異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第269話:新開発

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「おーい、いい感じの素材持って来たぞー」

「・・・・・・」

仲間達との話し合いを終わらせて俺は屋敷の庭に併設した篤の工房の扉の前で中に居るであろう篤へと声を掛けるが返答が無かった。

「居ないのか?」

首を傾げながら扉に手を掛ける瞬間、ガチャりと音が鳴り扉が開いて慌てて手を引っ込める。

「・・・何だ、帰って来ていたのか」

「・・・え、それすらも気付かない?」

髪はボサボサで明らかな睡眠不足な表情の篤は俺の顔を見るなりそんな事を言い出す。
食事の時もイエニエスさんが声を掛けるが何時も食堂にはやって来ないのだが、二十四時間工房には灯りが点っているので死んでは居ないと判断して放っておいたが、篤の方が俺達が帰って来た事に気付いてすら居なかった事に驚く。

「ちょっと最近は忙しくてな・・・」

「・・・ふーん、まぁいいけどさ」

扉の前で話していた篤が一度工房内を振り返りそんな事を言うので釣られて外から中の様子をチラりと覗き込む。
武具を鍛造する為の炉に火は入れられていないが、どうにもかなり散らかっている様に見えた。
貴重な羊皮紙を何枚も使い、よく分からない事が書いてあるものが無造作に床に放られており足の踏み場が無い。
外から少し覗いただけでそれなのできっと奥の方もと想像し篤に目線を戻す。

「それで、素材を手に入れたとか言っていたか?」

「あぁ、玄関前の辺りに置いてある。量が結構あるしな」

「何を手に入れたのだ?」

「まぁ、とりあえず見てみてよ」

その素材とは何だと聞き出そうとする篤に俺は実際に見て確認しろと移動を促す。
それに対して何も言わず篤は工房から玄関前に踵を返す俺に従い歩いて来る。
その様子を背中で感じつつ魔界であった事を掻い摘んで話すと篤は怪訝な表情を浮かべた。

「何だその鎧は、物理も魔法も効かない魔法効果でも掛かっているのか?」

「分からん。けど、あんな馬鹿げた防御力の鎧を付けた魔物がウジャウジャ出て来たらと考えるとゾッとする」

俺の言葉に「そんなにか」と篤か驚くが、実際の所はあの巨人があの鎧を装備して初めてあれだけのパフォーマンスを発揮出来たのだとは思う。
なのでそこら辺の魔物があの鎧を着込んでいたとしてもそれ程脅威にはなり得ないのだろうが、それでも例えばホルスの数万にもなっていたであろうあの魔物の大群が全てこの巨人と同じ鎧を装備していたらと考えると流石に笑えない。

「―――これだよ」

そうこうしている内に俺と篤は、玄関先に無造作に置いてある巨人の鎧の一部の元へと辿り着く。
まるでガラクタの山の様だが、改めてそれを見て倉庫でも作ろうかと思案した。

「これは・・・」

ガラクタの山―――基、巨人の鎧の破片へと徐に近付く篤は興味深そうにその周りをゆっくりと周り観察する。
暫く無言でガラクタの周りをブツブツと独り言を呟きながら回っていた篤が首だけグルりと回して俺へと振り向く。

こ、怖い・・・

「もう一度説明してくれ。暖が感じた事、予測を踏まえてでいいから細かく」

「あ、あぁ―――」

篤に促され、俺は魔界で巨人と初めて相対したところから感じた事、疑問に感じた事など多分に主観を交えてもう一度説明をした。

「―――だから、俺はこの鎧はこの世界のこの時代の物では無いと思ってる。動力源が装備者の魔力なのか生命力なのかは分からないけど、たぶんそう言ったパワーソースは何かしらあると思うんだよ」

「・・・成程、分かった」

大分長くなってしまったが、俺の話が終わると篤はゆっくりと頷き、ガラクタへと目を戻す。
一言、「やるか」と発して口を真一文字に結んだ。

やる?
何を??

俺がそう思った矢先、篤がガラクタへと右手を添える。
瞬間、ブワリッと一陣の風が篤を中心に吹いた気がした。

「・・・・・・」

別に何か、圧迫される様な気配だとか魔力なのか何なのか分からない力が今この場で展開されている様な気配は感じない。
ただ、一瞬風が吹き俺の髪を撫でた。それだけだったがとても不思議な感覚を覚えた。

篤が何かしたのか・・・?

そこで思い出す。篤の能力は人造人間ホムンクルスを創り出す能力で、見たり触れたりした素材からその創り出したい人造人間に必要なパーツの材料や作り方等が分かる力が備わっていると言っていた事を。

今、それをやってるのか?

