異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第241話:連携

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 ダグラスがタンクとして機能しているお陰で、他の者が生きて来ると実感出来た。
 敵のアタッカーを、初撃を食い止め反撃の糸口を身体で示す。
 アタッカーを食い止めていれば此方のアタッカーがその隙を付き攻撃を加える事も出来るし、猛攻を凌いでくれれば安心して次の手を打つ為の準備も行える。
 ダグラスのデカい身体に併せるかの様に誂えたデカい盾。これを平気で扱える膂力に加え、騎士団の団長として培った経験がそうさせるのか、的確に随時指示を出し全体を良く見ているし、何より盾とロングソードを巧みに使い繰り出される攻撃は一度攻撃を始めると敵に取ってはなかなか止める事の出来ない厄介なものへと成る。

 あのシールドバッシュは受けたら威力を殺しても駄目なんだよなぁ

 ライカンスロープの右腕から繰り出される振り下ろしの爪による斬撃にタイミングを合わせてダグラスは左腕に装備した盾を前に勢い良く突き出す。
 ガキンッと金属と硬い物がぶつかった音が鳴り響いたと同時にグシャリと何かが潰れた様な音も聞こえて来るが、よく見ると攻撃を行っていたライカンスロープの腕が在らぬ方向に曲がり自分の身体とダグラスの盾に押し潰される形となっていた。
 悲鳴を上げるライカンスロープに間髪入れずダグラスは右手に持ったロングソードを盾の真横から突き出して相手の喉元に突き刺す。
 ゴポリと口から血と最期の聞き取れない言葉を吐き出して絶命するライカンスロープを盾で横に弾き飛ばしながらダグラスは戦況を素早く確認する。

 あのシールドバッシュの威力を殺せたとしても直ぐに盾による死角からロングソードでの攻撃が来るし、そもそもあのシールドバッシュがカウンターとなるから迂闊に攻める事出来ないし・・・

 マジで厄介だと思いつつ、味方の場合はこれ程安心して最前線のタンクを任せられる存在も無いなと口角を上げた。

 多分、盾をもっと堅牢で頑丈なそれこそ、歴史に名を残す様な盾を持たせればもっとダグラスの真価を発揮出来るだろう。
 ホルスの魔界では持っていた盾が全壊してしまった為、オルフェでかなり良い物を買った様だがそれでも市販されている物なので、悪魔との戦いでは心許ないだろうなと思った。

 今度、篤に言ってみるかな・・・

 ダグラスの盾の心配をしている俺の視界にダグラスの横からスルりと抜け出す人物が映る。

 ドエインだ。

 ダグラスの横をすり抜け一度その前に出ると、ライカンスロープの先鋒があっさりと殺られてしまった事に焦った後続が二匹襲いかかって来ていた。
 左右二方向から同時に攻めて来るライカンスロープを両目で確りと見定めたドエインは、右脚を半歩下げる素振りをする。
 ダグラスの様に盾を持っているならば盾で一方を防ぎつつ、反対の武器を持つ方でもう一方を相手取る事も可能だろう。
 が、ドエインは盾を装備していない。どちらかと言うと細身のロングソードを右手に持って戦うスタイルだが、ドエインの剣技に関しては俺は素人でそこまでの事は分からないが、他の仲間達は皆、秀才と称していた。
 それだからなのか、ダグラスはドエインが二匹を相手取る事に何の憂慮も無いと言った様子で別の個体へと目を向けている。

 ドエインはライカンスロープ二体が目の前に迫ると自らの腰を落とし、ロングソードの柄を両手で持ってその腕を右腰横辺りにユラりと持って行く。
 それは緩慢な動きに見えて澱み無く、一切の無駄が無い様に傍から見ると思った。
 左右から迫るライカンスロープの牙と爪がドエインを襲う。
 接触するその間際、ドエインから向かって右側のライカンスロープの腕が飛ぶ。
「ギャンッ」と短い悲鳴が聞こえた刹那、今度は左側のライカンスロープが吹き飛んだ。

 速ぇな・・・

 動体視力も人並み以上となっている俺ですら、瞬きをしたら追えなくなる程の速さで二体のライカンスロープの攻撃を凌いだドエインは、一体は両腕を切断、もう一体は吹き飛ばした結果を見て、小さく舌打ちをする。

