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第5章:帝国と教会使者編
第225話:予言
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準備期間十二日目―――
「まぁ、これで大丈夫かな」
俺は自身のバックパックの中身を確認して一度背負い、重量や重心を確認していく。
魔界攻略の準備は準備に準備を重ねて困る事など何一つ無く、寧ろ幾らその期間を取ろうが足りない可能性の方が高い。
「暫くは既存攻略階層で様子見と慣らしだし大丈夫だろ」
決して魔界を舐めている訳では無い。だが、いきなり最下層を目指す訳でもないのにそこまでガッチリと準備するのもどうかと思うのでこれでいいと言い聞かせた。
自身の荷物の確認を行うと特にやる事も無いので、ゆっくりとオルフェの街を見て回ろうと考え、俺は屋敷を出て街へと繰り出した。
因みにアリシエーゼ他のメンバーにも最終チェックは各自で行わせている。
篤は相変わらず工房に篭っているので当初の予定通り、アタックからは外してある。
屋敷を出る際に確認してみたが、もう既に部屋に居ない者とまだチェックを行っている者もいたのだが、アリシエーゼは後者だ。
バックパックを摘んで「こんなもん要らんじゃろ」とか言っていたので、まだ時間は掛かると思われる。
俺を見付けたら、着いて来そうだったのでそっと屋敷を出た俺は、それからは街ブラをして過ごした。
屋敷周辺の西門の辺りから回り始めたのだが、ホルスと遜色ない程の大きさのこの街を一日で回るのはなかなかに難しいので、俺は今日は西門周辺のみにターゲットを絞る事にした。
「でも正直、武器も備品も必要な物は無いんだよなぁ・・・」
オルフェは東西南北にそれぞれ出入りする門があり、十字に目抜き通りとなる大きな通りがあり、そこを通ればそれぞれの門へ行き着く。
と言っても街自体はかなり広いのでその他にも目抜き通りから派生して何本もの大小様々な通りがある。
東西南北で明確にここは何々区画と分けられている訳では無く、西門だろうが北門だろうがその周辺で大体の物は揃う。
つまりはどこに居ても食材を扱っている商店も生活雑貨を扱っている商店も、武具を取り扱う鍛治職人も居るしそれを扱う店も存在する。
ただ、エリアによって値段も取り扱っている物の種類や品質と言ったものが違ってくるし特色があったりする。
因みに西門は魔界がすぐ近くにある事から、傭兵達をターゲットとした店が数多く有りかなり大衆的だ。
その変わり武具関連は結構品質が良い物が売られていたりするし、露店も多め。
傭兵が借りやすいアパートや宿屋も多く、そこを狙った商店もあるが、西門と同様に魔界に近い北門は軍関連の施設が多い事から、自ずと棲み分けがされていて、個人向け商店と言うよりかは軍に物品を卸す業者や、商店や商社の本店、本部等が多かったりする。
南と西もそれぞれ特色はあるのだが、それは追々街の探索を行って見て行けば良いかと思いながら俺は露店を冷やかしつつ、店の位置と取り扱う物を把握していった。
「思ったよりも人が多いな・・・」
西門付近は傭兵がかなり多い地域だと思ったが、時間は昼過ぎでまだ太陽は高い位置に鎮座しているのだが、人通りほかなり多い。
一目で傭兵と分かる様な格好の者もかなり居るが、普通の町人服の様な物を来た人達も多く賑わっている。
傭兵はこの時間、魔界に潜ったりはしないのか・・・
なんと言うか、地球での休日の繁華街を歩いている感覚がしてくるのだ。
実際問題、年がら年中魔界に潜っている傭兵なんて居ないと思うし、当然ながら休日等はあるとは思うので、そこまで気にする事は無いかとそこから意識を離した。
何か食べるか?
