるかッッ」

「へ、変態!?」

「ユーリーさん?どう言う事ですか・・・?」

 フィフリーはモニカに粘着していると思っていたのだが、そうでは無かったのだ。
 ユーリーを一目見たい時からフィフリーの心はフィフリーに囚われた。
 カッコイイ言い方をしてしまったが、要は幼児にこれでもかと言う程のねじ曲がった性癖の限りをぶつけようとする、糞以外の言葉が思い付かない変態だったのだ。
 つまり、ユーリーを自分の物にしたいが為、ユーリーの姉であるモニカに粘着してユーリーを譲ってくれ、どれ程自分がユーリーを愛してしまっているのかを生々しく自分の物になったら、どうやって愛すかを語っていたのだと言う。
 ユーリーはエルフなので実年齢は兎も角、見た目ほ十にも満たない、六歳くらいと言われればそう見える幼児なのだ。
 しかも、見た目はまるっきり女の子!姉のモニカとは違い、ふわっふわの少し癖のあるブロンドの髪に今は多少はマシになったがモニカの趣味で着せられているどう見ても男の子が着る様な服では無い事も相まって、初見でユーリーを男の子と看破出来る者は存在しないだろう。
 恐らく、そんなオトコの娘要素もフィフリーの変態魂を擽ったに違い無いのだが、そんな幼児のユーリーに対して歪んだ性癖ーーそれも成人に対してもそんな想いを抱いていたのならドン引きされる事間違い無しのプレイ内容とかを実の姉であるモニカにこうしたいとか語るのだ。
 モニカは気が狂いそうになっていたに違い無い。
 幼児に抱いた良い妄想の類いでは決して無く、世が世なら口にしただけで火あぶりにでもされているのでは?と思ってしまうが、ある時フィフリーほ俺の能力を知る事になる。
 俺の能力がどんなものなのかを凡そ理解したフィフリーは、あろう事か今度はモニカでは無く俺に粘着して来たのだ!
 フィフリーは何故だか極端と言うか、そのレベルでは無いのだが声が小さい。物凄く小さい!
 モニカは何も喋っていないと認識していたのだが、俺の身体能力を駆使して翌々観察してみると、本当に普通の人間では分からない程の口の動きと声量で話していた事は分かった。
 だが、その小さ過ぎる声を聞き取った俺はある意味俺を呪う呪詛を聞いてしまったかの如く戦慄した。
 ユーリーをフィフリーに惚れさせてくれれば自分の身体を俺に差し出しても良いと言っていたのだ。
 毎晩抱いても良い、しかも具体的なプレイ内容を含めてそう語るフィフリーに、盛んなお年頃である俺ですらドン引きだった。
 いや、もうアレは恐怖を感じていた。きっと。

 なのでフィフリーの正体が判明してからは極力ユーリーに近付け無い様に気を配っていた。
 だが、俺達も戦争へ介入する事を決めた為、旅に出る事になり、何日も狭い馬車の中でそんな超弩級の変態とユーリーを同じ空間に居させる事は憚られた為、仲間達との会議の結果フィフリーは置いて行く事になったのだ。

「どう言う事も何もアイツはユーリーを――――ッ、ぁ」

 そこまで言ってこの場にユーリーが居る事に気付く。ユーリーは自分の名前を呼ばれてモニカの横で紅茶の様なお茶に蜂蜜を入れたホットドリンクをちびちびと飲んで居たが、なんの事か分からずキョトンとしながら俺を見ていた。

「貴方達に黙って―――それも連絡取れなかったんだから仕方無いけど、置いて来てしまったのは悪いと思ってるわ。でもあの子はちょっと異常よ。此方には小さい子も居るのだからちょっと一緒に居られないと言う事も分かって」

「そうだぞ、あんな可愛い顔してあんな想像をしていたとは・・・女に恐怖したのは姉以外で初めてだぞ」

 イリアとドエインもフィフリーを置いて来ると言う選択は仕方の無い事だったと俺を援護する。
 それを聞き、ラルファとリルカは互いに顔を見合せてから首を傾げた。

 結局はこの二人はフィフリーの本性を知らなかったのだ。
 どう説明したら良いかと思ったが、とりあえずラルファには後でちゃんと説明するとだけ言ってこの話題を切り上げた。

