異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第306話:父

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「結花ぁぁあッ、お父さんはッ、うぅッ」

「・・・・・・」

 男は突然泣き崩れ、ユーリーに抱き着いていたが、抱き着かれるユーリーは困った様な表情を浮かべて俺を見上げた。

 何なんだ、この男は・・・

 周囲は未だ炎が燻り、一帯は何も残らない焼け野原なのだが、恐らくこれは此奴かまやったのではと思っている。
 それにいきなり俺を殺そうとして来たのに何故かユーリーを目にした途端に泣き崩れていて、仲間達もそして、帝国軍の者達もどうすんのこれ?みたいな状況だ。

 良い歳をしたおっさんが、わんわんと泣く様は笑うにて笑えず、気持ち悪いと断罪するのも気が引ける。

 それにしても結花、か・・・

 お父さんとも言っていたし、ユーリーを自分の娘と勘違いしているのだろうなとはなんと無く想像出来るが、色々聞こうにも全く泣き止む気配の無い男を再度見て途方に暮れた。








「す、すまん。つい取り乱した」

「・・・取り乱したってレベルじゃねぇだろ」

「その、なんだ。じ、俺の娘かと思ってつい、な・・・?」

「な?じゃねーよ。何なんだよ、生き別れでも、したのかってレベルだったぞ」

「・・・・・・・・・したんだよ」

「あ・・・?」

 途方に暮れてから更にもう一度くらい途方に暮れて漸く男は泣き止み、ユーリーを結花と呼ぶ男にどうにか説明をして納得させたのだが、お恥ずかしいとか言いながら頭をヘコヘコ下げていた男が俺の言葉で急に表情を変える。

「俺には娘と嫁が居たんだがな―――もう会えねぇんだ」

「・・・・・・すまん」

 もう会えないとはこの男は娘と妻に先立たれたのだと理解して、先程の言葉を謝罪する。

「いや、いい・・・俺も悪かったないきなり蹴りくれちまって」

「ッ!?そうだ!アレ、俺じゃ無かったら死んでるからな!?」

「い、いや、悪いとは思ってんだがお前、何で生きてる訳・・・?」

「あ?そりゃ、死ねば良かったのにって事か?」

「い、いや、だからそうは言ってねぇだろ・・・」

「・・・・・・ケンカ、ダメ」

 直ぐにお互いムキになって―――主に俺がだが―――言い合いをする俺達の間にユーリーが割って入り咎める。

「いや、だって此奴――――」

「そーだよねぇえ、ユーリーちゃんは偉いなぁ、優しいなぁ」

「・・・厶、チョットチカイ」

 ユーリーの言葉に俺が反論しようとするとそれを遮って男がユーリーに視線を合わせる様に素早くしゃがんで頭を撫でながらデレる。

 ユーリー嫌がってるぞ・・・

「ちょっとッ、ユーちゃんに近付かないで下さい!」

 そこにすかさずモニカが割って入り、ユーリーをかっ攫っていく。

「な、なぁ、今はこんな事やってる場合じゃねぇだろ」

「そうよッ、連合の騎士達がもう迫って来てるわよ!?」

 ドエインとイリアが痺れを切らして叫ぶ。
 俺はチラリと後ろを振り返ると連合軍の傭兵に兵士、騎士達が大挙として押し寄せて来ていた。
 先程の爆発と、それによる周囲の風景の変化にビビっていたのだが、漸くそれから立ち直って俺達の追跡を開始していた。

「チッ、とりあえず俺達は連合側だって言ってんだからそれは信じろよ!?」

「ふざけんな!連合の腕章付けてたじゃねぇか!」

「そうだッ、連合にスパイ活動をしていた?そんなの信じられるか!」

 俺の言葉に帝国兵達は信じられないと騒ぎ立てる。
 先程からこのやり取りを何回やったか分からないが一向に俺の言葉を信じてはくれないのだ。
 俺はチラリとリリを見て目を合わせる。リリは無言で首を振るが、まだ謎の力場の様な物がこの辺り一帯に展開されているのだと理解して溜息を吐く。