特に欲しい物も無くブラついているだけなので直ぐに飽きが来て、時間も昼過ぎと言う事もあり腹も幾分減ってはいる為、食い物を販売している露店見物に切り替える。
西門の目抜き通りには店舗型の食事処も多数存在する。
カフェの様なバーの様な店はオープンテラスの席も用意されており、昼間っから酒なのか何なのかは分からないが飲んで騒ぐ傭兵連中や、他の店も店内で食事を楽しむ一般人が多く見受けられる。
そんな賑やかな様子を横目で流しつつ、一つ鼻を鳴らす。
ふんッ、みんな幸せそうな顔しやがって
別に羨ましい訳では無いと自分に言い訳の様な事を心の中で呟きつつ、目抜き通りから一本別の道へと入る。
そこは目抜き通り程では無いがそれでも馬車がすれ違える程の道幅があり、ここにも様々な店が軒を連ねていた。
更に別の道へ入ればもっとディープな店などがありそうだが、そちらには向かわずに目抜き通り同様に賑わっている通りを少し探索する。
さて、そろそろいいかな
俺は心の中でそう独りごちて通りにある雑貨店の様な店に入った。
雑貨店は二階建てで、一階には一般家庭向けの食材から傭兵向けのポーションやらが売られており、二階には専門店程では無いが初心者向けの武具等の装備品の売り場がある様だった。
そんな雑貨店に入り、先ずは一階に売られている売り物を見て回る。
そしてそのまま二階に移動し、欲しくもない武具を見て回る。
一階もそうだが、二階もかなり混雑しており店内の移動も気を付けないと他人と肩がぶつかりそうになる。
そんな所に態々、買う気が無い物を見に来た理由は他でも無い。
絶対逃がさねぇからな
俺はそう心に決めて、ナイフや短剣が陳列されている机の端でそれらを眺めている客の後ろを通る様にスッと迂回する。
緩急を付けて一瞬速度を早めて移動をしたのだが、つまりは、ある方向から見ると他の客を壁にして俺の姿が一瞬にして消えた様に見えなくもない。
何故こんな事をしているかと言うと、俺が尾行されているからだ。
西門付近をブラ付いている最中にそれに気付いたが、気付いていないフリをしつつ、そいつに絶対逃げられない様な状況で逆に追い詰めてやろうと考えた訳である。
等と、心の中で誰に説明しているのか分からない事を考えながら姿を隠した瞬間に影移動を発動する。
「動くな、喋るな、変な真似はするな」
影移動で目標のすぐ後ろに移動して陳列されている短剣の一つを手に取り、それを相手の背中に押し付け、俺も身体を極端に寄せる。
店内で影移動を発動したので、客の中には俺が一瞬で消えたのを目撃している者もいるのだが、そんな事はどうでも良かった。
目の前の目標は外套のフードを被っていて全体的なシルエットくらいしか確認出来ないが、俺は確信していた。
「この外套は特別性なんだよ。そんな短剣じゃ突き破れないよ」
「黙れ。喋るなと言っただろ」
俺の指示を無視して口を開いた目の前の目標に短剣を更に突き出し身体を軽く突く。
「ボクはキミと話に来ただけだよ。こんな事しなくても逃げたりしないよ」
チッ、なんだこいつ
俺は心の中で舌打ちする。背後を取り脅しているのは俺で優位性は火を見るより明らかなのに、何故か主導権を握られている感覚に陥る。
「・・・ゆっくりこちらを向け」
「分かったよ」
俺の指示を受けゆっくりと振り返る目の前の目標を注意を払いながら顔を確認する。
やっぱり此奴か
目の前の男は東洋人の様な顔付きで、背丈は俺と同じくらい。身体付きは少し華奢かと思うが、見覚えのある顔に俺は鼻を鳴らす。
「この間ぶりだね、暖くん」
「馴れ馴れしい奴だな。誰が喋っていいって言ったよ」
「おっと、忘れてたよ。でもこの間は困ってたから手伝ってあげただろ?少しは警戒を解いてくれてもいいんじゃ無いかな?」
「アレは感謝しているが、コレとソレは別の話だ。黙って尾行してくる奴を警戒しない理由にはならねーよ」
