異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第329話:ザルドレイク

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「うへぇ・・・マジかよコレ」

「すげぇだろ?」

「ちょっとッ、そんなアホ面早く引っ込めなさいよ!?」

 目に映る光景に俺は開いた口が塞がらなかった。
 近代的とは言えないのだが、建物は石造りで整えられとても頑丈そうだが、商店や金持ちの家だけでは無く、庶民が暮らす家々も石材や煉瓦等が使われ綺麗に並んでいる。
 それがズラリと並んでいるのだが、決して均等では無いし、寧ろ不揃いだ。
 だがそれでも美しいと、完璧だと感じるのは首都全体が一つの建造物の様に感じられるからかも知れない。
 今も尚、増殖する様に街の端は伸び続けて建物も建設が続いている。
 貧民街は流石に立派とは言えない建物が多いのだが、それすらも一部であると思えた。

「何となくホルスの帝国側の街並みに似てるな」

「そうだな、でもここはなんと言うかもっとこう―――」

「混沌としている?」

「そんな感じだ」

 ホルスは王国、公国側と帝国側で街が二分されている。なので街中に引かれた国境線で街並みが結構変わるのだが、建物自体はそこにあったものの作りに似ている。
 俺のそんな発言にドエインが反応するが、ドエインの言わんとする事を俺が代わりに言語化すると本人は薄く笑って肯定する。

 帝国の首都、ザルドレイクは街の中心に王宮が存在し、その王宮から円形に様々な施設等が伸びて行く。
 だが、例えばこの地区は商業区だとか、軍関連施設だとか決めて配置されている訳では無い。
 一応、王宮に近い場所から重要な施設が置いてあったり貴族達の上位層の屋敷が点在したりとその辺りは他の街等と変わらないのだが、それでも各地区に様々な店舗や建物がひしめいている。
 なのでアレが欲しいけどあそこに行かないと買えないだとかそう言う不便は基本的には無い様だ。
 それでも多少なりの見せ毎の値段設定の違いや品揃えの違い等はあるだろうし、大き過ぎる街特有の問題は色々と抱えているだろう。

 だがそれにも増して俺は心踊った。一際存在感を放つ巨大な街の中心に聳える宮殿や、そもそもの建造物の建材や造り、街並みそのもの、街の活気、人の流動、貴族や富裕層が生活する煌びやかな地区にその反対の貧民街やスラム。
 それら全てが大きく混ざり合い、そして融合する。混沌としているが完成されている。
 迷路の様に入り組み、街も人も複雑に絡み合うスラムを見れば、ここでも人の格差の様なものは確実に存在する。
 だが、それすらも街の――帝国の発展に必要とでも言っているのかどうかは定かでは無いが、そんな人々すら帝国と言う生き物の様な国自体に取り込まれており、それが機能している様に見えた。
 だからか、俺も街全体の雰囲気に飲まれまるでに迷い込んだ様に、ゲームやアニメの世界にしてしまったかの様に、不安と好奇心が入り交じって、それを昂りと錯覚しているのかも知れない。

「とりあえず先ずは何よりも拠点を見つけよう」

 俺達はかなり急ぎで帝国首都であるザンドレイクに向かった。
 二日程で到着したのだが、街へ入り少しその街自体を見て周った結果、先程からその規模やら何やらに度肝を抜かれている最中なのだ。

「でもこんなに広いと良い宿探すのも大変なんじゃない?」

「あぁ、それは心配無い。さっきから情報収集してるし、何よりこの街は直哉は勝手知ったるだろ?」

 イリアの言葉に俺は直哉を見て言った。

「まぁ、街自体はある程度は案内出来るぜ?でも俺が住んでるのは軍の施設だから、宿に関しては殆ど分からないぜ?」

「何ッ!?なんて役立たずッ、完全に当てにしてたのによ!」

「役立たずとか言うなッ、失礼なガキだな!?」

 この街に住み付いている直哉ならそれなりの条件が整った宿等を紹介してくれると思っていただけにどうしようかと逡巡する。

 とりあえずターゲットとしては王宮と教会施設とかだよな?