分からないが、集中している様だったので声は掛けなかった。
途中で「これは・・・」だとか、「まさか・・・」だとかチョイチョイ気になる言い方をして言葉を紡ぐがどれも要領を得ず、俺は只管待った。
どれくらいそうしていたのか定かでは無いが、漸く篤が能力発動の構えを解いた様だったので声を掛ける。

「どうだ?」

「―――あぁ、もしかしたら物凄い物が作れるかもしれない」

そう言って振り返った篤の表情は何時になく真剣だった。

「物凄いもの?」

「そうだ。これは凄い―――凄いぞッ」

そして篤は一瞬で歓喜と狂気、双方が入り乱れる何とも言えない表情へと変貌する。
この時点でもう俺など眼中に無いのか、ガラクタをペタペタと触り時には頬擦りし出すのだが、俺はまだ全然、何も分からない。

「い、いや、だから何を作るつもり―――」

「こうしては居られんッ、コルッ!デンボラッ!」

工房で日々寝泊まりしている、同士と呼び合う二人の人間とドワーフの名前を叫びながら篤は工房へと駆け出した。

「ぇ、あッ、待て―――」

俺の制止は一切篤の耳には届いていない様で、急いで戻る姿は滑稽であったが、どうにも笑えて来てしまい俺はその場で苦笑した。

「―――何だよアイツ」

ああなってしまっては恐らく何を言っても無駄だろうと諦め俺は一度、玄関先に積まれているガラクタを見て鼻を鳴らす。

まぁ、いいか

篤は自由にやらせておくのが一番だと思うし、今身に付けている手甲もかなり役立つ物で、こう言った物を生み出してくれるのであれば文句等あろう筈が無かった。
この巨人の鎧を使いどんなものが出来るのかは分からないが期待しておこうとその場を後にした。

屋敷に戻るが既に話し合いを終えているので仲間達は各々の部屋に戻っている様で一階は静かなものだった。
だが物静かではあったものの時折、物音が聞こえて来たので食堂に顔を出して見ると、イエニエスさん一家が後片付けをしていた。
仲間達との話し合いは、食事を取りながら食堂で行っていたのでその片付けなのだが、話し合いは結構前に終わっており今から片付けなのか?と不思議に思ったので声を掛ける。

「イエニエスさん、今から片付けですか?手伝いますよ」

「あ、ハル様。いえ、もう終わりますのでハル様はゆっくりしていて下さい」

既に大半が片付けてあったのでイエニエスさんは笑顔で断りを入れる。

「そうですか、あれから何かありましたか?」

あれからと言うのが、話し合いが終わり俺が屋敷を出て工房に向かってからだと言うのを理解してイエニエスさんは苦笑いを浮かべる。

「アリシエーゼ様があの後まだ食べ足りないと申されまして・・・」

「ぇ、マジっすか?」

うちのパーティ連中は男共はまぁ、傭兵家業の様な事もやっているしかなりの量の食事を取る。
アリシエーゼもかなり食うので基本的には屋敷での食事も大量に用意してもらうのだが、それを食べてなお追加とは何を考えているんだと思うと同時に、俺が居る時におかわりとして要求しなかったのはきっと文句を言われるとでも思っていたのだろうと考え俺はため息を吐く。

「はぁぁ・・・あの野郎」

聞けば屋敷に備蓄していた食材をかなり使ったとの事で、明日また買いに行かないととイエニエスさんは笑いながら言っていたが、この人達に迷惑を掛けるアリシエーゼを一度叱らなければと心に決める。

「―――戦争が再開されて、もしかしたら今後は色々と入手が困難になるかも知れませんね」

「確かにそうですね・・・」

その後、連合軍との戦争の話となり色々と話をして行く中でやはりと言うか、まぁ当然ではあるが戦争に対する不安はある様に感じられた。
イエニエスさん達は帝国民だ。こよ戦争自体にどう言う想いがあるかはハッキリ言って分からない。
だが俺はイエニエスさん一家を無碍には出来ないと思っている。
それはこの帝国で得た縁でもあるし、どうしてこの親切な人達を無視して連合側に加担出来るだろうか。
これは別にイリアがどうのと言う話では無く、単純に俺が昔よりもほんの少しだけ人間臭くなっただけの様に感じずにはいられなかった。
そんな事を考えていると何だか身体がムズムズと痒くなってくる気がして俺は話を切り上げて自分の部屋へと戻った。

戦争へは参加しない

これで良いんだよなと自問自答するが決してその答えが出る事は無い。
眠気が全く無いがベッドに寝転がり目を閉じる。
先ずは魔界へ向かう為の準備をして、このオルフェの魔界を攻略するぞと気持ちを切り替えようとするがなかなか上手くいかなかった。

マジで戦争とかくだらねぇよ
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