279 / 335
第7章:愚者の目覚めは月の始まり編
第279話:感情
しおりを挟む
「剣と魔法のファンタジー世界?」
「あぁ、ここは地球ではあるが俺達の知る地球じゃない―――」
俺や篤、アリシエーゼの境遇に加えて敢えてこの世界と表現するが、魔物が跋扈し魔界と言う悪魔が造ったとされるダンジョンの様なものがあり、神の奇跡を体現出来る神聖魔法と言う物がある。
神の奇跡を体現出来ると言う事は逆説的には神そのものが存在すると言う事であり、それが無くとも転生や転移した者は神から特典で様々な能力が与えられる。
まぁ、俺はそんなイベントは発生しなかったが・・・
更には精霊が居てその力を借りて放つ精霊魔法まである。これがファンタジーと言わずして何と言うのかと思う。
リリにあるだけの情報を渡し、それがキッカケでもしかしたらリリの記憶が戻るかも知れないと俺は転移的な出来事か起こってから今迄の事を話ていく。
「―――魔法や魔力なんて非科学的なそんなもの、ファンタジーとしか言い様が無いだろ?」
「いや、何を言ってる?魔力なんてものはそこら中に溢れているだろ」
「へ?」
「何だそのスライムみたいな表情は。魔力を用いた技術などとうの昔に確立されてるし、それは魔法などとは呼ばない。科学以外の何物でもない」
いや、スライムに表情なんて―――いやいや、そこじゃ無い!
魔力を用いた科学技術?
此奴、本気で言ってるのか・・・?
俺達の元いた世界では当然魔力なんてものは存在しない。
存在しないと言うのは語弊があるかも知れないが、少なくとも発見されていないしそれを認知出来る者など居なかっただろう。
だからそれを用いた技術など存在しなかったが、リリの言葉をそのまま受け取るとそれは―――
「お前、一体いつの時代からやって来たんだ・・・?」
そう、俺が居た時代の地球よりも遥か未来から更に未来のここにやって来た可能性―――
「いつと言われてもな。私は恐らくだが、先程起動したばかりだ」
「成程な―――えッ!?い、いや、それはおかしいだろ!?」
「何もおかしくは無いだろ。生まれたばかりで記憶が混乱している可能性は大いにあるし、製造されたのがいつの時代なのかは分からないが、今この時までスリープ状態であったとしてもバックグラウンドで情報の蓄積や学習を行っていたかも知れない。そう考えればお前の事を知っていたのだって説明が付く」
「確かにそれは有り得るが・・・」
リリの言う事もそう言う事も有り得るかもと思える反面、だとしたらリリの言う魔力を科学技術に応用するなんて事が出来る遥か未来でリリは造られた事になり、そんな未来では俺は生きている筈も無いのだが、それでもまだ起動していないリリに対してそんな存在しない人物の情報を学習させていたと言う事じゃないだろうかとも思った。
そんな事本当に有り得るのか・・・?
何故そもそも俺の情報をリリに学習させたのだろうか。もしかしたら、俺がこの世界に転移して来る事は想定されていたなんて事も有り得て来るのだが、想像の域を出る事は無くそんな状態で色々と考えていても混乱は増すばかりだった。
「あぁぁッ、マジで訳が分からん!」
遂に考えるのをやめて俺は頭を掻き毟り叫ぶ。
「―――う、うーん・・・」
すると俺の顔の直ぐ下の方から可愛い呻き声が聞こえて来てハッとして、口を抑えた。
「おっと・・・」
声のした方に視線を向けると、アリシエーゼが俺に膝枕をされる状態で横になり寝息を立てているのが分かる。
リリと会話をする中で何故だかアリシエーゼが突然、暴走覚醒モードに突入したのは記憶に新しい。
余程、感情を制御出来なかったのか、いつもなら発動自体を嫌がるそれを自ら出して、しかもそれで戦う訳でも無く、リリとただ話をしていたアリシエーゼだが、当然その反動はやって来る。
リリの話を一通り聞き終えて今度は此方から情報を提供しようとした時になって漸くアリシエーゼが自らの眠気に気付いて俺を無理矢理座らせて、膝の上をなんの断りも無く使って寝始めたのだが、つまり今更は俺がアリシエーゼを膝枕して座っていて、その目の前にリリが座っている。
更にイリアが俺の右隣、モニカが左隣、後ろにはドエインとダグラスが座っていた。
サリーやデス隊は近くに居るが座っては居らず、周囲の警戒ついでに聞き耳を立てているといった状態だった。
翌々考えたら、何だこの状態は・・・
意味が分からん・・・
傍から見たら間抜けな状態で複雑な表情をしている俺を、リリは眉を顰めて見つめそして口を開く。
「いつまでその小狐をそんな所に置いておくつもりだ」
若干不機嫌そうな声色のリリを見るが、俺の膝の上に頭を乗せて気持ち良さそうに眠るアリシエーゼに対して何とも汚物でも見る様な表情をしていた。
「そう言うなよ、アレを使ったらいつもこんな状態になるし、此奴は此奴で色々と考えて思う所も沢山あるんだろうし、好きにさせればいいよ」
「・・・ふんッ」
俺の言葉が面白くなかったのか、リリは不機嫌なまま鼻を鳴らす。
此奴、マジで感情とかあるのか・・・?