 ガバリス大司教がこの街に入ってから行く場所としてはこの二つが考えられる。

「軍の関連施設も有り得るんじゃねぇか?」

 俺の考えを仲間に伝えると直哉がそんな事を言う。
 確かにそれも考えられると思うのだが、そもそもそれぞれの位置関係が良く分からない。

「王宮はあの中央だろ?あと軍関連施設は―――色んな所にあるな。騎士団毎に施設は持ってるし、街の治安維持の部隊や衛兵、兵士詰所なんてのは至る所にあるし・・・」

 それに教会の施設は良く分からないと直哉は言った。

「んだよ、マジで役に立たねぇじゃねぇか」

「お前な・・・」

「――私は知っているわよ?教会自体はまだ建設して無いのだけれど、大司教の執務室何かは必要だし、屋敷を数軒この街でも借りてるわ」

 サリーが会話に入って来てそう言ったのだが、その情報に俺は再び考える。

 数軒、か・・・

 やはり此方の人手が足らな過ぎるなと思った。
 勿論、街の外で広大な場所を探すよりは街中だけに絞れるメリットは十分あるのだが、もし仮に考えられる候補を街中だけで挙げても数十は存在しそうでそれに頭を悩ませる。

「うーん、どうやって絞るか・・・拠点は全てを網羅出来る所なんて存在しないだろうし、分けるにしてもなぁ」

 拠点を決めて候補となる場所を常に監視するとしても、やはり此方の人数を考えれば三拠点くらいが限界だろう。
 それ以上でバラけるといざと言う時に集合が困難になるし、少数で動くには不安がある以上俺としては出来れば固まって行動はしたい。

「は?そんなの考える必要ねぇだろ?」

「え、何で??」

「何でって、王宮だけ見張ってればいいじゃねぇか」

「え、だから何で??」

「???」

 俺は直哉の言葉を理解出来なかった。
 それは直哉も同じだったのだが、ガバリス大司教がこの街で何処に軟禁されるか分からない以上、候補となり得る場所には人員を配置して常に情報収集に務めなければならないた思うのはおれだけだろうか?と俺は直哉を訝しむ。

「だって結局は教会側の話も聞くだろうし、その大司教とやらにも皇帝は直接話を聞くなり命令するなりする筈だろ?だったらその時を狙えば良いじゃなねぇか」

「・・・・・・」

 いや、此奴はなにを言ってるのだろうか・・・

 皇帝との謁見時を狙う?
 馬鹿じゃねぇの?

「俺も丁度彼奴に聞きたい言葉あったしよ」

「いやいや、お前何言ってんの?皇帝に聞きたい事があるってのも言いたい事はいっぱいあるけど、皇帝の目の前で大司教を拉致るって言ってんのか?」

「まぁ、そうなるかな。拉致になるのかは分からんけど」

「・・・・・・」

 目立ちたく無いって言った筈だよな?と自分の中で考えるが、確かに言った筈だ。
 何故、皇帝の目の前でそんな大それた事をしなきゃいけないんだと思うと同時にそんな事出来る訳ねぇだろとも思った。

「お前の力使えばそんなの余裕だろ?」

「まぁ確かに出来るとは思うが・・・アンタには伝えて無かったけど、この世界だと俺の力を防ぐなりする方法はあるぞ?つまり、絶対じゃらねぇんだぜ?」

「あ、そうなの?でもまぁ、アイツと話す位は出来んだろ」

 軽い口調でそう言う直哉だが、本人曰く皇帝って言ってもガキだし、とかアイツ俺の事気に入ってるからなぁとか本当かどうかも怪しい言動をしている。

 それを鵜呑みにして作戦を立てると本気で思っているのだろうか・・・

 そもそも宮殿への入口だって何ヶ所あるのかすら分からない。
 それを全て見張る事は不可能だろうし、仮に見張れたとしてもガバリス大司教を発見しましたと言う時点で直ぐに行動を起こさないとならない。
 そうしないと宮殿内に直ぐに入られて救出が困難になるのは明白だからだが、巨大な帝国主義を掲げる一国家のトップが居る宮殿の警備など考えただけで面倒臭くなるのだが、それら警備を出し抜き救出すると考えるとやはり迅速に行動をしないとならない。
 そうなると少ない人数で行動を起こす俺達は極小数でそれを成さなければならず、ハッキリ言って無理だろう。

「皇帝に謁見なんて俺達が出来る訳ねぇだろ?」

「俺は大丈夫だけどな」

 どんだけ気に入られてるんだと思わなくは無いが、直哉の言う様にするしか無いのかもと思い始める。

 やっぱり人数がネックだ・・・

 そう考えると、俺達は一纏まりで行動していた方がいいか・・・?