そう、目の前の男はホルスでガバリス大司教と会談する前の空き時間に、アリシエーゼの串焼き代金取り出せない事件があった際、俺を助けてくれたあの男だった。
あの時、匂いは覚えていたが、先程その匂いを感知して直ぐに俺は行動に移した。
ホルスで出会った男が偶々、偶然にも俺達と時を同じくしてオルフェに居る。
しかも俺達はゴリアテを使い結構な強行軍だったのだが、それに間に合わせるとなると、あの時出会ってから直ぐにホルスを立ち、しかも同じ様に強行軍でオルフェに向かわなければならないだろうが、この男はここに居る。
匂いを感知してからそんな事を考えると、何故だか俺は一つの予想が頭を駆け巡った。
それを確かめる為、こうして自ら接触する事にしたのだが、俺の感は予想は正解だと告げていた。
「でもキミはボクから話を聞きたいと思っているだろ?だったらボクを殺したりはしないよ。つまりこうしているより、普通に話が出来る環境に移動した方がいいと思うんだよね」
「話なんて聞かなくても―――」
「無理だよ」
俺の能力でどうにでもなると言おうとしたが、目の前の男にその言葉を遮られる。
「・・・そうだったな。お前がガバリス大司教に対策を教えたんだったな」
俺の予想では、この男がガバリス大司教の情報提供者なのだが、その予想は俺の言葉に無言で微笑んでいるのを見れば当たりだと確信出来た。
「何でも識ってるっての本当みたいだなッ」
「ボクが識ろうと思った事だけだよ、識っているのは。それにキミが思っている程万能じゃないんだよね。だから、このまま此処で伝えられる事を言うよ」
「はぁ!?お前が移動した方がって言ってたんだろうがッ」
先程と言っている事がまるで違う目の前の男を俺は若干苛立ちながら睨む。
「ごめんごめん。でも、これだけ密集して人が集まっている所の方が色々と都合が良いんだよね。特定は困難だろうしね」
特定?
誰から特定されると言うのだろうか
「お前、もうちょっと順序建てて―――」
「そうは言っても余り悠長にはしてられないから、今から言う事を覚えておいて欲しいんだ」
「だから何で勝手にッ―――」
俺はこの人の話を全然聞かない目の前の男に本気でキレそうになるが、男は突然真顔になり右手の人差し指を立ててそれを口元まで持ってくる素振りをする。
その雰囲気が俺に何かを感じさせるが、それが何かは分からなかったが黙って聞いた方が良い気がして一旦話をこのまま聞く事にした。
「ありがとう。先ず、サリーは信じて大丈夫だよ。後、この魔界は中々に厄介だと思う。もしキミ達がこの魔界を無事に攻略出来たのなら、もう一度話そう」
何言ってんだ此奴は・・・
今言われたのはサリーは信じて良い。この一点だけだ。
後は魔界攻略後と言われて、はいそうですかとなる訳無いだろうと俺は眉間に皺を寄せる。
「ちょっと特定のワードを出すと気付かれてしまうかも知れないから詳しくは言えない。でも、気を付けた方が良いよ。教会も帝国も一筋縄では行かないと思った方が良いし、そう言った意味だと、悪魔もそして―――神に対しても気を抜かないで」
「・・・・・・マジでお前が何を伝えたいのか本筋が見えねぇぞ。そんな事言われなくても分かってるわッ」
「兎に角、この魔界を攻略してくれ。そしてその時に辿り着く真実にキミはどう向き合うのかを見せて欲しい」
「そもそもお前は教会側なんだろ、何でそんな事を言うんだよ」
ガバリス大司教に情報を提供していたのだから当然、この男も教会側―――完全にでは無いにしろ、教会寄りなのは間違い無いだろう。
「ボクは何処かに属していたりはしないよ。ただ、ガバリス大司教を使ってキミ達とコンタクトを取ると言うか、キッカケを作ったに過ぎない。今回は教会側の使者はガバリス大司教と思って貰っていいと思うけど、帝国もかなりこの件にはくい込んでいるよ」
クソって、マジで何が何だか分からなくなってくる!
言ってる事は理解出来るが、此奴自身が何も分からねぇ!
