異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第238話:十二層

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「結局、彼奴ら何しに来たのよ?」

「いや、俺がそんな事分かる訳ねぇだろ・・・」

 イリアの言葉に俺は心底ウンザリしながら、温め直したスープに口を付ける。
 勇者くん一行が見えなくなり、漸く食事を再開したのだが、その頃には俺以外の食事は全員終わっていた為、仕方無く今は一人寂しく焚き火前で夕食だ。
 そんな寂しげ俺を気遣ってかどうかは知らないがイリアがやって来て俺の隣に座り話し掛けて来る。

「でもアンタ、次に会ったら彼奴らと積極的に接するとか何とか言ってたじゃない?」

 それが何であんな幕引きになった?とイリアは眉間に皺を寄せながら聞いてくるが、俺だって最初はそのつもりだった。
 ただ、何がキッカケだったかは分からない―――いや、何となくアリシエーゼがそれはそれは楽しみにしていた食事を邪魔されていると思ったら腹が立って来たんだったか・・・
 そんな事を思うが、勿論それは恥ずかしいので口にしない。

「まぁ、どっちかって言うと勇者くんの持つ武器の事を知りたいってのが大きかっただけだしな。後は、俺があのラルファって奴の事勇者って呼ぶと、連れの女二人がめちゃくちゃ反応してたんだよ。それが何でなのか気になったってだけだし、別にいいだろ」

 そう言って、これまた焼き直して貰ったステーキにかぶり付き一口噛み千切るとそれを口の中で咀嚼する。

 うん、焼き直しでもソースの味は凄いする

 ソースを毎回壺で持ち歩くのは面倒臭いので、肉をソース等に漬け込んだ物だけ持ち歩けばいいのでは無いかと思い、それをあとでドエインに提案しようと思っていると、アリシエーゼも此方にやって来てイリアとは反対側の俺の隣に座り此方を見上げる。

「のう、一ついいかの」

「何だ、お前もあの勇者くん達が気になるのか?」

「勇者くん?あぁ、あんな塵どもどうでもええわ。それよりもじゃな、そのステーキ一口くれんか?」

「はぁ?」

 全然予想外のアリシエーゼの言葉に俺は面食らい、食事の手が止まる。

「いや、何かやはりアレだけではちと足りなくての・・・」

 何故だかアリシエーゼはそう言って照れているのだが、全く可愛くない。

「やる訳ねぇだろ・・・」

「そこを何とかお願いじゃ!魔界で食う、あのタレを使ったソースがあれ程美味じゃとはッ」

 そう言って涎を口から垂らすアリシエーゼに俺は心底呆れるが、でも確かにあのタレは本当に美味しい。
 串焼きは勿論だが、ステーキソースとしても使えるし何にでも合うのじゃなかろうかと思案する。
 だからと言ってアリシエーゼに俺の分のステーキを分けてやる理由にはならないが。

「嫌だねッ」

 俺はそう言って、残りのステーキを無理矢理口に放り込んで、これ見よがしにアリシエーゼ に咀嚼している姿を見せた。

「あぁッ!?妾のステーキがッ」

 いや、お前のステーキでは無い

 残ったスープも一気に飲み干し俺は「ご馳走様」と言って使った食器を片付け様とその場を立つ。
 アリシエーゼをチラリと見ると俯いて小刻みに身体が震えていたが俺は無視した。
 結局その夜はその後は特に何か起きる訳でも無く至って平和な野営となった。
 勇者くん達について色々と情報収集でもしようと思ったのだが、何だか異様に面倒臭くなってしまった為、どうとでもなるだろうと諦めた。

 翌日、俺達は早くから十一層のボス部屋に出来た、帝国兵と傭兵の大規模キャンプを後にする。
 一応、勇者くんを気にして十二層へと階段を降るまでの間周囲に目を向けてみたが何処にも居なかった。
 テントの様な物も張ってあるので、その中にいるかも知れないので分からないが、少なくとも再び出会う事は無かった。

 階段に一歩足を付けると、そんな事は頭の中から吹き飛んで、良い意味で緊張感等が戻って来た為そちらに集中する。
 これまでの階層と同じ様な物階段が下に続き、十二層に入る扉の前まで進む。