そんな事を思って俺は一番疑問に思っていた事をそこで聞いてみた。
「なぁ、お前のその、脳ってどうなってんだ?」
「脳だと?」
「あぁ、俺の能力で繋がる言葉は出来たから人間や生物と同じ様な構造なのは何となく分かるが、そもそもアンドロイド――機械のお前に感情がある時点でよく分からない」
「何が分からないって言うんだ」
俺の質問自体がくだらないとでも言った様にリリが俺を見て小さく溜息を吐く。
「何って、何で感情があるんだよって話だよ」
「そりゃ有るだろ」
「いや、普通無いだろ。俺が居た時代じゃ人工知能に感情なんてものは芽生えてない。そんなシンギュラリティは迎えて無いんだよ」
技術的特異点とも言われる、人工知能が人間の能力を上回るその時は俺は体験していない。
俺の元いた世界では人工知能は大いに発達してはいたが、人間を人間たらしめる感情や閃きと言ったものは人間が唯一持つアイデンティティであり、人工知能と人間を隔てる砦でもあった。
リリを目の当たりにするとそんなものは無い様に思える。
起伏はあまり感じられないがリリには確かに感情がある様に思える。
それに加え先程見たリリの戦闘は控えめに言ってもかなりリリが強い事が伺える。
それはリリの身体的な構造、素材全てが俺の知らない何か特別な物なのだろうと想像は出来るが、それらを全て含めて人間を凌駕している。
それに加えて人間の唯一の武器とも言える感情や閃き、そう言ったものすら持っているリリは人間を超えた存在と言わざるを得ない。
「そんな事は知らない。私はお前を護れさえすれば―――」
「あー、はいはい。それは分かったよ」
「む、何だ?お前偉そうだな?」
「お前に言われたくねぇよッ!」
「う、うーん・・・」
リリの言い様に俺は再び激しくツッコむが、それを受けて再びアリシエーゼが唸る。
「まぁ、お前達の状況は把握した。先ずは地上に帰還する事を第一優先として行動すると言う方針で良いか?」
「そうだな、ただ言った様にどうもこの魔界の様子がおかしい。このまま上に上がって行けば無事に地上に帰れるか怪しいんだよな・・・」
「それなんだが、恐らく大丈夫だ」
「・・・何でそう思う?」
「恐らくとしか言えないが、その変化とやらはネガティブなものでは無いと感じる」
リリの言葉がどう言う意味なのか理解出来ず首を捻るが一体どう言う事だろうか?