実際、この男が言っている言葉は大体が俺も予想したりはしているし、それを態々直接言われても、正体不明の為人が全く分からない奴に言われた所でそんなものは鵜呑みには出来ない。
結局何も分からない状態だったので、俺は納得出来ずにいた。
「分かってる、納得出来ないよね。でも信じて欲しい。ボクはキミ達に敵対するつもりは無いよ。だから先ずはこの魔界を攻略してくれ」
話はそれからだとでも言うかの様に語る目の前の男が何だか異様な物体に思えてくる。
俺の能力が使えないから何も分からず、言われた事のみで判断するしか無く、それを伝えられて無意識に頷いてしまいそうになる感覚が何だか無性に腹立たしく、そして違和感を感じてしまう。
そもそも実際問題、本当に此奴に俺の能力は使えないのだろうか・・・
俺がそんな事をふと思うと同時に目の前の男が動く。
「そろそろ行くよ。魔界攻略を成し遂げた暁にまた話そう」
そう言って俺の横へ移動した男はそのまま立ち去る様な動作に入る。
「え、おいッ、ちょっと待て―――」
「あ、そうだ。たぶんまだ先の事なんだけど伝えておくよ、もしかしたら早まる可能性も無きにしも非ずだからね。この先、人の形をすれど人で無いその者は、旧世界とキミ達と、そして神を繋ぐ鍵になる―――だから、必ずその縁は繋ぎ止めておいた方がいいよ」
「――ッ」
そう捲し立てて俺を横切ろうとする男に俺は我慢の限界を迎えた。
ふざけんなッ
何だかその謎かけみたいなのはッ
これだけで帰すと思ってるのかと俺は瞬時に男へと繋がる―――
「ッグァ!?」
その瞬間、またしてもガバリス大司教の時と同じ様に、バチンッと極大の静電気が発生した様な、極太のゴムが千切れる様な音と共に凄まじい衝撃が俺を襲い、同時に身体が男とは反対方向に吹き飛ばされる。
ガシャンッと近くにあった短剣等を陳列していた机を壊して倒れる俺に、男は申し訳無さそうにしながら言った。
「こうなると思ったよ」
そう言いながら人混みに消えていく男を見て、衝撃から立ち直るまでの数秒、腸が煮えくり返る想いに駆られた。
マジで舐めやがってッ
次は絶対に全部吐かせるからなッ
「まぁ、これで大丈夫かな」
俺は自身のバックパックの中身を確認して一度背負い、重量や重心を確認していく。
魔界攻略の準備は準備に準備を重ねて困る事など何一つ無く、寧ろ幾らその期間を取ろうが足りない可能性の方が高い。
「暫くは既存攻略階層で様子見と慣らしだし大丈夫だろ」
決して魔界を舐めている訳では無い。だが、いきなり最下層を目指す訳でもないのにそこまでガッチリと準備するのもどうかと思うのでこれでいいと言い聞かせた。
自身の荷物の確認を行うと特にやる事も無いので、ゆっくりとオルフェの街を見て回ろうと考え、俺は屋敷を出て街へと繰り出した。
因みにアリシエーゼ他のメンバーにも最終チェックは各自で行わせている。
篤は相変わらず工房に篭っているので当初の予定通り、アタックからは外してある。
屋敷を出る際に確認してみたが、もう既に部屋に居ない者とまだチェックを行っている者もいたのだが、アリシエーゼは後者だ。
バックパックを摘んで「こんなもん要らんじゃろ」とか言っていたので、まだ時間は掛かると思われる。
俺を見付けたら、着いて来そうだったのでそっと屋敷を出た俺は、それからは街ブラをして過ごした。
屋敷周辺の西門の辺りから回り始めたのだが、ホルスと遜色ない程の大きさのこの街を一日で回るのはなかなかに難しいので、俺は今日は西門周辺のみにターゲットを絞る事にした。
「でも正直、武器も備品も必要な物は無いんだよなぁ・・・」
オルフェは東西南北にそれぞれ出入りする門があり、十字に目抜き通りとなる大きな通りがあり、そこを通ればそれぞれの門へ行き着く。