「チッ、もう一体も致命傷与えたかったが・・・これじゃ姉ちゃんにドヤされちまう」

「・・・・・・」

 率直にマジかよ、と思った。一人で粗同時に攻めてきたライカンスロープの攻撃を凌ぎ、一体は両腕を切断して戦力を半減させるのに成功している。
 かつ、もう一体も大きく吹き飛ばす事によって、こちらの体勢を整えたり、反撃に転じる隙を作ったのだから、平均点以上での合格だろうと思うのだが、そんな戦果もドエインの姉、リラからすれば叱責の対象となるのかも知れない。

 先程ドエインは、右側のライカンスロープが若干早く自分に到達すると読み、半歩引いた右脚を更に弧を描く様に右回転させ、迫り来るライカンスロープに対して半身となる様な体勢を一瞬で作った。
 右腰に添えていたロングソードを持つ手をそのまま左斬上げの要領で振り上げライカンスロープの両腕を切断し、左脚を今度は左側のライカンスロープ側へと向けながら斬り上げた腕をそのまま振り下ろして袈裟斬りをもう一方のライカンスロープにぶち当てた。
 だが、タイミングが若干イメージとズレてしまった為か、ライカンスロープが防御体制を取った事により致命傷を与える事は出来ず、吹き飛ばすだけに終わった。
 あのタイミングで防御体勢を取ったライカンスロープを褒めるべきか、あの一瞬で二連撃を行ったドエインを褒めるべきかと逡巡するが、その間に吹き飛ばしたライカンスロープに肉薄していたムネチカが突進からの刺突をそのライカンスロープの脳天に突き刺していた。
 中衛まで吹き飛ばされたライカンスロープを追っていた為、敵陣深くまで斬り込む形となったムネチカに敵が殺到しそうになる。
 それを予期していたムナチカはその場で後ろに大きく飛び退く。
 それを追撃しようと二匹のゴブリンが動き出そうとしたその瞬間、一匹のゴブリンの足元の地面に高速で飛来した矢が突き刺さる。
 突然飛来した矢に動揺し動きが止まるゴブリンだが、もう一体はそのままムネチカに迫る。
 が、横からの危険を察知したそのゴブリンは左側に転がる様に方向転換した。
 ゴブリンの右側から、マサムネが迫って来ていたのだ。
 それを端目で捉えて素早く回避行動を取ったゴブリンだったが、転がり体勢を建て直した直後、息絶える。
 死に際にゴブリンは視線を動かし何が起きたのか確認しただろう。
 マサムネとはタイミングをズラしてかつ、マサムネが追い込む様に回避行動を取らせたその位置を予測したかの様にそこに飛び込んで来ていたコテツの刺突に胸を貫かれたのだ。
 ゴプリと血反吐を吐き出し、ゆっくりと前方に倒れて来るゴブリンを受け止めはせず、コテツもそさてマサムネも一旦後ろに飛び退き、隊列を整えた。

 十二層で俺達は暫く、パーティとしての鍛錬を兼ねて戦闘を繰り返している。
 当初、スケルトンの強さに舌を巻きつつ戦っていたが、慣れてくれば特に問題は無くなった。
 その後の戦闘も危なげなくこなしていたのだが、この層になってから魔物の個体の強さが上がったのは勿論だが、種族を超えての共闘が見られる様になり、更にはその混成部隊を指揮するユニークな個体まで出現して来た。
 種族や種別により魔物は攻撃パターンが似通る。
 全て同じと言う訳では無いが、ライカンスロープなら、武器を携帯していなければ爪での切り裂きや、その強靭な牙で身体を噛み千切ろうとしてきたりと、その行動パターンは似て来たりするのだ。
 なので相手取っていてもそのパターンを頭に入れて戦えると言うメリットはあったが、混成部隊となると、別の種族でそれぞれ攻撃パターンなどが変わって来るし、対象方法も変わって来る。
 目まぐるしく相手取る魔物が変わる状況で最初からパターンを固定していると、急に相手が変わった時に動き辛くなる時もあったりするのだ。
 そう言った意味で、混成部隊は中々にやり辛いのだが、更には統率者が居て戦術的な動きも見せてくる部隊を相手取るには、仲間達との連携が必須だ。
 俺達は長年連れ添った間柄でも無い。連携に関してはそこそこと言った所なので、誰が言うでも無く俺達はこの十二層に留まり、戦闘を繰り返した。

