異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第5章:帝国と教会使者編

第224話:同志

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「お主・・・話が違うでは無いか」

「そうよ・・・何よあの子」

「やっぱり最初から妾を作るつもりだったんですよッ、このエロガキは」

「・・・・・・」

 準備期間十一日目―――

 散々な言われ様な俺だが、ハッキリ言って誤解だし、何ならモニカのは唯の悪口でしか無いと思う。
 イエニエスさんに家族全員の登用を許可した翌日、夕方頃にイエニエスさんが屋敷に家族を連れて来て、俺達の元へ挨拶にやって来た。
 家族構成的にはイエニエスさんと奥さん、そして一人娘の三人なので二人追加で雇う事となり、それによりイエニエスさんの作業分担が出来るのでより一つ一つの作業のクオリティが上がるのは確定。
 そこでめでたしめでたしとなる予定だったのだが・・・

「私、イエニエスの妻のテテスと申します。そして此方が―――」

「娘のクリスです」

「ふ、二人もかぁ!?のう、いっぺんに二人も追加なのか!?」

 アリシエーゼが何故か壊れる。

「アンタ、一体どんだけ守備範囲広いのよ!?」

 イリアも何故か頭を抱えて発狂する。

 守備範囲て・・・

「もういいよ・・・マジで毎回そう言うの、いらねぇって」

 俺は一々こんなのに付き合ってられず、騒ぎ立てる女共を無視してイエニエスさん一家と話を進めた。

「今日からお願いします。奥さんはイエニエスさんと同じ部屋で、娘さんはその隣の部屋を用意しましたんで、イエニエスさん案内お願いします」

「――あ、はい。あの、その・・・あちらは宜しいんですか?」

「はい。彼奴らゴブリンみたいなもんなんで気にしないで下さい」

「は、はぁ・・・」

 自分で言っていて何でゴブリンなんだとか思ったりするのだが、そのまま突き通す。
 後ろで「誰がゴブリンじゃ!」とか何とか言ってるが、俺にはゴブリン語は理解出来ないと肩を竦めてイエニエスさんに嘯く。

「お仕事は明日からお願いしたいんですが、大丈夫ですか?」

「分かりました。それでは明日からまた宜しくお願い致します」

 そう言ってイエニエスさんは頭を深々と下げると、テテスさんとクリスさんもそれに倣い頭を下げた。

「そんな畏まらないで下さい。本当にお手伝いさんくらいの感覚で大丈夫ですから」

 俺は苦笑いをしながらそう言うが、イエニエスさん達にもこの仕事に対する培って来た経験から生まれるプライドなどもあるのだろう。
 そう簡単にいくとは自分でも思わなかったが、この屋敷自体、例外的に手に入れた物であるし何となく悪い気がしてくる。
 クリスさんが明日から主に食事を担当すると言っていたので、魔界へのアタックが始まった場合、何日か帰って来ない時もあるなと思い、その場合は事前に予定は伝える事、超巨大走行馬車ゴリアテを牽く黒王達の世話のついでに篤の世話もお願いしておいた。

「そう言えばアツシさんが見えませんが何方に?」

「あぁ、たぶん工房に篭ってます・・・」

 後で様子を見に行って見て、イエニエスさん一家についても伝えておく事を約束し、ある程度話が纏まった所でイエニエスさん達は二階に上がって行った。

 じゃあ、とりあえず篤の様子でも―――

 俺はそのまま屋敷の外に出ようと歩き出すと、急に後ろから叫び声が聞こえる。

「アンタ待ちなさいよッ、ちゃんと説明しなさい!」

「妾達をゴブリンと吐かしたなッ!!」

 イリアとアリシエーゼがもの凄い形相で俺に詰め寄って来た為、俺は少したじろいでしまう。

「ちゃんとイエニエスさんの家族も面倒見るって伝えただろ!?」

「女を連れて来るとは聞いておらん!」

「そうよ!」

 後ろでモニカは「そうだ!そうだ!」とか煽っているが、その他の者はこのやり取りを他人事の様に傍観している。

 めんどくせぇよ!

 俺は付き合っていられないと、応接室の庭と接する壁に備え付けられた窓をチラリと見る。
 大きな窓で、庭の様子もハッキリと分かるのだが、俺はこの状況で一つ試してみたい事を実行した。

「アンタって何時も―――ッぇ!?」

 イリアの説教じみた小言を聞き流しつつ、俺はそれを即実行する。

「影移動か!?」

 アリシエーゼの声を俺は聞いて、成功した事を実感する。
 そう、俺が今試したのは、影移動が障害物越しに出来るかどうかを試したのだ。
 結果は見ての通り、障害物があっても影移動は出来ると言う結論であったが、これは想定通りだった。

 移動先が見えない場合は―――まぁ、出来ないかな

 そんな事を考えつつ、篤が籠る工房へと足を運ぶ。
 庭の一角に急造した建物を視界に収め、明かりが灯っている事を確認すると俺はノックもせずに工房のドアを開け放つ。

「おーい、篤生きてるか―――ッ!?」

 そしてドアを開け放つ形で俺は固まる。
 中の様子を見て固まった訳だが、これは一体・・・

「な、何やってんだお前達?」

 俺の言葉に返事は返って来ないのだが俺の目には異様な光景が映し出されている。
 それにしても―――

「何でここ、こんなに暑いんだッ!?」

 ドアを開けた瞬間に俺の全身に纏わり付いて来た凄まじい熱気に顔を顰めつつもう一度中に居る篤に声を掛ける。

「おい、マジでお前ら何やってんだよ・・・」

「――ん、あぁ、暖か」

 漸く俺が訪れた事に気付いた篤が俺を見たのだが・・・

「いや、だから何でお前ら裸なの・・・」

 この工房は鍛治も行える様に建物の中に鍛冶場も併設されている。
 入口を入ると直ぐに鍛冶場の炉が有り、奥にその他の設備が並ぶのたが、そんな入口近くの炉の傍で篤と、集めた人材である男二人がパンツ一丁でしゃがみこんで床に置かれた何かを覗き込んでいたのだ。