「それじゃダグラス、先頭を頼む」

「あぁ、分かった」

 本来なら俺とアリシエーゼが様子見で初見の階層は進む所だが、他の者達はかなりやる気の為任せる事にした。
 背中に背負っていた大きなラウンドシールドを左腕に装備し、右手にロングソードを引き抜き持つダグラスは一度後ろを振り返り皆の表情を確認する。
 状態も準備も良さそうだと無言で頷いたダグラスはゆっくりと十二層への入口の扉を付ける開けた。
 ギギギッと金属と石材か擦れる様な音が微かに響いて開け放たれる扉だが、そこから見える景色は何の事は無い、上の階層と変わる事は無い石材で出来た通路で出来た迷宮だった。
 因みに買った地図は十二層までで、十三層は現在攻略中の為完全な物は出回っていない。
 それでも途中までの物は売っていたが、俺達はそれを購入しなかった。
 十三層からは自分達でマッピングをしながら進むつもりだったからだ。
 なので、十二層の地図はダグラスの後ろに着くドエインが持っている。
 ダグラスに随時進むべき方向や、罠の有無を指示しながら進んで行くが、今日の十二層攻略は特段何処に向かうだとかは決めていなかった。
 一応の全員の認識は、先ずは軽い慣らしを兼ねた探索を行う予定だが、その後は敵の強さやパーティの状態、難易度等を考慮して皆で相談して進むか戻るか、進路も踏まえて決めると言う事になっている。

 暫く進むが特に魔物との遭遇は無かった。
 魔物との戦闘はしておきたいので、直接十三層までは向かわずに広大なフロアを十二層のボス部屋と十一層への階段の位置から大きく離れる事なく探索しているのだが、単純に魔物と遭遇しないだけなのか、それとも他の傭兵や帝国兵達が排除きた後なのかは判断が付かない。
 この魔界、ご都合主義極まっているとは思うのだが、魔物の死体はどうやら魔界が処理してくれる様なのだ。
 死体を放置しておくと行くの間にか消えているらしい。
 らしいと言うのは、その消える瞬間を誰も確認はしていないので断言は出来ないのだが、人間の死体は消えないが、魔物の死体は見ていないところでいつの間にか消えると言うのが、ここでの常識だと情報収集でも入手していた。

 でも、誰も確認出来てないのがなぁ・・・

 態々、人間が見ている時はその死体処理のシステムが動作しない様になっているんじゃないかと勘ぐりたくなる。
 一度、何処かの暇人達のパーティが、殺した魔物の死体の傍で、その死体がどうやって消えるのかを観察した事があるらしい。
 結果は、二日間程観察している時は消えなかったと言う物だった。
 更にそこから離れて時間経過でどうなるのかと言うのも実験したらしいのだが、その結果は一時間離れていて、戻って来たら死体は綺麗サッパリ無くなっていたと言うものだった。
 そこから導き出される答えが、人間が見ている時は魔界は動かないが、見ていないと魔界が死体を処理するであるのは、まぁ導き出される答えとしては妥当な所にだとは思う。

 死体で溢れかえらないからいいっちゃいいんだけどさ・・・
 なんか、その・・・

「とりあえず、このまま十二層探索続けるでいいよな、旦那?」

「うん?あぁ、それでいいと思う。因みに周囲に他のパーティは居ない」

「了解、じゃあ進もうか」

 ドエインの言葉を受けてダグラスは無言で頷き探索を再開した。
 そこから三十分程進んだ時だろうか。先頭のダグラスが左手を上げて動きを止める。
 ダグラスのハンドサインを見て全員が押し黙り、通路の先を注視する。

「何か音が近付いてくる・・・」

 ダグラスの呟きに耳を澄ませてみると、通路の先、右側に折れているがその折れた先の方から何やら金属音と後は何かは分からないが、金属と何かが擦れたりぶつかったりする音が聞こえてくる。

「何か数が多い気がするが・・・」

 ドエインの言葉に確かにと思う。魔物単独が出す音では無い気がする程それはガシャガシャ、ガラガラと聞こえて来て段々とその音が大きくなっていく。

「見えるぞッ」

 ダグラスのその言葉の直後に右に折れた通路から音の正体が姿を表す。
 それは、赤い光であった。そうとしか表現出来ない程、その光は力強かったが、何よりもそのカズだった。

「――ッ!!」

 その赤い光が視認出来ると同時にモニカの手元から超速の矢が放たれる。
 直線の通路だった為、射線が開けていたのでモニカは先制攻撃の判断を下したのだ。
 超速で通路の先へと飛んでいった奴だが、その現れた赤い光に当ると、バキリッと鈍い音を立てて、矢自体が砕け散った。

「チッ、スケルトンです!!」

 元々目の良いエルフであるモニカが舌打ち混じりに叫ぶ。
 赤い光はスケルトンの目から放たれる、鋭い眼光の光だったのだ。
 見えた光は大量だった。つまりは大量のスケルトンが出現したと言う事であるが、ダグラスは落ち着いた声で言う。

「やる事は変わらないぞッ、私が出来る限り抑えるから各個撃破だ!!」

 ジャキッと左手に装備するラウンドシールドを持ち直して前に掲げ走り出す。
 それを受けて俺たちは表情を引き締めた。

「「「「「「「「「おうッ!!!」」」」」」」」」

 そして十二層での初戦闘が始まった。
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