「お前、何か知ってるのか?」
「先ず大前提として私はお前達が魔界と呼ぶこの魔界とやらの終着点、最下層からやって来た。一番奥底で眠っていたんだ」
「ぇ?」
衝撃的だった。俺達の目指していた魔界の最下層からリリはやって来たと言っていたが、それが俺達の目指す場所だったと言う事、本来なら最下層には悪魔などがおり、それを倒そうと動いていたのだ。
それが、そんな奴ら居らずただリリが眠っていた場所が存在すらと言われている様に思えたのだ。
「そこは何も無いただの部屋だった。ここの半分くらいの広さだが、特に何かある訳では無い。気付いたらそこに佇んでいて、お前の存在を感知出来たのですぐ様向かって来たと言う訳だ」
「そ、そうか・・・」
聞けば最下層から上へ上がって来る途中も特に特別な事は無かったと言う。
迷宮が入り組み、層を隔てる場所には階層主。
そんな階層主をぶち殺して駆け付けてやったんだと少し嬉しそうに語るリリを見て俺はかなり複雑な気持ちになった。
俺達は何の為に魔界に挑んでたんだ・・・
そんな思いに駆られたが、一旦それは棚上げしておく事にする。
リリは俺の存在を感知したと言っていたが、それはリリに備わっている機能なのかが気になって聞いてみたところ、「そうだ」と言って軽く説明してくれた。
登録されている生体情報を半径数キロで感知するものだと言う事だが、それ以外にも周囲の地形情報を把握する機能も有していると言う事であった。
それって、マッピング作業とかしなくて良くなるんじゃ・・・
それを伝えると、一つの階層くらいなら一瞬で全て把握さる事が可能で、それを外部に出力―――つまり紙などに書き出す事も可能だと言っていた。
めっちゃ優秀じゃないか!?
最初はファンタジー世界に科学なんてものが出て来た事に憤りさえ覚えたし、今も全く持って存在自体が不明なリリに不安を覚えはするが、それらを含めて地上に帰ってからにしようと考えを改めた。
「じゃあ、構造が変わってる事はネガティブな事じゃないってのはどう言う事だ?」
「恐らく、私と言う存在が目覚めた事によって、この場になんらかの影響が生じたと言う事だ」
「いや!全然分からん・・・」
「何だお前、馬鹿なのか?このお前達が魔界と読んでいる場所はそもそもこの地球に存在していない。仮想空間と言う事でも無いが、お前達が分かる様に言うと別の時空、別の宇宙、別の世界と言う事になる」
「待て待て待て待てッ!!お願いだから待って!!」
突然ぶっ込んで来るリリに俺は懇願した。
別の宇宙だの別の世界だの、それではまるでマルチバースや多元宇宙論の話になってくる。
話がいきなり壮大になり過ぎて俺の脳がそれらの情報を拒んでいた。
「煩い、黙って聞け。恐らくとしか言えないが、私の目覚めは完全に想定外だったのだろう。それは世界にとって不都合だったと考えられなくは無いが分からない。が、私の目覚めがこの空間、時空にも何らかの影響を及ぼしたと考えると構造の変化もそれで説明出来なくは無い」
「・・・・・・」
俺は黙る事しか出来なかった。
ファンタジーと思っていた世界に科学と言う概念そのもの、その権化とも言うべきリリが突然現れ、この魔界は地球上には存在していない、多元宇宙論的は事まで飛び出し俺はすぐ様考えるのをやめた。
もういいや・・・
俺が幾ら、こんなのファンタジーじゃない!と叫ぼうが世界が変わる訳では無いし、どうにもならないのならそれを受け入れるしか無い。
言いたい事は山程あるが、それをリリに言った所でどうにもならない事は分かっているし無駄なのだ。
だったらそれに関して考えるだけ時間の無駄だ。
俺はただ目の前の現実を受け入れて、ベストを尽くして面白可笑しく生きるしか無い。
リリが言うには影響は恐らくこの魔界だけだろうとの事だった。
地上には影響は出ないと言っていたのでとりあえずそれを信じて地上を目指す事になり、俺達はその後は軽く情報を精査して話し合いを終えた。
「―――と言う訳だから、一先ずこれまで通り地上を目指すぞ」
「いや、全然意味分かんないわよッ」
「旦那、もう少し分かる言葉で説明してくれ・・・」
「無理だ、俺も意味が分からない。とりあえず新しい仲間のリリが加わった。それだけ分かってれば良いと思う・・・」
俺の言葉に皆、「ええッ!?」と驚いていたが、科学技術の事などを真面目にイリア達に話した所で理解など出来よう筈が無い。
俺も絶賛混乱中だし、説明しようが無いのだ。
「・・・女狐の言う事を信じるのか」
「女狐って・・・まぁ、怪しい所は多々あるが、それを言ったら傍から見れば俺やアリシエーゼだって同じだろ?それにリリの力は今後大いに役立つよ」
「リリ、のう・・・」
アリシエーゼは大きく鼻を鳴らし納得はしていない様だったが、それから特に文句を言う事は無かった。
「じゃあ、とりあえず地上を目指そう」
俺はそう言って仲間達に準備は良いかと尋ねる。
皆、微妙な顔をして頷くのを確認し、俺達は地上へと向けて出発した。
