異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第265話:イリアの想い

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「じゃあ、そういう事で宜しくね」

「分かった、先に遣いを出しておく」

 話を終えて帝国兵を見送る俺は、その帝国兵が見えなくなると仲間達に振り向いた。

「よし、これで税を取られるとか、素材自体を没収される事は無いだろ」

「「「・・・・・・・・・」」」

 俺が朗らかにそう言うと、若干名はシラケた顔で俺を見て―――若干名では無いな、ラルファ、アギリー、リルカの三人が妙な顔をしている。

「なんだよ?」

「いや、何て言うか・・・今ってあの帝国兵のお偉いさんにハルくんの力を使ったんだよね?」

「そうだけど?」

「何時・・・?」

「何時ってそりゃ―――見た瞬間?」

「「「・・・・・・・・・」」」

 なんだよ・・・?

 十三層から十二層に上がると十一層のボス部屋にキャンプを張っていた帝国兵の大隊ーーかどうかは分からないが、一団が既に十二層のボス部屋へとキャンプを移しており、何だか賑わっていた。
 ポーターにした傭兵達の話では、明日か明後日にも十三層に帝国兵が大挙として押し寄せ、十三層ボスであった巨人を倒すべく一大作戦を決行すると聞いていたが様子が違った。
 その辺を彷徨いている帝国兵を捕まえて話を聞くと、十二層へと到達が漸く終わりキャンプも張ったばかりであるとの事で、十三層の攻略を開始するのはもう少し先になりそうだとの話であった。

 その辺りをポーター共に確認するが、そんな予定は聞いていないとの事をだったので、元よりそこまで開始時期だとか詳細を詰めていなかったのか、傭兵達が盛って話したかと行った所だがあまり興味も無かったのであまり掘り下げなかった。

 結局はこの帝国兵を指揮している大隊長クラスに話を付けて早々に地上に帰還しようと、キャンプを彷徨き、一番トップを見付けて色々と話を付けて今に至る。

 まぁ、全部俺達の思い通りに動いて貰うだけだしな

 十三層のボスでする巨人は俺達とラルファのパーティのみで撃破した事を伝え、入手した素材に関しては帝国は何も関与させない事でした―――と言うか、させた。
 魔界から持ち帰った物には税金が掛かるが、今この西魔界は帝国が本腰を入れて絶賛攻略中であり、既存の傭兵達とも連携を強化しているのでその一環で持ち帰った物にに対する税金がかなり安くなっているのだが、未知の素材となるとどのくらいふっかけられるかも分からないし、下手をしたら調査名目で没収され兼ねないので、俺は先手を打ってその辺りを対策したのだが―――

 隊長クラスしか改変してないけど大丈夫だよな・・・?

 ここに居る全兵士、傭兵を改変する事は勿論出来るが非常に面倒臭いので横着をしてしまったのだが、まぁ何かあったら対処すればいいかと直ぐに考えるのを止める。

「とりあえず十三層の階層主を俺達が倒した事とかは帝国兵が先行して地上に伝えに行ったし、このまま進もう」

 今日は朝早くから巨人に挑んでおり、そこから今この時まで数時間足らずで昼時を過ぎた位だ。
 昼飯をどうするか悩んだが、俺はもう地上に帰りたいモード全開の為そう言って先を促す。

「えーッ、お昼ご飯食べようよー、もう疲れたよー」

「そうですよッ、ラルファ様はまだ回復しきっていません!今は休息が必要です」

 先を急ぐ俺にラルファは休息を求め、リルカもそれに乗っかって、此処ぞとばかりにあーだこーだと騒ぎ立てる。

「・・・・・・はぁ、わかったよ。じゃあ此処で昼飯を食べる事にしよう」

「やったぁ!」

「ふんッ、当然です!」

 巨人との戦いの際、ラルファは覚醒モードとも言うべき神造遺物アーティファクトに封じられたアザエルを自分の身に降ろしている。
 その結果と言うか、効果は絶大だった。
 こうして無事で居られてるのが不思議で仕方が無いのだが、その技を使った直後ラルファは気を失っており、今は目覚めて自分の足で歩いてはいるものの疲労は相当蓄積されている様なので気を使った訳だが・・・

 リルカうぜぇ・・・

 金魚の糞の様にラルファに着いて周り、何かあれば直ぐに俺に噛み付いてくるリルカに俺は辟易していた。

「じゃあ、適当に場所探すか」

 そうして俺達は十二層の帝国兵キャンプの一角の空いているスペースを探し出し昼飯の準備を始める。
 巨人を直接相手取ったのは、俺とアリシエーゼとラルファのみだったが、他の仲間達も戦闘には参加している。
 あの巨人は相当の強さだった。あの纏っていた鎧も厄介だが、恐く俺一人でも、俺やアリシエーゼを抜かした仲間達のみでも殺されていただろう。
 俺とアリシエーゼが抜かれた場合は、ラルファを護っていたアギリーやリルカを含む仲間達で巨人を相手取らなけれぱならなかった為、相当気を張っていた筈だ。
 イリアの防御魔法は常に発動準備はさせていた為、いきなり窮地に陥る事は無いと分かっていても精神的疲労はかなりのものだったのだろう。
 皆、一旦地に腰を下ろすとそこからは動くのが億劫であるかの様に昼飯の準備は進まない。