 直哉の言う様に俺の力を使えば別に王宮だろうと何だろうと忍び込むのは容易だし、その後も上手くやれる自信はある。
 だが、最近では俺の力が絶対では無いと思わされる事が何度かあった事が気掛かりでならない。

「とりあえず一度、王宮近くに宿取りましょうよ。そこから考えるで良いんじゃらないかしら?」

 結構な時間立ち止まり話していたので、イリアが痺れを切らしそんな事を言った。

「確かに・・・じゃあ、王宮近くの良さげな宿どっか良い所あるか?」

 俺は直哉に顔を向けてそう言うと、直哉はうーんと唸って少しの間考える。

「部屋の数とかその辺どうすんだ?あの辺は高級宿しかねぇぞ?」

 直哉は何部屋も借りると金が一日でとんでもない額が飛ぶぞだとか、そもそも部屋がいきなり行って空いてるの等ぶつぶつ独り言を呟いていた。

「そんなの俺の力でどうとでもなるだろ?」

「え?あ、そうか・・・そう言えばそう言うチートだったか」

 チートとか言うな

 チートはお前だよと心の中で思いながら直哉が最終的に出した答えである宿でとりあえず部屋を取ろうと言う事になり俺達は移動する。

「ねぇ、僕達も行っていいんだよね・・・?」

 移動最中、とつぜんそんな事を言い出すのはラルファだ。

 あ、此奴らの事忘れてたわ・・・

「高級って話だけど、僕らそこまで金は持ち合わせて無いと言うか・・・」

「わ、私もそこまで持ち合わせは無いですよ!?」

 ラルファとリルカは高級と言うワードが出て来ると急にそわそわし始めたがそう言う事かと納得する。
 二人は結局俺達に着いて来る事になった。
 アギリーを欠き、アザエルが未だに目覚めないラルファ達にとってはこのまま戦争に参加する事も、教会から逃げ回る事も出来ないと判断していた。
 だから俺達にある意味庇護を求めて来たのだ。
 あの後、神造遺物アーティファクトをラルファに返したのだが、アザエルが呼び掛けに反応する事は無かった。
 そもそもどうしてラルファはアザエルを置いて行くと言う選択をしたのだろうかと思ったのだが、エル教会の暗部の襲撃を受けた際、ラルファ、アザエル共に得体の知れない不安感に襲われたのだと言う。
 襲い掛かって来る者と言うよりもその後ろで控える何者かの存在を感知したと言っていたのだが、それが誰なのか、何なのかは判然としなかった。
 今はアザエルは語る事は出来ないが、ラルファ曰く二人とも同じ想いだったと、かなり悪い予感がしたと言っていた。
 俺があの巨人よりもタチが悪いって事かと聞くと、ラルファは少し考えた後に、「あれよりももっと邪悪な感じ」とやはり意味不明な事を言っていたのを思い出す。

 結局は見ても居ない誰かにビビっただけかとも思ったが考えると悪魔を強制召喚するあのコインの事だとかを考えると、それらを何らかの形で二人は感知したのでは無いかとも思ったので何とも言えなかった。
 兎に角二人は戦うのは不味いと思ったと言う。
 そこで結論付けたのは二人同時に捕まるのは不味い、アザエルの力を何らかの方法で奪われるのは不味い。この二点だったと言う。
 だからラルファは剣自体を隠し、アザエルは自ら意識を閉ざしたと言う。
 自閉モードとかそう言った類いのものなのか?と思ったが詳しくは分からない。
 かなり急いでいた為、アザエルがどあすれば目覚めるのか等は一切分からない。
 なので今のラルファはちょっと斬れ味の良い長剣を持っている兄ちゃんに過ぎないのだ。

 確かに今の状態でまた教会から狙われたりだとかしたらもうしようも無いだろうと暫くは一緒にこうどうする事にしたのだが・・・

「いや、俺達も金なんて持ってねぇよ?」

「ぇ、じゃあどうやって・・・」

「ラルファ様、きっとこの男の卑しい力でどうにかするんじゃ無いでしょうか」

「あ、なるほど、凄い力だねぇ」

「いえ、ただ単に本人の卑しい性格が能力にも現れただけに過ぎません」

「・・・・・・」

 この野郎・・・

 二人でコソコソ話しているが全て俺には筒抜けである。
 聞こえてるぞと言おうとして俺はすんでのところでそれを止める。

 どうせ盗み聞きか、卑しい奴めとか言われるんだろ・・・

 分かってるよと自分に言い聞かせて、ゾロゾロと街中を歩く仲間達に目を向ける。
 全くもって騒々しい集団だが、今から帝国と教会に喧嘩を売るのに随分落ち着いているのを見て俺は素直に頼もしいと思った。

 まぁ、やるだけやってみるか
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