異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第185話:料理人アリシエーゼ

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「ぇ、いや、無理だろ」

「何がだ?」

「何がじゃねぇよッ、死体なんて喰えるかッ!」

 篤がフェイクスが受肉していた肉体を俺に喰って取り込めと言うが、土台無理な話だ。

 何がとか何言ってんだ此奴

「そうか!そうじゃったのかッ」

「え?」

「何惚けておる!さっさと喰わんかッ」

 突然そんな事を言い出しアリシエーゼは、篤からフェイクスの物質体マテリアルボディの残骸?死体?を奪い取ってあろう事か俺にその物体を押し付けて来た。

「ちょッ!?お前ッ、巫山戯んなよ!」

「巫山戯てなどおらんッ、それしか無かろう!」

「いやいやいや、全然違うかも知れないじゃないかッ」

「違う訳あるかッ」

「何で分かるんだよッ」

「何でもじゃ!!」

 何なんだ此奴、マジで

 こんな魔物に踏み潰された、見た目人間の様な物を食べろと言われて、いただきますなんて言えると思ってるのだろうか。
 それこそどうかしてるし、もしそんな事を平気で行えるのなら正常な人間では無い。

 でもアリシエーゼはもう人間の域はとっくに超えてる訳だし、転生前も大分イカれていたんだったか・・・

 それに、と思い出す。

 アリシエーゼはヴァンパイアの状態から、受肉したどっかの神様を喰ったとか言っていたな、確か・・・

 それからもうこの世の理から足を踏み外した存在になった訳だが―――

 いやいや、それも喰ったって言っても、生き血を啜ったとかそういうレベルだろ!?

「なに?あの時か。あの時は確か・・・後ろからガバッとしてじゃな、首を捩じ切ってから生き血を啜って、核を抜き取った身体を部位毎に分けてじゃな―――」

「・・・もういい」

 聞いた俺が馬鹿だった・・・

 アリシエーゼの告白に皆、こんな時に冗談をと苦笑いしていた。

 冗談じゃねぇんだけどな・・・

 でもアリシエーゼは神だったが、受肉した身体を貪り喰う事で力を手に入れた事は確かだ。
 神では無く、今回は悪魔だがその体験があったからこそアリシエーゼはそう確信しているのだろう。

 たぶん・・・
 面白そうだからとかじゃねぇよな・・・?

「なんじゃ、お主から聞いて来た癖しおって。兎に角、これ喰うんじゃよ!ほれ!さっさとせんかッ」

 そう言ってアリシエーゼは俺に押し付けたフェイクスの残骸を態々奪い取ってから、俺の口に運んで来ようとする。
 しかも何故かこう、フェイクスの物質体の残骸の顔を俺に向かわせてまるで接吻を迫る様な形に態と見せ、「ほれ!ほれ!」とか言っている。

「マジでやめろッて!無理だろこんなの喰うなんてッ」

「無理では無いッ、妾は普通に喰ったぞ!」

「お前と一緒にすんなっての!」

 アリシエーゼのまさかの回答に周りは「え?マジで?」みたいな顔をしている。

 ほらな!
 お前が異常なんだよ!

「ちょ、ちょっと!二人とも!そんな事したいる場合じゃないですよ!?なんかアレ、こっちに向かって来ますって!!」

 モニカの悲痛な叫びで俺とアリシエーゼはハッとして顔を上げる。
 鳥頭フェイクスは一際大きな咆哮を発した後、こちらをギロリと睨み、そして大地を揺るがす一歩を此方に向けて踏み出した。

 絶対こうなると思ってたよ!
 あの目玉野郎!怒らせるだけ怒らせておいて後処理は任せるだと!?
 ふざけんじゃねぇぞ!!

 だが、いくらここで呪いの言葉を吐こうとあの目玉は戻って来て俺達を助ける言葉は無いだろう事くらいは分かる。
 本気で俺達であの幻幽体アストラルボディの巨大な鳥頭フェイクスをどうにかしないとならない事は揺るぎない事実であった。

 アリシエーゼはまだ本調子じゃないのだろう

 そうすると、いよいよこの気持ち悪い残骸を俺が喰わないといけなくなるのだが、それだけは何としても避けたかった。

「そうだッ!アリシエーゼ!お前が喰えばいいんだよ!神様喰ったお前だ、悪魔だって喰えるだろ?そうすればまたパワーアップじゃないかッ」

 俺は本気で妙案だと思った。
 別に俺がこのグロい物体を喰う必要は無く、喰った事でパワーアップ出来る奴なら誰でも良いんじゃないか?と考えた。

「・・・妾は無理じゃ」

「何でだよ!?お前ッ、人に散々進めといて、グロいから喰えないとか酷過ぎだろ!?」

「そんなんじゃ無いわいッ、妾では無理なんじゃよ。コレを喰った所で力は得られぬ」

「・・・何でそんな事分かるんだよ」

 何故喰ってもいないのに、そんな事分かるんだと思った。俺の憮然とした表情にバツを悪くした様にアリシエーゼは言った。

「お主は自分で分からんのか?コレを喰わば、力が手に入りそうだと・・・」

「・・・・・・」

 アリシエーゼの言葉に俺は言葉を失った。
 何故知っているんだと、何故それが分かったんだと思うが、そんなのアリシエーゼが同じ体験をしたからに決まっている。
 篤がこの物質体の残骸を持っているのを見た時からきっと思っていた筈だ。
 でも、俺の中の人間性と言うか、そう言った物がすぐ様邪魔をしてその感情自体を覆い隠した。
 でも、俺の中の何かは求めているのを感じる。喰らえと叫ぶ。

