異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第5章:帝国と教会使者編

第208話:受託

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「ええ・・・と―――それは依頼を引き受けて頂けると言う事でしょうか?」

 ガバリス大司教は眉を顰めながら俺に聞き返して来る。

「いや、まだそうとは決まって無いが依頼に対しての報酬の話が無いと判断出来ないだろ?」

「ま、まぁ、そうなのですが・・・」

「受けるつもりが無いのならそんな事聞くだけ無駄じゃろう。それを聞くと言う事は受ける気があると言う事か?」

 アリシエーゼはムッとした表情で俺を睨むが、俺としても教会には近付きたくは無い。が、このガバリス大司教には少しだけ興味があった。
 色々と秘密は多そうだが、何か感じるものがあると言うか、あんな豪勢な教会を建ててこんな俗物的な格好をする事、それ自体がブラフなんじゃ無いかとすら思ってしまうのだ。

「そうですね、ええと・・・そうですね―――」

 うん?
 何で何も出て来ない?

「何だよ?まさか報酬を考えて無かったなんて事は―――」

「い、いえッ、まさかそんな!」

 此奴・・・

「何じゃ、まさかタダ働きをさせようとしていたのではあるまいな?」

「そ、そんな事は決してッ」

「じゃあ何だよ。まさか情報を小出しにして俺の興味を引けば俺から首を突っ込んで来るとでも思ったのか?」

「ギ、ギクッ―――あ、いや、そのですね、その辺りはあなた方の内情と、この依頼の難易度を踏まえるとどうするべきか計り兼ねていたので相談して決めようと思っていたのですよッ、ハハッ」

 ギクッて・・・

 俺とアリシエーゼは暫く訝しみ、ジト目でガバリス大司教を睨むが、その間「おかしいな」とか「こんな筈では」とか小さく呟いていた。
 俺達は耳が良い。それを聴き逃したりはしないのだが、もしかしたらガバリス大司教御用達のその何でも識っている何者かがこう言えば協力するだろうとか助言でもしていたのだろうか。

 いや、でも報酬の話なんて普通だし、その辺は気にするよな
 特段、想定外の質問と言う事でも無い気はするが・・・

「はぁ・・・とりあえず報酬はもし受けるのなら今後詰めるって事でいいよ」

 俺は深い溜息を吐いてそう言うと、ガバリス大司教は助かったとでも言わん顔で「そうですね」と必死に冷や汗を拭いていた。

「そ、それで引き受けては・・・」

「アリシエーゼはどう思う?」

「嫌じゃよ」

 即答か・・・
 まぁ、それもそうか

「だよな」

「お主はどうなのじゃ。お主だって言っておったでは無いか、教会とは関わりたくないと」

「そうなんだけどな・・・でもこうも思うんだ。教会の総意と言うか教えと言うかそう言うのと俺の想いはある意味一致してるんじゃないかってさ」

「どう言う事じゃ?」

 教会はそれが何故なのか根本と言うかその行動原理と言うかそう言う事は分からないが、悪魔を敵視しており、この世から悪魔、魔界を根絶しようとしている。
 俺も悪魔はこの世から駆逐してやると言う想いが非常に強く心の奥底にはある。
 これは、明莉が、俺の、俺達の家族が殺されたのが全てだ。
 俺達から家族を奪った悪魔や魔物か憎い。憎くて憎くて彼奴らが存在しているだけで、同じ空気を吸っていると考えるだけで、気が狂いそうになるくらい殺してやりたくなる。
 悪魔は一匹足りとも生かしてはおかない。それは決して神の為でも教会の為でも、ましてやこの世界の顔も知らない住人達の為でも無い。
 単純に俺がそれを許容出来ないと言うだけだが、その一点では教会とは相入れると思っている。

「それは分かるが―――」

「それにさ、こっちに来て当初は傭兵団でも作って金儲けしながら世界を回るのも面白そうだとか考えてたんだけどさ、今は世界各地の魔界を巡って中にいる悪魔共を須らく、塵一つ残さずに消滅させる事が俺の中で重要になってる。正直、金なんて俺がどうとでも出来るんだ。あの村に残して来た残りの奴らを一生食わせていく位の金を手に入れるのなんて造作も無い事なんだから傭兵家業なんてやらなくても全然問題無いと思ってるよ」

「・・・・・・」

「でもさ、傭兵団を大きくして名を世界に轟かせたら、依頼と言う形なのかとかは置いておいても、重要な情報も入り易くなると思うんだよ。金だけ、俺の能力だけじゃ駄目なんだ」

 だから、そう言った情報を手に入れる為、世界各地の有力者から信頼を勝ち取る為にどの国にも属さずに傭兵団を大きく、強くする事を考えているとアリシエーゼに語る。
 アリシエーゼは何も言わずに俺の話を聞いていた。
 これは俺が一人で思っている事だし、独善的な考えに寄るものだし、こんな事に付き合わされる傭兵達はたまったものじゃ無いだろう。

「・・・ふんッ」

「アリシエーゼ?」

「別に傭兵団に関してはお主の思うままにやれと言ったでは無いかッ」

「ま、まぁそうなんだけどさ・・・でもただ俺は情報収集の為、魔界の、悪魔の情報を得る為とか、彼奴ら傭兵個人の事なんてこれっぽっちも―――」

「彼奴らは傭兵団が大きくなって、金が手に入る。名声が得られ、チヤホヤされる。それだけで満足な単細胞どもなんじゃからそんな事気にせんでええわッ」

 えぇ・・・
 それは酷くね?