「いやな、炉に火を入れて先ずはと作ってみたんだがな―――」

 そう言って篤は立ち上がる。他の男二人も同じく立ち上がり、囲んで見ていた床に置かれているそれに視線を向ける。皆、パンツ一丁だが。
 そこには、人の腕の様な何かが置かれていた。

 なんだこれ・・・?
 いや、篤の義手か何かを作ろうとしてるんだろうが・・・

「やはり一体成型では難しいですよ。手甲の様にパーツを分けないと稼動も出来ませんよ」

 そう言って、集めた人材の一人が腕を組む。パンツ一丁で。
 篤の為に俺はオルフェの街中を駆け回り人材を探した。
 ホルスと同じ様に有名店の店主を強制的に引き込むの避けたかった為、有名店の弟子や無名のまだ芽の出ていない者など出来れば篤と一緒になって面白い事をしたいと思ってくれる人材を探した。
 結局、鍛治の腕は記憶を探るだけでは分からない事もあるし、先ずは志と言うかそういったものを優先して限りなくベストな人材を揃えたつもりなのだが。
 この腕を組む男はコル、二十八歳の人間の男だ。有名店の鍛治職人の十何番目の弟子で、兄弟子が沢山いる事で日の目を見ない不遇な奴だった。

「でも、普通の手甲では無いですし、アツシさんの考えを踏襲するならこう言う形でもいいんじゃないでしょうか・・・」

 そしてもう一人の男も口を開く。当然、パンツ一丁だ。
 この男はドワーフ族の男で、名前はボンデラ、年齢は十九歳。自身の産まれた村で小さい鍛冶師を師事していたが、その師匠が亡くなってしまい、このオルフェへ仕事を求めてやってきたが、まだ経験の浅かったボンデラは何処も雇ったはくれず、仕方無く雑貨屋の手伝いの仕事をして食い繋いでいた。
 記憶を見る限りでは、生まれた村では天才だと持て囃されていた様なのだが、通常別の鍛冶師に師事をする時は前の鍛冶師の推薦状などを持って新しい所へ行くらしい。
 だが、ボンデラは師匠が急逝してしまい、そんな紹介状も無かった為かなり苦労している様だった。
 二人とも、魔導回路の取り扱いも心得ており、俺としては結構良い人材なんじゃないかと思ってはいる。

「これは試作でも何でも無い。炉の調子を見る為のものであるし気にする必要は無い。材料も本番用の物では無いし焦る事は無いぞ」

 難しい顔をする二人の協力者に諭す様に語る篤だが、どうやらもう既に志を同じくする仲間と言った感じで上手くやれている様だった。

「まぁ、上手くやれてそうで安心はしたんだが―――」

 篤はこう言っては何だが、なかなか難しい奴だと思っている。
 単純な様で心の奥底では何を考えているのか計り知れないし、たぶん通常の人間とは思考回路が異なる。
 なのだが・・・

「―――何で裸なんだよッ!!!」

 男三人、パンツ一丁で汗を垂れ流している意味が分からない。

「裸では無いぞ?下着はちゃんと身に付けている」

 ちゃんとの意味が分からない・・・

「何でパンイチなんだよって言ってんだよ!」

「暑いからに決まってるでは無いか。炉の前に居るんだぞ?」

 何言ってんだよと言う表情の篤だが・・・

 あれ、これ俺が間違ってるの?

 などと少し思ってしまったが、騙されない!
 その後も篤とコル、ボンデラから意味の分からない言い訳の様なものを聞かされたが、今後はちゃんと服を着て作業をしろと厳命した。

「それにしてもキミは何なんだ?同志に向かって偉そうに。私を勧誘しに来たのは覚えているが、キミは同志の助手か何かでは無いのか?」

 あ?

「そうですよ、助手さんも少しは手伝って下さいよ」

 あぁ?

「ま、待て。暖は助手では―――」

「同志の助手と言う事は私達の助手でもあると言う事だろう?」

「そうですね。今後は私達の手伝いも―――」

「黙らっしゃい!!」

「「ッぐぇ!?」」

 コルとボンデラの調子に乗った発言を俺は二人の鳩尾に同時に拳をめり込ませる事で一蹴した。
 勿論、手加減をしてだ。
 突然の助手と思っていたヒエラルキー最下層の人間の攻撃で息かも止まり二人とも両膝を付き蹲るが、俺はそんな二人を一瞥した後に篤に向き直り言う。

「おい、確り躾しとけ」

「う、うむ・・・」

 それから暫く小言を篤に向けて言ってから、イエニエスさん一家の事も伝える。
 イエニエスさん達に迷惑を掛けたらお前もこうなるからなと勿論、脅しておくのも忘れたりはしない。

「まぁ、とりあえず研究頑張れよ」

 俺はそう言い残して工房を後にした。

 明日は最終のチェックをして明後日からアタック開始だな

 いよいよ、帝国の西に存在するこの魔界の攻略が始まる事に俺は胸が逸らずにはいられなかった。
 それを押し殺そうと、俺は一度深呼吸をして空を見上げた。

 悪魔は一匹残らず駆逐してやる
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