異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第232話:決断

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 攻略開始十一日目―――

 俺達は現在、十層で慣らしを行っている。
 この魔界は一層毎の面積がもう有り得ないくらい広い。
 一つの層を隅から隅まで回ろうと思ったら、一日では到底足りないくらいの広さがあるのだが、それはあくまで隈無く探索する事を前提に置いた時の話だ。
 その層にも寄るのだが、階段を降りて辿り着く層の開始位置から、次の層へと繋がる階段への移動だけならば、比較的容易なのだ。
 なので俺達が今居る十層も移動に専念すれば一日有れば辿り着く。

「弓持ちがいるぞッ、気を付けろ!」

 ダグラスが先頭の二匹の戦士タイプである、通常種の上位に位置するハイ・ゴブリンを相手取り自身の持つ大きなラウンドシールドを叩き付けながら叫ぶ。

「モニカッ」

 ダグラスにシールドバッシュを当てられて多々良を踏んだハイ・ゴブリンの移動位置を予測して瞬時にその側面に移動をしていたドエインが、そのハイ・ゴブリンの喉元にロングソードを這わせる形で横一閃して切裂く。
 断末魔の叫びと鮮血を吹き出しながら倒れるゴブリンを一瞥もせずにドエインは魔物の群れの後方から飛んで来る矢を剣で直ぐに叩き落とす。

「――ッ!」

 ドエインが矢を叩き落とした動作の終わり、一瞬動作硬直をするその隙間を縫って、モニカの持つコンポジットボウから凄まじい勢いで矢が放たれ、それは放物線を描く事無く一直線にダグラス、ドエインの間から飛び出し、更には中衛に護られた弓兵のハイ・ゴブリンの一匹の脳天へと突き刺さった。
 確りと護っていた筈の弓兵に矢が突き刺さった事でハイ・ゴブリンの群れの中と後衛に一瞬動揺が走る。
 その隙を逃さずに、マサムネとコテツが疾走し群れの中へと斬り込んだ。

 通路自体は迷路の様になっている事もありそれ程広くは無いので、マサムネとコテツは壁も駆使して立体的な動きを見せる。
 つまり、壁走り等を行っているのだがハイ・ゴブリンもまだ前衛は残っている。
 が、その前衛をドエインとムネチカが斬り込む事によって抑えていたので、マサムネとコテツは難無く相手の懐に入り込む事が出来、そこからは一切の躊躇無く接近戦が近接戦闘職の者と比べると不得手で有りそうな事が動きを見ていても読み取れるハイ・ゴブリンの中衛と後衛を蹂躙して行った。
 その暴力から抜け出したハイ・ゴブリンを更に後ろから詰めていた、既に前衛を倒しきったダグラス、ドエイン、ムネチカが逃さずに仕留めて行く。

 一度切り崩すと後は直ぐに組織立った動きは形骸して、そこからはものの一分も掛からずに群れを全滅させた。

「お疲れ、皆いい動きじゃないか」

 戦闘が終了したのを見計らい、それまでバックアタックを警戒しつつ様子を見ていた俺はパチパチと拍手をしながら戦闘を行っていた仲間達に近付いた。

「ハル様ッ、私の動き見てくれましたか!?」

「ムネチカ、あそこでちゃんと残りの前衛を抑えてマサムネとコテツをサポートしてたのはいい判断だったよ」

 俺の言葉にムネチカは目を輝かせる。

「このカタナにも大分慣れましたね」

「あぁ、力だけで無く技術で上手く斬らないとならないが、そこがまた良い」

 マサムネとコテツは持っていた片刃の少し反りのあるロングソード―――と言うかまんま日本刀の様な形の剣を腰に差す鞘に収めながらそんな事を言っていたが、この日本刀擬きの様なのを装備するに至った経緯と言うか元凶はアリシエーゼだ。
 俺の影として、暗部的な立ち回りをさせていたデス隊を傭兵として今回は同行させている。
 その話をした後にアリシエーゼはデス隊達に「忍者から侍へクラスチェンジしたか!」とか言い出したのが始まりなのだが、忍者や侍と言う言葉の意味を知らないデス隊達は食い付いてアリシエーゼに色々聞いていた。
 最終的に「ハル様の国では戦士の事をサムライと言うのですね!」とか「そのカタナと言う武器を見付けなくては!」などと言っていたので、まぁこうなる事は想像していた。
 オルフェの街の武具屋に様々な国の武具を取り扱う店が数軒あり、そこから今使っている日本刀擬きの剣を入手した様だったが、まぁ此奴らが気に入っているならいいかと俺は何も言わないでおいた。

