異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第5章:帝国と教会使者編

第200話:殺意と出会い

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 ホルスの帝国側へは一度、デス隊と共に黒魔泥ブラック・スライムの素材を調達をしに来た事がある。
 その時にも思ったのだが、帝国側の街並みはなんと言うかとても洗練されている様に思えた。

「やっぱり何か綺麗だよな」

「えッ!?な、なんじゃいきなり!?今まで妾をそんなに褒めた事無かった癖に急にそんな事を言い出しおってッ」

 ぇ・・・

「わ、妾が可愛いのは分かっておるが、綺麗とは・・・急にデレ出しおって!コイツめ!」

 アリシエーゼは何を勘違いしたのか、顔を赤くし俺を「こいつ~」とか言いながら肘でガシガシしてくる。

「・・・あぁ、街並みが綺麗だなと思ってな」

「そうかそうか、街並みがのう―――ん、街??」

「あぁ、何かあっちは結構木造の建物とか多いし、なんて言うか規則性がそんな無いだろ、建物の高さとか広さとかさ。でもこっちは石なのか煉瓦なのか知らないけど、木材との融合は統一的だし、高さとかも結構揃ってるよな」

「・・・・・・」

 俺は敢えてアリシエーゼに勘違いしてるぞとは言わない。
 言うと絶対プリプリ怒り出して手が付けられなくなるからだ。

「そ、そうじゃのう!わ、妾もそう思っておった所じゃ!綺麗じゃのう、街がッ」

「・・・・・・」

 ワハハハと豪快に笑って誤魔化そうとしているのを痛々しく見ていると、その視線に気付いたアリシエーゼは俺を下から睨んだ。

「・・・なんじゃ」

「い、いや、別に何も・・・」

「言いたい事があるならハッキリ言わんかッ」

 顔を赤くしながらアリシエーゼは俺に突っかかって来る。

 いや、お前俺が突っ込んだらムキになって言い返して来るじゃんか・・・
 傷口を広げないでやっている俺の優しさが分からんのか・・・

 俺が遂々、無意識に溜息を付くとそれを見たアリシエーゼが更に突っかかって来た。

「な、なんじゃその溜息は!?やっぱり言いたい事があるんじゃろッ」

 結局こうなるのか・・・

 俺は額に手を当て天を見遣る。俺の努力を返せと言いたいが我慢だと堪えてアリシエーゼに謝った。

「悪かったよ、折角のデートなんだからそう言うの止めようぜ。もっと楽しくいこう」

「んでッ!?そ、そうじゃな・・・でーとッ!じゃしな!」

 チャロいぜ

 俺は心の中でほくそ笑み、よしよしとアリシエーゼを上手く誘導出来た事に喜びを感じる。

 それにしても、俺に綺麗に言われたからってそんなに嬉しく感じるもんかね?
 女心ってわからんなぁ
 それに何で俺が謝らなきゃいけないのかがまったく分からん・・・

「お詫びにアレを買うのじゃッ」

 アリシエーゼは気分が良くなりまた元のはしゃぐガキに戻って、通りに立ち並ぶ露店の一つ、安定の肉串焼きを指差して俺の手を引き走り出す。

「さっきも肉食っただろ!?」

「アレは肉をパンでサンドしたもんじゃったじゃろ!これは純粋な肉のみの物じゃから違うんじゃッ」

 違う訳ねぇだろ!?

 さっきも朝から働きに出る傭兵や労働者の昼飯向けの商品を売る露店で、ボリューミーなボア肉サンドを十以上は購入しているし、何ならその店では他の人達に売る分が無くなるとそれ以上の購入は拒否されている。

「これから食事だぜ・・・?」

「それだけでは足りないじゃろ?」

「いやいや、食う前から何で分かるんだよ。もしかしたらもの凄い量が出て来るかも知れないじゃないか」

「それならそれで、ここでも食えて、そっちのメインでもいっぱい食えるんじゃからラッキーではないかッ」

「・・・・・・」

 いや、ラッキーとは・・・?

 俺が大いに混乱していると、そんな事はお構い無しにアリシエーゼは露店へと近付き、必死に肉を焼いているおっちゃんに向かって元気に注文をし出していた。

「おい、ここに並んでいる焼き終わったやつを全部くれッ」

「「全部ッ!?」」

 俺と露店のおっちゃんは声を揃えて叫んでしまったが、それも仕方無いだろう。
 何せ、露店に並ぶ焼き終わった串は二十はある。
 一本一本もなかなかボリュームのある串焼きを二十である。通常の女子の胃袋では無い。

 フードファイターかよ・・・

「お嬢ちゃん、全部ってここに出てるの全部かい・・・?」

「そうじゃ、早くせんか」

 何でこんなにも偉そうなのか分からないが、アリシエーゼの言葉にかなり困惑している露店のおっちゃんは俺に視線を向ける。
 きっとアリシエーゼの保護者か何かだと思っているのだろう・・・

