異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第290話:賛美歌

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「リリッ!狙撃手の位置は特定出来てるか!?」

「あぁ、だが遠過ぎて生体反応はここからでは検出出来ない。最新の狙撃ポイントで良いのなら記録してある」

 突然の魔法かどうかはまだ定かでは無いが、岩を超速で回転運動を加える狙撃とも言える攻撃を受けた俺達はゴリアテの裏に隠れてやり過ごしていたが直ぐに反撃に出ないと逃げられるか、移動されてまた狙撃ポイントをズラされる可能性があるので素早くリリに確認を取る。
 リリにそう言ったセンサー類が搭載されているかなど分からなかったが、咄嗟の事であったし既に俺はこのリリが俺の知らない道の技術が使われて造られたアンドロイドだと完全に知っている為、当然そう言った機能は搭載されているだろうと思っていたと言うのもある。

「よしッ、アリシエーゼ行くぞ!」

「うむッ」

「この方角に千五百メートル程の所に三人だ。因みに全員顔に刺青の様なものを彫っていた」

「ストレガンド人だッ」

 リリの言葉を聞いてドエインが叫ぶ。
 ドエイン曰く、ストレガンド人は男女関係無く顔に刺青を彫り戦士の証としているとの事であった。

「ドエイン冷静に指揮を取れ。リリは独自に判断して行動しろ」

 矢継ぎ早に指示を出しアリシエーゼを伴って狙撃者の元に影移動で一気に距離を詰めようと相談してるとマサムネの叫び声がする。

「ハル様ッ」

 振り返ると生き残りの騎士が狙撃に晒されており、自ら更に強化した身体能力で何とか凌いでいる所だった。
 そこまで連射性は無いが、足を止めて迎撃している騎士達は良い的なのか的確に騎士を狙って狙撃が実行されている。

「くッ、これでは近付けん!」

 騎士達は必死に自らの剣で迫り来る岩の弾丸を弾いているがかなりギリギリの様子だった。

 一旦騎士達もこっちに避難させるか・・・?

 そう思っていると仲間から声が上がる。

「イリア、ダグラスに強化魔法を掛けろッ、旦那、今の内に!」

 ドエインはダグラスに強化魔法を掛けさせ、それが済んだらダグラスは騎士の援護に迎えと指示を出す。
 ユーリーに遠距離から狙撃地点を予測して適当に魔法で弾幕を張らせる事も可能だったが敢えてそれはさせずに俺とアリシエーゼで一気に詰め寄れと言った。

 ハハッ、やるじゃん

「リリ、ポイントのズレは?」

 今騎士達を攻撃している地点を予測させるとリリは頷いた。

「変わっていない」

「りょーかい」

「では行くかの」

「あぁ、俺はこっちから詰める」

 そう言って俺は今も狙撃に晒されている騎士達の方に親指を向けて指し示す。
 それを見てアリシエーゼは頷き、タイミングを合わせて移動を開始する。

「「せーのッッ」」

 その瞬間、俺はゴリアテの裏から飛び出し騎士達の横に躍り出る。

「ッ!?」

 突然飛び出して来た俺に目だけを向けた騎士は驚愕するが、それを無視して俺は一気に前方に影移動をする。
 一瞬で別の景色に変わるが、直ぐにまた影移動を発動させて今度は高度を上げる。

 居たッ!!

 上から見下ろす形になってリリが示したポイントを見ると確かに人影が見えた。
 このまま良く目を凝らして見ても良かったが、そんな暇は無いと次の移動で真横に出現しようと距離を脳内で計算する。
 一瞬でそれは終わるが移動を開始しようとした俺の目に既に狙撃者集団の横に移動しているアリシエーゼが見えた。

 早ぇよ!

 焦りつつ俺は影移動を発動して移動する。

「なんだこの女はッ!」

「チッ!!」

 丁度、狙撃者含む三人が突然現れたアリシエーゼに対応すべく動き始めた所だった為、俺は完全に死角から出現する形となる。

「ッ!?」

 それでも敵の一人が更に突然現れた俺に反応した。

 良い反応するじゃん

 心の中でほくそ笑みながら振り返った顔に何らかの模様の刺青を入れている男との距離を一気に詰める。

 確かに反応は良かったけど、まぁこんなもんかな

 両腕を振り上げてロングソードよりも少し短い、ブロードソードの様な物を振り下ろそうとしている男のがら空きとなってある胸部に手刀を刺し入れようと身体が反応するが、目の端でアリシエーゼが「わははッ」とか狂気の笑いを振り撒きながら残りの二人を殺そうとしているのを捉えてギリギリで踏み止まる。

「グボァッッッ」

 親指を抜かす四本の指を突き出していた右手を急遽掌底の形に変えて男の脚部へと叩き付けると、それを受けた男は悲痛な叫びと共に後ろへと激しく吹き飛んだ。

 やべッ、殺しちまったか!?