 まぁ、仕方無いか・・・

 そう思っていると、ドエインが立ち上がり俺の元に歩いて来るのが分かった。

「旦那、此奴らの分の昼飯も作るか?」

「「「「ッ!?」」」」

 ドエインがラルファ達の分の昼飯も用意するべきか俺に聞いて来るが、その言葉を聞いたラルファ達は一瞬で目が輝くのが分かった。あのフィフリーさえもがだ。

「いや、俺達の分だけでいいだろ。自分達の分は自分達で用意すればいい」

「ぇ・・・」

 俺の否定にラルファはそれはもうこの世の終わりと言わんばかりの悲観した表情になる。

 いや、共闘はしたが別に仲間でも何でも無いし・・・

「ちょっとどう言う事ですか!?」

 更には俺の言葉に何故かリルカが憤慨し素早く立ち上がると俺に詰め寄って来た。

「はぁ・・・」

「いや、旦那・・・こうなるって分かってただろ」

 俺の盛大な溜息にドエインはジト目を送って来るが、まぁその通りだと思った。

「どう言う事も何も無ぇよ、そのまんまだ。何でお前らの分まで俺達が用意しなきゃなんねーんだよ」

 鼻を鳴らして言う俺にリルカの顔が見る見る内に赤くなって行くのが分かる。

「この状況でそんな事を言いますか!?どれだけ心が狭いんですかアナタはッ」

「ちょっとリルカ、止めなよ―――」

「いいえッ、止めません!大体アナタは―――」

 ラルファの静止を振り切り、リルカは此処ぞとばかりに捲し立て様としたが、その言葉はリルカの傍へ無言で近付いて来たイリアにより最後まで言う事が出来なかった。

「貴女いい加減にしなさいよッ!!」

「――イギャッ!?」

 女が出す声では無い短い悲鳴がリルカの口から漏れるが、その声は後ろから近付いて来たイリアは手加減無しでリルカの後頭部を右手で思いっきり叩いた事によるものだった。

 おぉ・・・躊躇無くいったなぁ

 恐くリルカは突然の背後からの奇襲に目ん玉が飛び出る程の衝撃だったのだろう。
 今も後頭部を押さえて蹲り立ち上がれていない。

「貴女何様よッ、協力して貰っておいてッ、護られてるだけでッ!」

 蹲るリルカを見下ろしながらイリアは叱責する。
 本気で怒るイリアを見て俺も考えてしまう。
 俺達のパーティはハッキリと言って、俺とアリシエーゼが戦力に突出している。
 それを俺やアリシエーゼは別に何とも思わない。
 戦力的に使えないだとか、お荷物の様に思ったりは一切していないが、仲間達自身は違うのかも知れない。
 だからか、暇があれば皆自発的にトレーニングに勤しんでいる事は知っている。
 ドエインもダグラスも暇さえ有れば連携に付いて話し合い剣の稽古も密かにやっているし、デス隊も初めて持った日本刀擬きの長剣の扱いを三人で話し合ったり色々としているのを知っている。
 それはイリアとて例外では無い。
 オルフェの屋敷然り、魔界での休憩中然り、イリアの武器である特殊警棒の様な物を使った護身術を中心にダグラスにアドバイスを求めたりと必死になっている。

 其れは俺やアリシエーゼに置いていかれない様にと言うよりは俺達二人に触発されてと言う様な自発的なものだと思っているし、それに関して俺やアリシエーゼが何か口を挟む様な事はしていない。

 俺もアリシエーゼも自分だけの力では乗り切れないものがあるのだと知っているのだ。
 仲間の力は絶対に必要だし、こうして俺達に文句ほ口では言えど着いて来てくれる仲間達に俺は密かに感謝すらしている。

 なのでもしかしたら俺達が知らないだけかも知れないが、傍から見れば努力もせずラルファの才能とも言って良い力をだけに頼り切って、文句ばかりを言うリルカにイリアは思う所が有ったのかもなと考えると何とも言えない心境になった。

「働かざる者食うべからずッ、よッ!!」

 吐き捨てる様にそう言ったイリアにリルカは蹲り頭に手を当てながら、恨めしそうにイリアを見上げる。

「い、いきなり何する、んですかッ、あ、貴女に何が分かるって言うのよッ、聖女の貴女にッ」

 若干目に涙を貯めつつそんな事を言うリルカに俺は、もう聖女じゃないんだけどなぁと思っていると、イリアは突然蹲るリルカの胸ぐらを掴んで強制的に立たせた。

「ッ、な、何す―――」

「私はッ、もう聖女じゃ無いわよッ!!」

「ぇ、あッ―――――――ッックハァッ!?」

 そして有無を言わさずイリアはリルカをそのまま背負い投げして地面に叩き付けられた。
 地面に叩き付けられたリルカは背中から落ちて肺に溜まった酸素を一気に吐き出すが、突然の強力な衝撃により息が止まる。
 イリアの配慮か、受け身も取れないリルカに対して頭を打ち付けさせない様な投げだったのに関心した。

「二度と私を聖女って言うなッ、ご飯を貰いたいならさっさと手伝いくらいしろッ!!」

「・・・は、はいッ」

 息が整い始めたリルカに対して鬼の様な形相でそう言うイリアを見て、リルカは涙を浮かべながらヨロヨロと立ち上がり、既にとばっちりを恐れて離れて昼飯の準備を始めていたドエインの元に歩いて行った。

 すっげ・・・

 イリアの剣幕に俺も言葉を失っていたが、リルカが歩いて行ったのを見送ったイリアはグリッと首を回して今度は俺を睨む。

「アンタもッ」

「うぇッ!?」

「アンタもリルカが言った様に心が狭いわよッ」

「えぇッ・・・だって彼奴らは―――」

「一緒に戦った仲なんだかご飯くらい食べさせて上げなさいよッッ」

「ひぇッ、す、すみませんッ」

 余りの剣幕に俺は何故か謝ってしまう。

「分かったらアンタも手伝いに行きなさいッ」

「ぇ、何で俺が―――」

「何よッ!!」

「いえ、なんでもありません・・・」

 そして俺もリルカと同様にトボトボとドエインの元に向かった。

 怖いよぉ・・・
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