異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第261話:神の手

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「鎧が壊れて肌が露出してる部分狙えよッ」

「分かっておるわッ」

 ラルファの後に続き巨人へ向かう俺はアリシエーゼに叫ぶ。
 アリシエーゼもそんな事は分かっていると叫び返し俺達は別々の箇所を狙うべく同時に影移動で消える。

「―――ァァアアアアッッ!!」

 俺が巨人の真後ろへと移動した瞬間、ラルファの雄叫びが聞こえ顔を向けると、巨人の直上まで飛び上がり、神造遺物アーティファクトである長剣を振り下ろそうと必死の形相をしていた。

 マズいッ!!

 技の発動当初よりも数段スピードも何もかもが落ちているラルファの動きに巨人は反応を示している。
 腰をググッと落として右手に持つ鉈の様な大剣を両手で確りと持ち直しまるで脇構えの様だが確実にラルファを迎え撃つ構えだ。

 ラルファも当初より数段攻撃力も速度も落ちているとは言え、それでも並の傭兵などでは太刀打ち出来ないであろうが、今では俺やアリシエーゼの方が率直に上だと思った。
 追い詰められているとは言え、明らかな致命傷を負っている訳では無い巨人にとって今のラルファは調度良い的なのかもしれない。

「とりあえず頭かち割ってやれやッ」

 俺は中空でそう呟き、もう一度影移動を発動する。
 腰を落とす巨人の安定した左肩の、首筋辺りに着地をして直ぐに脚を踏ん張り腰を急激に左回転させる。
 丁度、ラルファを迎え撃とうと、脇構えから左切り上げを放つその瞬間、俺の右拳が巨人の独鈷どっこよりも更に奥、延髄辺り炸裂する。

「――シャッッ!!!」

 巨人の延髄辺りはあの硬い鎧に覆われておりラルファの攻撃でも傷が付いていない箇所だったが、それでも俺のその一撃は純粋で完璧なまでの全身の連動と力配分、タイミングで硬い鎧を突き抜け、巨人の身体へと直接伝わる。
 幾千、幾万と打ち込んで来た打撃の中で一番完成され、完璧な右フックは巨人の鎧に衝突すると衝撃だけがまるで抵抗を感じさせずに直接巨人へと突き刺さる。

「――ッッ!?」

 ラルファに集中しており、更に満身創痍であった事からか、巨人は俺を意識していなかったのだろう。
 ラルファの迎撃に集中していた巨人は突然、脳が揺さぶられ、膝が折れ曲がるのを意識したがどうにも出来ない。そんな崩れ方で決死の表情のラルファを前にして痛恨の隙を晒す。

 行けッ!!

 飛び上がりから重力を使い落下する速度、遠心力、武器の重量、ありとあらゆるものを使い全身全霊でラルファは巨人の脳天へと天道へと神造遺物(アーティファクト)の長剣を叩き付ける。
 俺の一撃で一瞬で脳震盪の様な症状を起こした巨人だったがどれだけの超回復なんだと思う程一瞬でそれから復活する。
 だが、顔をラルファに向けるだけで精一杯だったのか身体は全く動いていなかった。

 ラルファの長剣が巨人に当たった瞬間、超重量の金属同士が激しくぶつかった音が物理的な衝撃波を伴って俺の耳を襲う。
 その凄まじい衝撃音に顔を顰めると、巨人の兜がビキビキと音を立てて罅が一瞬で顔全体を覆う兜に走る。

「アアアアアッッ!!!!」

 長剣を在らぬ限りの力で叩き付けたラルファは剣と兜がぶつかったその瞬間、更に腰を回しまるで剣を引き抜く様にして振り抜いた。

 バキンッッ

 と罅が入っていた兜がラルファの最後のダメ押しで完全に割れる。
 真っ二つに割れた兜の中から巨人の素顔が晒されるが、その額に縦に真っ直ぐ赤い線が走ったかと思うと、兜の破壊と同時にそこから真っ赤な血が吹き出した。

 浅いッ!?

 俺はラルファの一撃の瞬間に巨人から飛び降りてその結末を見守っていたが、兜は完全に破壊したにせよ、その中身までは致命的なダメージは与えられていないと直ぐに悟り、影移動を使って既に力尽きているラルファを回収した。

 アリシエーゼはッ!?

 ラルファを回収し、地上に降り立った俺は直ぐにアリシエーゼを探す。
 が、辺りには見当たらずに困惑するがそんな俺を嘲笑うかの様に頭上からアリシエーゼの声が聞こえて反射的に上を見る。

「おほぉぉぉぉおおおおッッ」

 意味の分からない雄叫びを上げながら、ラルファが飛び込んで行った更に上からアリシエーゼが弾丸の様な速度で額から口にかけてラルファによって付けられた切り傷を痛がり手で顔を覆う巨人に向かって急降下していた。
 巨人自体体長がかなりあり地上からでは結構離れている。しかもアリシエーゼはもの凄い速度で落下していたので普通の人間には詳細までは確認出来なかっただろう。
 だが、俺の良過ぎる其の眼は確りとアリシエーゼの表情を捉えていた。

 アリシエーゼの瞳は金色に輝き、その怪しい光が光の線となり巨人の頭上へと突き刺さる。

 彼奴、嗤ってやがった・・・

 あの瞳を見た瞬間、アリシエーゼがあの暴走覚醒モードを発動したのだと気付いたが、其れよりも好戦的で蟲惑的なその表情に俺は惹き付けられていた。
 そして頭上でブチャリと硬いものを砕く音と一緒にトマトか何かが押し潰される様な音が俺の耳をを通り鼓膜を刺激した。