「分かっている様じゃの・・・」

「・・・・・・」

「それに、あの目ん玉が言っておったんじゃろ?お主に因子がこびり付いとるとか何とかと」

「・・・あぁ」

「妾が思うにその何かの因子とやらがお主の中にあるからこそ、悪魔を喰らうと力を得る事が出来るんじゃなかろうか?反対にそれが無ければ幾ら喰おうと無意味なんじゃと思うがの」

「お前にはその因子が無いって言うのか?」

「分からん。分からんが少なくともお主にはある。あの目ん玉の言う事を信じるのならばの」

「・・・・・・」

 確かにあの目玉は因子がどうたらと言っていたし、それに―――

『あ、本当にもう無理だ。ごめんね~、どんどん取り込みなよ。それがお前が生き残る唯一の―――』

 生き残る唯一の・・・

 それは道なのか手段なのかは分からないが、きっとそう言う事なのだろう。

「ちょっとッ、アンタ達!どうすんのよ!?」

「早くここから離れよう!」

 イリアとファイの叫び声が聞こえる。
 その切羽詰まった声を聞き、俺は改めて皆の命を背負っていると言う想いが蘇る。単なる驕りかも知れない。
 それでもそう思う事で俺の食人?への拒否反応が薄らぐのなら、それを利用しない手は無い。

「クソッ、こんな時ソニが居てくれればな・・・」

「なんじゃ、調理でもして食べ易くして欲しかったのか?」

「そうだよッ」

 そうでもしなきゃこんなバラバラ死体の様な、顔も綺麗じゃない魔物に踏み潰されて醜い物体を食べよう何て思えねぇよッ!!

「なんじゃ、そんな事か」

「へ?」

「ほれ」

 アリシエーゼはそう言ってパチンと指を鳴らす。
 その瞬間、フェイクスの残骸がボッと音を立てて燃えだした。

「ぇ?な、何やってんだ?」

「何って焼いてるんじゃが?」

「・・・・・・」

 何で?とか、色々言いたい事はあったが、口から出てこなかった。
 ただ、燃えるフェイクスの残骸を見詰めていると、次第に炎が弱まっていく。

「そろそろええじゃろ。じゃじゃーん、悪魔の炙り焼きの完成じゃー」

 そう言ってアリシエーゼは香ばしい匂いを醸し出すフェイクスの残骸の頭部を鷲掴みして俺の前に突き出した。

「ほれ、時間が無いぞ。さっさと喰うんじゃ」

「・・・・・・・・・」

「どうした?折角、妾の愛の炎で焼いてやったんじゃ、きっと色々なえっせんすとやらが加わっておるぞ」

 アリシエーゼに突き出された香ばしい匂いのフェイクスの顔を間近で見詰める。
 目玉は熱で溶け出してドロドロ、髪は炎で焼かれチリチリと言うより殆ど残っていない。
 肌も爛れており、もうゾンビにしか見えない。

 あー、この世界の魔物にもゾンビっておるんかなぁ・・・

 視点をゾンビフェイクスから逸らして、意識も逸らし現実逃避していると、アリシエーゼが突然―――

「ええいッ!何をやっておる!さっさと喰わんかッ!!」

 そう叫んだと同時にゾンビフェイクスを俺の口へと無理矢理押し付けた。

「ッ!ぁ、ゴァッ!?」

 こんなもの一口で丸呑み出来る大きさでは無いのだが、アリシエーゼは俺の後頭部を押さえ付け半ば無理矢理ゾンビを口の中に押し込んで来て俺は涙目になりながら悶えた。

 あ、駄目だこれ・・・

 俺はそう思ってこの悪魔の所業を行うアリシエーゼを思い切り突き飛ばす。

「ッ!何するんじゃ!?折角調理してやったと言うのにッ」

 こんなのは調理とは言わない

 そう思ったがそれは口に出せずに別の物が俺の口から溢れた。

「おろろろろろろろろろぉッッ」

「ぎゃあッ!?吐きおったぞ!?ハルがいきなり吐きおったッ」

 そう騒ぎ立てるアリシエーゼを尻目に俺は白目を剥いた。

 やっぱりアリシエーゼって悪魔の因子は確実に持ってるよな・・・
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