 ただこのアリシエーゼの言葉は村に残して来た傭兵達を侮辱するものでも侮っていると言う事でも無いのだろうと思った。何故だか愛を感じたのだ。

「―――まぁ、俺はそう思ってるって事だ」

「ふんッ」

 アリシエーゼは何故かお冠だが、これは了承してくれたと思っていいのだろうか?

「だからどっちにしろ、その帝国の魔界には遅かれ早かれ行く事にはなってたと思うし、そう言った意味でも、教会とは悪魔の殲滅、その一点に置いては共通しているから今回の依頼を受けようと思う」

「受けて貰えますか!?」

 俺の言葉にガバリス大司教は表情を明るくする。

「だが、最終確認だ。今回の俺達の魔界攻略に関して悪魔側へ教会とアンタ個人は加担して無いんだな?これは直接的な事だけじゃ無い、情報提供や間接的な事も含む」

「はい、有り得ません」

 ガバリス大司教は即答した。俺の目を真っ直ぐ見詰めそう答える大司教に嘘偽りがあるとは思えなかった。

「帝国は?」

「・・・正直、分からないとしか言えません。個人的には無いと思いますが」

「そうか」

 そこからは依頼を受ける前提で話を進めた。
 まだ、この場に居ない仲間達に相談していない為、正式回答は後日と言う事にしたのだが、仲間達が拒否したとしたらそれはそれで俺一人でも構わないと思っていたので話を進める事に問題は無い。

 改めて依頼内容を詰めるが、内容的には魔界内での帝国の動向を探ると同時に可能ならば魔界攻略を行うと言うものだが、帝国内には二つの魔界が存在するとの事だった。
 しかし今回の対象はその内の一つ、帝都近くの北魔界と言われる方では無く、西に存在する西魔界との事であった。
 それはその西魔界で悪魔との取引きなりが行われているのかと問うと分からないと言う回答であった。
 動向を探ると言うのに何故、その西魔界を依頼対象としたのだろうと思ったが、ガバリス大司教曰く、北魔界の悪魔と取引きを行っている様だが、帝国ではまことしやかに囁かれているらしい。

 「―――西魔界に何かあるだって?」

「はい、攻略すれば何代も遊んで暮らせるだけの金銀財宝が手に入るだとか、一振りで国をも滅ぼせる武具が手に入るだとか色々と言われています。全て眉唾物だとは思いますが、帝国自体も攻略に本腰を入れているので看過出来ないのですよ」

 北魔界の悪魔と何らかの取引きをしておきながら、場所は違えど何故、本気で魔界攻略を推し進めるのか。
 そこに悪魔と帝国でどんな遣り取りがあったかは定かでは無いが、何か密約や情報提供などがあったと考えてもおかしくは無い。
 また、ガバリス大司教個人の思惑に関しては結局分からなかったのだが、今回の件は教会は帝国には内密に動いている。
 サリーは帝国側の間者なのだが、その実教会の間者でもあり、要は二重スパイとの事だった。
 なので、今信頼出来るのはこの場ではサリーだけとの事で、依頼の条件としてサリーも俺達に動向させて欲しいと言われた。

 マジかよ・・・

 帝国には国教と言うものが存在しない。
 それは開かれた自由主義で宗教の自由が認められて国民はどんな神を信仰するのも自由とされているからだ、表向きは。
 そんな国にエル教会は大規模に根を張る為、帝国での影響を高める為、国教に指定を最終目標として活動しているらしい。
 ガバリス大司教が帝国へ赴任した当初、帝国側から身の安全を確保する為、護衛目的で帝国の暗部を付けると言われたそうだ。
 表向きは護衛だが、裏は情報収集、監視なのは明白であったがそこは快く快諾し今では数人の暗部が常にガバリス大司教を監視している。
 だが、その中にガバリス大司教はサリーを潜り込ませた。
 サリーはその実力もあり、この大司教監視チームの頭を張る事になった為、こうしてチームの配置などを理由に人払いも出来ているとの事であった。

「ガバリス大司教にとってはサリーは重要な手駒だろうに、俺達に同行させても良いのか?」

「構いませんよ」

 ニコリと微笑みながらそう答える大司教だが・・・

「でも、俺達の情報はある程度帝国側には伝わってるだろうし、帝国に向かえばその情報も、サリーが同行するってなればそれも伝わるだろ?そんなの帝国側は怪しむし、俺達だけじゃなくガバリス大司教も危ない立場になったりしないか?」

「全く問題有りませんよ」

 またしてもニコリと微笑みそう答える大司教だが―――

 何故、そう言い切れるのか全く分からん・・・

 結局、どうとでもなる、どうにかする、任せてくれだけで押し切られてしまった。
 言う通り、何かしら策や考えがあるのだろうが、俺としては大司教の安全と言うよりも、サリーの同行をどうにか取り止めさせたいだけだったのだが、それは失敗に終わってしまった。

 その日はそれ以上は止めておいた。
 この会場で長々と密談するのも何かと問題があると言うので、一旦持ち帰り後日サリーを通して回答する事としたのだが・・・

 サリーの名前を叫べば直ぐにやって来るのだろうか?
 それとも此方から態々、帝国側に赴いて、教会に顔をだしてとか面倒な事をするのだろうか・・・?

 それとも―――

「それでは、今から監視目的と言う理由でサリーをあなた方に同行させます。何か分からない事等あれば何でも聞いて下さい」

 やっぱりぃぃぃッ
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