「・・・とりあえず言う通りここにあるの全部で」

 俺は気恥しさもあり小さい声でおっちゃんにそう言うと、露店のおっちゃんは「そ、そうか」と言って焼き終わっている串をヒョイヒョイと取ってアリシエーゼに渡し始めた。

「こんなに持てんから半分持ってくれ」

「ぇ・・・」

 十本程串焼きを持った所でアリシエーゼが急に俺にも串焼きを持てと言い出した。

 何で俺が・・・

 そんな事を思っていると、露店のおっちゃんは次には俺に串焼きを渡し始めるのだが、結構デカい串焼きを十本も持つと両手が完全に塞がってしまった。

「一本、小銅貨五枚だぜ」

 思ったよりも安いなと思った。
 二十本買ったので、小銅貨だと百枚と言う事になる。
 この場合、たぶん中銅貨二十枚、大銅貨三枚と中銅貨一枚、もしくは小銀貨一枚でも大丈夫な筈だ。

「・・・・・・」

 おっちゃんの言葉にアリシエーゼは何も反応しないので俺が訝しみ声を掛ける。

「おい、さっさと払っちまえよ」

「妾は金なんぞ持っておらんぞ?」

 いやいや、コイツマジで何言ってるんだろうか
 そもそも、この前に寄った店でも俺が支払っているが、次は妾が奢ってやるからと言っていた筈だ

「・・・次はお前が払うって言ったじゃねぇか」

「それはまた別の機会って事じゃぞ?今日は妾は金なんぞ持って来ておらんからお主が払えば良かろう?」

「何時も金なんて持ってねぇだろッ!!」

 堪らずに俺は突っ込んでしまったが決して俺は悪く無い筈だ・・・

「妾はあっちで座って食べておるからの。お主もさっさと来るんじゃぞ」

 アリシエーゼから耳を疑う様な言葉が発せられ俺は混乱した。

 いやいやいやいやッ!!
 何なんだよお前はッ!?

 そもそも何で俺が払わないといけないのかとか、奢られてるのに何でそんなに偉そうなのかとか、両手塞がっててどうやって金なんて取り出すんだとか、その他にも言いたい事が山程あったのだが、そんな事を考えているが、先ずは金を払わなくてはとアタフタしてしまった。

「兄ちゃん、金無いとか言い出さないよな・・・?」

 露店のおっちゃんが俺を訝しみ始めた為、俺は余計にテンパってしまった。

「い、いや、大丈夫ッ!ちゃんと金ならあるよ!?あるんだけど、今両手が塞がってて・・・」

 アタフタしながら先に歩いて行ってしまったアリシエーゼを見る。
 どうにかしてアリシエーゼに財布変わりの腰にぶら下げている革袋を取ってもらおうと思ったのだが、アリシエーゼは既に露店の先のベンチに座り串焼きを頬張っている。しかも既に三本目だ。

「・・・・・・」

 アイツ、マジで殺そうかな?

 俺は久々に本気で殺意を抱いてしまったが、おっちゃんからは早く払えだの、本当に金持ってるのか等詰められるし、アリシエーゼは手伝わないし、俺は両手が塞がっていて何が何だか分からなくなっていた。
 冷静に考えれば、おっちゃんに取って貰うだとか、串焼きを一旦置かせて貰うだとか方法はいくらでもあったのかも知れないが、アリシエーゼへの殺意が大半を占めた俺の思考ではそこまで考えが回らなかった。

「おいッ、本当に衛兵呼ぶぞ!?」

「え、あッ、ちょっと待って本当に―――」

 おっちゃんは痺れを切らせてそんな事を言い出し始めた為、これは不味いと思っていると―――

「―――手伝おうか?」

 突然、俺の背後から声が掛けられる。
 その声に振り返ると、俺と同等か少し小さ目の背の小町鼠(こまちねず)の丈の長い外套を羽織った線の細い男が立っており、俺を見詰めていた。

「ぇ、あ、あぁ、悪いけど頼めるか?俺の腰に―――」

 突然声を掛けられたが、正直助かったと思い俺はその男に金の入っている革袋の位置を教えようとすると、男は最後まで聞かずに俺の外套をたくし上げて腰に付いている革袋から小銀貨を一枚取り出して露店のおっちゃんへと投げ渡した。

「―――おっとッ、まいど!」

 おっちゃんは小銀貨を受け取ると途端に機嫌が良くなり俺に「また来いよ」とか言い出していたが、俺は助けてくれた男へとお礼をしようと再度振り返ると、その男は既に歩き出しており離れて行っていた。

「お、おいッ、ちょっと待ってくれ!」

 俺の言葉に手伝ってくれた男は顔だけ振り返り笑顔で右手を上げてから此方に戻って来る事はせずにそのまま去って行った。

 彼奴・・・

 俺は謎の男の背中を見ながら思案するが、その時肉を貪っていたアリシエーゼが声を上げる。

「おーい、もう食べ終わってしまったぞー、早く次を持って来てくれー」

「・・・・・・」

 色々あって忘れていた殺意と言う炎が俺の中で再燃するのをこの時確かに感じた。

 マジでお仕置だ・・・
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