「――だからとりあえずは王宮の周りで情報収集を毎日行って、王宮にガバリス大司教が入るタイミングか、最悪は王宮に入った後に奪還するって方針で良いか?」

「それで良いわ」

「俺もそれで問題無い」

 俺の言葉に皆頷く。そうなると何時、教会暗部の大司教を運んでいる部隊がこの首都にやって来るか分からない以上、今直ぐにでと監視活動を始めた方が良さそうだなと改めて思った。

「お前のお付の奴らはどうしたんだ?」

 この食事の席にデス隊な居ない事を疑問に思い直哉が質問をしてくる。

「お付って・・・まあま、彼奴らにはもう監視活動は初めさせてるよ」

 活動資金を集めた後、俺はデス隊に王宮周辺の監視活動を命じた。
 もう今この時にでも大司教がこの街に到着してもおかしくへ無かったのでそう考えて命じたのだが、それを聞いて仲間達から疑問の声が上がる。

「三人だけで大丈夫か?」

「そうよね、見逃す可能性はあるわね」

「まぁ、そうだな。でもとりあえず今日はデス隊に任せるよ。明日からは二十四時間体制で監視活動と、後は諸々の準備をしていこう」

 監視活動は勿論交代制なと付け加えて俺が言うと、そこまで異論は出ずに後は割り振りの話に移行した。

「―――そう言えば、姉御はどうすんだ?」

 一頻り、今後の活動に関して議論した所でドエインが俺に言う。

「んー、考えているんだが、どうすれば良いのかイマイチ分からないんだよなぁ。術を掛けた本人が分からないって言ってるしよ・・・」

 そう言って俺は料理を貪る直哉にジト目を送る。
 自分に話が振られたのを分かって直哉は口にあった物をエールで流し込んでから答えた。

「仕方無ぇだろ?俺、こっちの世界に来てまだ日が浅いんだし、当然自分の能力を全部理解してる訳じゃ無いんだしよ」

 確かにそうなのだが、話している間もテーブルにある料理を物色し適当に答える直哉に若干苛つく。

「まぁ、でもなんて言うか繋がり?そう言うのほ今も感じてるんだよ。だから無事だって事ほ確信を持てるし、後は確実な方法を知る事が出来ればって感じなんだよなぁ」

 実際、どうやってアリシエーゼを直哉が閉じ込めたであろう世界から解放したら良いのかは検討が付かない。
 こんな時に光が居れば何でも知ってそうだから解決策も提示してくれるのではと思ってしまう。

「はぁ、光はどこ行ったんだ。必要な時に居ないってマジで―――」

「役立たずって言いたいのかな?」

「ッ!?」

 溜息をつき、光への愚痴を零そうとしたその矢先、突然後ろから見知った声が聞こえて俺は座っていた椅子から転げ落ちそうになった。

「ひ、光ッ!?何でここに!?」

「何でってキミ達が困ってると思って来たんだよ」

 ニコニコとそう言って皆の顔を見回し、うんと一つ頷く直哉だが、本当に神出鬼没だなと呆れてしまう。

「お前、マジで色々あったんだからな!?今も訳分かんねぇことになってるしよ!」

「うん、識ってる」

「だったらもっと早く来いよッ、本当にお前は―――」

「あー、そんな事言っていいのかなぁ?折角問題を一つ解決してあげたのになぁ、ねぇ?」

 俺の言葉をまたもや遮り直哉は意味深な発言をした後に椅子に座っていた俺の後方に顔を向ける。

「え??」

 直哉の発言の意味が分からず惚けて居ると、ガタガタと俺の前や横に座っていた仲間達が一斉に立ち上がった。
 仲間達のその顔はどれも驚きに満ちたものであったが、俺はそんな様子もあって混乱に拍車が掛かる。
 慌てて振り向こうとしたその時、有り得ない声を俺は聞いた。

「なんじゃなんじゃ、妾を差し置いて宴会か?お主らも偉くなったもんじゃなあ?」

「・・・・・・」

 振り向くとそこには封印されていたアリシエーゼがあの何時もの二チャリ顔をして立っていた。

「なんじゃ?久々に見た愛らしいアリシエーゼじゃぞ?ほれ、抱き着いて喜ぶが良い」

「・・・・・・」

 こりゃ、本物のアリシエーゼだわ・・・
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