「この層も前の層とそこまで変わらんな」

「そうだな、七層くらいか、魔物がパーティみたいの組み出したのは?」

「そうね、四層くらいから単体の魔物も武具を装備し出す奴が現れたわ」

 ダグラスとイリアが言う様に四層辺りから出現する魔物が何か武器を携帯し出したし、七層からは傭兵達と同じ様にパーティを組んで組織的な動きをする様になった。
 この十層迄にそこから大きく何かが変わった訳では無いが、層が下に行く毎に魔物の単体の強さも増して来てはいるが、七層からはそこまで変化が無い様に思われた。

「まぁこの層は全然余裕だな。まだモニカの弓もイリアやユーリーの魔法も殆ど温存している様な状態だし」

「じゃが、それは魔物も同じじゃろうよ。もっと下に行けば雑魚でも魔法を使ってくるのが居るかも知れんしの」

「確かに・・・」

 アリシエーゼの言う様に魔物が魔法を使い出した場合、難易度も跳ね上がる気がするし、この十層でそれらが出現しないとも限らない。

「でも今の所この層もゴブリンとかコボルト、オークくらいしか出ねぇよな」

 ドエインはそう言って、ハイ・ゴブリンが装備していた武具漁りを止めてこちらに歩いて来てそう言った。

「七層くらいからそれは変わらないんだよなぁ。まぁ、ここまで下層への階段に向かって寄り道していなかったから出会って無いだけかも知れないけどな」

 まぁ、それでも通常種では無くその種族の上位種なんだけどなと言いながら考える。

 ここまで下の層を目指して寄り道せずに突き進んで行き、途中で出会う魔物達とは立ち回りを確認しつつ戦闘を行っているに過ぎない。
 なので、各層にももしかしたら宝を護っているレアものが居たり、層毎に種族の縄張りみたいなものがあって俺達はそこに足を踏み入れていないか等が考えられる。

 因みにこの魔界、今の所ゲームの様に宝箱が何故か置いてありその中に宝物が入っている、それを取っても一定時間が空くとまたその宝物が復活しているなんて事象に今の所出くわしてはいない。
 ホルスの魔界と同じ様に、この魔界でのリターンは魔物から取れる純粋な革だとか角だとかの素材か、その魔物が装備している武具を持ち帰り売却する事による利益がそれとなる。
 そう言った意味でほ俺達は一切のリターンは今の所無い。
 素材を剥ぎ取ったりもした事は無いし、装備していた武具は一応確認はしているが、今の所それ程良い品と言う訳では無いので持ち帰る事もしていない。
 唯一、弓持ちの場合ほ矢もそれなりにあるのでそう言った場合ほモニカがこの魔界のみで使う予備の矢として状態が良さそうなのを見繕って奪っているが、それもこの魔界を離れる際には全て捨てて行くのでリターンと言う意味ではゼロと言う事になる。

「どうしますか?」

 マサムネが俺にそう聞いて来たが、他の者達も俺を見詰め答えを待っていた。

「・・・よし、とりあえず今日はこのまま十層で続けよう。明日は休みと準備、明後日から本格的に攻略を開始って事で」

 俺の言葉に皆「おぉッ」と言って小さなかんせいかの様なものを上げて喜んでいる。
 俺自身は「これで良かったのだろうか」と答えた後も自問自答している。

「・・・良いのか?」

 そんな俺の思いを知ってか知らずか、アリシエーゼが俺に近付いて来てそう言った。

「・・・まぁ、何時までもこんな言葉やってる訳にはいかないだろ。それに攻略と言ってもいきなりボスを倒そうって訳じゃない、先ずはこの魔界が何層まであるのかとかそう言うのを把握しなきゃいけないし、それには俺達がこの魔界の攻略の最前線に立たないとならない訳だしな」

 そう、結局は魔界攻略にはホルス同様に最下層に居るであろう、この魔界の主である悪魔を倒さないとならないだろう。
 だったらその為には最下層に先ずは到達しなければならない。
 今の到達階層の最高記録である十三層から先に進まないとならないし、その先がどれくらい続くのかも分からない以上、先ずは様々な調査を行いわなくては成らないので、いきなり明日攻略しますと言ってボスと戦うと言う事では無いと言う事だ。

 今日は十層まで来るのに何だかんだ時間が掛かってしまった為、あと少しこの層を探索したら地上に戻らないと深夜になってしまうのと言う事で、俺達は会話を早々に切り上げて探索を続けた。
 そして無事に地上に帰還した頃には大分夜も深けていたので俺達は屋敷に戻ると、今日の成果の話し合いもせずに各自部屋へと戻り明日の休暇を満喫する為に眠りにつく。
 俺も風呂は明日で良いと、自分の部屋に戻ると装備を投げ捨ててそのままベッドへとダイブした。
 明後日からの本格的な攻略について考えを纏めたり、明日の休暇に何しようかと考えたりしなければと思いつつも何だか異様に疲れてしまった為、ベッドに飛び込んで直ぐに抗う事の難しい睡魔に襲われそれに俺は身を委ねた。

 でも明日は甘いスイーツを探したいな・・・・・・ぐぅ
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