 俺の能力が使えればこんな面倒臭い事にはなってねぇのに・・・

 正体は分からないが、爆発跡地であるこの辺り一帯に何らかの磁場の様な物が形成されていて、それに干渉されて俺の能力が上手く発動出来ないのだ。

 最近こんなのばっかりだなと思いつつ、前には帝国軍、後ろには連合軍と板挟み状態となっていてどうしようかと思案する。

 どうするも、能力が使える所まで移動するか、強行突破でここから逃げ出すか、はたまた両軍相手に大立ち回りを演じるかしか無いかと再度溜息を吐くと、モニカに奪われたユーリーにちょっかいを出していた男が急に真顔になって言った。

「俺は信じてやるよ、お前達の事」

「えッ、何言ってるんですか!?」

「そうですよ、こんなアカラ様に怪しい奴らを信じるなんて出来ないですって!?」

 男の発言に帝国の者は猛反対するが、それでも男は自身の発言を固持する。

「いや、俺には分かる。此奴らは信用出来るッ」

「だからその根拠は何なんすか!?」

「絶対適当だよッ、この人!」

 散々な言われ様だが、帝国軍の兵士や傭兵、騎士にまで色々とツッコまれる男を見て俺は少し意外に思った。
 なんと言うか、先程も少し見せた男の暗い一面、妻子を亡くしたのか分からないがそう言った過去があり、人を寄せつけない孤高の存在感が漂っているのだ。
 なので例え自軍の人間だろう距離を取っている様な来がしたのだが、今この男の周りに居るもの達は皆、兵士だろうが騎士だろうが関係無くフレンドリーに接していた。
 それは恐らくこの男の人柄がそうさせているのであるのだろうと思えた。

「馬鹿野郎!結花に似たこんな可愛い子を連れてる奴らが悪者なわけねぇだろッ」

 悪者って・・・

「いや、意味分かんねぇよ!」

「馬鹿はお前だろッ」

 そしてまた散々言われる。だが、悪い雰囲気では無い。

「よし、お前らちょっと待ってろ!」

 周りの仲間達をガッツリと無理して男は俺達にそう言って歯を見せて笑った。

「へ?何するつもりだ・・・?」

「まあまあ、お前らを護ってやるって言ってんだよ」

 そう言って手をヒラヒラと振りながら男は迫る連合軍の方へと歩いて行った。

「何なんだ彼奴・・・」

「さぁ・・・」

 俺の独り言にドエインがそう返すが他の仲間も困惑していた。
 だがそんな事はお構い無しに男はどんどん進んで行き、俺達から突出して連合軍を迎え撃つ様に位置取る。

「よう、お前ら悪魔に与する糞共だろ?」

 まだ連合軍の軍勢とは距離が有りその言葉は聞こえていないだろうが男は構わず続ける。

「一匹も逃さねぇから覚悟しろや―――」

 その瞬間、世界が白く染まる。
 呼吸を一つする程のほんの一瞬でその白い世界が完成してそして弾ける。
 その白は男が作り出した純白の炎だった。
 それが出現して周囲を眩く照らしていたのだ。
 掌サイズの白球をなんの事は無く男は前方に放り投げた。
 そこまで速度は無く簡単に弾き返されそうで、ましてや連合軍が居る場所までほ届きそうに無かった。

「ハハハッ、弾けて混ざれよ!!」

 ぇ・・・?

 突然高笑いを発して、何だか聞いた事のある台詞を叫んだ男は白球を放り投げた右手を高々と上げて拳をグッと握り込んだ。

 そして―――





 ―――全てが燃えた。


「やりやがった・・・」

 二万程居たストレガンド人を焼き殺した男は再び大量殺人をやって除けたのだった。
 此方にその余波は無い。これがこの男の能力であることは明白だったが、俺はそれより何よりこの行いを平然とやり遂げるこの男の精神状態が気になって仕方無かった。

 イカれてるよ
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