と言っても街自体はかなり広いのでその他にも目抜き通りから派生して何本もの大小様々な通りがある。
東西南北で明確にここは何々区画と分けられている訳では無く、西門だろうが北門だろうがその周辺で大体の物は揃う。
つまりはどこに居ても食材を扱っている商店も生活雑貨を扱っている商店も、武具を取り扱う鍛治職人も居るしそれを扱う店も存在する。
ただ、エリアによって値段も取り扱っている物の種類や品質と言ったものが違ってくるし特色があったりする。
因みに西門は魔界がすぐ近くにある事から、傭兵達をターゲットとした店が数多く有りかなり大衆的だ。
その変わり武具関連は結構品質が良い物が売られていたりするし、露店も多め。
傭兵が借りやすいアパートや宿屋も多く、そこを狙った商店もあるが、西門と同様に魔界に近い北門は軍関連の施設が多い事から、自ずと棲み分けがされていて、個人向け商店と言うよりかは軍に物品を卸す業者や、商店や商社の本店、本部等が多かったりする。
南と西もそれぞれ特色はあるのだが、それは追々街の探索を行って見て行けば良いかと思いながら俺は露店を冷やかしつつ、店の位置と取り扱う物を把握していった。
「思ったよりも人が多いな・・・」
西門付近は傭兵がかなり多い地域だと思ったが、時間は昼過ぎでまだ太陽は高い位置に鎮座しているのだが、人通りほかなり多い。
一目で傭兵と分かる様な格好の者もかなり居るが、普通の町人服の様な物を来た人達も多く賑わっている。
傭兵はこの時間、魔界に潜ったりはしないのか・・・
なんと言うか、地球での休日の繁華街を歩いている感覚がしてくるのだ。
実際問題、年がら年中魔界に潜っている傭兵なんて居ないと思うし、当然ながら休日等はあるとは思うので、そこまで気にする事は無いかとそこから意識を離した。
何か食べるか?
特に欲しい物も無くブラついているだけなので直ぐに飽きが来て、時間も昼過ぎと言う事もあり腹も幾分減ってはいる為、食い物を販売している露店見物に切り替える。
西門の目抜き通りには店舗型の食事処も多数存在する。
カフェの様なバーの様な店はオープンテラスの席も用意されており、昼間っから酒なのか何なのかは分からないが飲んで騒ぐ傭兵連中や、他の店も店内で食事を楽しむ一般人が多く見受けられる。
そんな賑やかな様子を横目で流しつつ、一つ鼻を鳴らす。
ふんッ、みんな幸せそうな顔しやがって
別に羨ましい訳では無いと自分に言い訳の様な事を心の中で呟きつつ、目抜き通りから一本別の道へと入る。
そこは目抜き通り程では無いがそれでも馬車がすれ違える程の道幅があり、ここにも様々な店が軒を連ねていた。
更に別の道へ入ればもっとディープな店などがありそうだが、そちらには向かわずに目抜き通り同様に賑わっている通りを少し探索する。
さて、そろそろいいかな
俺は心の中でそう独りごちて通りにある雑貨店の様な店に入った。
雑貨店は二階建てで、一階には一般家庭向けの食材から傭兵向けのポーションやらが売られており、二階には専門店程では無いが初心者向けの武具等の装備品の売り場がある様だった。
そんな雑貨店に入り、先ずは一階に売られている売り物を見て回る。
そしてそのまま二階に移動し、欲しくもない武具を見て回る。
一階もそうだが、二階もかなり混雑しており店内の移動も気を付けないと他人と肩がぶつかりそうになる。
そんな所に態々、買う気が無い物を見に来た理由は他でも無い。
絶対逃がさねぇからな
俺はそう心に決めて、ナイフや短剣が陳列されている机の端でそれらを眺めている客の後ろを通る様にスッと迂回する。
緩急を付けて一瞬速度を早めて移動をしたのだが、つまりは、ある方向から見ると他の客を壁にして俺の姿が一瞬にして消えた様に見えなくもない。
何故こんな事をしているかと言うと、俺が尾行されているからだ。