何だか、妙な話になってきたなぁ・・・
「あぁ、ここは地球ではあるが俺達の知る地球じゃない―――」
俺や篤、アリシエーゼの境遇に加えて敢えてこの世界と表現するが、魔物が跋扈し魔界と言う悪魔が造ったとされるダンジョンの様なものがあり、神の奇跡を体現出来る神聖魔法と言う物がある。
神の奇跡を体現出来ると言う事は逆説的には神そのものが存在すると言う事であり、それが無くとも転生や転移した者は神から特典で様々な能力が与えられる。
まぁ、俺はそんなイベントは発生しなかったが・・・
更には精霊が居てその力を借りて放つ精霊魔法まである。これがファンタジーと言わずして何と言うのかと思う。
リリにあるだけの情報を渡し、それがキッカケでもしかしたらリリの記憶が戻るかも知れないと俺は転移的な出来事か起こってから今迄の事を話ていく。
「―――魔法や魔力なんて非科学的なそんなもの、ファンタジーとしか言い様が無いだろ?」
「いや、何を言ってる?魔力なんてものはそこら中に溢れているだろ」
「へ?」
「何だそのスライムみたいな表情は。魔力を用いた技術などとうの昔に確立されてるし、それは魔法などとは呼ばない。科学以外の何物でもない」
いや、スライムに表情なんて―――いやいや、そこじゃ無い!
魔力を用いた科学技術?
此奴、本気で言ってるのか・・・?
俺達の元いた世界では当然魔力なんてものは存在しない。
存在しないと言うのは語弊があるかも知れないが、少なくとも発見されていないしそれを認知出来る者など居なかっただろう。
だからそれを用いた技術など存在しなかったが、リリの言葉をそのまま受け取るとそれは―――
「お前、一体いつの時代からやって来たんだ・・・?」
そう、俺が居た時代の地球よりも遥か未来から更に未来のここにやって来た可能性―――
「いつと言われてもな。私は恐らくだが、先程起動したばかりだ」
「成程な―――えッ!?い、いや、それはおかしいだろ!?」
「何もおかしくは無いだろ。生まれたばかりで記憶が混乱している可能性は大いにあるし、製造されたのがいつの時代なのかは分からないが、今この時までスリープ状態であったとしてもバックグラウンドで情報の蓄積や学習を行っていたかも知れない。そう考えればお前の事を知っていたのだって説明が付く」
「確かにそれは有り得るが・・・」
リリの言う事もそう言う事も有り得るかもと思える反面、だとしたらリリの言う魔力を科学技術に応用するなんて事が出来る遥か未来でリリは造られた事になり、そんな未来では俺は生きている筈も無いのだが、それでもまだ起動していないリリに対してそんな存在しない人物の情報を学習させていたと言う事じゃないだろうかとも思った。
そんな事本当に有り得るのか・・・?
何故そもそも俺の情報をリリに学習させたのだろうか。もしかしたら、俺がこの世界に転移して来る事は想定されていたなんて事も有り得て来るのだが、想像の域を出る事は無くそんな状態で色々と考えていても混乱は増すばかりだった。
「あぁぁッ、マジで訳が分からん!」
遂に考えるのをやめて俺は頭を掻き毟り叫ぶ。
「―――う、うーん・・・」
すると俺の顔の直ぐ下の方から可愛い呻き声が聞こえて来てハッとして、口を抑えた。
「おっと・・・」
声のした方に視線を向けると、アリシエーゼが俺に膝枕をされる状態で横になり寝息を立てているのが分かる。
リリと会話をする中で何故だかアリシエーゼが突然、暴走覚醒モードに突入したのは記憶に新しい。
余程、感情を制御出来なかったのか、いつもなら発動自体を嫌がるそれを自ら出して、しかもそれで戦う訳でも無く、リリとただ話をしていたアリシエーゼだが、当然その反動はやって来る。
リリの話を一通り聞き終えて今度は此方から情報を提供しようとした時になって漸くアリシエーゼが自らの眠気に気付いて俺を無理矢理座らせて、膝の上をなんの断りも無く使って寝始めたのだが、つまり今更は俺がアリシエーゼを膝枕して座っていて、その目の前にリリが座っている。
更にイリアが俺の右隣、モニカが左隣、後ろにはドエインとダグラスが座っていた。
サリーやデス隊は近くに居るが座っては居らず、周囲の警戒ついでに聞き耳を立てているといった状態だった。
翌々考えたら、何だこの状態は・・・
意味が分からん・・・
傍から見たら間抜けな状態で複雑な表情をしている俺を、リリは眉を顰めて見つめそして口を開く。
「いつまでその小狐をそんな所に置いておくつもりだ」
若干不機嫌そうな声色のリリを見るが、俺の膝の上に頭を乗せて気持ち良さそうに眠るアリシエーゼに対して何とも汚物でも見る様な表情をしていた。
「そう言うなよ、アレを使ったらいつもこんな状態になるし、此奴は此奴で色々と考えて思う所も沢山あるんだろうし、好きにさせればいいよ」
「・・・ふんッ」
俺の言葉が面白くなかったのか、リリは不機嫌なまま鼻を鳴らす。
此奴、マジで感情とかあるのか・・・?