 アリシエーゼは絶対に嬉々として殺す。
 汚らしく後先考えずに絶対殺す。
 全員殺してしまうと情報を収集出来なくなってしまうと思い俺は踏み止まったのだが、何とか手刀を掌底に変える事は出来たが、勢いはあまり殺せず結局殺してしまったのではと攻撃をぶち当てた後に焦る。

「なんじゃ、殺し損ねおって」

 既に二人を殺していたアリシエーゼが俺の吹き飛ばした男が呻き声を上げて苦しんでいるの見て、何故か俺が殺し損なったとその呻いている男に近付きトドメを刺そうとしていた。

「待て待て待てッ、馬鹿なのかお前は!?」

「な、なんじゃと!?」

 俺の言葉に目を見開き、キーキー喚くアリシエーゼを無視して負傷している男に近付く。
 男は顔に刺青をしている以外は、レザーアーマーを着込んだ格好をしている普通の傭兵に見える。
 そんな男の傍で膝を付き、仰向けに倒れていた男の頭髪を鷲掴みにして顔だけ俺に引き寄せる。

「テメェ、よくもやってくれたな。あの街をやったのもお前らか?」

「――グッ、カハッ、うぅ・・・」

 俺の掌底が思いの外効いているのか倒れている男は呻きながら咳き込み血反吐を吐く。

「こんなのかすり傷だろうが。さっさと吐けやッ」

 正直、致命傷なのかも知れないし無理をさせると死んでしまうかも知れないがどうでも良かった。
 俺は空いている左手で軽く男の胸部を小突きながら更に詰める。

「ぐぁッッ、くッ――――ハハハッ」

「あん?」

 急に笑い出す男を不思議に思っていると、急に耳鳴りが襲う。

「――あぐッ、な、なんだ!?」

 見るとアリシエーゼも耳を押えているので同じ様に耳鳴りがしているのだと悟るが、この耳鳴りが普通では無い。
 頭痛を伴う様な激しいキーンと響く音が鳴り響くが、どこからその音が発せられているのか分からず俺は掴んでいた男の頭髪から手を離して耳を押さえる。

「クソッ、どこからだ!?」

「わ、分からんッ」

「ハハハッ、どんどん来るぞッ、塵も残らず消え――ッパ?」

 倒れている男は高笑いと共にこの耳鳴りが敵の攻撃だと暗に示唆したのだが、その言葉はアリシエーゼが頭を踏み抜き潰した事で最後まで聞く事は出来なかった。

 あ、馬鹿野郎ッ

 そうは思うが、この耳鳴りの原因が分からず、それどころでは無いと思い周囲を警戒する。
 暫くすると耳鳴りが次第に収まって来たのでアリシエーゼに問い掛ける。

「何か攻撃っぽいけど何なんだ!?」

「分からんッ、一瞬魔力の膨張―――ッ!?」

 アリシエーゼは言葉の途中で急に後ろを振り向く。急な事で意味が分からずアリシエーゼの視線の先を見るが、俺も驚愕してしまった。

「な、何だアレは!?」

「・・・・・・・・・」

 視線の先には上空の雲を引き裂き地上に向けて一本の光が降り注いでいた。
 それはまるで光の柱の様で一キロ程離れた場所にあるがかなり大きな柱だと分かる。

「お、おい、アレは魔法なのか!?」

 俺には魔力を感じる事が出来ない為、見えているさの現象が魔法に寄るものなのかの判断も付かない為アリシエーゼに聞くが返事は返って来なかった。

「―――に、逃げろッ、逃げるんじゃぁあ!!!」

「ッ!?」

 無言だったアリシエーゼがハッとしてから唐突に叫ぶ。
 それは俺に向けられたものでは無く、残して来た仲間達に向けられていた。
 訳は分からないが嫌な予感がして俺も振り返る。
 それと同時に何処からとも無く何かが聴こえて来た気がした。

 なんだ・・・?

 それは限りなく神聖で穢れなが無く重厚だが澄んでおり、何故か心を揺さぶられるだった。

 歌声・・・?

 何処からだろうかとキョロキョロと辺りの様子を窺っていると、仲間達が居る場所から突如として先程耳鳴りがした時に見た光の柱が天に登って行く様に延びた。

「な、に・・・!?」

「早く逃げろッ!馬鹿者がぁ!!」

 俺が声も出せずに驚いてあるのとは対照的にアリシエーゼは一際大きな叫び声を上げる。
 未だに周囲に響き渡るその歌はまるで賛美歌の様であり、何処からか鐘の音まで聴こえて来ていた。
 光の柱から時折零れ落ちる光の粒が柱の周囲にヒラヒラと舞う。
 その粒が次第に一箇所に塊出しそれが人の形を形成して行った。
 ここからでは遠くて詳細は確認出来ないが、俺の良くなり過ぎた視力は辛うじてそれが人の形をしていて、その光の人がその後も一体、また一体と生まれているのを捉えていた。

 あれは・・・
 天使か・・・?

 そう、光の塊を見て俺が思ったのはそれが天使の様だと言う事だ。
 ここまで僅か数秒の出来事だが、俺もアリシエーゼもその場から動く事が出来なかった。
 何故かは分からない。もしかしたら今動けば、仲間の元に影移動でも使って向かえば間に合ったのかも知れないが、ただその光景に目を奪われていた。

 光の天使は十体くらいになると、それ以上生まれ出る事が無くなる。
 そして天使達は一箇所に集まり出したかと思うと光の柱が突然消え去った。

「ッ!?」

 光の柱が消え去った後も何故か仲間達が居る場所が眩しく思えたが、それは一箇所に集まっていた光の天使から発せられる光であった。
 この時になり俺は漸く遅過ぎる気付きを得る。

 あぁ、これは敵の攻撃魔法か
 天使を召喚したのか?

 光の天使達が翳す手の先に巨大な光の球が出現していて今にもそれが仲間達に向けて放たれる直前である様に思えたが、今も耳から脳へと響く賛美歌と鐘の音が頭から離れない。俺の思考は完全に鈍っていた。

 そして―――

「アァァァアアアッッッ!?」

 アリシエーゼの叫びで漸く意識が急速に戻る感覚がして弾け飛ぶ様に顔を上げると仲間達が居る場所に焦点が定まる。

 俺が見た光景は光の天使達が放った眩し過ぎる程の光が仲間達を飲み込む、そんな光景だった。
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