異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第307話:戦闘狂

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「ギャーハッハッハッハッ!!燃えろよッ、燃えちまえ!!」

「・・・・・・」

「悪魔ぁ殺せばよぉ、俺はんだよぉ、だからさぁ死ねよ」

 帰れる?

 何の話だと思いつつも、男の変貌ぶりに驚く。
 俺の瞳にはあの時見た爆発とはまた違う形で焼き殺される人々が大量に転がっている。
 完全に跡形も無く消し飛んでいる訳では無く、真っ黒な塊がそこら中に散乱し、その塊から煙が立ち上っているのが分かるが、中にはまだ燃えて炎が揺らめいているものまであった。

 何だろうかこの男は・・・

 悪魔を殺せば帰れるとは何処に帰れると言う事だろうかと考えるが、まぁその答えは粗決まっている。

 やっぱり転移して来たんだろうな・・・

 結局はここは異世界では無く、相当未来の地球と言う説が俺と篤の中では決定しているから、異世界転移では無く時間移動、タイムリープ的なものなのだが、この男がそれを知っているかは分からない。
 だが、異世界だろうが未来の地球だろうかはあまり関係無いのかも知れない。

 確か、妻子とはもう会えないと言っていたか

 ならばこの男が言っている帰れると言う言葉が繋がる様な気がした。

 数にしたらどれくらいだろうか、千や二千は軽く超える数の連合軍が一瞬で灰燼と化し後続の兵達は完全にビビって尻込みしていた。
 もう慣れてしまった肉の焼け焦げる臭いを感じつつ、今も嗤い続ける男を見て心に虚しさを覚えた。
 それは男の置かれている状況が分かりその心境を慮った結果なのだが、俺の様に異世界転移ヒャッハーな奴だけでは無い事を改めて思い知った。

 明莉も帰りたいって言ってたよな・・・

 当事者からすれば理不尽意外何者でも無い俺を含めた一連の転移は結局全てが最終的に繋がっている様に思え、同時に怒りが込み上げて来る。

 神だの悪魔だのマジで知ったこっちゃ無ぇよな
 望んで無い奴を勝手に連れて来る辺り神様ってのはマジで自己中野郎って事だ

 そんな事を考えつつ、この後の事を思案するが忘れてはいけない事がある。

「おい、いつまで笑ってんだ。ってかお前に聞きたい事があるんだけど」

「ギャハハハ―――は?何だよ?」

 俺は今も嗤い続ける男に近付いて語り掛けると男は不機嫌そうな表情で振り返った。

「俺達と会う前にお前、頭の可笑しい女に出会わなかったか?」

「頭の可笑しい?なんだそりゃ?」

「言葉の語尾にのじゃとか付ける痛い女だよ。金髪で目は蒼くて歳の頃なら十かそこらに見える。だけど―――」

 そう言って一度言葉を切って男を見る。
 男は先程まどとは打って変わってその表情を窺い知る事が出来なかった。
 少しだけ俯きつい先程まで狂った様に嗤っていた男は急に黙り込んでいた。

「・・・・・・だけど何だよ?」

 黙ったと思った矢先、男は俺の言葉の続きを促す。顔を上げてそう言う男は薄らと笑っていたが、目は反対に笑って居らず感情が読み取れなかった。

「―――だけど、滅法強い」

「・・・・・・」

 男は思案しているのか何も答えない。一瞬、男の雰囲気が変わるが直ぐにそれが和らぐ。

「此処で、連合軍にストレガンド人と戦ってた筈なんだよ、知らないか?」

「・・・あー、そう言えば居たな威勢の良いガキが」

「・・・で?」

「―――さぁ?もうこの世には居ないと思うぜ?」

 瞬間、俺の脚が地面にめり込み地面が爆ぜる。
 三メートル程あった男との距離が一瞬で詰まるが男は想定内であったのかニヤリと笑ったのが分かった。

「ッ!?」

 男に触れるか触れないかと言う所で、ドンッと言う腹に響く音と共に地面から炎が吹き上がり、俺は急制動を掛けて止まるが、伸ばしていた手がその炎に巻き込まれた。

「何だお前、あのガキの仲間だったのか?」

「――グッ、クソッ!」

 地面から吹き出した炎の壁が俺の右手を喰い千切り消失した。
 見ると手首から先が無くなっており千切れた先は炭化していたが、今は痛みよりもアリシエーゼがどうなったのかが気になり気にならなかった。

「ピーチクパーチク煩ぇからよ、消したわ」

 ヘラヘラしながらそんな事を言う男を睨みながら俺は吠えた。

「ふざけんなッ、彼奴はストレガンド人と戦ってただろ!?」

 それは裏を返せば帝国軍として戦っていたと言っても良いだろうと俺はブチ切れそうになった。

「あ?ふざけてんのはテメェだろ。あのガキ、帝国も連合も関係無く見境無しに暴れ回って手が付けらんなかったぜ」

「・・・うッ、マジか」

「あぁ、マジだよ」

 それはかなり想定外だった為、俺は言葉に詰まってしまった。

 あの馬鹿ッ
 何でそう戦闘狂みたいな事するかね!?

 そうは思ったが聞き捨てならない事をこの男は言っていた。

 この世には居ない?消した?
 どう言う事だよッ

「アリシエーゼに何したお前ッ」

「あのガキ、アリシエーゼって言うのか。そう聞くとなんかっぽいな」

 そんな事を言って嗤う男に俺は再度吠える。

「答えろッ、テメェ、アリシエーゼをどうした!?」

「だからこの世から消えたよ」

「殺したって事か!?」

「んー、死んでんのか生きてんのかは分からん」

「あぁッ!?ふざけてんのかテメェはッ」

 修復が済んだ右手で男に掴み掛かろうとするが男は慌てて一歩下がる。

「おいおい、落ち着けよ。暴れ回って手が付けられ無かったから閉じ込めたんだよ」

「あぁ?閉じ込めたって何処にッ」

「いや、知らん」

「テメェ、マジでおちょくってんだろ!?」

「だ、だから俺も分からないんだよ!俺の能力であるが俺も自分自身に使った言葉無いんだからどうなるかなんて知らねぇよッ」

「なんだよそれ・・・」

 男の使ったその能力とやらがどう言ったものかは分からないが、それじゃあどうしようも無いじゃないかと思い、同時によろめく。

「俺には色々と神って奴から力を与えられててよ。まぁ、お前らに言っても絶対分からないと思うが、俺は転移者だからな」

「・・・いや、んなの知ってるよ」

「ぇ・・・」

 俺の即答に本当に予想外だったのか男は目を見開いて閉口した。
 その顔が本当に阿呆そのものだったのでそらを見て俺は何だか毒気が抜けてしまい肩を落とす。

 はぁ・・・
 マジでどうすんだコレ・・・
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