西門付近をブラ付いている最中にそれに気付いたが、気付いていないフリをしつつ、そいつに絶対逃げられない様な状況で逆に追い詰めてやろうと考えた訳である。
等と、心の中で誰に説明しているのか分からない事を考えながら姿を隠した瞬間に影移動を発動する。
「動くな、喋るな、変な真似はするな」
影移動で目標のすぐ後ろに移動して陳列されている短剣の一つを手に取り、それを相手の背中に押し付け、俺も身体を極端に寄せる。
店内で影移動を発動したので、客の中には俺が一瞬で消えたのを目撃している者もいるのだが、そんな事はどうでも良かった。
目の前の目標は外套のフードを被っていて全体的なシルエットくらいしか確認出来ないが、俺は確信していた。
「この外套は特別性なんだよ。そんな短剣じゃ突き破れないよ」
「黙れ。喋るなと言っただろ」
俺の指示を無視して口を開いた目の前の目標に短剣を更に突き出し身体を軽く突く。
「ボクはキミと話に来ただけだよ。こんな事しなくても逃げたりしないよ」
チッ、なんだこいつ
俺は心の中で舌打ちする。背後を取り脅しているのは俺で優位性は火を見るより明らかなのに、何故か主導権を握られている感覚に陥る。
「・・・ゆっくりこちらを向け」
「分かったよ」
俺の指示を受けゆっくりと振り返る目の前の目標を注意を払いながら顔を確認する。
やっぱり此奴か
目の前の男は東洋人の様な顔付きで、背丈は俺と同じくらい。身体付きは少し華奢かと思うが、見覚えのある顔に俺は鼻を鳴らす。
「この間ぶりだね、暖くん」
「馴れ馴れしい奴だな。誰が喋っていいって言ったよ」
「おっと、忘れてたよ。でもこの間は困ってたから手伝ってあげただろ?少しは警戒を解いてくれてもいいんじゃ無いかな?」
「アレは感謝しているが、コレとソレは別の話だ。黙って尾行してくる奴を警戒しない理由にはならねーよ」
そう、目の前の男はホルスでガバリス大司教と会談する前の空き時間に、アリシエーゼの串焼き代金取り出せない事件があった際、俺を助けてくれたあの男だった。
あの時、匂いは覚えていたが、先程その匂いを感知して直ぐに俺は行動に移した。
ホルスで出会った男が偶々、偶然にも俺達と時を同じくしてオルフェに居る。
しかも俺達はゴリアテを使い結構な強行軍だったのだが、それに間に合わせるとなると、あの時出会ってから直ぐにホルスを立ち、しかも同じ様に強行軍でオルフェに向かわなければならないだろうが、この男はここに居る。
匂いを感知してからそんな事を考えると、何故だか俺は一つの予想が頭を駆け巡った。
それを確かめる為、こうして自ら接触する事にしたのだが、俺の感は予想は正解だと告げていた。
「でもキミはボクから話を聞きたいと思っているだろ?だったらボクを殺したりはしないよ。つまりこうしているより、普通に話が出来る環境に移動した方がいいと思うんだよね」
「話なんて聞かなくても―――」
「無理だよ」
俺の能力でどうにでもなると言おうとしたが、目の前の男にその言葉を遮られる。
「・・・そうだったな。お前がガバリス大司教に対策を教えたんだったな」
俺の予想では、この男がガバリス大司教の情報提供者なのだが、その予想は俺の言葉に無言で微笑んでいるのを見れば当たりだと確信出来た。
「何でも識ってるっての本当みたいだなッ」
「ボクが識ろうと思った事だけだよ、識っているのは。それにキミが思っている程万能じゃないんだよね。だから、このまま此処で伝えられる事を言うよ」
「はぁ!?お前が移動した方がって言ってたんだろうがッ」
先程と言っている事がまるで違う目の前の男を俺は若干苛立ちながら睨む。
「ごめんごめん。でも、これだけ密集して人が集まっている所の方が色々と都合が良いんだよね。特定は困難だろうしね」
特定?