そんな事を思って俺は一番疑問に思っていた事をそこで聞いてみた。
「なぁ、お前のその、脳ってどうなってんだ?」
「脳だと?」
「あぁ、俺の能力で繋がる言葉は出来たから人間や生物と同じ様な構造なのは何となく分かるが、そもそもアンドロイド――機械のお前に感情がある時点でよく分からない」
「何が分からないって言うんだ」
俺の質問自体がくだらないとでも言った様にリリが俺を見て小さく溜息を吐く。
「何って、何で感情があるんだよって話だよ」
「そりゃ有るだろ」
「いや、普通無いだろ。俺が居た時代じゃ人工知能に感情なんてものは芽生えてない。そんなシンギュラリティは迎えて無いんだよ」
技術的特異点とも言われる、人工知能が人間の能力を上回るその時は俺は体験していない。
俺の元いた世界では人工知能は大いに発達してはいたが、人間を人間たらしめる感情や閃きと言ったものは人間が唯一持つアイデンティティであり、人工知能と人間を隔てる砦でもあった。
リリを目の当たりにするとそんなものは無い様に思える。
起伏はあまり感じられないがリリには確かに感情がある様に思える。
それに加え先程見たリリの戦闘は控えめに言ってもかなりリリが強い事が伺える。
それはリリの身体的な構造、素材全てが俺の知らない何か特別な物なのだろうと想像は出来るが、それらを全て含めて人間を凌駕している。
それに加えて人間の唯一の武器とも言える感情や閃き、そう言ったものすら持っているリリは人間を超えた存在と言わざるを得ない。
「そんな事は知らない。私はお前を護れさえすれば―――」
「あー、はいはい。それは分かったよ」
「む、何だ?お前偉そうだな?」
「お前に言われたくねぇよッ!」
「う、うーん・・・」
リリの言い様に俺は再び激しくツッコむが、それを受けて再びアリシエーゼが唸る。
「まぁ、お前達の状況は把握した。先ずは地上に帰還する事を第一優先として行動すると言う方針で良いか?」
「そうだな、ただ言った様にどうもこの魔界の様子がおかしい。このまま上に上がって行けば無事に地上に帰れるか怪しいんだよな・・・」
「それなんだが、恐らく大丈夫だ」
「・・・何でそう思う?」
「恐らくとしか言えないが、その変化とやらはネガティブなものでは無いと感じる」
リリの言葉がどう言う意味なのか理解出来ず首を捻るが一体どう言う事だろうか?