「――ッ、―――――ッ!!」

 魔物の混成部隊一番奥で慌てる様に何語か分からないが指示を出す一匹のオークが居る。
 敵は前線のアタッカーが倒されて中衛と後衛それぞれ二匹ずつしか残っていない為、層は薄くなっている。
 それに合わせてダグラスを先頭に距離を詰めて行くのだが、指示を出すオークをよく見ると、明らかに個体として上位の様な雰囲気を醸し出しているのが分かる。
 身体も大きく、上位種である事は間違いないのだが、そんな上位種のオークは残った仲間達の指示出しの最中に突然、言葉を詰まらせた。

「――ッ、ガッ、――グプッ」

 突然、訳の分からない言葉に変わったのだろうか、残っていた魔物が後ろに控えるオークを見る様に振り返る。
 と同時にそれまで指示を出していたオークが突然前のめりに倒れ、地響きを伴った大きな音を立てながら地面に突っ伏した。

「――ッ!?」

 その予想だにしない突然の出来事に、残りの魔物は混乱する。
 倒れたオークは身体をピクつかせて暫くすると動かなくなった。
 辺りに静寂が訪れるが、よく目を懲らすと倒れたオークが立っていた場所に一つの人影が確認出来る。

「ふふッ、豚さんの喉って案外柔いのね」

 クスクスと笑い、両手には護身用では無く、明らかに戦闘用に作られたであろう短剣を握り妖艶に立つサリーはそんな事を言うとその場からユラりと消えた。
 何が起こったのか魔物は理解出来なかったが、サリーを見て、此奴がやったんだとは理解しただろう。
 残り全員がハッとするが時既に遅しである。
 気を持ち直した時には既に詰めていたダグラス達は一斉に残りの魔物へと襲いかかっていた。


「お前、どうやって移動してんだよ・・・」

 戦闘終了後、事後処理をしている仲間達を尻目にサリーに近付き聞いてみる。

「どうやってって、ただ気付かれない様にゆっくり忍び寄っただけよ?」

「俺でも気付け無かったぞ・・・」

 そう、サリーの事をあまり意識していなかったと言うのもあるが、オークが倒れるまでサリーが何していたのか、どうやってあそこまで移動したのか全く分からなかった。

「あら、じゃあ次の夜這いは成功しそうね」

 語尾にハートマークが付きそうな勢いで誤魔化すサリーをジト目で見るが、当然自分の手の内を明かす様な真似はしないだろう。
 恐らくだが、俺がサリーを意識していなかったと言うこの部分から、サリーの術中の様な気がする。
 つまりは、認識阻害の魔法か、それと同等の効果のあるアイテムか何かを使用、または応用して行動をしているのでは無いかと推測したが、俺の能力で考えを読む事の出来ないサリーからは直接聞くしか無い為、真実は分からない。

「お前と添い寝しようが俺の心は全く動かないが、そんなの目の当たりにしたらイリアやアリシエーゼが黙ってないぞ・・・」

「何?あの二人が貴方に好意を寄せているって自覚してる様な言い方ね」

「んな訳あるかッ、からかうな!」

 俺が失言してしまったかと焦りながら否定する様を面白そうに笑うサリーとの会話を横からドエインが入り遮る。

「旦那、この先は行き止まりだから引き返して別の道を行くか、そろそろ―――」

「あぁ、そろそろ下に行ってもいい頃合かね」

 大分、このパーティでの戦闘もこなし連携も見れるものになって来たので、ドエインの言う様に先に進んでも良いと判断した。

「待て、何か此方にやって来るぞ」

 そんな会話を更にアリシエーゼが俺達の背後を見ながら遮る。
 アリシエーゼの言葉に俺も鼻を鳴らすが、どうやら人間の様だった。

「帝国兵か傭兵だな」

 この先は行き止まりの為、結局かち合う事になるので俺は仕方無く余所行きの表情を作った。

「まぁ、人間だからって気を抜かない様にしよう」

 自分自身に言ったつもりだったが、いつの間にか準備を終えていつでも出発出来る状態となって俺の後ろに控えていた面々が黙って頷いた。

 結局、一番怖いのは人間なんてオチで無ければ良いけどな
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