誰から特定されると言うのだろうか
「お前、もうちょっと順序建てて―――」
「そうは言っても余り悠長にはしてられないから、今から言う事を覚えておいて欲しいんだ」
「だから何で勝手にッ―――」
俺はこの人の話を全然聞かない目の前の男に本気でキレそうになるが、男は突然真顔になり右手の人差し指を立ててそれを口元まで持ってくる素振りをする。
その雰囲気が俺に何かを感じさせるが、それが何かは分からなかったが黙って聞いた方が良い気がして一旦話をこのまま聞く事にした。
「ありがとう。先ず、サリーは信じて大丈夫だよ。後、この魔界は中々に厄介だと思う。もしキミ達がこの魔界を無事に攻略出来たのなら、もう一度話そう」
何言ってんだ此奴は・・・
今言われたのはサリーは信じて良い。この一点だけだ。
後は魔界攻略後と言われて、はいそうですかとなる訳無いだろうと俺は眉間に皺を寄せる。
「ちょっと特定のワードを出すと気付かれてしまうかも知れないから詳しくは言えない。でも、気を付けた方が良いよ。教会も帝国も一筋縄では行かないと思った方が良いし、そう言った意味だと、悪魔もそして―――神に対しても気を抜かないで」
「・・・・・・マジでお前が何を伝えたいのか本筋が見えねぇぞ。そんな事言われなくても分かってるわッ」
「兎に角、この魔界を攻略してくれ。そしてその時に辿り着く真実にキミはどう向き合うのかを見せて欲しい」
「そもそもお前は教会側なんだろ、何でそんな事を言うんだよ」
ガバリス大司教に情報を提供していたのだから当然、この男も教会側―――完全にでは無いにしろ、教会寄りなのは間違い無いだろう。
「ボクは何処かに属していたりはしないよ。ただ、ガバリス大司教を使ってキミ達とコンタクトを取ると言うか、キッカケを作ったに過ぎない。今回は教会側の使者はガバリス大司教と思って貰っていいと思うけど、帝国もかなりこの件にはくい込んでいるよ」
クソって、マジで何が何だか分からなくなってくる!
言ってる事は理解出来るが、此奴自身が何も分からねぇ!
実際、この男が言っている言葉は大体が俺も予想したりはしているし、それを態々直接言われても、正体不明の為人が全く分からない奴に言われた所でそんなものは鵜呑みには出来ない。
結局何も分からない状態だったので、俺は納得出来ずにいた。
「分かってる、納得出来ないよね。でも信じて欲しい。ボクはキミ達に敵対するつもりは無いよ。だから先ずはこの魔界を攻略してくれ」
話はそれからだとでも言うかの様に語る目の前の男が何だか異様な物体に思えてくる。
俺の能力が使えないから何も分からず、言われた事のみで判断するしか無く、それを伝えられて無意識に頷いてしまいそうになる感覚が何だか無性に腹立たしく、そして違和感を感じてしまう。
そもそも実際問題、本当に此奴に俺の能力は使えないのだろうか・・・
俺がそんな事をふと思うと同時に目の前の男が動く。
「そろそろ行くよ。魔界攻略を成し遂げた暁にまた話そう」
そう言って俺の横へ移動した男はそのまま立ち去る様な動作に入る。
「え、おいッ、ちょっと待て―――」
「あ、そうだ。たぶんまだ先の事なんだけど伝えておくよ、もしかしたら早まる可能性も無きにしも非ずだからね。この先、人の形をすれど人で無いその者は、旧世界とキミ達と、そして神を繋ぐ鍵になる―――だから、必ずその縁は繋ぎ止めておいた方がいいよ」
「――ッ」
そう捲し立てて俺を横切ろうとする男に俺は我慢の限界を迎えた。
ふざけんなッ
何だかその謎かけみたいなのはッ
これだけで帰すと思ってるのかと俺は瞬時に男へと繋がる―――
「ッグァ!?」
その瞬間、またしてもガバリス大司教の時と同じ様に、バチンッと極大の静電気が発生した様な、極太のゴムが千切れる様な音と共に凄まじい衝撃が俺を襲い、同時に身体が男とは反対方向に吹き飛ばされる。
ガシャンッと近くにあった短剣等を陳列していた机を壊して倒れる俺に、男は申し訳無さそうにしながら言った。
「こうなると思ったよ」
そう言いながら人混みに消えていく男を見て、衝撃から立ち直るまでの数秒、腸が煮えくり返る想いに駆られた。
マジで舐めやがってッ
次は絶対に全部吐かせるからなッ
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みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

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