異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第245話:名ばかり勇者

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「本当に大丈夫、なの・・・?」

「それはこっちの台詞だよ、本当に倒せるんだろうな?」

 若干不安そうな勇者くんに俺はジト目で返す。

「それは大丈夫だと思うんだけどさー、ここの階層主本当にデカいらしいんだよねー」

 大丈夫だと思うってなんだ、思うって・・・

 そこは断言して欲しいと思わなくは無いのだが、仮に勇者くんが使えなくとも最終的に俺達が倒せれば問題無いのでいいかと思い直す。

「階層主の部屋って全て常に解放されてるんだよな?」

「それは大丈夫だよー。ヤバくなったら撤退出来るからさー」

 俺の懸念を理解して勇者くんはヘラヘラと笑いながら答えるが、結局今ボス部屋へと向かっているのは、俺達のパーティと勇者くんパーティの二組だけだった。
 他の傭兵パーティは全てボイコットした形だ。

 勇者くん、どんだけ信用無いねん・・・

 勇者くんの言う通り、この魔界の階層主が居る部屋の入口は常に解放されている。
 入口を潜ったら扉が勝手に閉まるだとか、戦闘を開始するとボスを倒すか自分達が死ぬかしないと解放されないだとかそう言う事は無い。
 なのでとりあえず様子見なんて事も出来ると判断して今こうして勇者くん一向と行動を共にしているのだが、小部屋での騒動は俺が一旦収めた。
 傭兵達からは勇者くん達や十三層の情報を抜き出した為、俺は満足していたしもうどうでも良かったのだが、勇者くんにしてしまったのだ。

「じゃあ、とりあえず様子見に行ってみますか」

「そうしよー」

 こんなノリが軽く軽薄そうな感じだが、傭兵達から得た情報は結構最悪で、そこには一体どんな人生を送って来たのだろうかと多少なりとも慮ってしまう。

 各国の魔界や戦場を点々としては、状況を悪化させる勇者。
 自分の仲間以外は人と思っていない。
 本当に強いのか、勇者なのか疑わしい。
 何時も取り巻きに護られてばかりの無能。
 神造遺物アーティファクトを偶然手に入れただけの男。

 等など・・・
 その他、やっかみや僻みにも似たものが多数あったが、各地で色々と恨みやツラミを買っている様だった。
 ただ結局それらは噂に過ぎない。もしかしたらどこかの戦場で一緒に戦った事のある傭兵もいるのかも知れないが、殆どが傭兵独自のネットワークで出回っている何処かの誰かが話していた情報に過ぎず、そう言うものは大抵は尾ヒレが付いて過大に語られものだろうと割り切った。

 でも、実績自体は残してないのは事実なんだろうな

 もし、その神造異遺物とやらを使って戦争を終結させましたとか、魔界に巣食う魔物や悪魔を一掃して攻略しましたなんて功績を残していれぱ、悪評は有れど、事実は事実として同時に語られないのはおかしい。
 結局は勇者くんの脳を覗き見た分けでは無いので真実は分からないが、以前上の階層で傭兵達が勇者くんを見てザワついていたのは、悪い意味で噂が立つ者を見てのものだった様だ。

「で、結局詳しく聞いてないけど、勇者くんはどうやって階層主を倒すつもりなんだ?」

 小部屋で話した時は、俺もかなり思い付きで行動してしまった為詳細を詰めることもしなかった。
 仲間達はそんな俺の行動にまたかと呆れてはいたものの、本当にヤバい事に自分達を巻き込まないと信頼されているのかは分からないが、呆れた表情をしつつ何も言わなかった。
 モニカはあのエルフちゃんと行動を共にしないとならないと知ると泣いて嫌がったが・・・
 このエルフちゃん、名をフィフリーと言うらしい。
 フィフリーは勇者一向とはまだ付き合いはそれ程永い訳では無いらしく、何処かで勇者くんが野垂れ死にそうなフィフリーを拾って来て、そこから完全に寄生されたらしい。

「お前ッ、ラルファくんをまた勇者と言ったな!?」

「それは止めなさいと何度も言いましたよね!?」

 ラルファを勇者と呼ぶ俺に、アギリーとリルカが吠える。
 小部屋で傭兵達も勇者と呼んでいたのだが、神造遺物を手に入れた事で何処かの国で勇者と呼ばれ始めたのは本当の様だったが当人にしたら迷惑でしか無いらしい。
 傭兵達もラルファを勇者と呼ぶのは、何も成さないゆうしゃとの別称からだ。
 なので、侮蔑されている事を分かっている勇者一向としては本当に止めて欲しいらしいのだが・・・

 伝説の剣を持ち、可愛い女の子のみを周りに置いてパーティを構成する。
 これを勇者と呼ばずして何と呼ぶのかと思ってしまうのだが、本人も本気で嫌がっている様なので気を付ける様にしようと思う。

「あー、はいはい、悪かったよ。ラルファって呼ぶ様にするよ」

「馴れ馴れしいぞッ、お前!!」

「様を付けなさい、様を!」

 えぇ・・・

「嫌だよ。そんなことよりもう着いちまうぞ?」

 アギリーとリルカを適当にあしらいつつ目の前に迫るボス部屋を顎てが差し、勇者くん―――改めてラルファにそろそろマジでやろうぜと促す。

「やっと名前で呼ぶ中になったって事だよねー、嬉しいよー」

「そんな事より、マジでどうするんだって。どれくらい階層主の相手をしてればいいんだよ」

 階層主の情報自体は傭兵達から抜き出しているので特にラルファ達に確認する事は無い。
 どれくらいラルファに攻撃が向かなければ、自信を持って階層主を倒せるかと言う事を確認したいのだ。
 その情報を基に俺達の作戦も立てると言うのもあるが、流石に階層主相手に行き当たりばったりでノリだけで挑む事はしたくない。

「五分。その間はこっちに敵の意識が向くのも抑えて欲しい」

 またしても急に口調を変えるラルファだが、今迄オルフェの屈強な傭兵達が束になっても適わなかったそんな階層主相手に、五分程ではあるが俺達だけでそれを相手取り、かつラルファに意識さえ向けさせない様に立ち回ると言う事は言う程簡単では無い。
 俺とラルファの会話を黙って聞いていた仲間達は皆、更に押し黙る。

「ちょっと仲間と話す時間をくれ」

 ラルファは頷き返し、俺は仲間達に振り返る。

 さて、どうするかね
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