「お前、何か知ってるのか?」
「先ず大前提として私はお前達が魔界と呼ぶこの魔界とやらの終着点、最下層からやって来た。一番奥底で眠っていたんだ」
「ぇ?」
衝撃的だった。俺達の目指していた魔界の最下層からリリはやって来たと言っていたが、それが俺達の目指す場所だったと言う事、本来なら最下層には悪魔などがおり、それを倒そうと動いていたのだ。
それが、そんな奴ら居らずただリリが眠っていた場所が存在すらと言われている様に思えたのだ。
「そこは何も無いただの部屋だった。ここの半分くらいの広さだが、特に何かある訳では無い。気付いたらそこに佇んでいて、お前の存在を感知出来たのですぐ様向かって来たと言う訳だ」
「そ、そうか・・・」
聞けば最下層から上へ上がって来る途中も特に特別な事は無かったと言う。
迷宮が入り組み、層を隔てる場所には階層主。
そんな階層主をぶち殺して駆け付けてやったんだと少し嬉しそうに語るリリを見て俺はかなり複雑な気持ちになった。
俺達は何の為に魔界に挑んでたんだ・・・
そんな思いに駆られたが、一旦それは棚上げしておく事にする。
リリは俺の存在を感知したと言っていたが、それはリリに備わっている機能なのかが気になって聞いてみたところ、「そうだ」と言って軽く説明してくれた。
登録されている生体情報を半径数キロで感知するものだと言う事だが、それ以外にも周囲の地形情報を把握する機能も有していると言う事であった。
それって、マッピング作業とかしなくて良くなるんじゃ・・・
それを伝えると、一つの階層くらいなら一瞬で全て把握さる事が可能で、それを外部に出力―――つまり紙などに書き出す事も可能だと言っていた。
めっちゃ優秀じゃないか!?
最初はファンタジー世界に科学なんてものが出て来た事に憤りさえ覚えたし、今も全く持って存在自体が不明なリリに不安を覚えはするが、それらを含めて地上に帰ってからにしようと考えを改めた。
「じゃあ、構造が変わってる事はネガティブな事じゃないってのはどう言う事だ?」
「恐らく、私と言う存在が目覚めた事によって、この場になんらかの影響が生じたと言う事だ」
「いや!全然分からん・・・」
「何だお前、馬鹿なのか?このお前達が魔界と読んでいる場所はそもそもこの地球に存在していない。仮想空間と言う事でも無いが、お前達が分かる様に言うと別の時空、別の宇宙、別の世界と言う事になる」
「待て待て待て待てッ!!お願いだから待って!!」
突然ぶっ込んで来るリリに俺は懇願した。
別の宇宙だの別の世界だの、それではまるでマルチバースや多元宇宙論の話になってくる。
話がいきなり壮大になり過ぎて俺の脳がそれらの情報を拒んでいた。
「煩い、黙って聞け。恐らくとしか言えないが、私の目覚めは完全に想定外だったのだろう。それは世界にとって不都合だったと考えられなくは無いが分からない。が、私の目覚めがこの空間、時空にも何らかの影響を及ぼしたと考えると構造の変化もそれで説明出来なくは無い」
「・・・・・・」
俺は黙る事しか出来なかった。
ファンタジーと思っていた世界に科学と言う概念そのもの、その権化とも言うべきリリが突然現れ、この魔界は地球上には存在していない、多元宇宙論的は事まで飛び出し俺はすぐ様考えるのをやめた。
もういいや・・・
俺が幾ら、こんなのファンタジーじゃない!と叫ぼうが世界が変わる訳では無いし、どうにもならないのならそれを受け入れるしか無い。
言いたい事は山程あるが、それをリリに言った所でどうにもならない事は分かっているし無駄なのだ。
だったらそれに関して考えるだけ時間の無駄だ。
俺はただ目の前の現実を受け入れて、ベストを尽くして面白可笑しく生きるしか無い。
リリが言うには影響は恐らくこの魔界だけだろうとの事だった。
地上には影響は出ないと言っていたのでとりあえずそれを信じて地上を目指す事になり、俺達はその後は軽く情報を精査して話し合いを終えた。
「―――と言う訳だから、一先ずこれまで通り地上を目指すぞ」
「いや、全然意味分かんないわよッ」
「旦那、もう少し分かる言葉で説明してくれ・・・」
「無理だ、俺も意味が分からない。とりあえず新しい仲間のリリが加わった。それだけ分かってれば良いと思う・・・」
俺の言葉に皆、「ええッ!?」と驚いていたが、科学技術の事などを真面目にイリア達に話した所で理解など出来よう筈が無い。
俺も絶賛混乱中だし、説明しようが無いのだ。
「・・・女狐の言う事を信じるのか」
「女狐って・・・まぁ、怪しい所は多々あるが、それを言ったら傍から見れば俺やアリシエーゼだって同じだろ?それにリリの力は今後大いに役立つよ」
「リリ、のう・・・」
アリシエーゼは大きく鼻を鳴らし納得はしていない様だったが、それから特に文句を言う事は無かった。
「じゃあ、とりあえず地上を目指そう」
俺はそう言って仲間達に準備は良いかと尋ねる。
皆、微妙な顔をして頷くのを確認し、俺達は地上へと向けて出発した。
何だか、妙な話になってきたなぁ・・・
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
今日も聖女は拳をふるう
こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。
その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。
そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。