 気を失うラルファと一緒に地上でその光景を惚けて見ていたが、気付くと巨人は動きを止めてユラユラと身体を揺らしているのに気付く。
 暫く揺れている巨人を見ていたが、その巨人はそのまま何の受け身も取ること無く後ろへと倒れた。
 もの凄い地響きと振動に若干焦るが、倒れた巨人はその後ピクリとも動かないので、漸く終わったのかと肩の力を抜く。

「いやぁ、どうじゃった?妾の必殺技は!」

 ニャハハーと笑いながら俺の元へと歩いて来るアリシエーゼに顔を向けると、既に暴走覚醒モードを解除しているのか、何時もの透き通る様な碧眼のアリシエーゼだった。

「・・・なんだよ、必殺技って」

 とりあえず気を取り直してアリシエーゼにジト目を送るが、そんな事を気にする素振りも無くアリシエーゼは鼻を鳴らしながら俺の前に立つ。

 いや、近いし・・・

 何故かアリシエーゼは腰に手を当ててラルファを抱える様にして膝を着く俺のスレスレに立っている。
 クンカクンカ出来るんじゃないだろうかと言う位近いのだが、俺がアリシエーゼを見上げると得意げに俺を見下ろしながら二チャる顔がまた何とも憎たらしかった。

「何じゃ、その曇りきった眼で見ておらんかったのか?こう、妾の掌でバシーンッとやったじゃろ?」

 何だよ、バシーンッて・・・

「・・・いや、よく分からん。巨人の頭を暴走覚醒モードになってすんごい勢いで殴り付けただけだろ?」

「違うわいッ、折角名前も考えて格好良くキメてやったのに残念や奴じゃ!」

 誰が残念かッ
 ってか、俺の眼が曇りきってるとか、お前に言われたく無いわッ

 アリシエーゼ曰く、掌の周りに魔力の塊―――正確には魔力以外にも色々と混ぜて魔法と言う形で昇華したらしいが―――を集め、其れを叩き付ける技の様だった。
 詰まりは、魔力を纏ったただの張り手だ。

「そんな張り手に名前付けてもな・・・」

「張り手では無いッ、ちゃんとアリシエーゼの張り手ゴッドハンドと言う名前もある!」

 いや、張り手言うてますやん・・・
 それに何でお前に神の要素があると思ってんの?

「・・・・・・」

 どうやらそのアリシエーゼの張り手ゴッドハンドは魔力で作った巨大なハエたたきの様なものを相手に叩き付ける技だと思うのだが、そのハエたたきの大きさが尋常じゃない。
 そこまで色々と説明を聞き漸く、何故俺はラルファを抱き抱えているんだと疑問に感じラルファを地面に放り投げてアリシエーゼと一緒に巨人の元へと歩いて行った。

「うわッ、頭部なんか完全に潰れてんじゃねぇか・・・」

「じゃろう、凄いじゃろ!?」

「え、あ、うん・・・」

 巨人だった其れを見ると頭部は完全に押し潰されて無くなっており、首も胸の辺りまで押し込まれて、すんごい肩を竦めている感じに見えなくも無い。
 アリシエーゼの掌の大きさを考えるとその何倍どころか、何十倍もの大きさのハエたたきだったんだなと改めて思うが、同時にこんなのではたかれた日には跡形も無くなってしまうんじゃなかろうかと恐ろしくなった。

 巨人の元でアリシエーゼとキャッキャしてると、後ろが騒がしくなる。
 戦闘が終わったのだと駆け付けた仲間達が走り寄って来たのだが、アギリーとリルカは俺が投げ捨てたラルファを見て「ラルファくん!?」とか「あのガキッ!ラルファ様になんて事を!!」とか叫びながら俺を睨んでいた。

 寧ろ感謝して欲しいんだが・・・

 俺が放り投げて頭をゴチッと地面にぶつけたくらいなんだってんだと思いつつ、俺のあの一撃で巨人の体勢を崩したからラルファの最後の一撃を当てる事が出来たんだぞとか思ったり思わなかったり・・・

「ちと疲れたんで妾は寝て来るぞ・・・」

 先程までテンション高めだったアリシエーゼは急激に疲労に襲われた様でそう言って十三層にある小部屋で休むとボス部屋を出て行こうと歩き出す。

「あぁ、じゃあ俺も―――ん?」

 アリシエーゼ一人小部屋で寝かすのもアレかなと思い着いて行こうと出入口に歩き出した時、その出入口の方が何やら騒がしい事に気付く。

「あ、彼奴ら本当に階層主を倒しやがったぞ!?」

「嘘だろッ、俺達が倒す筈だったろ!」

「どんな手を使いやがった!?見てた奴は居るか!?」

 どんな手って、アリシエーゼの大きな手だよと思いつつ、何だか良からぬイベントが起きそうなそんな気配を感じた。

「マサムネ、この階層主の素材とかは俺達の物だ。分かったな」

 出入口に向かう途中、マサムネとすれ違いながらそう言ってチラリと目で確認する。

「承知しています、お任せ下さい」

 マサムネはそう言って恭しく頭を下げる。
 それに習い、ムネチカとコテツも無言で俺に頭を下げて見送っていた。
 それはまる主人を見送る従者の様だった。

 さて、どうなりますかね
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