女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。
これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。
魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~
村雨 妖
恋愛
森で1人のんびり自由気ままな生活をしながら、たまに王都の冒険者のギルドで依頼を受け、魔物討伐をして過ごしていた”最強の魔法使い”の女の子、リーシャ。
ある依頼の際に彼女は3匹の小さな黒竜と出会い、一緒に生活するようになった。黒竜の名前は、ノア、ルシア、エリアル。毎日可愛がっていたのに、ある日突然黒竜たちは姿を消してしまった。代わりに3人の人間の男が家に現れ、彼らは自分たちがその黒竜だと言い張り、リーシャに自分たちの”番”にするとか言ってきて。
半信半疑で彼らを受け入れたリーシャだが、一緒に過ごすうちにそれが本当の事だと思い始めた。彼らはリーシャの気持ちなど関係なく自分たちの好きにふるまってくる。リーシャは彼らの好意に鈍感ではあるけど、ちょっとした言動にドキッとしたり、モヤモヤしてみたりて……お互いに振り回し、振り回されの毎日に。のんびり自由気ままな生活をしていたはずなのに、急に慌ただしい生活になってしまって⁉ 3人との出会いを境にいろんな竜とも出会うことになり、関わりたくない竜と人間のいざこざにも巻き込まれていくことに!※”小説家になろう”でも公開しています。※表紙絵自作の作品です。
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
そして、アドレーヌは眠る。
緋島礼桜
ファンタジー
長く続いた大戦、それにより腐りきった大地と生命を『奇跡の力』で蘇らせ終戦へと導いた女王――アドレーヌ・エナ・リンクス。
彼女はその偉業と引き換えに長い眠りについてしまいました。彼女を称え、崇め、祀った人々は彼女の名が付けられた新たな王国を創りました。
眠り続けるアドレーヌ。そこに生きる者たちによって受け継がれていく物語―――そして、辿りつく真実と結末。
これは、およそ千年続いたアドレーヌ王国の、始まりと終わりの物語です。
*あらすじ*
~第一篇~
かつての大戦により鉄くずと化し投棄された負の遺産『兵器』を回収する者たち―――狩人(ハンター)。
それを生業とし、娘と共に旅をするアーサガ・トルトはその活躍ぶりから『漆黒の弾丸』と呼ばれていた。
そんな彼はとある噂を切っ掛けに、想い人と娘の絆が揺れ動くことになる―――。
~第二篇~
アドレーヌ女王の血を継ぐ王族エミレス・ノト・リンクス王女は王国東方の街ノーテルの屋敷で暮らしていた。
中肉中背、そばかすに見た目も地味…そんな引け目から人前を避けてきた彼女はある日、とある男性と出会う。
それが、彼女の過去と未来に関わる大切な恋愛となっていく―――。
~第三篇~
かつての反乱により一斉排除の対象とされ、長い年月虐げられ続けているイニム…ネフ族。
『ネフ狩り』と呼ばれる駆逐行為は隠れ里にて暮らしていた青年キ・シエの全てを奪っていった。
愛する者、腕、両目を失った彼は名も一族の誇りすらも捨て、復讐に呑まれていく―――。
~第四篇~
最南端の村で暮らすソラはいつものように兄のお使いに王都へ行った帰り、謎の男二人組に襲われる。
辛くも通りすがりの旅人に助けられるが、その男もまた全身黒尽くめに口紅を塗った奇抜な出で立ちで…。
この出会いをきっかけに彼女の日常は一変し歴史を覆すような大事件へと巻き込まれていく―――。
*
*2020年まで某サイトで投稿していたものですがサイト閉鎖に伴い、加筆修正して完結を目標に再投稿したいと思います。
*他小説家になろう、アルファポリスでも投稿しています。
*毎週、火・金曜日に更新を予定しています。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
異世界でもプログラム
北きつね
ファンタジー
俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。
とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。
火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。
転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。
魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる!
---
こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。
彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。
注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。
実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。
第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。
注)作者が楽しむ為に書いています。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる